「う……うん? ここは……」
石造りの部屋に設置された簡素なベッド。そこに
「お! キリカさん気が付いたか。さすがの回復力だな」
「……ダイチ? ここは……ん?」
体を起こしたキリカさんは自分に
「キリカさん丸一日寝てたからな。『キリカにここまでさせてしまったのは私の責任です』って聞かなくてね。
「そ、そう……」
キリカさんは照れたように
「気にする事無いのにな……。
「はは……勝手にキリカさんの代弁しちゃったけど、やっぱ
「どういう事?」
キリカさんの疑問に答えるべく、気を失ってからの事を説明した。炎の女王ジュリアさんの登場と
「ここは水神の森の中にある盗賊団デネルのアジト……なんだってさ」
「アジトね……頭領がアンダイルの王子とベルガの王女の盗賊団ってどういう事なの? 直接的な戦争はしてなくても
「それをこれから聞く事になっている。君の意識が
「あ、
キリカさんは
「申し訳ありません、このような格好のまま。それに先の戦闘では至らぬ私まで救って頂いたようで……」
「
「は! 恐縮です」
軍人ノリと言うか何と言うか。
本来の王女と護衛師のやり取りってこんなもんなんでしょうね。
「急ぐ必要は無いが、しばらくしたらホールまでティアリスを
「ハイ! 承知いたしました」
そう伝えるとジュリアさんは部屋から出て行った。その
「ふー、
「アリーシャが聞いたら血の
「アリーシャ王女だけじゃないよ。炎の女王にどんだけファンがいると思う?」
俺が
「でもさ、想像してたよりもずっと気さくな人だね」
「は? ジュリア王女の事?」
「うん、何だかんだ言っても妹も俺たちも助けてくれたし、俺には
俺がそう言うとキリカさんは
「前から思ってはいたけど、君は大物なのか何なのか分からなくなるね……」
そんなやり取りをしているとキリカさんの
「キ……リカ?」
「はあ~い」
ボンヤリした目を向けていたティアだったが、目に光が戻ると同時に
「キリカ! キリカ! ゴメンなさいゴメンなさい、私、私!!」
正面から
「
「ギリガアアアア……」
大泣きするティアに困った顔をこっちに向けるキリカさんだが、苦笑している辺り悪い気はしないらしいな。
だが次の
またまた感じた
閉まった扉の向こうから放たれる強烈な殺気。ただ今回に限って言うと、向いた方角は俺では無かった。
「ダイチ……私、何かやらかしたのかしら?」
ティアの頭をよしよししながらキリカさんは顔を青くしていた。
「さあ……」
気の
今の
*
アジトは水神の森の中に元々あった
俺たちが通されたホールは二~三十人なら
その中心部にアンダイルとベルガ、両国の王族が立っていた。
「ようこそ水神国へ。私は西水神国アンダイルの王子、ナシュレイ・T・アンダイル。……よければナッシュと呼んで下さい」
「東水神国ベルガの王女、マール・M・ベルガと申します。以後お見知りおきを……」
二人ともワイルドな見た目に反して
こういう場合はこの場で一番上の者からだよね。俺がそんな思いでチラリとジュリアさんを見ると彼女はああ、という顔付きになった。
「顔見知りだし
「エ、エルモント王国第三王女、ティアリス・E・カルヴァドスです。昨日は危ないところを助けて頂きありがとうございました……」
ティアがお礼も交えて自己紹介すると、二人の王族の顔が
「おお! では
「戦乱の暗雲が立ち込めたエクレアとの同盟を成功させた救国の聖女!」
「は?……えええ! 聖女!!」
色めき立つ二人にオロオロし始めるティア。どうやらティアの名声は国外の方にこそ広がっているようだ。……
「これは精霊様がもたらされた
「ええ! ひょっとすると!!」
「あ……あの、その
自分の評価に
でもティアがこうやって評価を受ける事を
俺は何か
「ほらダイチ、自己紹介」
「あ……」
すでにキリカさんも自己紹介を終えたようで、俺は
「え~っと、エルモント王国の王宮庭園で働いてます、庭師のコウ・ダイチと申します。よろしくお願いします」
「「庭師?」」
二人の目が同時に丸くなった。まあ、そりゃそうか。
しかし不思議そうにする二人にジュリアさんが口を
「彼はただの庭師ではありません。妹の才能を、魔法に限らず全て最大限に生かす事が出来る
目が点になった。俺もティアもキリカさんも……。
外交上の外面なのかもしれないが、身内とはいえ政敵に当たり、しかも
そこまで聞いたナッシュ王子は途端に
「では、その
「あの……ナシュレイ王子……その救国の聖女は……そろそろ」
ティアが半泣きで呼び名について
「この国の水が聖水と言われるくらい
「そう……か。聖水が目的だったか……」
ナッシュ王子は頭を
「いや、わざわざご足労頂いたのに申し訳ない。数ヶ月前まではそれは美しい湖だったのだが……
「数ヶ月前までは
「ああ……飲み水として使用できる
……やはりおかしい。何にも無くて数ヶ月前に急に
「アンダイルでもベルガでも……湖に排水する工場とかが出来たりしませんでした?」
俺の
「排水する工場? 昔からある工場はあるが……」
「そうですね、ベルガも同じです。数ヶ月前となると……」
やはり地球上の常識ではダメらしい。急激な排水が原因で湖の
「庭師さん……どういう事なのでしょう?」
マール王女の質問に俺は
俺がそう思って
「大丈夫ですコウさん。あのお爺さんだって順序良く聞けば分かってくれたと思います」
ティアの言葉に
「あの緑の水の正体は植物で、しかも
「さすがは救国の聖女の補佐の方、私たちの知らない知識をお持ちです」
予想外に二人ともちゃんと話を聞いてくれ、しかも理解を示してくれた。やっぱり聞く人によって
「ただ、さっきも言ったけど……それでは時間が合わないんですよ。排水の方式が昔から変わってないなら汚染が始まったのが数ヶ月前ってのがおかしいですし……」
「確かにそうだ。それに君の話を聞くとアンダイルとベルガでそれぞれが主張している精霊様の怒りも
「そうね……それならもっと前から湖が
両国の二人が考え込み始めた。
「だからこそお聞きしたいんですけど……両国の国内で何か変わった事はありませんでしたか?
俺の質問に
「そうですね……数ヶ月前というと……小康状態だった国内に
「うちの国もだな。『
「隣国に連なる? 例えばどんな物ですか?」
「隣国の王家を
「紅いバラ? ではもしかして
俺の疑問にナッシュ王子は
「ああ、それは反ベルガの連中が紅いバラを全て
「ベルガでも花の色が逆なだけで全く同じです」
何だろうこの違和感。両国内に急に広まり出した思想。
昔からいがみ合っている両国なのだからどちらがやり出してもおかしくないかもしれないが……何か
「それで? それ
ジュリアさんの質問はもっともだ。だったらこの二人は何をしているんだ?
「おそらく歩哨に立つ連中は王国の兵士だろう。王族の前で身動き一つしない姿勢は立派だが、盗賊の手下としては不自然だからな……」
知らないうちに観察されていた事に息を
「そういじめてくれるな炎の女王。彼らも本来は王宮の兵士、我々の思想に賛同しなければこんな所にはいなかった連中だ」
「思想?」
ティアの
「それについては私とマールの出会いから話す事になるのだが……我々は何と言うか……
「幼馴染……」
ピクリと
「王族としてそれぞれの国の教育を受けた私たちは、初めて水神の森で顔を合わせた子供の頃大ゲンカをしました。……でも大人たちに
「そして……幼いながらに分からなくなったのだ。子供同士ではこんなに仲良く出来るのに、何ゆえ水神国は西と東に割れるまでにいがみ合うのか……とな。疑問を持った私とマールは二人で両国の
「水神の神殿って湖の中心の……爺さんが精霊が封印されてるって息巻いてたあの?」
俺の言葉にナッシュ王子は頷いた。
「ああ、どちらの国も『そっちが封印した、悪いのは隣国だ』と
「封印の意味?」
俺の疑問に答えるように、マール王女が引き
「
「封印が解けた……という事なのか?」
ジュリアさんの言葉にマール王女は首を横に
「少し違います。封印など元から無かったのです。ただ開け方が
「ああ……なるほど」
封印がされたと言われるのが国が
「手を取り合い、いつの日か分裂した両国を一つに……この扉は先祖からのメッセージである事は子供であった我々にもよく分かった」
「実際の神殿内部はどうなっていたんですか?」
興味本位で聞くとナッシュ王子は半笑いで手を広げてみせる。
「中央部に水の精霊様を象徴する
「私たちはそこで将来を
「わあ……」
感動に目をキラキラさせるティア。キリカさんもジュリアさんも少し顔が上気している辺り無関心ではなさそうだ。
いがみ合う両国の王子と王女、そりゃあ燃え上がるだろうね。
「ううん!! 盗賊団と名乗る組織を結成したのは……両国の
「はい、どちらの国でも
「私もマールも王族の
「お……王族なのに処刑もありうるの?」
俺の言葉に不本意そうに二人とも頷いた。つまりそこまで両国はこじれているのか。
「だからこそティアリス王女! 救国の聖女と言われる
「え……ええ!?」
急に話を振られて
「私からもお願いします。表立って活動出来ない以上国家
真剣な
出来る出来ないに関係無く、考えも無しに言うはずだ。
「分かりました。私でよろしければ
真剣な眼差しでそう言った。……ほら、やっぱり。
「ティアリス! お前は昨日何をしたのか、もう忘れたのか!?」
俺とキリカさんがやっぱりなって顔をしているとジュリアさんから
「
「そ……それは……」
ジュリアさんの言葉は王族として、人の上に立つ者の心得として正論だ。自分の不用意な発言や行動は良きに付け悪しきに付け連なる者全てに影響を
確かにティアはその辺について余り考えていない。
ただ、だからこそこいつはティアなのだ。
「いいんすよジュリアさん、巻き込まれても。コイツが考え無しの単純思考なのは分かり切ってます。でも悪事を働こうとしている訳じゃないし……」
俺が
「昨日みたいにいきなり一人で
キリカさんは
「コウさん……キリカ……ゴメンなさい……」
「こういう時はありがとうでしょうが! もう……」
俺たちのやり取りにジュリアさんは舌打ちをしつつ背を向けた。
「勝手にしろ。私は……休ませて頂く!」
そう言い残すとジュリアさんは
何だろう……最後の
*
水神の森のアジトに
一人一室準備できる
ちなみに両国の王子と王女は日が落ちる前に自国へと戻って行った。何でも
そんな訳で今現在盗賊団デネルのアジトは数名の盗賊風兵士の方々がいるだけで、あとは客人の俺たちのみなのだ。
「他人をアジトに残して帰るって……盗賊としては危機感無いよな……」
そんな事を呟きつつ自室の扉を開くと……木製のベッドの上に幼女がいた。
「こんばんは」
「……こんばんは」
いつも
俺は
「また
「真夜中に来なかっただけ褒めて欲しいわ。これでも少しは気を
「気遣いねぇ……」
俺は部屋に置いてあるたった一つの
「んで? ここに来たって事は何か新しい事でも分かったのか?」
「もちろん……」
そう言ってルーチェは「よっ」と起き上がってベッドの
「貴方もこの国……水神国の内情は大体理解できたでしょ? アンダイルとベルガはいつ戦争起こしてもおかしくないくらい
「ああ、
この国に
「このまま行けば両国は数年後に本格的な戦争を始める。そして悪い事にエルモント王国もこの水神国の内乱に加担しちゃうのよ」
「は!? エルモントまで……何で?」
「エルモント王国では王族の
「まさか……
「ええ……そして二つの派閥に分かれた勢力が水神国の別々の国に加担したとしたら、どうなると思う?」
「……代理戦争?」
俺が出したくない答えを
「王子派も王女派も、どちらも対立を
「内乱!? あのジュリアさんが?」
ルーチェが語るのはアカシックレコードでの未来の姿。でもここ数日見て来た炎の女王ジュリアさんがそんな事をする人物とは俺には思えなかった。
どちらかと言えば情に流されやすいティアを
「最終的には分裂しかかった国をまとめる目的で、国外に両
自分が今のルーチェと同じように口元がひくついているのが分かる。
「……東大陸?」
「……正解」
正直俺には『またか!』という思いが
「まさか……この未来にも
「いいえ、あの性悪が関わってるのは〝ここ〟じゃない。残念だけどこの流れは
つまり、
「アンダイルとベルガが本格的に戦端を開くのは数年後、でもその原因は開戦の数ヶ月前から湖の
ルーチェの説明には意図的なおかしさを感じる部分があった。数年後に起こる戦争の理由が、開戦数ヶ月前に起こった湖の汚染だと?
「待ってくれ! 湖の汚染なんてとっくに起こっているじゃないか! 精霊様のお怒りなんてのも
背筋に冷たいモノが走り
「そう、そこよ。時系列がまた乱れている」
「また事件が早まっているってことは……つまり……」
「ええ、闇渡りが関わっているのは多分ここ。湖の汚染を早める事で戦争の時期をあと数ヶ月に
「……マジかよ」
数ヶ月前と言えば俺がこの世界に
「
俺の言葉にルーチェは申し訳無さそうに首を
「ゴメン、見当も付かないわ。貴方が言うように直接の原因は生活
「……だろうな、クソ!」
今のところ分かっている事は汚染が始まった同時期に
「水神国の連中が言うように水の精霊でもいてくれればなぁ……」
俺は頭を
つまり精霊がこの世界に実際にいても、多分この国にはいないのだ。
「え? いるわよ水の精霊」
「は?……いるのか? この国に?」
驚く俺にルーチェはしれっと答える。
「言い方を変えると水の精霊はどこにでもいる。正確にはこの国に水の精霊に呼び掛ける
「ああ! ナッシュ王子が言ってた神殿の
ナッシュ王子とマール王女が幼少期に遊んだ話にあった。それは
「ただ……精霊は気まぐれな存在。端末を
「……召喚とは違うってか?」
俺は完全に強制的にこの世界に呼び込まれた気がするんだが。
「でも一度行く必要がありそうだな……水神神殿に……」
水の専門家であろう精霊に話を聞ければ汚染の原因が分かるかもしれない。
「ったくよ~。問題が国政レベルに達したらオカンの出番は無いって言ったのは
「……それはゴメン。でもまだ開戦する決定的な情報が流れてないから……まだしばらくは
「決定的な情報……何なんだそれ?」
俺が聞くとルーチェは
「あ~~う~~~ん……何と言いますかね……両国にとっての重要人物同士が……その……
「な……何だよハッキリしないな」

俺が
「あのね……」
*
その日の早朝の事、西水神国のアンダイル城を守る門番が
静かに歩み寄る男に敵意は感じず、門番は
「
門番の言葉に
「城に何か用かい? あいにく開門時間までまだ大分あるけど……」
兵士がやんわりそう言うと、初老の男性は口を開いた。
「いえ、兵士
「良からぬ……噂?」
その時門番の兵士は初老の男性の
確かにそこにいるはずなのに、今まさに自分と話しているはずなのに……その男性の顔が分からないのだ。
ともすればそこにいるのに見落としそうなくらい……存在感が無い。
「実は……信じられぬ事なのですが……」
初老の男性は顔も全く分からないのに……その
*
日が
すでに
「おはようエルモントの
「あ、おはようございます」
丁度朝飯の片付けをしていたティアは
「このバカチンがあああ!!」
スパアアアアン……!
フルスイングのハリセンは景気の良い音をナッシュ王子の頭で
「な、何をするか庭師!!」
俺の
「何で順番を守らんかった! 何でこんな時期に手を出しちゃったんだよ!!」
王子だけでなく王女も、そして取り巻きの兵士たちもあっけに取られた。
「こんな時期に敵対国家の王族同士で
「………………………は?」
俺の言葉でホール内にどうしようもない
かろうじて動いた王子が王女を見つめると彼女は真っ赤になって
「……言い出せなくて……」
「「「「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」」」」
その瞬間、アジト内で声が
口々に皆「めでたい」だの「おめでとうございます」だのはやし立てる。俺だって何も無ければそっちに加わりたかったけど、祝いムードなのはここが身内だからに過ぎない。
俺は王子の胸倉をガクガクさせる。
「湖の汚染が広がっている今発覚したら、両国の王族が結ばれた事で精霊が
「それは……」
実際ルーチェの話すアカシックレコードでの戦争の引き金はそれなのだ。
「何でせめて国勢が安定するまで待てなかったんじゃあああ!!」
俺がそう言うとナッシュ王子は胸倉を摑まれたまま言い返してきた。
「ならば聞くが……庭師よ! 貴様なら
「……何?」
「幼い頃から常に一緒だった、自分好みの
そう言われると……。
俺は上見て、右見て、下見て、ティアを見て……反射的に手を放してしまった。
その
「ほら見ろ……」
「


」
何を言われたのか思い至った瞬間、顔面が爆発した……ティアも一緒に。
「そそそそそそれとは話が、ちが、違うでしょうが!!」
「いいや違わんなぁ! お前も同じ状況であれば!!」
ドガアアアアアアアアアア……。
その瞬間ホールに響き
そこには
「
「「はい……」」
*
あの後多少の
しかし部屋に戻って
本音で言えば祝ってやりたい。でも今後の展開を知っているとそうもいかないのだ。
ルーチェの語った水神国の物語は余りに重い悲劇だった。
思い出してもあの展開には吐き気がしてくる。
「……ガキの誕生も祝ってやれない信仰なんて必要なのか?」
何だか問題がゴッチャになってきた気がして
「庭師……いるか? 私だ」
「は? ジュリアさん?」
少々びびりつつ
「な、何すか?」
「……少し顔を貸してもらいたいのだが……良いだろうか?」
「つ、
何か不良に
急に校舎
不良上級生は土下座で謝っていたが……むなしい勝利だったな……。
「……どうした? 何やら遠くを見るような……」
「……お気になさらず」
連れて行かれたのは校舎裏……ではなくアジトの外。
「君に少々話したい事があってね。……先日のパーティーの後、私だけでなく兄上とシルフィーにも届け物をしただろう?」
「ああ……メロンですか」
確かに俺はティアの兄姉たちに三等分したメロンを届けている。色々感情を込めて。
「あの果実はもしかするとそれだけで国家
「は……はあ、そうですか……」
俺が生返事をするとジュリアさんは姿勢を正した。
「庭師、いやカルヴァドス研究所副所長コウ・ダイチ殿。実は折り入って君に
「頼みですか?」
「ああ、ティアリスの事だ」
俺が意図を
「兄やシルフィーに先んじてティアリスと
……何だそれ? つまりティアに政治的な利用価値が出てきたから、
俺は……少しこの王女、
要するにコイツも
「……お断りします」
俺の言葉にジュリアさんの目がスッと細くなった。
「何だと?」
「俺は副所長ですよ? ティアの協力を得たいならやり方が
「……貴様」
ジュリアさんの全身から殺気が
「そうか……あくまでも君は……あの
「………………………………はい?」
ジュリアさんが
今、何つった?
「そうやってメイドのあの娘も、白衣のあの娘も、
そう言うとジュリアさんは俺の胸倉を摑んでガックンガックンし始めた。
「ちょちょちょちょっと! 何だいったい? 何なんだ?」
何だ? 何なんだこの行動は? 俺は今まで何かを
そう言えば俺が今までこの人の殺気を受けた時は常にティアと一緒だった。
一緒に町に出る時、パーティーで座らせてあげた時、落ち込む彼女を
ま……まさか……この人……。
「ジュリアさん! アンタもしかしてティアの事が大好きなのか!? 本当は
俺の言葉にジュリアさんは炎よりも顔を赤くして
「悪いかあああああああ!!」
「す……すまない……取り乱した……」
「あ……いえ……」
時間を置く事でジュリアさんは冷静さを取り戻していた。
地面に
「それで……どういう事なんですか? 俺はティアとキリカさんからの
「うぐ!!」
「おまけに中でもジュリアさんからは一番
「グアガアアアア!! 誤解だアアアア!!」
胸を押さえてバタバタのた打ち回るジュリアさん。何か色々
「王家に連なる者は総じて
「はあ、前に聞きました。絶大な魔力で国民を守れる事が王族である
「そう……だがもう一つ王族には義務が生じるのだ」
「……もう一つ?」
ジュリアさんは目の前に指を一つ立てて言った。
「絶大な魔力を行使できるがゆえに、王族は戦場に立つ義務があるのだ」
「な!!」
それは知らなかった。ただそれが真実なら、まともな魔力も持ち合わせないティアなんて……。
「戦場だぞ?
思い出したくない思い出なのだろう。ジュリアさんの目が暗くなった。
「だからこそ、我らカルヴァドス王家は
あっけに取られるとはこの事だ。
「……つまりティアに対して冷たかったのも、役立たずとして放っておいたのも……」
ジュリアさんは大きく
「ああ、戦場へ
「まわりくでぇなあ! もう!!」
俺は思わず
つまりティアは家族にちょー愛されていたんじゃないか!
「そう言ってくれるな……こうして一応あの娘は戦場に行く事無く生き永らえているのだから……我々兄姉も何も無ければ今の関係を続けるつもりだった」
そこまで言うとジュリアさんは目付きを変えた。
喜びに満ちた、
「ところがだ! 最近ティアリスに劇的な変化があった……どこかの庭師のおかげでな。何と戦乱も起こさず国家間の同盟を結んでしまうという
「きょ、狂喜乱舞?」
「そうだ! そうなれば最早ティアリスと仲良くしてもあの娘が贔屓のそしりを受ける事は無い! つまり妹と仲良くしても良い! 感動に打ち
「問題っていったいどんな?」
個人的には、だったらさっさと仲良くすればと思うのだが……。
「
力強く
「お、おい……おいおい! ちょっと待ってジュリアさん? じゃあ何か? パーティー会場で兄姉三人で
ジュリアさんは決まりが悪そうに
「……一番にティアリスに声を掛けるのは誰かで……な。正直、君とキリカが
「マジで? てっきり次期国王の座で争っているもんだとばっかり……」
あの場では俺だけじゃなく
「次期国王? そんなの兄上に決まっている」
「だって……才ある者は男女関係無く上に立つべきとか何とか……」
キリカさんから聞いていた事をそのまま伝えると、ジュリアさんは
「兄上はそんな事を言って私に王位に
つまりキリカさんの情報は
「君が寄こしたメロンが『こんな
「あ~~~~そ~~~~~」
暗に込めたメッセージもちゃんと伝わっていたらしい……気を
この家族、周りがうるさいだけで
「……じゃあ、ジュリアさんが水神国に来た理由は?」
ジュリアさんは俺の問いに「うっ」と
「……早朝演習の後だが、挙動
「……引き止められなかったと……」
「うむ……いざとなれば私が助ければ良いかと……」
「……付いて来ちゃったと……」
「……うむ」
予想はしていたが……やっぱりこの人、あの時
「それでよくティアに説教出来たね……姉貴らしくひっぱたいちゃったし……」
「言わないでくれえええ!! 自分でもやらかしたのは分かっているのだああ!!」
両手で頭を
何かもう最初にあった
「……まあ、あれはあれで正論だったし」
「ああ! 思い出した!!」
そう言ってジュリアさんはまた俺の
「君は私がひっぱたいた後のフォローを取ったな! なぜそこを私に
「はい?」
「
またもやガックンガックンやられ、いい加減脳みそがシェイクされそう。
「ええ加減にしてくれ! アンタは
「おお! 上等ではないか! その
「世間じゃ
この日エルモントの庭師と炎の女王の間に、
その名も『ティアリスと仲良し作戦』……共同作戦の同盟と言うにはあまりにスケールの小さい事象ではあるのだが。
「あ~も~色々と問題を重ねないで
俺が
その二人は俺を見かけると血相を変えて
「庭師! 貴様はマールの
「え? あの……王女が
何やらただならぬ気配、俺は
俺の言葉で王子の表情から険が少し
「そ、そうか……。考えてみれば君は入国からずっとこのアジトから動けていないしな」
「……何かあったんですか?」
俺の問いに
「本日アンダイル側へ垂れ込みがあったのです。ナッシュ王子とマール王女が親しい
「は……はあ!? だって発覚したのは今日、しかも……」
「そうだ、さっきの話だ。タイムラグを考えても情報が流れるには早過ぎる! 幸か不幸か仲間内に裏切り者がいない証明にはなるがな。残る可能性は君だけだったが……」
「まあ……それは分かります」
王子も兵士も俺の事を疑っていいのかそうでないのか、判断が付かない
そこに考えが至った
そう……知っている者には、知っている者なら可能なのだ。
その情報が開戦の
「……その情報はいつ、どこから流れたんですか?」
「……
「ただ?」
「直接話したはずなのに顔の印象が全く無いそうだ。見たはずなのに顔が分からないとか何とか……」
やはりか……。俺にはそんな存在に心当たりがあった。
直接手は出せなくても口なら出せる──それが
「……また、先を
「……どういう事だ?」
「王子! アンダイル国内にはこの情報どの程度広がってるんだ?」
急に勢い込む俺に
「国内にはまだ……王宮内部に流れている程度だ。だが、時間の問題だろうな……」
……だろうな。国内に、民衆に今のまま敵対国家同士の懐妊が知られれば、湖の
もう一刻の
「……ナッシュ王子、水神の
「神殿だと? なぜ今こんな時に……」
「いいから!!」
「……湖と神殿の所有は両国とも主張しているが、言った通り神殿の開け方を両国共に知らないからな。実際には放置状態で入る事はいつでも可能だ」
アカシックレコードで示された戦端の原因をもう知られてしまった以上、湖の問題を早期解決するしか無い。何としてもこの世界の〝水の専門家〟に会わなくては……。
「庭師よ、いったい何をしようと言うのだ?」
俺の真意を計りかねているようでナッシュ王子が聞いてくる。
「アンタの女とガキの未来がかかってんだ! 早々に水の
「な……!」
*
結局水神の神殿へ
メンバーは神殿の
ちなみに懐妊の
アジトのホールに集まった盗賊団のメンバーは
大きめのバンダナを頭に巻いて、ベストに短パンといういわゆる盗賊ルックをしている。マール王女から衣装を色々借りて着たらしいのだが……何と言うか……。
「似合っているのに……ティアが着ると全く盗賊に見えないのは何でだろう……」
どうしても
「……盗賊ゴッコになっちゃう感じね。
「そうです? でも動きやすいですよ?」
ティアは得意げにその場でクルクル回ってみせて……ジュリアさんと目が合った。
「あ……」
「……ふん」
その瞬間ジュリアさんは息を吐いて
「やはり……姉上様は私が気に入らないのですね……」
「ティア……」
心配して後ろから肩を
俺も何も知らなければ今の行動が
「ちょーっとゴメン……」
俺は物陰に
「ヤバイヤバイヤバイヤバイ……」
「アンタ何してんの?」
俺が
「か、か……可愛すぎる……」
「はあ?」
「あんな盗賊見た事ないぞ! 盗賊の
「あのね……」
「いや! むしろ
「落ち着かんか!!」
スパアアアンと俺はついにエルモントの
「……君、意外と
「突っ込み所しか無いんだよ! だいたい……仲良くするのが目的なんだから、それをそのままティアに言ってやればいいじゃないか」
基本的にティアは
しかしジュリアさんは
「ば、ばか者! そ、そんな事は出来ん!」
「な、なぜ?」
「今までアレだけ怖くて厳しい印象しか
「……そうかな?」
俺の感覚では多分単純に喜ぶと思うのだが?
「わ、私のような無骨な者があのように
あ~なるほど……一つ分かった。絶大な
「……血は争えないね」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ別に。ただ、さっきのジュリアさんの行動……またティアに誤解与えてますよ?」
「は!?」
ジュリアさんの顔がショックに固まった。
「当たり前でしょうが。自分を見た途端に姉が不機嫌そうにあっち行っちゃったんだから」
「のおおおおおお!!」
頭を
一しきり転げまわるとジュリアさんは俺の手をガッシリ両手で
「コウ君、よろしく
「あ~~分かってますよ。分かってるから燃える
全く、色々と
その時、俺は物陰からひょいと
「ジュリア……姉上様……?」
水神の神殿はデネル湖の中心、つまりアンダイルとベルガの境、旧水神国デネルの中央に位置するのだが、ナッシュ王子が言っていた通り
難なく神殿の前まで到着した俺たちだったが、そこには想像よりも
「でっかいな~」
俺の
「そうだろう? 幼少の
「両国から私たちに賛同してくれた
「つまり
「コウさん! 言い方が……」
俺の感想を
「ハハハ……違いない。ガキの遊びの延長、その為に私たちは盗賊団を結成したのだ」
そう言いナッシュ王子はマール王女の手を取って神殿の重そうな石の扉へ向かう。
「そうですね。願わくは、この子にもそんな友が出来る事を……」
王女は反対の手でお
願わくは……か。
二つの国の二人の王族が同時に手を
「本当に……こんな重そうな扉が……」
石造りの神殿内部は石自体が発光しているのか、あるいは別の方法なのか、魔力によるシステムだとは思うが電灯などあるはずの無い異世界において非常に明るい。
そして
絶えず流れる水が光を反射する光景は
「す……
「言葉に……ならないね」
「あ、ああ……」
俺を含めて今が初見のエルモントの連中はポカンと
「エルモントの客人たちよ。私らの至宝に
「あ……そうっすね……」
ナッシュ王子にそう言われて歩み出す俺たち。
ただ、ティアだけはその光景にまだ
俺が
「何をしているティアリス! 隊列を乱すな!」
「ハ、ハイ! 申し訳ありません!!」
身を
俺は無表情でジュリアさんをちょいちょいと手招きする。
『……ジュリアさん?』
『分かっている……君の言いたい事は……』
『声
俺の
『私のナチュラルスタイルが軍人色の強いせいなのか……
『チャンスはまだ
『お……おお、不器用な優しさだな。よし!!』
人知れず気合いを入れるジュリアさん……本当に
運動神経に定評のあるキリカさんとジュリアさんも問題なく、俺もそんなに苦労はしていないのだが……やっぱりというかティアが少々
一歩一歩大して
「よいっしょ! ん~……よっと!」
「ティア、大丈夫?」
「大丈夫です……よっと!」
キリカさんの心配を
「あ……」
「ティア!!」「危ない!!」
俺とキリカさんが慌てて
「あ、姉上様……」
「気を付けんかバカ者! お前一人が負傷すればどれほど隊が遅れると思っている!!」
「……申し訳……ありません……」
またもや怒鳴られて、今度は目に
スパアアアアン……「ぐわ!」
俺は有無を言わせずジュリアさんの脳天にハリセンを落とした。
「コウ……さん?」
「ダイチ!
「ちょっとこっち来て下さい!」
「あ、ああ……」
俺の行動に驚愕する二人を
『アンタ一体何やってんの!? マジで今のは神タイミングじゃねえか! ぶっきらぼうに《気を付けろ》って言うだけで不器用な姉の優しさを演出出来たのに!!』
頭を押さえるジュリアさんは涙目になっていた。正直少々ティアとだぶる。
『分かってはいるのだが、どうしても危ないって思うと……』
危機が死に直結する戦場の
『このままじゃティアと仲良くするのは無理なんじゃ……』
俺の
『そんな! 見捨てないでくれ!! 同じ
『だあああ分かったから泣くな! そして手を握り
「ジュリア姉上様とコウさん……一体何をなさっているのでしょう?」
「さあ?……というかいつの間にか仲良くなってない?」
護衛師の呟きにティアは少々
*
水の
神殿内の水は
ただ、部屋に入った時気になったのはそこじゃなかった。
「何者だ!」
そこに
流れる髪は白に近い水色、
まるで人魚を
その瞬間キリカさんとジュリアさんは冷や
「な!? どうしたんだよ二人とも……」
「君は何も感じないのか!?」
そう言われて周囲を
「コウさん、この女性……人の
ティアの呟きにキリカさんも同調する。
「何なの? 湖なんて問題じゃない……大海を前にしたみたいなバカげた魔力……」
そうか、
「ようこそいらっしゃいました。異界よりの旅人よ……」
俺以外の皆が
警戒する大半の者には意味が理解出来ないようだが、この場においてその言葉の意味を理解出来る者が三人いる。ティアとキリカさんと……そして俺だ。
自然と二人の視線が俺を向いた。
そう、この場で『異界の旅人』に当てはまるのは
「俺に……何か用でしょうか?」
「魔力を持たぬ、魔力を知らぬ、しかし知識に富む人間。私は水と共に生きる水そのものの存在、水の精霊……私は貴方を待っていました」
「水の精霊……じゃあアンタが……」
「精霊様……」「精霊様だと!?」
俺が
「あ、あの?」
水の精霊は困ったようにオロオロするが、水神国の連中は動かない。
「精霊様!
「
「あ~も~いいから
「……え?」
いきなり軽くなった口調に驚いて水神国の連中が顔を上げると、水の精霊は
「せっかく
プンプンと音が聞こえそうにむくれる水の精霊、どうやらこっちが
「だいたいナッシュもマールも初めて会った訳じゃないでしょ? 私も
「「は?」」二人の
「分からない? 忘れちゃった?
「……あ! 確かにいた。青い
ナッシュ王子は言われて思い出したようだ。
何か都市伝説にありそうな話だな。
「し、しかし……あの時にこんな
まだ
「魔力を下げるのは簡単。私は水そのもの、小さくちぎればいいのだから……ホラ」
そう言って水の精霊は小さい少女の姿に変わった。
俺には単純に大人が子供に変わったようにしか見えなかったが、魔力を知覚できるこの世界の人たちには違う印象を
「まだ納得いかない? 私は水そのもの、水ある所に必ずいる……だからここであった事はみんな知ってるよ?」
「え?」
「貴方たちがここで遊んだ事も、二人がここで
「ワ
! 分かった、分かりました! 信じますからその先は
「……んで? 精霊さん、俺に用事って何なんだ? どっちかと言うと俺が
「ああ、うんそうそう。貴方だけがこの世界の常識から外れた知識を持って湖の
水の精霊の言葉にナッシュ王子がハッとする。
「で、では湖の汚染はやはり貴方のお
水の精霊は
「失礼ね。私は水の精霊、水そのものの存在。水はただそこにあるだけよ。聖水か
つまり精霊にとっては聖水も汚水も水は水、どうでも良い事らしい。
「はっきり言わせて
「「申し訳ありません……」」
それぞれの国を代表して謝罪する両国王族。この二人はむしろマシな方でしょうけど。
「そこで君に頼みたいんだけど……」
「はあ……汚染をどうにかしろと?」
「そうなのよ。言った通り私は水そのもの、人にとって何が良くて何が悪いか……そんなの分からないの。原因を把握している貴方なら何とか出来るでしょ?」
「マジですか……俺はそれを聞きにここに来たのに……」
俺はショックの余り
「コウさん!
ティアが心配してくれるが反応出来ない。
もうこうなったらナッシュ王子とマール王女をエルモントに亡命させて貰うか? 外交上色々あるだろうけどジュリアさんなら納得してくれるだろうし……。
「え~? 君にも分からない? 解決策……」
俺が
「……汚染の原因は分かってますけど今まで何で
「ん~そうか~。バラの花がみんな
「…………………何?」
水の精霊が言ったその一言。それが俺の
「ちょっと待って……バラが枯れたのは湖の汚染より後じゃなく前?」
「うん、数ヶ月前から急に……」
「精霊さん、つかぬ事を聞くけど……バラの花が枯れた理由、分かります?」
俺の質問に首を
「ん~~? 理由……私植物は専門外であんまり
「何でも良いんです。枯れる前にあった変化でも何でも……」
俺の言葉に水の精霊は手を打った。
「ああ、そう言えば枯れる前にアンダイルは白一色、ベルガは赤一色になってたね。紅白が綺麗だったのに」
精霊の答えで俺は真相に近付いた気がした。汚染が始まったのは数ヶ月前、その頃に両国で
「ナッシュ王子、それにマール王女。紅白のバラの片方の色を
急に話を
「……あ、ああ、確かにそうだ。大通りで盛大に燃やす
「ベルガも同じです。
やっぱり……俺は自分の考えに確証が持てて来た。
仮にこの世界のバラの花が湖の浄化装置だったなら。紅白の花が、吸収した汚水を処理する重要な役割を
「そういう事か……汚染が広がった理由はそれだ! 汚水を処理してくれるバラの花が機能不全になったんだ!」
だとすると今回
「コウさん、何か分かったんですね!」
ティアが何やら我が事のように
「ああ! 精霊さん、バラの木で生き残っている部分がどこかに無いか? 幹でも根っこでも良いから!」
「バラの幹や根っこ? そんな物どうするの?」
「いいから頼む!」
「ふ~ん、分かったわよ……」
俺の頼みに水の
そして余り時間を空けず、精霊は手に何かを
「これがデネル湖で
「これは……レンコン? バラの根じゃ……」
精霊が渡してきたのは
「それが湖にあるバラの根っこ。
水の精霊はニヤニヤして泉の縁に
ああ、つまりこの世界での常識か。
レンコンは
湖の浄化システムがバラの木すなわち植物。
そして目の前で小首を傾げるのは植物生育には無敵の王女。
「……見えて来たな……解決策!!」
「本当ですかコウさん!」
「庭師よ、それは
皆が色めき立つ中、俺は自分の考えを語る。生活
「なるほど……つまり結局は人間たちが自分で自分の首を
「汚染でバラが枯れたのではなく、バラが枯れたから汚染が広がったのか……」
難しい顔で
「ではコウさん、もしかするとそのバラの根っこに私が植物成育
「おそらく湖の汚染は改善するだろうな……」
俺の考えに察しが付いたようでティアがテンションを上げる。
「コウさん、では善は急げです!
「待て、
「ピ!」
俺が以前教えた
「何するんですか……」
「今回は急がば回れだ! ナッシュ王子、それにマール王女」
少しずれたバンダナを直すティアを無視して俺は両国の王族二人へ聞く。
「仮に今、湖の汚染が改善されたとして……水神国の、アンダイルとベルガの
俺の言葉に両国王族の顔は目に見えて暗くなる。
「それは……無くならないだろうな。元々両国に
「争いの原因を
「でしょうね……」
何しろ闇渡りは事件を早めたのであって作り出した訳じゃない。この国にあった元々の問題を利用したに過ぎない。今回の湖の汚染は黙っていても数年後には起こった事なのだ。
俺にとってはこの国の内乱があったままでは困るのだ。
このままではエルモントに飛び火がある……ってのは
ただ、俺の直情的な感情はもっと単純だった。
俺はこの場に集まっている連中が
この場にいる全員にこのままでは不幸が
「……何かないか……二カ国が手を結べる何か……」
「どうしたのだコウ君、さっきからブツブツと……」
心配したジュリアさんが話しかけて来た。
「ジュリアさん、戦争を起こしそうな
俺がそう言うとジュリアさんは半ば
「そんな都合の良いもの……あれば教えて貰いたいものだ」
「だよね……」
「戦争状態を
戦場の
「どっちにとっても
チラリと両国王族の二人を見ると
「くそ……湖
「戦争は結局個人のケンカのようにはいかない。残念だがな……」
その声は
「確かにな……個人のケンカもそれはそれで
俺は何となく日本で高校生していた
敵対する女子同士を親友にまで
「あ……そうか、今必要なのは相手に対する妥協じゃない……自分にとっての妥協……」
個人レベルのケンカの
「ある……あるぞ! アンダイルとベルガを強制的に一つに出来るショック
俺の
「ほ、本当に、本当にか!? 二カ国の内乱を終わらせる事が出来るのか!?」
勢い込むナッシュ王子、しかし俺は手で制して言う。
「それは分からないよ。それこそ今後のアンタらの課題、俺が提示出来るのはきっかけだけなんだから……」
「む……それはそうだな……」
一気に表情を引き
「ただ、それには必要なモノが
「必要なモノ? 何だそれは!?」
「何でも言って下さい。我々に出来る事でしたら何でも……」
勢い込む二カ国の王族……いや盗賊団デネルの頭領の二人。この二人が〝何でも〟と言うのであれば、
俺はニヤッと笑って言った。
「あんたらの悪ガキ連合、盗賊団デネルは今から俺たちが
「「は?」」
その後俺は作戦の
最初のうちは
「それはまた……
「さすがは救国の聖女の
「それは違いますマール王女」
そう王女が呟くとティアが口を
「私は救国の聖女ではありません。エクレアでも本当に同盟を結んだ救国の英雄は……」
「ハイハイ、その辺にしようね」
「むぐ!」
俺はティアの口を後ろから
「いいじゃんティアが救国の聖女で。実際今までも決め手になったのはティアの魔法であって俺の実力じゃない」
「むごふふぁ、ほうはん!!(ですが、コウさん!!)」
「俺は結果が出ればそれで良いの。過程を人に任せて自分は結果だけを
「ふぉんな……(そんな……)」
俺たちのやり取りを見て王子と王女が
「なるほど……君たちは〝二人合わせて〟な訳だな、これは失礼した庭師……いやコウ・ダイチ
「
そう言いつつナッシュ王子は俺に
「これより盗賊団デネルはこの二人に
「「「「「「おおおおおおおおお
」」」」」」
デネルの連中だけでなくキリカさんも手を上げて
俺は盛り上がる全員を前に短刀を
「いいか! 盗賊団デネルは悪ガキの集まりから始まった、ガキの
俺はオロオロとしているティアの背中を押した。
「!……こ、今回がデネルの最後の仕事だ! や……やろうども、最後のいたずらだ。きばっていこうじぇ……」
「「「「「「お……おおおおおおおおおお
」」」」」」
この場のノリで俺が考えた
やっぱこの
「なかなか楽しそうじゃない?」
泉の
「
今回の俺の思い付きは水の精霊の全面協力が必要なのだ。
「分かってるって。
「何だよ水の精霊さん」
「それ、言いにくいでしょ? いちいち水の精霊って〝の〟が入ってつっかえるし……」
「ん……まあ確かに……」
そこまで気にしていなかったが、
「もう一つお願いがあるんだけど……
「名前?」
その
「な、何か大変な事なのそれ?」
「コ、コウさん……事の重大さ分かってます? 精霊の名付けは契約の
「は? そんなに大変な事なの? 大自然に対してたかが人間が付けた名前が?」
俺がそう言って再び精霊さんを見ると彼女は両手を広げて苦笑していた。
「な~んて
「そりゃそうだよね……」
「え!? 違うのですか!?」
むしろ横で聞いていたティアが
「当たり前、私は水そのもの、大自然における水、人に益をもたらす事もあれば害を
「はあ、そうなんですか……」
本人に否定されたもののいまいち
「まーこんな感じよ。この世界の住人は魔力に結び付けて強い意味を自分たちで持っちゃう。そんなのまた水神国に
「そう……言われてもね……」
急にそんな事を言われても迷ってしまう。
確かに魔力の
俺の国の名……って言われても……。
「まさか
しかし俺がそう呟いた時、精霊さんの耳がピクリと動いた。
「シミズ? 何それどういう意味?」
「あん? 清らかな水って書いて清水。俺の故郷ではポピュラーだけど……」
俺はそう言って流そうと思ったのだが、水の精霊の
「シミズ……清らかな水……シミズ。良いです、良いじゃない! 気に入った!!」
「…………は?」
「水神国の
「「「「「「おおおおおおおおおお
」」」」」」
さっきと同じくらいの
「ちょ、ちょ、ちょ! それで良いのかアンタ!!」
慌てて止めに入った俺だったが、精霊はむしろ心外そうに言う。
「何よ。何か問題なの? 君の世界の、君の国ではそんなに変わった名前なの?」
「い、いや……そんな事はない。むしろ
「ならいいじゃない。私は
おかしくはない。決しておかしくはないんだけど……あの西洋風の外見から考えると……何かやっちまった感が……。
テルギルギウス大陸に初の漢字を名に持った精霊が生まれた瞬間だった。
*
水神の
今回の……というか今回も作戦の
「……なるほど、つまり私がコウさんに貰ったコレが重要なんですね?」
水の精霊清水さんから貰ったレンコン似のバラの根ともう一つ、今回はこの二つが必要不可欠なのだ。
「ティアがそれを持っていてくれて助かったけどな……」
「だって……これはコウさんに貰ったお守りですから……」
ティアはそれを
あんまり
「そ……それはそうと……出来そうか? 魔法の時間差発動ってヤツ……」
「あんまり長い時間は自信無いですね……。長くてもコウさんがお
「あ~そんなもんか……」
困ったように小首を
「という事は……十~十五分くらい……ギリギリかな?」
「すみません……私が未熟なばかりに……」
また
「ふえ?」
「落ち込むんじゃない。そもそもこの作戦はティアの魔法が無ければ思いも付かなかったんだぞ? 胸を張れ、胸!」
「う、うえ?……こう、ですかね?」
俺に言われて少し
「うん、ティアには全く似合わないな」
「コウさん、ひどいです!」
そんな事をしているとホールに入ってくる人の気配がした。
「コウ君、今ちょっと良いだろうか?」
「あ……はい」
そこにいたのは
「ティア……少しゴメン」
「あ……」
ティアに断りを入れて、俺はジュリアさんに連れられてホール前の通路に移動する。
「異界の旅人、確か水の精霊は君をそう呼んだ……」
「やっぱり……それですよね」
あれだけ堂々と名指しされたのだ。バレない訳はないよな……。
俺は頭を
「原因は分かりませんけど、数ヶ月前に俺は別の世界からエルモントに……正確にはティアの私室に
「なるほど……むしろ
「すみません、ティアとキリカさんにあまり公表しない方が良いって言われてて……」
「……それは賢明だな」
ジュリアさんはふむっと
「……やっぱり……
俺が半ば笑いながら言うと、ジュリアさんは
「バカを言え。妹にあれだけの事をさせておいて、
「それに?」
「今君にいなくなられては私が困る。目的を果たすまでは近くにいて貰わないと」
その瞬間、ホールから
「ダメです!!」
そこにはこれ以上なく顔面を紅潮させて目に
いつの間にかこっちに来ていたらしい。
「ティア?」「ティアリス?」
あまりの
「あ、姉上様! 確かにわた、私は未熟な役立たずです。自分自身の身も守れず、あげくにキリカを
「ティアリス……それは……」
「魔力に至っては姉上様の足元にも及びません。……でも……でも……だからって!」
初めてジュリアさんがティアリスに
「だからって、それでも! それでもコウさんだけは
…………痛い程の
え? 今……この
何か
理解が及んだ
「アハハハハハハ!! ハハハハハハ!! ティアリス貴方言う時は言うね!! アハハハハハハハハハ
」
腹を
「な、何が

しかしそんなティアに構わずジュリアさんは俺の
「ヒ、ヒ、ヒ、ハハハハハ……いやいやコウ君。ククク……うちの妹は可愛いだろ?」
「……答えなきゃいけませんか……」
はっきり言って、俺は今ティアの顔を直視出来ない。頭が
コイツ……多分最近ジュリアさんと密談しているのを何やら勘違いしているようだ。
その勘違いから何を口走ってんだよ!!
「いや、コウ君、これは私が悪かった。やはりこういう事に人の手を借りようと思ったのは
まだ収まらない笑いを
「え?」
「悪いけど、ちょっと妹は借りてくよ。今のティアリスに比べれば私の
「だったら最初っから……あ~も~勝手にしてくれ……」
「コ、コウさ~ん?」
いまいち
ただもう俺にはティアを構ってやる
*
「ええ!! では姉上様がコウさんに近付いた目的って……」
「その通り。ティアリスと仲良くなる
アジト内に
本当は妹に自分の心情を
真相を聞いた
「で……では……では、わ、私は勘違いで?」
ジュリアは意地悪く笑ってみせた。
「いい
「みゃあああああああああ!!」
部屋の
その様には、長年見続けた
何年も前、ジュリア自身もまだ幼かった、
ジュリアはそんな丸まった妹の姿が
守る為に
理由があったとしても傷付けた自分が今更妹に
そんな思いで自分から行動を起こす事が怖くて仕方なかったというのに……。
「本当に……何を怖がっていたのかな……私は……」
「姉……上……様?」
ビックリして見上げたティアが見たのは照れ笑いを
「白状しようか? 実は私はずっと、ず~っとお前をこうして抱きしめたかったのだ。最近はお前は良く笑うようになったが、その笑顔のほとんどがコウ君に向いていただろ? 私はそれが
「……姉上様……だったら……だったら最初から……そう言って下されば……」
「コウ君にも言われたよ、それ。でも、どうしても……お前にどう思われているのか……怖くてな……」
「あ……」
正直な気持ちを吐露する姉の
強く、
『何だ……
それからしばらく姉妹同士の会話になった。女子トークという程
「ところでティアリス……一つお願いがあるのだが……」
「……何でしょう?」
ジュリアは少々赤くなりつつ鼻の頭を搔いた。
「その……私の事をだな……。その……お姉ちゃんと呼んでは貰えないだろうか?」
「え?」
「い、いや!
慌てる姉に妹はクスリと笑った。
「分かりました。……お姉ちゃん」
その日、水神の森全土に炎の女王の勝ち
「うおっしゃああああああああああああああ!!」