右側だけ
数年前に岡林さんは奇妙な人物を見かけた。
夜中、コンビニに向かっていると、途中にある中古車ショップの前を、前のめりの歩き方で行ったり来たりしている二十代から三十代前半の背の高い男性がいる。
すると、後ろから何かを話しかけられた――ような気がした。
ただ、声が小さくてまったく聞き取れなかった。自分に話しかけたわけではないかもしれない。酔っ払いでも嫌なので、無視してそのまま行った。
買い物を終え、もしまだ男性がいたら面倒だと考え、コンビニの前で一服した。スマホをいじりながら十分ほど時間をつぶしてから行くと、中古車ショップの前で男性はまだうろうろしていた。
スマホでも落としたのか。
本当に困って声をかけてきたのかもしれない。
また声をかけられたら、さっきは聞こえなかったということにして、今度はちゃんと対応しようと男性の横を通る。
今度は話しかけてこない。さっきは勘違いだったかとそのまま通り過ぎるが、どうも気になる。こんな場所でこんな時間に一人で何を? まさか、中古車ショップに窃盗にでも入る気だろうか。男性に振りかえる。
――あれ?
岡林さんは立ち止まる。
横顔が飯尾に似ていた。
専門学校時代の友人である。
飯尾は海外への貧乏旅行が趣味で、学生時代によくインドへ行っていた。だからなのか、顔がどんどんインド人ぽくなって、最後はインド人そのものだった。四年前に交通事故で死んでしまったので、そこにいるのはもちろん飯尾であるはずがないのだが……ただ、横顔や全体の雰囲気が、驚くほど彼にそっくりなのだ。
視線に気づいたのか、男性は岡林さんに顔を向けた。
似すぎている。
学生時代の飯尾の顔そのものだ。
だが、似ているのは顔の右側半分だけであった。左半分は眠たそうなタレ目で、眉は薄く、パーツが顔の真ん中に寄っている。まったく違う顔である。
まったく違うタイプを無理に半分ずつ繋ぎ合わせたようなアンバランスな顔だ。
岡林さんはその場から、ゆっくりと去った。
動揺を隠そうとゆっくり歩いてそこから去り、途中から走って帰った。
家に帰ってから、男性のちぐはぐな顔を何度も思い出した。
眠ろうとしても、
時間が経てば経つほど、あの顔の半分は本当に飯尾だったような気がしてならなかった。
飯尾は――彼はインドではない他の国の山で
失ったのが右と左のどちらだったか、岡林さんは思い出せない。