エルモント王国の訓練場は許可さえ取れば、24時間いつでも使用OKという便利な共同
ある日の早朝、朝もやがまだ晴れないというのに訓練場ではすでに数十人の
しかし中心に立つ女性は
タンクトップにスパッツ、見事なボディラインの女性は手足に赤い宝石のある特殊な
自らの燃える
「……来い」
「「「「「「おおおおおおおおおお
」」」」」」
それが合図、囲んでいた屈強な兵士たちは
常人であれば絶対に
しかし、そんな息
打ち下ろされた木剣を
何しろこの訓練の一撃目は彼女には
兵士が警戒したのは正解だったのだが「ヒュ」と息を
「ワンテンポ
その
「
「甘い……」
振り下ろされる木剣を横からいなして、そのまま木剣を
それが
「おおおおおお!」
そして最後に残った一番体格の良い兵士とジュリアはわざと組み合った。
「があああああ!」
「……」
体格では優に三倍はありそうな力比べ、しかし体格で
「ぐああああ……おおい! お前らも手伝え!!」
必死の表情の男の声に周りで見ていた三人の兵士が加わった。いずれも同じように力
「はああああああ!!」
ジュリアが
「「「「おおおあああああああ!!」」」」屈強な男たちは一瞬で押し負けて吹っ飛んだ。
「ふう……」
一息吐いて
「参りました。まったく……俺たち『
「
「そりゃあ喜んで良いところなんすかね? どの道一瞬でやられちゃ世話ねぇよ」
心配するジュリアに
「何度も言っただろう? 私の動きや力は炎龍爪を使った反則技だと。本来の力比べだったら私はお前の足下にも
それは世辞でも何でもなくジュリアにとって厳然たる事実。体内のエネルギーを火の魔導具で
ようするに火の
「……にしても
「本当だな。いつもは月一くらいなのに……」
非常に
「少し……思うところがあってな……」
「はあ……」
数日前にあったパーティー、その翌日にジュリアのもとに三等分された緑色の果実が届けられたのだ。ある人物から怒りを込めて……。
その人物からのメッセージを正確に受け止めて以来、彼女はモヤモヤを吹き飛ばそうと訓練に
その事を思い出し、ジュリアは
「……言われなくても……」
固く握った
そんな中、ジュリアは訓練場から見える王宮の
「?……あれは」
*
エルモント王国の主要都市エルモントシティは王城を中心に城下町が広がる形で形成されている。城下町のだいたい西側、少し外れた場所にその駅舎は立っていた。
「ここが民間の風馬馬車の停留所か。え~っと……目的の馬車は……」
「水神国行きの馬車は駅舎から二番目のアレだ。ほら、あの青い旗を付けてるヤツ」
「ああ、ありがとうございます……ってあれ? ククールさん?」
背後から聞こえた声は友の為に影を演じる
「はよっす。どうしたんですか? こんな朝早く……」
現在は日が
「それはこっちのセリフだ。君が水神国に
そう、俺はこれから
ルーチェの情報だけでは、また
ただ今回は親善大使として向かったエクレアとは
「そりゃまた……よくティアが
「いえ……
「ああ……それは分かる」
元々はティアやキリカさんと
「しかし、その罪悪感を振り切ってまで行く理由は……聞かない方が良いのか?」
「……そうしてもらえると、ありがたいです」
「そうか……」
元々悪役を演じている彼は、俺が何かを
「でも、気を付けて行って来いよ? 大っぴらじゃないがあの国の情勢は決して安全とは言い
「やっぱり……内乱?」
「そこまでは言わんが、東のベルガと西のアンダイルは今もって
聖水の湖デネルを有する水神国は、元々『デネル』という一つの国だったらしい。
ところがお決まりの
そして現在も両国のいがみ合いは続いているのだとか。
「何も無ければ俺が一緒に行ってやりたいが……あいにく我が国の王宮も情勢が不安定でね。大臣の
彼の
ようは義理人情に厚い、気の良いアンちゃんなのだ。
「気にしないで下さい。そっちの仕事を
俺の言葉にククールさんは少し考えてから口を開く。諜報部として俺に漏らして問題無いか情報を整理したようだ。
「王宮内部で
「あ~なるほど……」
それだけで大体の察しは付いた。つまりあのパーティーでの延長、水神国と同じで後継者争いか。現状分裂している他国を思うと何かやるせない気分になってきたな……。
「まあ……そんな訳で、ほら!」
「え!? わとと……」
ククールさんが急にほうってよこした小さな
「! ククールさん、こんな大金は……」
「さる筋の方から、路銀の足しにしろって君に
そんな感じで思わぬ臨時収入を手に、俺は西水神国アンダイル行きの風馬馬車へと乗り込んだ。早朝だし乗客は少なく、五十人は乗れそうな客席にせいぜい五人程度がまばらに座っているのみだ。行商人風の男や、ローブをまとったいかにも魔導士っぽい人等々。
二人がけの
しかしそれでも人力よりはるかに速い。あっという間にエルモントの町並みが見えなくなり草原が目の前に広がる。
そこには魚屋の大将の話が
水族館の
「な……何だあ?」
行商人の男が不満を漏らすと
「お客様申し訳ございません。ただいま進路上をカツオの大群が通過中です。しばらくお待ち下さい」
「カツオの大群? それってもしかして……
俺の疑問に御者さんは人のよさそうな顔をしかめて
「はい、秋の風物詩ではありますが……最近多いのですよ」
そう言われて俺は客車から降りて進路上の草原へと目を向けた。
前方に広がる緑の草原に張り付く道を、黒い線が
ただ、スピードが
すみません。昔のコントとか思って申し訳ありません。
大将の言った事は大げさでも何でもなかったのだ。
「タタキにしたヤツは
「はい、あれは本当に
「そうだろ……ん?」
俺は背後から聞こえた声にとっさに
……何か今、
しかし考える間も無く御者さんが言った。
「刺さりガツオの通過まであと少しですので、そろそろ乗車して下さい」
そう言われて俺を
「ハー、ハー、ハー……ヒー」
その人物は俺の良く知っている人物、息も絶え絶え、
「キリカさん?」
足をふらつかせ乗り込んで来たキリカさんは
「ハーハー……ゴホ、ダイチ……」
「いったいどうしたんですか? そんなフルマラソン後の選手みたいに」
激しい息切れでしゃべる事もままならないらしい。
「ブハ……サンキュー。少し……落ち着いて来た……」
口元を
「な、何か用っすか?」
発言を
「いや、用があるのは君じゃない……」
「は?」
そう言いつつ呼吸を整えたキリカさんは客車の中心をツカツカ歩いて、ローブを着た
その瞬間、あからさまにその人物は体をビクつかせた。
「用があるのは、こっちのバカ
キリカさんがそう言って魔導士風のローブを
「……ティア、何してんの?」
「ア……アハハ……」
それは見間違えようもない、いつもと同じ三つ編みで町娘姿が板に付きまくり、そろそろかまぼこになれる王女様であった。
キリカさんは
「な、に、してんのよ! 王宮じゃいきなり王女が消えたって
「イタイ、イタイ、イタイ……だってコウさんデネル湖に行くって言うから……」
……大体の察しは付いた。今回連れて行けないって事に納得の行かなかったティアは、城から無断で抜け出して付いて来ちゃったのだろう。
「……私今日は非番だったんだけど、ティアがいなくなったって王宮から
「しっかし……キリカさん、よく追い付けたな。エルモントから
「スカイダッシュの連続運用で何とか。馬車が止まってなければお手上げだっただろうけどね。……おかげで

そう言ってキリカさんはティアの
「さ、帰るわよ」
「え……」
その
「コ……コウさ~ん」
あからさまに俺に助けを求めるティア。
俺からも今回は帰るように説得しようとすると、御者さんが口を
「何だか分かりませんけど……引き返すのは無理ですよ?」
「え? いや馬車ごと引き返せなんて言いませんよ。
「いえその、そういう事ではなくてですね……」
御者さんは口ごもりながら黒い線に見える刺さりガツオの群れを指差した。
「あの刺さりガツオの群れはどういう訳かこの時季には草原を
「は? つまり……魚群が
「はい、一つの魚群が草原を抜けるまで二~三日はかかります」
「にさんにち!!」
「水神国へ行くのは
「それは問題ありません。魚群は後退はしませんし、次の魚群が来るのは一~二週間は
「では魚群より上空を、
最後の希望とばかりに別の方法を口にするキリカさん。だが御者さんは
「残念ですが翼竜は魚群がいる場所は飛んでくれないんです。危険を本能的に察知するみたいで……」
「く……」
「こうなっては
俺が半分
「キリカ?……あの……
「私が何を怒っているか……分かるかしら?」
「え?……それは」
目を
「どーせやらかすなら私も巻き込めって言ってんの! 何年アンタの親友やってると思ってんのよ
「みゃ~~~ゴメンなさいゴメンなさい!」
途端に笑い合いじゃれ合う女子二人。仲良き事は美しきかな……。
結局今回の調査もいつもの
「これも一つの予定調和なのかな?」
*
それから馬車は幸いにも今度は途中で止まる事も無く、数時間のうちに目的地である西水神国アンダイルへと
「これが聖水を
俺は目の前に広がる光景に思わず絶句してしまった。
ティアやルーチェの話から俺は、
見た目の印象を言うなら──
「そんな……あんなに美しかった湖が……」
「これじゃあ飲用どころか魚だっているかどうか……」
ティアの反応とキリカさんの言葉で元からこうではなかった事がうかがい知れる。
「こいつは水の
精霊の怒りという
「精霊様の……怒り?」
ティアの
「そう、精霊様は怒っておる! いつまでも
「は……はい?」
「湖の中心にある水精霊の
「精霊が……封印?」
エクレアのボルフィン火山にかつて
「数百年も前の事じゃ。まだ国がデネルだった
「ベルガが?」
「そう……じゃが
自分語りで怒りを
「じゃから、精霊様は言っておられる。さっさとベルガを
「そ、そんな……」
悲痛な顔をするティアを
ひどい
思わず顔をしかめつつ湖周辺の
「もしかしてこれ……アオコか?」
だとしたらこれは
「爺さん、ちょっと聞いても良いかな?」
「何じゃ若いの。話の
調子良く
「湖がこんな感じで緑色になったのはいつからなんだ?」
「……ここ数ヶ月ほどじゃ。最初は少し緑色の物が浮いてるくらいだったがの……」
「ここ数ヶ月? 爺さん、町から湖に流れ込んでいるあの水路はいつからの物なんだ?」
「? ワシが幼い頃からあのままじゃ。何百年も前じゃと思うが……それがどうした?」
排水は何百年も続いていて、汚染は最近始まったというのはさすがに計算が合わないな。
「ふう


ん……」
「コウさんどうしたのです?」
考え込む俺を心配したティアが
「んー正直俺の知識はティアにとっては異次元の事だし、何しろ世界観が
「はあ……と言いますと?」
「水質汚染の原因は精霊様が怒ったとかじゃないんじゃないか?」
「貴様! 何を
俺の言葉に
「そうか貴様……ベルガの者じゃな? デネル湖の状況の責は自分たちには無いとアンダイルにデマを流そうと
「は? 何言ってんの」
「そうはいかん! 貴様らの思い通りにはさせんからな!」
そんな事を言って爺さんは見た目の
「何だったんだ? あの爺さん」
「あんまり不用意な事言わないでよ? 水神国は精霊
俺が疑問に思っているとキリカさんが手を腰に注意してきた。
「……それで? この湖の状態に対する君の見解は? 副所長」
キリカさんの言葉にティアも「ふんふん」と
「あそこに水路があるのが分かる? あそこから生活排水が湖に流れ込んでいるだろ?」
「え~っと……そうですね。でもそれがどうしたのです?」
「細かい説明は
「栄養が……あり過ぎる?」
「それが……どうしたの? 栄養があるとダメなのかしら?」
俺の説明に首を
「この水に大量に浮かんでいる緑色のコレなんだけど……俺の世界での知識と同じなら、コイツは植物の一種、アオコだと思う」
「アオコ? 植物なんですか? コレが?」
どうやらティアたちにとって
おそらくこの湖は
いつの間にか体育座りで俺の話を聞いていた二人の表情がみるみる暗くなっていく。
気持ちは分かる。俺もこの手のドキュメンタリーなんかを見ると気持ちが
「そんな……人間の生活排水の為に……湖が……」
「じゃあダイチは精霊じゃなくて水神国の人間がこの湖を汚染しただけと言いたい訳?」
「うん、ただそれは原因の一つだと思う」
「一つ?
そう、それだとどうしても
「あの爺さんが言うには生活排水を垂れ流していたのは何百年も前からなんだろ? だったら何百年も前からこの湖はアオコだらけじゃないとおかしい」
「ああ! 確かに!!」
ティアが両手を合わせて立ち上がった。
「あのお爺さんの話では汚染が始まったのは数ヶ月前、それはおかしいです」
それにそんな状態の湖だったら、幼少期に
ただ、ここからは地球での常識からは外れた発想で考えなければならない。
「
「浄化する何か……って何です?」
「水質汚染の講義に比べて自信無げね」
「そう言われてもなぁ……水質汚染の改善っていうかアオコの処理って実際はスゲー大変なんだよ? 各自治体やらボランティアやらが協力して何年もかかってようやく改善するかもしれないって問題なんだから……」
そう、汚水処理は簡単にはいかない。何百年も前から生活排水を垂れ流していたのに
そう、それこそ何というか科学的ではなく異世界的な。
「ティア……前ここに来た時と何か違いは無いか? 細かい事でも良いからさ」
「そうですね……私の
そう言ってしばらく
「あ! そうです思い出しました。確かデネル湖の湖畔には見事なバラの木が無数に生えていたはずです。バラの花がそれは見事に
「バラの木?」
「ええ。紅白に
「紅白とは、まためでたいな。
うっとりとしながら話すティアにそう応じると、彼女は首を
「いえ違います。赤と白のバラを植えてあるのではなく、同じ木、同じ枝から赤と白のバラの花が咲くのですよ」
「同じ枝から!?」
ティアの記憶を頼りに昔湖畔で見たというバラの木の群生場所へ足を運んだ。
「やっぱり……ここもですか……」
あからさまに落ち込むティアの
ただその花が俺は気になった。落ちている花も、かろうじて枝に付いている花も、
「ティア。本当にこのバラの木は紅白の花が咲いていたのか? ここに落ちてるのは全部白だけど……」
一つ拾ってみるが、
「そんなはずはありません。幼い頃私は紅白のバラを頂いた事があるんです」
少しムッとして言うティアの顔には
俺はそれを
「……枝に花をもぎ取った
それは枯死したバラの木全体に言える事だった。
「見付けたぞ、ベルガの手先どもめ!」
「ぜえ、ぜえ……どこに
「おいおい……無理すんなよ爺さん」
「そうですよ。お体は大切になさって下さい」
「う……やかましい! ベルガの手先が
何やら悲しげな家庭事情が聞こえたが、そんな事を言っていられないようだった。
爺さんの背後から手に武器を
「
「え?……いやいやいや、ちょっと待って下さいよ。俺は別に侮辱なんか……」
「そうですよ。むしろコウさんのお話は湖の今後について非常に重要な……」
「
「「「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」」」
「え? ゴハ!」「あれ? グボ!」
自警団たちは武器を落とされた事を自覚した
しかしキリカさんの射程
「……頭に血が上っても戦術の基本は押さえているようね……」
確かに敵の射程
「キリカさん、スカイダッシュは? いつもならこのくらいの人数
スカイダッシュを
俺がそう言うとキリカさんは
「忘れたの? 言ったでしょ、私今日は
「あ……」
そうだった。キリカさんは今日は非番だったのに、ティア不在の報を受けて
そんな事をしていると自警団の集団の中で、手から赤い光を発する連中が前に出る。
「げ……あれって……」
「……当然、次はそう来るよね……」
それは俺にも見覚えのある火の
「「「「
「
火の魔力による無数の散弾、それらが
「はああああああああ!!」
「アジィ!!」
「コウさん!
フルマラソン後の全力無酸素運動、
「ハア……ハア……マッ……ズ……力が……」
「なかなか
自警団たちから
かざした手から再度赤い光を放ち出す自警団たち。キリカさんは虚ろな目で、それでもティアの前に立ち槍を構える。
「全員魔力弾、
だが次の瞬間、号令を上げようとした自警団の男は
余りの突然の出来事に自警団たちの反応がワンテンポ
「貴様、何者だ!!」
声を上げた男の真横で。
遠目に見ていた俺には彼女が瞬間移動をしたようにしか見えない。それくらいの速度。
「ゴハ!?」
自分の真横に彼女がいる事に気付く事も出来ずに男は
「
「おのれ火弾丸、
女性の
しかし女性は散弾が殺到する前に、地面に右足をいわゆる
「
その瞬間彼女の前の地面から激しい火柱が立ち上って無数の魔力弾をかき消した。
「炎脚爆壁だと!? 実戦であの高度な
激しい火柱に
「何! ガゴッ!」
腹部に
「ひ……ひい!!」
戦神の
「この者たちも、そして私もベルガでもアンダイルでもない……ただの旅人だ。ご老体、
「は……はひ!」
黒髭の爺さんは
後に残されたのは倒された男たちの中心に
今日は軍服ではなく、スッキリとした旅人風の若草色の服にスカーフを巻いているが、明るい
「ジュリア……姉上様……」
ティアがその人物の名をうわ言のように呟く。
ティアの
「キ、キリカ!!」
「キリカさん! 大丈夫か!?」
俺たちが心配していると自然な動きでジュリア王女が近付きキリカさんの手をとる。そして簡単な
「おそらく大丈夫だ。目立った
「そ、そうですか……」
「よかった……」
ホッとする俺とティアだったのだが、次の瞬間パンと心の底に
それはティアがジュリア王女に
「姉上……様?」
「ティアリス、お前はこんな所でいったい何をしている……」
見据えるジュリア王女の目は静かな
「大方の察しは付くが、お前には王女である自覚が無いのか?
「あ……」
「護衛師キリカの今の姿はお前がもたらした
姉からの冷たくも厳しい正論にティアは
「わ……私のせいで……キリカが……」
「王たる者、
その言葉が
「ごめんなさい……私のせいで……こんな……」
確かに今回のティアの行動は
「あの……ありがとうございます。危ないところを」
「大した事はない。妹の不始末を処理したに過ぎん……それに君には借りもあるからな」
「借り?」
そんなものあったっけ? どちらかと言えば例のパーティー以降彼女に対しては無礼しか働いていないと思うのだが……。
冷静に考えるとこんなに強い人に対してあの時は強気に出過ぎていた。俺がその辺についても謝罪した方が良いかとか考えていると、ジュリア王女の目付きが変わった。
「!……待て、庭師。何か聞こえないか?」
「何か……て?」
言われてからなるべく耳を
これでも耳は良い方で、学校では必要以上に女子たちと近い所にいたせいで、
「湖の水音、風が
自分が並べ立てて言った言葉に背筋が
「……どうやら空耳ではないようだ。私にも同じものが聞こえる」
そう言って
「あの爺さん無駄に
「庭師、さすがにこれ以上の
「異議無し!」
俺はそう言ってまだ泣きじゃくるティアに
「ティア、新手が来る! 早く
「でも……コウさん……キリカが……」
「コウ……さん?」
「いいかティア、確かに今回お前の行動は軽率だった。姉ちゃんのお
「………………」
「だけど、俺もキリカさんもそれを
「……でも現にキリカは……」
また下を向きそうな顔を俺はグイッと無理やり上げて、キリカさんの心情を代弁する。
「『やらかすなら私も巻き込め』ってキリカさん言ってたろ? あれは『私には
「あ……」
本人不在での
「
「……はい」
返事をしたティアの目にはわずかに光が
こうなればもう大丈夫。そう思った
俺は
借りがあるって言ってみたりガン付けて来たり……いまいちこの人の行動が良く分からん。印象的には次期国王を
……それに勢いに押されて思い付かなかった事が一つあった。
「ジュリア……王女。少しお聞きしたいのですが?」
「……言い
「じゃあ……ジュリアさん。何で今ここにいるんですか?」
ピシ……その言葉にここまで厳格だった彼女の表情が固まった。おや?
「水神国行きの馬車は
「な……何を
「というか城内にいたはずですよね? メイドのシェリーさんが、今朝もジュリア王女が演習に出ていたって言ってましたし……」
「庭師のわりに無駄な交友
アレだけの敵を相手に
「話は後だ庭師! あれを見ろ!」
ジュリアさんが指し示した方角を見て俺はギョッとした。すでにアンダイルの兵たちがガチャガチャと
「とにかく
俺は気を失ったキリカさんを
最早
方向も何もかも気にしていられず草木を
しかしアンダイルの兵士諸君は
しばらくすると当然というか、専門外である俺とティアの息が上がって速度が急激に落ちて来た。それを見たジュリアさんが大きな木の根元を指し示した。
「二人とも少し
確かにその通り。俺たちは木の根に隠れる格好で腰を下ろす。用心深く背後を
「く……逃げ切れないか?」
「最悪……もう一暴れするしかないか?」
ジュリアさんはそう言って
だがその時、兵士たちの声が聞こえる方に急に白い
それは段々森林内部に広がって行き、ついには辺り一面、白一色に変えて先が全く見えなくなる。
「こ、これは
背後から
「くそ! だとすると
「盗賊団デネルの連中か。自警団で
「……仕方が無い。一旦引くぞ、このままでは
おそらくリーダー的な男の声に兵士たちの声や鎧の音が遠ざかり始める。そして数分もすると森林自体の音以外何も聞こえなくなった。
「助かった……のか? 連中、引き上げたっぽいけど……」
「そのようですね……」
俺とティアは安心感から
「ティアリス、それに庭師よ。気を
「え……?」
「この霧は魔法によるもの……これを使用した者が味方とは限らない」
ジュリアさんは構えたまま正面に向かって声を張り上げた。
「礼を述べるべきなのか
ジュリアさんがそう言うとその声は結構間近から返って来た。
「君たちは水神国の者ではない。だから一応確認したかったのだけれどな」
その瞬間、白く辺りを染めていた霧が
そしてジュリアさんの構える正面には
「こんな近くにこんなにいたの!?」
俺と
こげ茶色の
「まずは構えを解いて貰えないか? 我ら『盗賊団デネル』に本気の君と
いきなり本名を言われたジュリアさん。
しかし彼女はそことは
「盗賊団……? 言っている意味が分からないのだが……アンダイルのナッシュ王子とベルガのマール王女」
「「えええ!!」」
盗賊団のリーダー格っぽい二人にジュリアが言った正体に俺とティアはユニゾンしてしまった。