この世には逃れえぬ運命が存在する。

 渦のように人を飲みこみ、どのような形であれ結末まで引きずりこんでいく。

 飲みこまれるまえに引き返す選択肢もあろう。

 だが、スタンクはどうしても後戻りを選べなかった。

 前進するしかない。それが自分のしてきたことの結果だと、自縄自縛で受け入れてしまう。

 信念ゆえの落とし穴。それこそが逃れえぬ運命だ。

「ここまできたら腹をくくるしかない」

 スタンクは食酒亭の店構えと向きあっていた。

 そこに彼女と彼女がいる。

 人生の答えを求める人形娘と、彼女のモデルとなった有翼人が。

(……間に合わなかった)

 さきほど食酒亭から出てきた客を捕まえて話を聞いた。

 褐色触手娘が入店して、メイドリーに話しかけていたらしい。

「間違いなく俺らにとっちゃロクな結果にならないだろうが……」

 覚悟を決めて、決意を口にする。

「まあ仕方ない。俺だってまたの剣を信じてアイツそっくりの人形にハメたんだ。ああ、そうだ。これは信念の話だ。おまえそっくりの人形が俺ら以外にもハメられまくって魔改造された挙げ句、イカレポンチのせいでもっとわけわからんことになったということを説明して、元凶は俺らかもしれんけどハメたあとのことは一切責任ございませんと胸を張って言ってやるんだ!」

 正々堂々の言い訳モードだった。

 ゼルは自分とスタンクに延々と付与魔法をかけていたが、それを終えて息を吐く。

「防刃魔法、耐衝撃魔法、耐熱魔法、などなど重ねられるだけ重ねがけした。あとは魔法が切れるまでにメイドリーが落ち着いてくれることを祈ろう」

「生き延びたところで食酒亭出禁かもな……」

「ここよりごこいい場所あんまりないんだけどなぁ」

 ふたりはうなずきあって、酒場に踏みこんだ。

 黄色い笑い声がはじける。

 カウンター席で見目麗しい女性ふたりが楽しげに談笑していた。

「えー、ほんと? ほんとに爆発したの?」

「したした! ピュグっちが作るもの四割ぐらい爆発するし!」

 有翼人メイドリーと、そっくりの顔をした褐色触手人形ガラちゃん。

 年ごろの女の子が気安く笑いあう雰囲気に、スタンクたちは気勢をがれた。

「いらっしゃいませー、お席ご案内しまーす」

 先行していたはずのクリムが給仕としてスタンクたちを案内する。頭に大きなタンコブができているのは、メイドリーに殴られたのか例の翼が途中で壊れたせいか。

 彼はぼそりと小声で状況を報告しはじめた。

「セーフです……ガラちゃんさんは自分の生い立ちについては一切話してませんし、メイドリーさんはただの他人の空似としか思ってません……」

「おまえはなにやってんだ」

「しばらくお仕事休んでたぶん、キリキリ働けって言われました……」

 メイドリーが雑談にふけっているので、クリムがひとりで給仕をこなしていた。スタンクたちから注文を取ると、慌ただしく店内を駆けまわる。

「……とりあえず様子見だな」

「いつポロッとバラすかもわからないからな」

 ふたりは小さめのテーブル席から聞き耳を立てた。

「でもほんっとビックリした。この世には自分そっくりのひとが三人いるって言うけど、いざ本当に目の当たりにすると声出なくなっちゃったし」

「ウチもちょっとヘンな気分っていうか、なんか笑っちゃう」

「笑っちゃうよね、なんだろこれ」

 他愛ない話で盛りあがる様は年相応の女の子だった。

 憤怒と暴力をつかさどる破壊神にはとても見えない。

 ガラちゃんも屈託なく笑っていて、両者のあいだには十年来の親友という雰囲気すらある。

「でさ、ヘンな話になっちゃうけどさ」

「なになに。恋の話とか?」

「あはは、違う違う。ウチそういうのまだ早いっていうか」

「えー、モテそうだと思うんだけどなぁ」

「自分で言う? その顔で言う?」

「いやいやいや、顔じゃなくて! スタイルいいし、話しやすいし、まあお顔も私と一緒で美少女だと思いますけどね?」

「自分で言ったし! このひと自分で美少女って言っちゃったし!」

「たまにはいいのー! 今日は自分は可愛かわいいって言っちゃってもいい日なの! それよりほら、ヘンな話ってなんなの?」

 促されて、ガラちゃんは満面の笑みをかすかなほほ笑みに変えた。

 まっすぐにメイドリーを──うりふたつの顔を見つめる。

「アンタってこのお店で働いてるんだよね」

「うん、給仕させてもらってるよ」

「満足してる?」

「そうね、女将おかみさんいいひとだし、まかない美味おいしいし、変な客はいるけど根は悪いやつじゃないし、本気でムカついたら殴ればいいだけだし、悪くない職場だと思う」

「人生、たのしい?」

 ガラちゃんのひとみが感情を乗せてかすかに揺れた。

「意識したことはないかなぁ。でも、楽しいんじゃない? こうやって、たまたま出会った自分のそっくりさんと仲良くお話できるぐらいには余裕もあるから」

「そかぁ。出会いと余裕かぁ」

「うん、出会いって素敵だから」

 メイドリーは満面の笑みを浮かべた。スタンクたちには見せたことのない表情だ。強いて言えば、怒りが限界突破して笑うしかなくなった表情ならたまに披露している。

「酒場ってね、いろんなひとがお客さんとしてやってくるでしょ。このお店は荒くれ者が多いし、コイツどういう育ち方してこうなったのかなブン殴るぞみたいなのがけっこう多くて。あとわいだんしかしない変態とか、サキュバス店のレビューで小銭稼いでるプロの変態とか、給仕にセクハラして殴られてもぜんぜん懲りない最悪の変態とか」

「変態ばっかじゃん」

「うん、ほんとイヤになっちゃうよね」

 一瞬、冷たい視線がスタンクのほうに飛んだかもしれない。

「でもまあ、そういう連中だってご飯を食べたらお行儀よくゴチソウサマって言ったり、おいしかったよって言ってくれたり……普通に暮らしてたら縁のないようなひとたちと、ちょっとだけ距離が近くなったような感覚って、悪くなかったりするよ」

「たとえどんな過去があっても、いまこの瞬間の出会いと触れあいはイイモンだってこと?」

「そうそう、よくなかったら殴るしね」

 ふたりは声をあげて笑う。

 おまえのほうが荒くれ者じゃねーかと言いたい気持ちをスタンクは必死で抑えた。

「なあスタンク……俺たち助かったってことでいいのか?」

「たぶんな……考えてみりゃアイツの目的は自分探しだし、自分の生い立ちをメイドリーに伝える必要もないからな。無用なトラブルを避けようって気持ちもあるんだろ」

「イカレポンチに作られた核のわりにマトモな判断だな」

「反面教師だったんじゃないか?」

 スタンクとゼルはすこし話しあってからクリムを呼ぶ。

 オーダーを聞いたクリムは、笑顔でメイドリーたちに酒を運んだ。

「あちらのお客さまからです」

 自称美少女&そっくりさんが振り向くと、スタンクたちは最高にかっこいい決め顔を返した。

 一瞬でメイドリーの顔がめ、半眼でガラちゃんに警告する。

「あのね、アイツらにだけは心を許しちゃダメだからね」

「そんなガチめな顔で言うぐらいダメなの?」

「男なんて女の子をおいしく食べることしか考えてない生き物だから。とくにアイツらはその道のプロっていうか、女の子食べ歩くのが人生みたいな外道だから」

「言いすぎじゃね? でもわかった。気ぃつけとくね」

「よろしい」

 ふたりは酒をあおると、ますます雑談に花を咲かせた。

 他愛なく、気を置くことなく、思うままに。

 そんな楽しい時間にも終わりの時はやってくる。

「じゃ、ウチ、そろそろ行くから」

「えー、もう? お酒おいしくなってきたところなのに」

「ごめんね。でも楽しかったよ。うれしかった。会えてよかった」

 触手娘は下肢をうごめかせて椅子から降りた。

「あ、名前! まだ言ってなかったよね。私はメイドリー。あなたは?」

「ウチは、ガラ……ガラドリー」

「名前まで似てるんだぁ。ちょっとうれしいかも」

 ほがらかに笑うメイドリーに、ガラドリーは薄く目を細める。

 深い満足を感じさせる笑みだった。

「会えてよかったよ、メイドリー」

 立ち去る寸前、彼女はクリムに目配せをし、代金を手に握らせた。

 クリムはスタンクとゼルのテーブルに金とともに握らされた紙片を置く。

 ──店の裏で待つ。

 すこし間を置いてから、スタンクとゼルは席を立った。

 ポン、とメイドリーの肩をたたく。

「おまえって意外と普通の女の子だったんだな。ちょっと安心したぞ」

「私のことなんだと思ってたのよ」

 スネをつま先でられたが、衝撃緩和の魔法がダメージを防いでくれた。


 かくして破壊神が降臨することもなく事件は終了した。

 結論から言えば、もろもろの罪状はすべてピュグマリオのものとなった。

 ガラドリーは無罪放免。

 ゴーレム核の製造は法で様々に規制されている。無許可で製造したピュグマリオの罪はさらに累積された。一方、作られただけのガラドリーにはなんの責任もない。過程はどうあれ、生み出されたからには一個の人格を持つ生命体だ。各種の権利は保障される。

《性のマリオネット》もおうような判断を下した。

「われわれがゴーレムの権利を守らないわけにはいきませんから。彼女は独立した一個人です。それに彼女、ボディと核が完全に融合してしまって、いまさらバラせませんので。ボディの代金についてはあのイカレポンチから搾り取りましょう」

 ピュグマリオは気の遠くなるような時間を賠償金の支払いに割くことになる。

 どうやって金を作るかはスタンクの知るところではない。

 仕事を終えて報酬を得たら、毎度のごとくサキュバス店を巡る。

 ──そうして日々は過ぎて──


《イチャラブハニー》はラブラブ恋人プレイが売りのサキュバス店である。

 だれだって可愛かわいい女の子とはイチャイチャHしたい。

 さほど可愛くなくとも、イチャイチャ感があれば気分的に可愛く見えたりもする。

 イチャイチャは強い。とても強い。

 だが──はたしてそれは商売上の売りになるのか?

 そもそもサキュバス嬢の多くは距離感が近い。それこそ恋人のように甘い雰囲気で客をもてなす嬢は珍しくもない。リピーターを求めるなら当然とさえ言ってもいい。無愛想な嬢を好むのはかなりの通だけだろう。

 それでも。

 恋人プレイを売りにするだけの理由が《イチャラブハニー》にはある。

「プレイルームではお香と魔法陣で幻惑効果が発生します。目の前の相手を本物の恋人と誤認するのです。それも一番おアツい時期のラブラブ仕様で」

 魔法使いらしきちの受付嬢がカウンター越しに説明をした。

「念のため聞いとくけど、副作用はないんだよな」

 スタンクの脳裏にかん魔剣化事件がよぎる。

「万一に備えて、事前に血液採取のご協力をお願いしています。お客さまの耐性と体調を検査してから幻惑効果を調整します」

「なるほどな。段取りがちゃんとしてると安心できる」

 その場のノリでゴリ押ししてくるイカレポンチとはまるで違った。

「また、当店の時間制限は通常のサキュバス店より長めですが、延長は厳禁となっていますのでご注意ください」

「なんで延長なしなんだ?」

「ありにすると、みんな全財産をなげうつ勢いで延長するんです。俺の恋人をほかのやつに渡すかーって。いろいろ問題が出るので、時間きっかりで終了することになっています」

「ちゃんとしてる……すごくちゃんとしてる……ちゃんとしてるっていいなあ、うん」

 スタンクと仲間たちは指先を浅く切って、検査用紙に血を数滴垂らした。

「こちらの用紙は検査後に焼却し、再利用は絶対にいたしません」

「いろいろ考えてるんだなあ。ちゃんとしてるなあ」

 間違っても体の一部が異物に変形することはなさそうだ。

 受付嬢は検査用紙の変色としわの寄り方を確認すると、カウンターの陰でなにかを操作する。各部屋の幻惑効果を調整しているのだろう。

 スタンクは目配せでゼルに問いかける。魔術的に妙なことはしていないかと。

 ゼルは軽く肩をすくめた。とくに問題はないのだろう。

 間もなく操作は終了し、検査用紙は灰になった。

「それでは、みなさまの可愛いハニーが待つ愛の巣へとご案内いたします」

 受付嬢に案内されて、一行はそれぞれの部屋へ移動する。

 スタンクはドアのまえで軽く深呼吸した。

 ここに彼女がいる。

 様々なトラブルの果て、ついに自分の生き方をいだした彼女が。

「邪魔するぞ」

 ノックをしてドアを開く。

 褐色肌の少女はほおを赤らめ、もじもじと触手をうごめかせていた。

「あ、会いたかったよ……スタンク」

 漂う甘い香気が脳を冒す。目の前にいるのはいとしいハニーだと思えてきた。

 万感のおもいをこめて、スタンクは部屋に踏みこんだ。

「俺も会いたかったぞ、ガラドリー」



 ガラドリーが食酒亭でメイドリーと対面した日のこと。

 彼女は店の裏にスタンクたちを呼び出し、相談を持ちかけてきた。

「ウチ、サキュバス店で働こうと思うんだけど……初心者向きのいい店知らない?」

「え、そういう仕事嫌がってなかったか?」

「ウチがイヤなのは、流されてわけもわからないうちに人生決めちゃうようなことっていうか。体の適性だけで短絡的にお仕事決めたら後悔しそうだし」

 でも、と彼女は切り替える。

「メイドリーと話して、食酒亭の雰囲気を味わったら……なんつーかさ、人生いろいろって感じじゃん? なら、こういうのもアリかなって……ウチまだまだ世間知らずで、なにができるかもわかんないし、体の適性でひとまず様子見ってのも悪くないかーって」

「そうだな。あのイクイク豚おじ……いや、ヴィルチャナもできることを突き詰めてってあれだけの剣士になったんだ。その後はまあ、あれもあれで人生だ」

「アイツとスタンクの決闘も見ててグッときたよ。ウチは血なまぐさいのイヤだけど、なにかひとつのこと極めるのもカッコいいじゃんって」

 ガラドリーはにかりと快活に笑う。

 顔立ちこそメイドリーに似ているが、表情の作り方がまるで違った。

 だれの似姿でも作り物でもなく、彼女は彼女として笑えるのだ。


 ガラドリーは一時的に《性のマリオネット》に身を寄せた。

 あくまで裏方として業務を手伝うだけで、サキュバス嬢をするわけではない。核とボディが融合した彼女は自作ゴーレムの基準から大きく外れている。

 はたしてガラドリーに適したサキュバス店とはどんなものか?

 スタンクたちレビュアー一同で知識を出しあい、なんとか十店にまで絞りこんだ。

 情報をまとめた資料をガラドリー宛てに送付して、およそ一ヶ月。

 返事の手紙には感謝の言葉と、スタンク個人へのメッセージが同封されていた。

「アンタが最初のお客としてきてくれない?」

 役得である。



 あらためて見てみると、ガラドリーの容姿は素晴らしいものだった。

 肌は照明をよく照り返すつややかな小麦色。

 側頭部から伸びた大ぶりな角は洒落しやれた帽子のように彼女を飾り立てている。

 半透けのベビードールからのぞける乳房は言わずもがな特大。以前よりもさらに大きくなった感すらある。これものろわれた核の仕業なら、じゆよりも賞賛を送りたい。

(オッパイ大きくて可愛い、俺だけのハニーだ……!)

 香気と魔法陣の影響もあって、なにもかもが魅力的に見えた。

 彼女も恋する乙女の潤んだまなしで、小さくはにかみ笑いをする。

「ふ、服脱がすけど……えへへ、緊張しちゃうねこれ」

 ガラドリーはスタンクの服を脱がしはじめた。

 両手だけでなく触手も使い、たびたび乳房を押しつけて肉感を強調する。

「はじめてなのにずいぶんと慣れてるな」

「みっちり練習したから。ウチ、才能あるって褒められたんだよ?」

 得意げに言ったかと思えば、慌てて両手を左右に振る。

「あ、違うよ! 相手は基本的にウチとおなじサキュバス嬢だし! 男のひとはダーリンがはじめてだから、誤解しないでよ! ウチはもうダーリン一筋って感じだから!」

「俺もいまはハニーしか見えないぞ。すごいなこの部屋。見つめあってるだけで初恋みたいに胸がドキドキしてくる」

「ふーん……ダーリンは初恋済みなの?」

「ああ、もうずいぶんとまえの話だが……いてッ、いててッ、吸盤張りつけて思いきり引っぺがすのやめてくれ頼む」

 触手の吸盤が体のあちこちに張りついてはがれる。スタンクの全身を丸いアザだらけにして、ガラドリーは半眼でにらみつけてきた。

「ウチはこんな気持ちになるのスタンクさんがはじめてなんですけどー」

「うん、それはまあ、ちょっとゴメン」

「ちょっととかじゃなくてさー、ゴメンって思うならさー」

 んむー、とガラドリーは唇をとがらせた。

 すねているのではない。いや、半分はそうだろうが、この場合は別の理由がある。

 とびきり可愛かわいらしい要望にこたえるべく、スタンクは彼女に顔を寄せた。

 ちゅ、と優しくキスをする。

「ん……はぁ、ファーストキスしちゃった」

 白い歯をむき出してニシシと笑うガラドリーが心の底からいとおしい。ケミカル&マジカルに醸成された恋愛衝動が全身を熱くする。とりわけ体の中心部は鋼のごとく硬化していた。

「あっ……もうガマンできない的なノリ?」

「かなりキツいけど、焦るのももったいないって気分だ」

「じゃ、まずは体キレイにしなきゃね」

 ガラドリーは身につけていたベビードールを脱ぎ捨て、洗い場に移動した。

 サキュバス店の超定番、マットプレイのお時間である。

 特色と言うべきは、洗浄用粘液を泡立てる部位。下肢、つまりは触手部分。

「それじゃうつぶせで楽にしててね。ちょっと体重かけるよ……」

 うつぶせになったスタンクの背に、ぬぢゅぢゅ、と粘つくものがのしかかってきた。素肌に吸いつきながら背中から四肢へと広がっていく。人型の上半身と違ってひんやりした触手が火照った肌に心地よい。泡を巻きこんでこすりまわす動きも上々。

「おおぉ……ほんとに才能あるなぁ、めちゃくちゃ気持ちいいわ」

「でしょでしょ? こういう技も教えてもらったよ?」

 ぱふん、と柔らかなものがスタンクの頭を左右から包みこむ。

 いまさらなにかと問うまでもない。

「ナイスおっぱい……!」

「ここまでしっかり挟みこめるデカ乳はレアって言うからね。ダーリンてばラッキー♪」

 頭から顔までがぱふぱふの効果範囲となっていた。片乳だけでもスタンクの頭部より大きいのではないか。それでいて形が崩れきらない弾力もある。極上の爆乳だ。

「そろそろ逆向いてくれる? 今度は正面から、ハグしながら……」

 言われるままあおけになった。

 正面から柔らかダブル山脈に顔をうずめる。ぎゅっと抱き寄せられるのもいい。

 触手泡踊りも体の前面を果敢に攻めていた。

 それはつまり、きつりつした男の剣を洗うということでもある。

「んぅ、なんかすごい……硬い……やっぱり剣になるぐらいだから普通より硬いの?」

「人間基準ではたくましいとは思うが、べつに剣になったのは関係な、おふッ」

「あ、えっちな声出た。やりぃ」

「ハニーの触手で洗われたら声ぐらい出るよ」

「じゃあウチ超がんばって洗うね。ダーリンのえっちな声聞きたいし」

「お手柔らかに……んっ、おうッ、ふうッ」

 潤滑液をまとった軟体が巻きつき、むっちりした締めつけでしごきたてる。

 きゅぽ、きゅぽ、きゅぽ、とリズミカルに。

 ときに触手の先端で亀頭をツンツンするので、刺激が決して単調にはならない。

 スタンクが限界を迎えるのはすぐだった。

「あ、ものすっげ震えてきた……! ね、出すの? 出しちゃうの? ウチの触手が気持ちよくてイッちゃう? ね、ね、ね!」

「あ、ああ、気持ちいいから出る……! ハニーの触手最高!」

「いいよ、ウチはいつでも……! ダーリンが気持ちよくなれるなら大歓迎!」

 きゅううぅー、と全方向から触手が圧縮してくる。

 反発するようにスタンクは発射した。

 粘っこいものを放出するたび、肉剣が幸せな感覚に満たされる。

 触手が微動してかすかな摩擦をくれるのも絶頂感に拍車をかけていた。

「おぉー、ほー、ハニーすごいな、搾り取られるみたいだ……!」

「意識して搾り取ってまーす。触手ってさ、けっこー感覚ビンビンだからさ、ダーリンの熱いの感じるとゾクゾクってなるんだよねー。はぁ、超気持ちいい……」

 ガラドリーはうっとりと感じ入って熱い吐息をこぼす。

 ふたりは射精が終わってからも、しばらくハグしあって多幸感を分かちあった。


 ハニー=ガラドリーの才能は触手以外でもいかんなく発揮された。

 パイズリをすれば特大の質量をダイナミックにかす。

 重みたっぷりの躍動感にダーリン=スタンクはたのしく屈した。

 フェラチオにおいては一転、舌先を細やかに使う。

 肉剣の構造を隅々までなぞりつくされ、スタンクは心地よく敗北した。

 立てつづけに三度の敗北。

 しかし歴戦の勇士はしおれるどころか、さらに雄々しく剣を隆起させるのだ。

 逆にガラドリーはしゆく気味に、丸めた触手を浴槽の底に沈めている。

「ついに、ついにウチ、ダーリンとヤッちゃうんだ……」

 触手がゆるむと浴槽のなかで浮きあがる。

 すぐに固くなってまた沈む。

 ガラドリーのプレイルームはベッドがないかわりに浴槽が大きい。もともとすいせい種や触手娘のための部屋であり、ちょっとしたプール程度の面積がある。

 内側を満たすのはぬるま湯だった。体を冷やさず、湯あたりしない程度の温度。

 スタンクも湯にかって、いとしいハニーを抱きしめる。

「オーケー、緊張しなくてもいい。俺の体温を感じて落ち着くんだ」

「う、うん、でもやっぱ練習と違って緊張する……ウチほら、はじめてだしさ」

 言って、ふとガラドリーは表情を曇らせる。

「はじめてって言うと、ちょっと違うかな……体はいろんなひとが触ったあとだし」

 彼女の体は人形専門店のデフォルトコーナーで多くの男に触れられてきた。

 もちろんそれは、現在の意識を宿した核がはめこまれるまえの話である。彼女の魂が純潔であることに変わりはない。

 ただ、ガラドリーという少女はウブな感性を持っている。

 彼女の懸念を笑って流すのは失礼だ。

(こいつは俺のハニーだ……愛の力で救ってやらなければ)

 スタンクは力強く彼女の肩を抱いた。

 いつもはメイドリーから濁ってるとか腐ってるとか死んでるとか言われる目を、気色が悪いほどキラキラとしんに輝かせる。

「ハニー……またのマジホは新品なんだろ?」

「も、もちろん! 最高のマジホを選んで、かっちり融合させたから!」

「ならおまえは処女だ! 俺のための処女だ! その清純なる絶対処女バージン・防壁フオートレスを俺の自慢の愛の剣で貫いてやる!」

「やだ、超かっこいい決めゼリフ……マジホから本気汁ブシャーッてなりそう……!」

 愛は勝った。

 香気と魔法陣で擬似恋愛にのぼせたふたりの仲に、もはや障害はない。

 向きあうは男の剣と女の穴──

 ヘソまで反り返らんばかりの肉のやいば

 VS

 触手の付け根の中心に開かれたイボひだだらけのマジカルホール!

 ──激突Fight

「おりゃあッ!」

「ンあぁああああッいきなりイクぅうう!」

「うッわすッげ俺もいきなりイクぅうううぅッ!」

 一瞬の決着。引き分けである。

 固く抱きあったまま身震いするふたりに、触手が巻きついてホールドする。気がつくと浴槽の底からスタンクの足が離れ、浮いたまま絶頂を味わっていた。

 夢見心地というべきだろうか。

 浮遊感を味わい、離れられない状態で剣汁をびゅーびゅーと注ぐ。その勢いが落ちるにつれて、物足りないとでも言うように腰が動きだした。

 じゅっぽじゅっぽ、と柔穴をえぐり返す。

 ぎゅむ、ぎゅむ、と穴が脈打って男剣を抱擁する。

 ふたりは際限なく夢見心地におぼれていく。男女混合汁のおかげで潤滑もいい。

「うぅ、あくッ、ほんとにすごいマジホだなこれ……! 腰が止まらん……!」

「ダーリンのも超デカいし形エグいし、めちゃくちゃいろんなとこ引っかかって、あひッ、ウチ、ウチ、いま生きててよかった的な気分……!」

 ガラドリーはとろとろの悦顔でスタンクにキスをした。

 何度も何度もちゅっちゅ、れろれろ、ちゅばちゅば、と舌まで交える。

 触手の絡みつきも情熱的で、毛穴にまで入りこまんばかりだ。

「また、また出るぞ! 俺のラブが噴き出す!」

「出してッ、ラブでウチを殺してぇ~ッ!

 強く強く抱きしめあって、W絶頂。

 しばし余韻を味わってから──さらに対戦をくり返した。

 ときに体勢を変え、位置を変え、様々な角度で攻防をくり広げる。初戦ほどのスピード決着はないが、それでも決着はいつも引き分けだった。

「はあッ、あんッ、あはぁッ、ハメてもらうのって、こんなすごかったんだ……! はうぅ、やっべ、マジはまる……! 超愉しいッ、ダーリンのセックス最高すぎるんですけど……!」

「ふう、くう、うッ、相性ちょっとよすぎるな、俺たち……!」

「んあッ、あんッ、やっぱさ、この体を最初に抱いたのもダーリンっしょ? 核とマジホは別物だけど、やっぱりなんか、そーゆーのでつながり的なアレが、ソレしてるんじゃない?」

「ふわふわしすぎだろ。そういうときはこう言うんだ……」

 スタンクはガラドリーの耳元に口を寄せた。

 力のかぎり男前な声を絞り出す。

愛の運命ラヴ・デステイニーが俺たちを結びつけてるんだよ……」

「あんっ、やだかっこよすぎ……! 耳からイッちゃうぅ……!

「うおッすっげぇ締めつけてくるッ! 俺もイッちゃう!」

「ダーリン愛してるぅうーッ!」

「ハニー! アイ・ラブ・ユウーッ!」

 ふたりの対決はまたも引き分けとなった。

 次なる勝負はすぐにはじまる。

 おもいのあるかぎり快感もまた終わらない。

 まるで永遠につづく愛のラブ・輪廻リインカーネーシヨン──


 という幻想は、香気と魔法陣の効果が途切れると同時に終結した。

 スタンクは湯からあがると、その場にいつくばる。

「恥ずかしくてもう死にたい……! だれか俺を殺せ……!」

「そんな気にしないでいいじゃん。酔った勢いみたいなもんだし」

「いくら酔っても普通はあんなこと言わねえだろ! なんだよ、その、愛のなんとかって!」

愛の運命ラヴ・デステイニー?」

「殺せえええええええぇええッ!」

 赤面で鳴きわめくスタンクの体を、ガラドリーはタオルで丁寧にいていく。彼女の顔も多少は赤いが、スタンクと違って致死量のしゆうには冒されていない。

「ウチは楽しかったよ。ていうかいまのほうが楽しいかも。超ウケる」

「ウケるなよ! それがイヤなんだよ!」

「おかげさまで初体験はステキな喜劇になりましたー的な? ヘンに引きずらないでよさそうだし、ウチはほんと感謝してるよ」

 悪戯いたずらっぽいほほ笑みを見ていると、ムキになると負けだと思えた。落ち着こう。

 すー、はー、と深呼吸して恥ずかしい記憶を封印する。落ち着いた。

 水気がなくなってから自分で服を着る。

 腕に組み付いてきたガラドリーと一緒に部屋を出た。

 時同じくして同行者たちも退室して顔を合わせる。

 気まずいので、たがいに目をらす。

 店を出ると、入り口でガラドリーが手を振ってきた。

「お別れだね、スタンク」

「この店でやっていけそうか?」

「うん、お客の恥ずかしい振る舞いを大切な想い出にしてく感じで」

「鬼か」

「鬼じゃなくてかわいいガラドリーちゃんでーす。またのお越しをお待ちしておりまーす」

 屈託のない笑顔を見て、スタンクは苦笑まじりにうなずいた。

 気が向いたらまた指名してみよう。

 今度はもうあんな醜態はさらさないぞ、と心に誓った。





 かくして、消えた人形はひとりのサキュバス嬢に生まれ変わったのでした。

 めでたし、めでたし──

 というほど、世の中うまくはできていない。

 事件の中心人物はもうひとりいる。

 魔法使いピュグマリオはその後、なんらかの手段で脱獄したらしい。

 イカレポンチの頭に反省の二文字はない。あちこちで問題を起こしては懸賞金が値上がりし、天下の迷惑魔道士と呼ばれるようになった。

 そんなとき、ふつと彼女の足取りが途絶える。

 ろうとらわれたわけでもなく、足取りがキレイさっぱり立ち消えたのだ。

 彼女の末路を語るのは真偽不明のうわさである。

 実験の失敗で消し飛んだとか、べつの大陸に逃げたとか、いい加減名前を使われるのに怒った魔導士デミアが動いたとか。

 以降、彼女の姿を見た者はいない。


 そして、事件にいちおう関わった者がもうひとり消息を絶っている。

 短期間ながら食酒亭を拠点に活動したレビュアーである。

 もともと遠方からの旅人だったので、ふたたび旅立ってもおかしくはない。みながそう思って気にも留めていなかったのだが。

 ある日、意外な形で彼の消息が判明する。

 食酒亭のスタンク宛てにサキュバスムービーの記録用水晶が送られてきたのだ。

 差出人の住所はサキュバス店。名前は《スーパーSM大戦》。

「このサキュバス店、まえにボク行ったことあるよ……」

 カンチャルは嫌な予感に顔を引きつらせている。

「付与魔法で体を頑丈にしてハードなプレイに対応しますっていうSM専門店で……あ、もちろんボクはS役だからね?」

 嫌な予感が周囲にでんする。

 スタンクは息をんで、水晶に記録されたムービーを壁に映写した。

 軽快で勇壮なBGMが流れ出す。

 映し出されるのは、這いつくばった女たち。みな一様にボンデージ服だ。

 その中心にはそうめん六手のようえんなアシュラ女がいた。

『わが永遠の好敵手スタンク、そして多くの悦楽朋友スケベフレンドよ、久方ぶりだな──我こそはイクイク豚おじさんブルーあらためアクメ大好きメス豚ブルー!』

『ヴァンパイアだけど吸血よりも流血がマイブーム! 貧血大好きメス豚レッド!』

蜘蛛人アラクネの糸は自縄自縛のため! 緊縛大好きメス豚ブラック!』

『オークで豚で常時ブヒブヒ! 天然鼻フックのメス豚グリーン!』

『深夜の聖堂で神像に排尿する習慣がバレてお家断絶! おもらし常習犯メス豚イエロー!』

 ドカーン、と爆発音。

『我ら被虐戦隊ピッグファイブ!』

 ──んほぉおおぉおおおおぉおおーッ!

 五人のアクメ大合唱が響き渡った。

 もだえの様子からして演技でなく本気の絶頂だった。画面外の下半身に何事かされているのだろう。妙にエゲツない水音やちようちやく音も聞こえてくる。

「このアシュラ……ヴィルチャナだよな?」

「たしかに面影はあるけど……なんで女になってんだ……?」

「た、助けてあげないとダメじゃないですかね……?」

 すごうでの剣士でありドM系レビュアーとして名をせた男が、なぜ?

 いやドMだからだろ、と言われたら反論の余地もないのだが。

 せんりつする一同をよそに、青いメス豚は喜悦に声を張りあげていく。

『ほおんッ、んぉおおッ、実は先日、立ち寄った性転換専門店がピュグマリオのぼったくり店でッ、あひッ、薬ッ、性転換薬ッ、女になって戻れなぃいいいいいんッ』

 あお肌の美女は白目をき、大口から舌を垂らした。

 連鎖的に六つの手をビシッと鋭く掲げて、人差し指と中指を立てる。

『きた! ブルーの必殺技、アヘ顔六手シツクスピースきた!』

『アシュラの六手と天下無双の剣士としての身体能力をかしたキレのあるピース!』

『ブヒヒッ、いつ見てもれするほどみっともない!』

『なんで生きてるの? プライドないの? 故郷に知られてお家断絶したいの?』

『んぉおおおッ、言葉責めでまたイグぅうううぅーッ!

 スタンクは再生を止めた。

 世界の終わりじみたちんうつな空気で、どうにか言葉を搾り出す。

「まあ……アイツも楽しそうでよかった」

「元が美形だから女になってもムダに美人だったな……」

「ボクも一歩間違えたらあんなふうになってたんですかね……」

「クリムが言うと冗談に聞こえないからやめてよ……」

 みなが総じて疲れきったため息をつく。

 ただひとり──ふはぁー、と、怒りの吐息を漏らす者がいた。

 鬼神のごとく殺意を放つ有翼人の少女だ。

「アンタたち……店の壁になんてもん映してんのよ……」

「待て、悪意はなかったんだ。まさかあんな強烈なもんが出てくるとは思わなくて。でも実際見てみると女目線でドキドキしたりしないか?」

「するか!」

 憤怒の打撃がスタンクを襲った。


 出会いと別れをくり返し、ひとは生きていく。

 多種族の入り乱れるこの世界で、知性あるものはみなおなじだろう。

 悩み、迷い、苦しみ、変わりながら歩みつづける。

 もし行き着いた場所で笑顔を浮かべることができれば、それはきっと幸福である。

 ガラドリーもヴィルチャナも──


「そしてメイドリー、おまえも笑ってくれ。笑顔で見逃してくれ」

「断る」

 絶望のどん底に落ちると、もう笑うしかない。

 スタンクは最高によい笑顔で過酷な運命を享受した。