飛び去った



 数年前、転職先で人間関係につまずき、白木さんは無職になった。

 人と会うのが嫌になり、次の就職先を探す気力もない。

 わずかな貯金を切り崩しながらのぎりぎりの生活。趣味もなく、毎日やることもない。

 このままでは絶対に鬱になると恐れた白木さんは、心の拠り所を求めてペットショップへと赴く。そこで黄色のインコに心惹かれ、買って帰った。

 ところが何がいけなかったのか、インコはたった二日で死んでしまった。

 大切に育てれば十年以上は生きると聞いたので飼うと決めたのだが、これではインコの死体を買ったようなものだ。自分なんかが飼ったばかりに、寿命をこんなに早く縮めてしまった……ショックは大きかったが、悲しみはほとんどなかった。

 外に埋めるのは違法だとは知っていたのでペット火葬を調べたら、今の白木さんには厳しい金額であった。死んだインコには悪いが、たった二日を過ごしただけの関係でそこまでする気が起きない。

「上手に飼えなくてごめん」

 ティッシュで丁寧にくるんでビニール袋に入れ、明日の「燃えるゴミ」の日に出し忘れないように玄関に置いておいた。

 すると玄関のほうから、ときどき音がする。

 ビニール袋が動く音だ。

 一度、二度聞こえても、袋のすわりが悪いんだろうと気にしなかった。

 三度、四度と聞こえても気にしない。

 だがそれ以上続くと「もしかして」と考える。

 死んだのではなく、仮死状態だったのでは――。

 わずかな希望を抱いて袋を開いて確認するが、やはりインコは死んでいる。

 ガスかもしれない。

 死体から腐敗ガスが出て、それが溜まることで袋が鳴るのではないか。

 ガスが抜けるように袋の口の結びを少しゆるめて玄関に置いてみた。

 しかしその後も、ビニール袋が鳴る。その音はだんだん、袋の中で翼を羽ばたかせているような音に聞こえてきた。

 いよいよ自分の頭がどうかしたのかもしれない――とは思わなかった。

 なにかちゃんとした原因はあるのだ。ただその原因を探すのも考えるのも億劫になっていたので、袋の口を固く縛るとベランダに出しておいた。


 翌朝、ゴミ出しに行こうとベランダから袋をとった。

 妙に軽い。

 振ってみたが、まったく重みを感じない。

 袋を開いてみると、中にはインコを包んでいたティッシュが入っているだけで、インコの死体はなかった。