多顔多のアシュラ種において、単顔はなにかと肩身が狭い。

 集落を歩けば生温かい目で見られる。

「おや気の毒に。顔がひとつだけとはね」

「視界が狭くて困るだろう」

「同時詠唱ができないとか不便すぎる……」

「負けんなよ、応援してるぞ!」

 押しつけがましい善意をわずらわしいと感じたとき、ヴィルチャナは決意した。

「単顔の身で多面のアシュラをすべてりようし、力でねじ伏せてやろう」

 選んだのは魔法でなく剣の道。多面など圧倒的な剣技のまえでは無意味だと示したかった。

 みずから死線に飛びこんで技術を研ぎ澄ましていく。

 当初の六刀流は三刀流に最適化された。

 なにより最適化されたのは心のあり方である。

 怒りで振るう剣はふうのように激しく強いが、宙を舞う葉を切ることはできない。

 強さに必要なのはいだみなのようにせいひつなる心。

 そのことに気づいたとき、すでにヴィルチャナは憤怒と反抗心から解放されていた。

 もはや他人などどうでもいい。多面も単顔も関係ない。

 望むものはただひとつ、さらなる剣技の高みだ。


 深い山中で三刀がひらめいた。

 餌を求めて群がる怪物が続々と血祭りにあげられていく。

 血とやいばあらしはとどまることがない。そうめん六手のアシュラはふんじんの活躍をしていた。

「やっぱり対多だと三刀流はつえーな」

 後続のスタンクが感心ながらに余り物の怪物を切り伏せた。

 茂みに隠れたものたちはゼルが弓矢で正確にく。

「おまえよくアレに勝てたな」

「タイマン勝負なんて時の運だからな」

 スタンクとヴィルチャナの実力はほぼ互角。あとは状況次第で結果は変わる。

 十戦して五勝五敗といったところではないか。

「強いて言えばチンポの差で勝った。男はやっぱりチンポだ」

「だよなぁ、ちんちんだよなぁ」

「下品な会話しながら怪物ぽんぽん倒すの無駄にすごいですね」

 クリムはふよふよと浮かびながら三人についていく。

 怪物の群れはおびただしいほどに多い。危ないから近道はやめておけ、とはふもとの村の住人が言ったことだ。とくに天使の少年は見るからにひ弱だからと。

 光輪が欠けて本来の力を失ったクリムはたしかにぜいじやくである。場合によっては足手まといになることもあるだろう。だが、ほか三人の実力ならば足手まといを補って余りある。

「あのときのチンポはクリムをも凌駕していた──いまはなきスーパー・デラックス・スタンクソード……おまえの勇姿は忘れない」

「おまえローションの店行ってから時々キモいぐらい感傷的だぞ」

 無駄口の多いふたりにくらべ、先頭のヴィルチャナは沈黙を守っている。

 呼気と剣風ばかりが鋭く鳴って、怪物を刻んでいく。

 ようやく吐き出す声も彼自身にしか聞こえないつぶやきだった。

「やはり──これこそがゆくべき道だ」

 求道者の独り言もつゆ知らず、後方の道楽者はますます下品トークに花を咲かせる。

「しばらくは遊んでる暇もないよなぁ。チンポが寂しがっちまう……」

「しゃーねーさ、メイドリーが魔改造自分人形なんて見た日には必殺確定だぞ」

「いくらメイドリーさんでもそんな……いや、でも本気で怒ったら……」

 クリムはぶるりとおぞに震えた。

「実はイマイチ飲みこめてないんだが……なんでアイツら食酒亭に向かってるんだ?」

 スタンクは向かってくる怪物を切り落として言う。

「ガラちゃんの似姿に会うためって話だが、なんのために? そもそもどうやってメイドリーのことを知った?」

 もちろんギャザーの千里眼がかならずしも真実を語っているとは限らない。ほかに手がかりがないから頼っているだけだ。

「あー、それなー。たぶんだけど……クリムのせいじゃないか?」

「え、ボク? ゼルさん、ボクなにかしましたっけ……?」

「たしか《ラヴ・ブリンガー》でガラちゃん見たとき、おまえとっさにメイドリーの名前を出しただろ。あきらかに見間違えましたって感じで」

「ああ……そういえば」

「その一言で自分のそっくりさんがいると仮定し、さらにそれが自分のモデルになった女と推理したんだとしたら、案外頭がまわるタイプかもしれない」

 ゼルは話をしながら、二発つづけて放った矢で怪物二匹ののど穿うがった。

 待て待て、とスタンクがまた疑問を呈する。

「頭がまわったら、なんで自分のモデルに会いたいって話になるんだ?」

「……人生の疑問、じゃないでしょうか」

 クリムは言う。血煙の渦中にいる剣士を見つめながら。

「あのひとの核、普通のゴーレムとはすこし違うじゃないですか」

「無機物のボディが勝手に変異して別の形になるぐらいだからな。ピュグマリエが作った核らしいから、どうせ予期せぬ不具合だろうけど」

「そこなんですよ、ゼルさん。不具合で自分の体が変わっていく不安……自分が自分でなくなるような感覚……いてもたってもいられなくなって、せめて自分の原点がどこにあるのか確かめたい気持ちがあるんじゃないでしょうか」

 天使の声音には同情の響きが含まれていた。

 なるほど、とスタンクはうなずく。

「なんとなくわかったが、童貞なくした不安と同一視していい話か?」

「天界から落っこちたうえになくしたんですよ! もう意味わかんなくなって夜とか泣きたい気分だったんですからね!」

「でも不安と期待が入り交じっていたんだろう? これからもっと気持ちいいことができるかもと思って顔テカテカさせてたじゃないか。なあ、ゼルさんや?」

「さすがにもう初心なんて薄れてるだろうけどな。最近じゃ普通の店も慣れてきただろ?」

「いまでも毎回ドキドキしてますよ! なに言わせるんですか!」

 見事にちきっている天使にほほ笑ましいものを感じる。

 が、スタンクはあえて表情を引き締めた。

「ガラちゃんがなにを考えてようと、メイドリーとのご対面だけは避けるぞ。ヘタするとマジでチンポもぎ取られるかもしれないからな」

 せつ、前方でひときわ大きな血しぶきがあがった。

 ヴィルチャナが退転し、鬼気迫る表情で駆け戻ってくる。

「魔羅をもぎ取るような店があるのか──恐ろしい」

「いや店じゃねーよ。食酒亭のメイドリーの話だ」

 ゼルが冷静に突っこむ。

「食酒亭では魔羅をもぎ取るようなサービスをしているのか──恐ろしい」

「なんでちょっと期待してるようなソワソワ感出してんだよ」

すな、スタンクよ──もちろんもぎ取るというのは表現で、それぐらい乱暴に魔羅をいじめるということなのだろう。我とてわかっている、本気でもぎ取ったら傷害罪だ」

「そもそも食酒亭はサキュバス店じゃありませんよ……」

「哀れみの目で我を見るな、天使よ──そんな目でこの我を見ていいのは女王さ……ゴホンッ、ゲフゲフッ、オホンッ!」

 せきばらいで誤魔化すヴィルチャナ。心なしか目が潤んでいる。

 ギャザー専門店で刻まれた傷は果てしなく深く、そして甘ったるい。

 そんな状態でも剣が止まることはない。怪物が襲ってくれば鋭く切り返す。分厚い皮をたやすく裂き、骨肉を断って命を絶つ。まさに絶技。

「我にはこの剣がある……この剣しかない……剣だけで充分だ──だからこれ以上サキュバス店で遊ぶようなことはあってはならぬ」

「どっちにしろ山を下りたら移動手段探してすぐ出発するぞ。できれば寝るのも馬車だ」

「え」

「え、じゃないが。時間がないって言ってるだろ」

 標的二名の乗っていた翼船はざんがいになっていたと、すこしまえの街で話に聞いた。かわりに馬車を買って乗りこんだとも。ピュグマリエの発明品よりは一般的な馬車のほうが安定して走行できるだろう。

 現在スタンクたちは近道で距離を稼いでいるが、追いつくのはまだ難しい。

 ただし馬も走りっぱなしでは疲弊してしまう。疲れれば速度も落ちる。こちらが次の街で充分に休憩を取った馬を確保できれば、格段に距離が縮まるだろう。

「……だから、サキュバス店に寄る時間はない。俺だって断腸の思いだ」

 スタンクの痛切な言葉にヴィルチャナは顔をゆがめた。

 くるりと振り向き、また前進して獲物を切り倒していく。

「我はいったいどうすればいいのだ……! この落胆とかんのままならぬ感覚はなんだ……! 我は、我は……! おおぉおおぉおおッ……!

「クリムも最初のころは気分的にはあんな感じだったのか?」

「……ノーコメント」

 一行は負傷者を出すことなく山越えを完了した。


 山のふもとの街は異様な騒がしさに揺れていた。

 あちこちで獣のいななきがとどろき、人々は慌ただしく駆けまわっている。

 何事が起こったのかと、スタンクたちは聞きこみをしてみた。

「輸送用の動物がみんないきなり発情期になって手がつけられねえんだ!」

「動物だけじゃねえ、ケンタウロスたちもだ!」

「ダメだ、ドラゴン空輸のあんちゃんもサキュバス店に入ったっきり戻らない!」

 目立って被害を受けているのは商人たちだった。乗合馬車の客なども途方に暮れている。

 なかには犯人の目撃証言もあった。

「根暗そうな女が変な瓶をきゆうしやで割ってたけど、もしかしてアレのせいか?」

「俺も見たけど、クヒクヒ笑って早口で独り言してるのが正直怖かった」

「一緒にいた女の子はおっぱいデカくてエロかったのに」

「ああ、そのふたりなら無事な馬を捕まえて馬車で街を出て行ったぞ」

 十中八九ピュグマリエとガラちゃんだろう。

「まさか、追っ手をくためにそこまでやったっていうのか……?」

 さしものスタンクもドン引きである。

 街ひとつを巻きこんだばかりか、交易商や輸送隊など各種ギルド、騎士団などにも迷惑をかけている。懸賞金が確実にかかる犯罪行為だ。正気のではない。

 ゼルとクリムも「うわぁ」という顔であきかえっていた。

「あの女イカレてるとは思ったけど、ここまで見境ないとはな……」

「でもマズイですよ……向こうは馬に乗ってるのに、こっちは徒歩となると」

 先行して食酒亭に到着されたら、すべてが終わる。

 殺意の権化、破壊神メイドリーの誕生だ。

 確たる死の予感にヴィルチャナ以外の三人は脂っぽい汗を止められない。

「カンチャルさんは大丈夫ですかね……」

「メイドリー人形作ったのはアイツだからな。たぶん一番死ぬぞ」

「ドスケベ人格の核をぶちこんだスタンクが二番目にヤバいと思うぞ」

「それでもカンチャルがやられてるうちに逃げれば、あるいは」

「ボクがいないと思ってひどい話してない?」

「いやいや、これはだれかひとりでも生き延びたら勝ちだねという友情の話だぞ」

 スタンクはふと、自分の腹のあたりを見下ろした。

 子どもサイズの成人男性がニヤついている。

 ハーフリングのカンチャルだ。

「足がなくてお困りなんじゃないかい?」

 彼が親指で示す方向には毛並みもつややかな馬が三頭いた。

 この素朴な顔立ちのハーフリングは抜け目のなさとずるさに定評がある。

「いや怖いわ。おまえどういうきゆうかくしてんだよ」

「酷い言い方だなぁ。こっちの都合で万全を尽くしてたら、たまたまスタンクたちの都合とみあったってだけだよ。ほら、詳しい話は後にして出発しよう。ボクもあのピュグマリオって魔法使いを見つけるよう錬金ギルドから依頼を受けてるから」

 たくらみ深い男ではあるが、無意味に他人を陥れる人種でもない。その点でスタンクたちも信用している。あわよくばひともうけしようという考えはつねにあるのだろうが。

「でも馬が三頭だと全員は乗れませんよ」

「ボクはゼルと一緒に乗るよ。クリムにはちょうどいいものがある」

 カンチャルは背中のざつのうを開いた。

 取り出したのは純白の翼、の模型らしきものだった。

「依頼を受けるついでに錬金ギルドからタダ同然でもぎ取ってきた《イカロスの翼》! ペガサスの羽根を使ったマジックアイテムで、無翼種でも飛べるよう開発されたものだよ」

「無翼種用なら翼のあるボクにはいらないんじゃ……?

「実はこれ失敗作でね、浮力を生み出す付与魔法が不完全なんだ。で、ここにいる天使は浮力こそあるけど飛行は不安定でこころもとない」

「ボクがつけたら高速飛行も自由自在ってことですか?」

「とりあえず試してみればいいんじゃない?」

「やってみます!」

 クリムは模造翼に開かれた穴に腕を通し、大きく羽ばたいた。

 突風が巻き起こり、か細い体が高らかに舞いあがる。

「うわ、うわ! これ飛べますよ! 背中の翼で姿勢制御したらちょうどいい感じです! スピードもかなり出せそうです!」

「よしクリム、一足先に行ってくれ! 先回りしてメイドリーを隔離するんだ!」

「了解しました、スタンクさん! ボク行ってきます!」

 クリムはなんの迷いもなく空の果てに消えた。いつになくハイテンションな笑顔だった。よほど高速飛行がしたかったのか。翼あるものの気持ちはスタンクにはよくわからない。

「俺らも行くか」

 スタンクが馬にまたがり、ほかの三人もつづく。

 風を受けて走りだした。


 カンチャルの連れてきた馬は見事なまでの健脚を発揮した。

 二足種とは段違いの速度で街道を駆けていく。

 相手が馬車であるなら追いつくのも時間の問題と思われた。

「なあ、さっきの翼だけど」

 ゼルは背に張りついたカンチャルに問いかける。

「あれってピュグマリエが作ったものじゃないのか?」

「あ、バレちゃった?」

「魔力の込め方があいつの店の商品に似てたからな」

「あの魔法使い、ギルドの名前を使って好きほうだい迷惑ばらまいて、除名されるときに発明品もぜんぶ没収されたんだ。あの翼もそのうちのひとつなんだけど」

「……途中で壊れないか?」

「墜落してもクリムなら浮かべるしなんとかなるでしょ」

 カンチャルはこともなげに言う。あいきようのある童顔のわりに性格はごくシビアだ。

「捜索依頼が出されたのだって、錬金ギルドが保管してたのろいの宝玉をゴーレム用の核に使っちゃったからだっていうし。そういうことばっかりやってるんだってさ」

「いままで捕まらなかったのが不思議なぐらいだな……」

「一度は逮捕寸前までいったらしいんだけどね。危ういところで逃げられちゃったらしい。妙な薬を使って姿を変えた……というか、肉体そのものを」

 言葉が途中で切れた。

 四人は目をすがめて前方を見据える。

 街道の先にほろしやが見えてきた。

「俺が先に行く!」

 スタンクは拍車をかけて馬を加速させた。

 じわじわと距離を詰め、ついには馬車の真横に並ぶ。

 御者台に女がいた。目のまわりがインクを塗ったように黒い。

「見つけたーッ!」

「うわっとぉ見つかっちゃいましたねクヒヒヒヒ!」

 すぐにゼルが追いつき、スタンクと左右から馬車を挟み打つ。

 後方にはヴィルチャナがついた。

「神妙にお縄につけ! わりとマジで洒落しやれになってない状況だからな!」

 スタンクは剣を突きつけた。届く距離ではないが威圧にはなる。

「おっおっおっコワイですね暴力反対ですご覧のとおり私そーとーか弱いオトメなので」

「かよわいオトメ? だれがだよ」

 スタンクは半眼になった。ゼルとカンチャルもおなじ表情だ。

「なんですかねーその目は信用してないんですかねー私あなたがたと違って荒事に慣れてないしマジ激弱ガールだから温かい目で見逃してほしいんですよピュグちゃんのお願いッ」

「だからさぁ、おまえさぁ……」

「はーいエロエロサービスでーすクヒヒヒヒ」

 こともあろうにピュグマリエはスカートをまくりあげて下着をちらつかせた。

 うげぇ、とスタンクは複雑な感情に顔を歪める。

「ドスケベ冒険者さんたちはこういうので惑わされてくれるって聞きましたーほれほれパンティだぞパンティうれしいでしょうクヒヒヒヒ」

 ひらひらとスカートのすそを揺らし、飾り気のない白い下着に指を差しこむ。

 素早く引き抜かれた指には、長細い瓶らしきものがつままれていた。

 きっとろくでもない薬品かなにかだろう。

「させねぇよ!」

 スタンクは瓶を切っ先ではじき飛ばした。割れた瓶が内容物ごと幌のなかに飛びこむ。

「あっおッやられた参ったお色気不意打ち作戦大失敗!」

「通用すると思うなよ、偽物のお色気が!」

 なにも知らなければパンティに目を奪われて不意を打たれたかもしれない。だってパンティはロマンだから。布一枚で女の花園を隠す神秘のベールだから。

 だが、事情を知ってしまった以上は、興奮しようにも頭のどこかで理性が働く。

「ピュグマリエ──いや、本名ピュグマリオ! 性別偽証罪は個人的に超重いぞ!」

「偽証じゃありませんよ性転換薬の失敗で元に戻れなくなっただけだしいまは身も心もキャピキャピウフフの今時ガールですよクヒヒヒヒ」

「元男だと思うとそのしゃべり方がちょっとかんに障るな!」

 最初に真実を知らされたのは《マジカルローション》でのことだ。

 ピュグマリエは一時的に性転換を引き起こす薬を研究し、見事に失敗した。男の大事な剣を失ってしまったのである。だからと言って困るでも焦るでもなく、これ幸いと別人のふりをして身を潜め、サキュバス店の経営まで始めるのだから図太い。

 なお、一時性転換薬は大魔導士デミアの手でとうの昔に実用化されている。後追いで失敗したのは純粋に彼女、否、彼の実力不足だろう。

「おまえ、魔導士デミアの高弟って言ってたよな」

 逆側からゼルが冷たい目をピュグマリエあらためピュグマリオに投げかける。

「はずかしながら直接指導を受けた身でありますよクヒヒ」

「それだって弟子入りしたわけじゃなくて、魔法都市のデコイ人形を三日間五〇〇〇Gで買ってちょろっと教えてもらっただけだろ」

 魔導士デミアは魔法都市でサキュバス店を経営している。

 自分をコピーしたデコイ人形に客を取らせているのだ。

 本来デコイ人形は危急時の身代わりとして魔法で生み出すおとりである。一般的な魔法使いの生み出すものは造形も甘く思考ルーチンも単純。

 しかし世紀の大魔導士デミアの手にかかればアラ不思議。見た目はスタイル抜群の美女で、日常会話はもちろん高度な魔法学の講義までできる。独学で魔法を修めたイカレポンチをマッドな発明家に引きあげるぐらいお手のものだろう。

「ヤだなぁ三日間じゃなくて一ヶ月は通いつめましたよ親の金で勘当されるまで男の体だったころの話ですけどね師匠とは体で結ばれた関係ですよクヒヒはずかP!」

 イカレポンチは怒るでも悪びれるでもなく、照れていた。

「ダメだ、こいつ会話にならない。問答無用でいったほうがいいぞ、スタンク」

「だな。散々手こずらされても女の子だししゃーねーかぐらいに最初は思ってたけど、男なら遠慮も容赦もいらんだろう。覚悟しろピュグ男! やれ、カンチャル!」

「あ、そこボクがやるんだ」

 カンチャルは馬車にナイフを二本投げつけた。

 小さな刃は車輪の機構に食いこみ、回転を強制的に停止させる。

 馬車がつんのめって横倒しになった。引っぱられた馬がいななきをあげて転倒する。

 ピュグマリオはとんきような声をあげて地面に投げ出された。

 もうもうと立ちこめる土煙のなか、スタンクたちは馬で彼女(?)を取り囲む。

「あいたたたたっでもラッキーどこも折れてないごろの神へのお祈り奏功しまくりっ」

「悪運は本当に強いんだなコイツ……」

 どこまでも平常運転のイカレポンチにスタンクはいっそ感心してしまった。

「だがまあ、これでお縄だ。当然ガラちゃんも引き渡してもらう」

「ピュグマリオはボクにちょうだいよ。錬金ギルドに引き渡すから」

「俺らも今回の捜索にかかった金はコイツからもぎ取る予定なんだが……」

「もちろんそこもギルドに話を通しとくよ。実家から持ちだした財産をどこかに隠してるだろうし、損失分は埋めあわせできるんじゃないかな」

 きっとカンチャルは取引のどこかで余分にもうける算段をつけているのだろう。わざわざスタンクたちと合流したのも、トータルで得すると確信しているからだ。

(契約どおりの報酬と必要経費が払われれば俺はそれでいいしな)

 ここでめるつもりはない。さっさと終わらせてサキュバス店に行きたい。ただただかんの剣に素直なのがスタンクという男だ。

「待て──みな、動くな」

 ヴィルチャナの声が緊迫した空気をよみがえらせる。

 彼は倒れた幌馬車を確認していたが、唐突に動きを止めた。

 彼の見る先、幌からのっそりと現れるのは、触手下肢の褐色爆乳人形だった。

「そう、動かないでね。動いたら、ウチこれバリーンってやるから」

 彼女の胸をひしゃげさせているのは、一抱えのつぼだった。

「ありったけの発情誘発剤……この場で割れて気化したらどうなるか、エロ脳のアンタらなら理解できるっしょ?」

「いや待て待て、ガラちゃんおまえ落ち着けよ。俺らがここで発情したとして、発散相手として真っ先にねらわれるのがだれなのかわかってるか?」

「逃げる手ぐらいは考えてるし」

「だとしても、その壺割ったとして気化した発情薬の真ん中にいるのおまえだぞ」

「残念、ウチは中和剤飲んじゃいましたー」

 触手の一本が空の小瓶を逆さに向けていた。本当に中和剤なのかはわからない。見てわかるのは、彼女の抱えている壺にデカデカと描かれているハートマークぐらいだ。

 一同は息をみ、ガラちゃんの動向をただ見守る。

 ピュグマリオだけは気楽に立ちあがってガラちゃんに駆け寄った。

「さっすが私の作った核は頭の回転が違いますね最高よくやったふたりで逃げ出してウルトラ儲かるサキュバス店を経営して発明費用をバンバン集めましょう!」

「いやいやいや……ぶっちゃけウチ、そういうのぜんぜん興味ないし」

 ガラちゃんはあっさりと言った。

「ウチはただ、ウチがなんなのかを知りたいだけだし」

 壺を抱えた腕がかすかに動く。

 宙を見据えた人形のひとみがかすかに潤んだ。

「ずっとぼんやりしてた意識が、この体に宿ったことで急に鮮明になって……ウチはようやくウチになった。でもこの体はお店の所有物で、取り戻そうとするひとがいて、そもそもコレって男のひとと、え、え、えっちなことするための体とか……ウチぜんぜんわかんない!」

 壺が真下にたたきつけられた。

 粉砕した壺からピンク色の煙が立ちのぼり、一同を包みこんだ。

 煙を突き破って飛び出すのは、触手に複数の模造翼を装着したガラちゃんだった。クリムが付けたものと同種の発明品だろう。

「ごめんピュグっち! この羽根もらってく!」

 模造翼で羽ばたき、地面すれすれを滑空するように推進する。足りない浮力は手と触手で地面を叩いて補い、馬に比肩する速度で街道を通り抜けていく。

 彼女を呼び止める者はだれもいない。

 口を開くわけにはいかないのだ。

 爆発的な勢いで周囲一帯を巻きこんだピンクの煙のなか、男たちはもがいていた。

(間に合わなかった……!)

 とっさに息を止めて駆けだしたが、想像以上に薬の気化と拡散が早すぎた。効果範囲から抜け出すこともかなわず、ついに発情薬を肺に入れてしまう。

 吹き抜けた風が煙を洗い流した。

 残されたのは火照りを抱いたオスたちだ。

「おッ、うおッ、ヤバいぞみんなッ、ぼつが半端ねぇ!」

「血が股間に持っていかれて魔力もうまく練れない……! こいつ、肺だけじゃなく皮膚からも入ってくるタイプだぞ……!」

「まずい、まずいよ……! 道ばたの石がまたを広げた女体に見えてきた……!」

「おひッ、んおッ、体のしんから熱いッ──わが信念がスケベ欲に冒されていく……!」

 オスたちは一様に周囲を目で探った。

 女はいないか。

 ちょうどいい穴はないか。

 きわめて即物的に快楽を求める獣の形相で、彼らはたしかに見つけた。

 目のまわりを黒いくまに覆われたがたのメスを。

「クヒヒヒヒやっぱり私には効きませんね普段から実験で気化した薬をいろいろと吸ってるから耐性がありますからね風の魔法でふわっと逃げちゃいますかね」

 ピュグマリオはごくごく冷静にじゆもんを唱えようとしていた。

 獣欲のとりことなった男たちが飛びかかるよりも、魔法が完成するほうが先だろう。なにせ男たちは張りつめた肉剣が服に引っかかり、まえかがみになって動きが阻害されている。

 ぶわお、と突風が巻き起こった。

 魔法、ではない。

 馬がピュグマリオに襲いかかったのだ。

「えッうおッちょちょちょちょっと待ッひゃおあッ服破かないでくださいクヒクヒヒあッ」

「ヒヒィイイイ───ン!」

 馬は長い脚でたくみにピュグマリオの体勢を崩し、服にみついて引きちぎる。その股ぐらにはご立派なものが隆起していた。

 ほかの四頭は雌雄二対でがむしゃらに交配中。

 スタンクたちの入る余地はどこにもない。

「見せつけやがって……! はやく女を見つけないと海綿体が大爆発を起こしちまう……!」

「いやいやいや助けてくれませんかねクヒヒ無理ぜったい入らない死ぬわこれマジ助けて」

「あ、あそこ……! 見てよ、建物があるよ……!」

 カンチャルが指差した草原の果てに、ぽつんと一軒家があった。

 あるいは、そこにいるのではないか。都合よく股を開いてくれる絶世の美女が。

 一同の行動には理性も道理もない。

 ただ希望を求めて、前屈みにちょこちょこ小走りに駆けだす。

 パンツの裏地で大切なものが擦れるたびにアハンオヒンとあえぎながら。

「うわうわうわ見捨てられちゃいましたねクヒヒヒヒもうこれ絶望ですねなにが悪かったかなぁ精いっぱいがんばって生きてきたんだけどなぁ人生むつかしいなぁオンッ」

 ピュグマリオの悲鳴はだれの耳にも届かなかった。


《ナマイキ赤ずきん》

 一軒家にはそんな看板がかかっていた。

 サキュバス店、の文字も刻まれている。希望はそこにあったのだ。

 なにもない草原に一軒だけのサキュバス店などあきらかに普通ではないのに。

 判断力をなくした四人は目を血走らせて入店した。

「一発ヤラせてくれ! 女ならだれでもなんでもいいから!」

 スタンクは店内の様子を確かめもせずに宣言した。普段ならありえない無謀さだが、いまはとにかく気がいている。股間を焦がす地獄の炎をすべて吐き出すための受け皿がほしい。

「へー、だれでもいいって言っちゃうんだぁ? おじさんカッコイー」

 語尾を含み笑いに震わせて、受付の女は言った。

 人間から見た印象で言えば、少女と呼ぶべききやしやで小柄な容姿である。カウンターに小さなおしりを乗せて、ひとを小馬鹿にした笑みを浮かべている。

 髪はミルクを糸にしたような白。

 かぶっているのは赤い帽子。身につけているのも赤いワンピース。

「レ、レッドキャップ……!」

 瞬間的にカンチャルが理性を取り戻した。額に汗して、目の前の少女にせんりつする。

「ぐ、くぅ、とんでもない店に入っちまった……!」

 ゼルもわずかな理性を振り絞り、自分のかつさを悔いていた。

 血染めのようせい、レッドキャップ。

 ハーフリングほどではないが短身のわいしよう種である。

 外見だけなられんと形容してもいいが、その実──性質は凶悪の一言。

 他者をいたぶり、あざけり、恐怖と屈辱のどん底で命を奪う。

 現代的な多種族共生社会に適合できたのはごく一部にすぎない。

 その適合もきわめて偏った形であるともっぱらの評判。

「なんでもいい! とにかくさっさとヤルぞ!」

 スタンクは理性の放つ危険信号をガン無視した。

「そうだな……! いまさら後に引けるか!」

「殺しあいならともかく性戯ならボクも負けてないはずだ……!」

「よくわからぬがこういった危険もまた──面白い」

 訪れた苦難にぜんと立ち向かう男、四人。

 赤帽子の少女はにんまりとあやしく笑う。

「おじさんたちかっこいーからぁ……うちの花形四人をあてがってあげるね」

 パチン、と指を弾けば、あちこちの物陰からレッドキャップが現れた。ひそかに背後に忍び寄って不意打ちするような習性でもあるのだろうか。

 ちようしよう的な目をした小娘たちはワンピースのすそをつまんでお辞儀をした。

「なかよくたのしく遊ぼうね……お・じ・さ・ん」


 小娘に手を引かれて入った部屋はごく普通のプレイルームだった。

 奥に浴槽と洗い場があり、手前にベッドがある。

 問答無用でベッドに押し倒したい気持ちは非常に強い──が。

(先に一発出さないと絶対にヤベェ)

 いきなり挿入したら加減できる気がしない。

 か細くも愛らしい肢体は抱きしめると折れてしまいそうだ。鎖骨にも届かない赤帽子を見下ろしていると、わずかな理性が首をもたげる。

 その一方で両手は勝手に動いていた。

 驚異的な速度で脱衣して裸体をさらす。ガチガチにきつりつした逸物も。

「キャハッ、いきなりガチ勃起とかおじさん超キモいんですけど」

 入室前にロゼと名乗ったレッドキャップが嘲笑する。

 背中で手を組み、上体を屈してスタンクの剛直に顔を近づけた。右へ左へ体を揺らせば、白いツインテールが振り子になる。

「うーわー、青筋立てて超ビクビクして、おじさん怒ってるの?」

「わかってるだろ、とにかく一発ヌイてくれ。手でも口でもいいから」

「ふーん、おじさんて礼節とか遠慮とか知らないひとなんだね。そーゆーひとにアタシが気前よくサービスしてあげる必要なくない?」

 ぐうの音も出ない正論だが、発情状態でまったうつぷんが「ぐう」と口から出る。

「それにおじさん汗くさいしさー。まずそこで体洗ってよ、もちろんひとりで。アタシはここで待ってるから。全身きれーきれーにしたら相手したげる」

 ロゼは素っ気なく言うとベッドにおうし、しっしっとスタンクを手で払った。いくらなんでもサービスが悪いと言ってもいいが、ある種の正論ではあるかもしれない。

 だが、スタンクは見逃さなかった。

 彼女の目が悪意たっぷりに細められていることを。

(ぜんぶわかっておちょくってやがる……!)

 ようやくたどりついた希望の地で、なぜこんな仕打ちを受けるのか。

 逆恨みじみた怒りが下腹でふつふつと沸きたつ。っているだけで海綿体が痛いほど張りつめ、先端から透明なせんえきがにじみ出てきた。

「なに突っ立ってこっち見てるの? もしかしておじさん、キレちゃった? でっかいずうたいしてるくせに、こんなちっちゃい女の子にマジギレしちゃうとかダサすぎない?」

「お、おまっ、俺はッ、ただ、ううぅ……!

 あおられれば煽られるほど憤怒が股を満たす。男性器という名の肉の剣を限界以上に張りつめさせていく。その様をロゼはちらりと見て、言った。

「……シてほしいの?」

「な、なにをだよ」

「そっちこそなにをしてほしいの? こーゆーの?」

 ロゼは人差し指と親指で輪を作り、空中で上下に揺らした。

「それとも、こーゆーの?」

 指の輪を口元で前後させ、舌をれろれろと動かす。

 それらの動作が秘めたわいさはそのまま挑発にもなる。煽って爆発させようという生意気なもくにスタンクはますますげきこうした。

「い、いい加減、客をおちょくるのはやめろ……!」

「違うでしょ? 素直に言ってみなさいよ、ぼくちんの雑魚ざこちんを気持ちよくしてくださいお願いしますーって。ひざまずいてみっともなく泣きながらさー。そーゆーの好きだからこのお店にきたんじゃないの?」

「そういうのは場合によってはたしかに好きだが……!」

 ギャザー専門店でソフトM感に酔いしれたのはつい最近のこと。

 だがM感を楽しめるのは余裕のあるときだけだ。

「とにかく、一発……追加料金も払う」

 ぎりぎりの譲歩をしてベッドの彼女に近寄る。

「ふーん、追加料金? そこまでしてプライド保って、実際やってることはイカせてイカせてっておねだりじゃん。雑魚くさっ、キャハハッ」

 ロゼは笑いながらも身を起こして肉剣を見あげた。

「まー、あんまりイジメてもカワイソーだし、雑魚おじさんにお情けあげるね」

 細い指先が赤黒い剣に寄せられていく。

 きたるべき快楽の瞬間にスタンクはなまつばを飲んだ。

「えいっ」

 ピンッと亀頭を弾かれた。痛みにも似た鋭い衝撃が凝り固まった剣身を駆け抜ける。

 とっさに歯を食いしばる余裕もない。

 限界まで張りつめていた獣欲が爆発した。

 びゅるるるるんッ、と太くて長い白汁が勢いよく飛んで、壁を打つ。

「おっ、うおおッ……! ちっくしょう、出ちまったぁ……!

 苦渋にまみれて、スタンクは特濃汁を何発も発射した。

 壁と肉剣をつなぐ液糸はだらりと垂れ下がり、あいだにいるロゼにへばりつく。赤帽子の少女はきょとんとしていた。あどけない表情に直接肉汁がたたきつけられることもあった。

 むごたらしい汚辱の光景は、しかしすぐにたんする。

「ぷっ……ぷふッ、あははッ、キャハハハハッ! おじさん、雑魚すぎ!」

 ロゼは腹を抱えて爆笑し、ベッド上の狭い空間で転げまわった。

 上から白濁液が降りかかると、ますますおかしげに笑う。

「指で、くふッ、指でピンッてしただけでびゅーびゅーって! どんだけイキたかったの? ねえねえおじさん、手コキもフェラもハメハメもなしでイッちゃうのってどんな気分? くっさい雑魚汁がんばってぶっかけて征服欲を振り絞って情けない自分をごまかしてますー的な? それとも威勢が良かったのはフリで、ホントはただのキモいドMおじさんなの? キャハハッ」

 レッドキャップの甲高い笑い声を恐怖とともに語り継ぐ土地もある。

 だがスタンクにとっては恐怖よりも怒りを呼ぶものだった。

 射精は間もなく終わったが、肉剣の硬度は憤激によって保たれている。

「このメスガキめ……! 大人をバカにしやがって……!」

 勢いで言ってしまったが、サキュバス店につとめている以上は相手も成人である。

 ロゼも他種に自分がどう見えるのか理解しているのだろう。わざわざ下唇に人差し指を当てておしゃまな子どもめいた雰囲気を醸し出す。

「ん~? おじさん、指ピンでイクイクびゅーびゅーしちゃって悔しいの?」

「悔しいもなにも、こんなもん前座だ。本番はとんでもないぞ」

「えー、こわーい。ちっちゃいロゼちゃんじゃすぐに負けちゃいそー」

 あごにぎこぶしをつけていやんいやんと身をよじった。びたぐさでありながら、歓心を買うどころか火に油を差すようなものだ。

「あんまり客をからかうもんじゃないぞ……!」

「あららー、怒ったのー? こわーい、ごめんなさーい」

 ニマニマと笑うロゼからは申し訳なさなど欠片かけらも感じられない。

(M向けにしたって、こういう態度はどうなんだよ……!)

 先のギャザー店でも軽くもてあそばれたが、レッドキャップは本質がまるで違う。

 相手を楽しませるためのSっ気サービスではない。

 完全に自分の娯楽として客をおちょくっている。

「ふあぁ、おじさん雑魚すぎて眠くなってきちゃった。アタシ昼寝するから、てきとーにハメてビュービューしちゃえば? みこすり半で一〇〇回イキそうだけど……ふあぁ」

 わざとらしいアクビを聞いた瞬間、ぷちん、とスタンクの頭でなにかがキレる。

「なめるなよ……大人はメスガキなんかに負けないんだからな」

「べつにガキではないけどねー、レッドキャップ的にはオトナの女の平均身長で標準体型だし。でもまー、これだけ体格差あって負けたら超絶ブザマだよね、おじさん?」

 ロゼはワンピースの裾をつまみあげ、スラリと細長い脚を大胆に広げて見せた。

 下着はない。陰毛の一本もない。

 きれいな一本スジが、くぱ、くぱ、と桃色の花を開帳する。清純さといんわいさをアピールする様相に、スタンクは理不尽なほどたかぶった。

(無性にムカつく……! ちっこいくせに男を誘うのが腹立って仕方ない!)

 発情が激情を生み、怒りが全身を操る。上からのしかかり、細脚のあいだに体を押しこんだ。ちびっこいひざぞうをわしづかみにして、またを閉じないよう力をこめる。

「へえ、いきなり入れちゃうの? いいのかなー、アタシのなかめっちゃくちゃキモチイーと思うけど、一秒で情けなくびゅーびゅーしちゃわない?」

「黙れオラッ!」

「んおッ」

 スタンクはれそぼった肉溝をいつせいに貫いた。

 熱くて狭い穴に根元まで包まれながら、切っ先で最奥を押しあげる。

 全身がこわばってビクビクと跳ねるロゼを見下ろし、「勝った」という実感に震えた。

 やっぱり俺の剣は最強だ!

 と、悦に入っていられたのは、つかのこと。

「キャハッ、雑魚ちんのわりには食べごこ悪くないじゃん」

 ロゼの顔にはいまも嘲りの笑みが浮かんでいる。軽く息を整えると全身のこわばりも和らぎ、悠然と細腰が動きだした。

「ほらほら、どーしたのかなー? アタシばっか動いてるけど、おじさんはどうして動かないのかなー? 動けないぐらい気持ちいーのかなー?」

「ふぐッ、ううぅ、おのれ……!」

 彼女の腰遣いはあくまでゆったりしたねんてんにすぎない。それでもスタンクが反撃できないのは、秘処の具合がすさまじく良いからだ。

 見た目から狭苦しいのを想定していたが、実際には適度にゆるい。キツければ良いというものではないのだ。全体は柔らかい肉質でモチモチと張りつき、豊富な分泌液で潤滑を保つ。

 強烈なのは、入り口と七分目ほどのすぼまりだった。

 脈打つたびに肉剣を吸搾するばかりか、コリコリした豆ひだを押しつけてくる。

みつかれて……いや、食われてる!)

 ロゼの緩慢な腰遣いは、下の口の威力をじっくりと思い知らせるためのものだろう。

「んっ、あッ、キャハッ、おじさんのさっそくビクビクッてしてきた……! ヤダー、みっともなくてカワイー! ほらイッちゃえ、イッちゃえ、クソ雑魚ざこおじさんッ!」

 あくを放つだけでなく、反応を見ながら腰遣いを激しくしていく。男をむさぼり屈服させるべく鍛えあげられた技巧は着実にスタンクを追いつめていた。

「うッ、くはッ、やるなッ……!

 即イキしたい気持ちはある。そもそも手早く性欲を解消するべく入った店だ。

 べつに負けてもいい戦いだ。

 あきらめてしまって、なんの問題がある?

「いま、もう負けちゃっていいかもって思ったでしょ?」

「バ、バカ言うな! 何度も言うがメスガキなんかに負けるかよ!」

 厳密にはガキではない。わかっている。ただ、薬の作用もあって、ちようろうの目つきを受けると頭に血がのぼってしまうのだ。

 負けたくない。

 どんな状況だろうと、ほかになんの目的があろうと、ここで負けたら男が廃る。

「でもでもー、おじさんさっきから腰ビクビクさせるだけで振ってないしー。そんなんじゃロゼちゃんも気持ちよくないしー。雑魚すぎっていうかさー、口ほどにもないっていうかー」

 ロゼの脚がスタンクの腰に絡みついた。思いきり体をねじってくる。

 肉剣の快感に気を取られていたスタンクは、なすがままベッドに引き倒された。たくみな重心移動であれよあれよという間に位置が逆転し、騎乗位の体勢となる。

「いるんだよねー、おじさんみたいな竿さお自慢の雑魚」

 上から見下ろし、彼女はつややかに笑った。

「俺セックスうまいぜー、女みんなアヘアヘだぜー、みたいに調子こいてさー。本当は大してうまくも強くもないくせにさー。そーゆーかわいらしーおじさんを組み敷いて泣くまで搾り取るの、アタシたちレッドキャップはだーい好きなの!」

「おほッ、ぐぉおおッ……!

 ぐっちゅ、ぐっちゅ、と露骨な粘着音がプレイルームに響き渡る。

 スタンクの腰が引きずられるような円運動だった。正常位のときよりもあきらかに躍動的で、なおかつ精密に男根を責めてくる。

 もう逃がさない、一方的にいたぶり貪ってやる──そんなレッドキャップの凶暴性が、騎乗位であれば存分に発揮できる。

 スタンクは相手の手の内に落ちてしまったのだ。

「あふっ、やべっ、くッ、おうッ……!

 膨張感としやくねつ感が肉剣にち満ちて、煮えたぎったものが尿道を駆けのぼる。みとともに鈴口を締めつけて発射を止めているが、限界は時間の問題だろう。

(俺はッ……俺はこんな客をナメきったサキュ嬢に負けてしまうのか……!)

 妙な薬の影響があるとはいえ、あまりにも情けない。

 死んでしまいたくなるような惨めさの底へとちていく。

 かんの終末が訪れようとしていた。

「なんかなー……おじさんほんと口ほどにもないっていうか、期待外れっていうか。よっぽど経験がすくないのか、ろくな女とえっちしてこなかったのか」

 大げさなため息が落ちてきた瞬間、スタンクの全身が自発的に忍耐力を振り絞った。

 譲れないものがそこにあった。

「いくらなんでも言いすぎだろ……! 俺がこれまでヤッてきたサキュ嬢はみんな……いやハズレもいたけど、八割……いや六割……まあ五割は最高の女だった! 最高とは言わずともベターな嬢も大量にいた! おまえみたいなナマイキ女よりずっと客のことをおもってサービスしてくれる嬢ばかりだった! いやマジどうしようもないハズレもいたけど!」

「あっそ。じゃ、おじさんが生粋の雑魚ってこと?」

「まだだ、まだまだ俺は本気を出してない……!」

「へー、じゃあこういうのはどう?」

 ロゼは腰を浮かせ、亀頭だけをくわえこんだまま小刻みに震動する。ひときわ過敏な粘膜部を集中的にねらって完全にトドメを刺すつもりだろう。

「ああッ、んぉおッ……!

 竿先に過剰供給された快感が振り絞った忍耐にヒビを入れていく。

 それでも、なんとしても、とスタンクは歯を食いしばった。

 耐える男の懸命な顔を、凶悪な小ようせいはキャハキャハとあざ笑っている。

「あーあー、必死すぎてウケるー。えらそーなこと言った手前、負けたら超絶みっともないもんね。でも残念、おじさんの雑魚ちんはもー限界でーす」

 身をかがめたロゼが、ピンッ、と竿肉の根元を指で弾いた。

「がッ……!

「おーおー、顔にして耐えてるね、えらいえらーい」

 さらに何度も弾く。それはすでに快感でなく、痛みと衝撃で鈴口を緩める手口だ。

 どこまでも惨めったらしくイカせるつもりらしい。

「ま、ムダだけどね。思い知らせてあげるから覚悟してよ……こんな雑魚ちん生えてるだけムダですゴメンナサイって言わせてあげるから」

 薄赤い唇がとびきりみだらに弧を描いた。捕食者の笑みだった。

 だが、そのせつ

「──なめるなあッ!」

 こんしんの突き上げが捕食者の子宮を突きつぶした。

「おッ……!

 あどけなくもようえんな笑みが崩れ、悪戯いたずらな光を宿していた目が丸くなる。

 すかさずスタンクは細っこい両手を捕らえ、引き寄せざま滅多突きにした。

 ばちゅばちゅ、ごちゅごちゅ、と胎内をえぐり返す。

「おッ、おんッ、ぉおッ……! や、やるじゃん、おじさっ、んおッ」

「なめるな……! 俺のスーパー・デラックス・スタンクソードをなめるなぁーッ!

 攻勢に転じることができたのは、そこに彼がいたからだ。

 人生という旅のともがら。一度は本物の剣となって窮地を救ってくれた唯一無二の相棒。

 ──ワンダフルMA~ッX!

 たのもしいたけびを心に聞けば、射精寸前の忍耐も苦ではない。

「どうだッ、俺の逸物は強いだろう! 雑魚なんかじゃない、最高の男の剣だ!」

「は、はあ? この程度で調子に乗らないでほしいんですけどッ」

「必殺乱れ六段きッ!」

「んおッ、おぉおッ……! た、たいしたことないしぃ……!

 強がってはいるが、ロゼの笑みはひどく不格好にゆがんでいた。抑えきれない感悦が獣じみたうなり声となって漏れ出す。

 それはいまさっき突かれて突然感じたというものではない。

(こいつもちゃんと感じてたんだ……! 攻めに夢中だったから意識しなかっただけで!)

 スタンクにしてもおなじことだ。がむしゃらに攻めているうちはいいが、一瞬でも腰を止めればばくだいな快楽がせきを切るだろう。そうなれば完全敗北である。

 動きつづけながら、ふたたび彼女を組み敷いた。

 動きやすい正常位でたたき潰すようにまた穿うがちまくる。

 どちゅんッ、どちゅんッ、どちゅんッ!

 どちゅどちゅどちゅッ!

 ただ突くのでなく、強さとテンポを変化させて反応を見る。

「おへっ、ぉおおッ、おんッ、おンッ、おんおんッ……お、おぉ? おッ、ぉおおおッ!」

「ずいぶんとみっともない顔でアヘってるじゃないか」

「こ、これは、んおッ、ぉおおッ、ちょっと、気分転換、っていうか……!」

「ここらへんこんな感じで突いたら効くんだろ?」

「おひッ! んぉおッ、おうッ! ぉおぉおッ、おおんッ!」

 ロゼの顔にはもう笑みはない。大口を開けて愉悦にえるばかりだ。

 弱点はおおよそ把握できた。

 百戦錬磨のスーパー・デラックス・スタンクソードにしてみればお手のものである。

「こういう角度で……この突きでどうだッ!」

 ばちゅんっ、と致命の一撃を叩きこんでやった。

「おンンッ!」

 少女の肢体が彫像のように固まった。筋肉がけいれんし、小穴が肉剣を猛然とみこむ。

 生意気な赤ずきんは絶頂に達したのだ。

(勝ったぞ、みんな……! スーパー・デラックス・スタンクソード!)

 胸いっぱいの勝利感に血が騒ぐ。たまらなく気分がいい。

 おかげで、ますます盛んに腰が動いた。

「ひおッ、おおッ、ちょっ、アタシまだイッて、おんッ、イッへ、ぇおおぉおッ」

「負けましたって言えよ。でないと止めてやらない」

「は、はあ? だれがアンタみたいな、あおッ、クソ雑魚ざこおじさッ、ぉおんッ、負けてッ、ないもんッ……! 調子乗んな、バカぁ……!

「あっそ、それでは極太ねじこみ腰振り地獄入りまーす」

「ぉおおッ、やっ、あぁあああッ……! いグッ、イクの止まらなひッ、ぃいいッ……!

 スタンクとて余裕があるわけではない。発情薬の影響もあって通常よりはるかにイキやすい状態だ。それでも快楽の限界に挑戦する価値はあった。

 痙攣が止まらない肉穴を好きほうだい掘り起こしていると、勝利感がこうじて止まらない。

 イキっぱなしで歪むロゼの童顔を見下ろしていると、ひどく愉快な気分になれる。

 彼女の表情が崩れ、よだれがこぼれ、涙まで滴ると、

「ざまあみろ」と、心の底から思ってしまう。

 さんざん小馬鹿にされた反動がスタンクをドSにしていた。

「まだ言わないのかなー、お嬢ちゃん? 言ってごらんよ、ほら……私の負けですー、雑魚でごめんなさいー、もう二度とお客さんをバカにしませんー。さん、はい」

 復唱を強いながら、彼女の口に指を突っこんで言葉を遮る。

 そう簡単に許してやるつもりはなかった──のだが。

 ちゅば、と指にしゃぶりつかれて、わずかながら正気が戻ってきた。

「おちゅ、ちゅっ、ちゅばっ、ちゅっちゅっ、んぅう……」

 ワインのように赤い目が揺れている。焦点が合っておらず、先ほどまでの凶気も浮かんでいない。ただただ快楽にめいていしているように見えた。

 指を口から抜いてみると、舌が名残なごり惜しげに伸びてくる。

 やがて彼女は舌を口内に引っこめ、舌っ足らずに声をあげた。

「おじさまぁ……おっ、おんッ、ゆるしてぇ……!

 スタンクの顔をいとしげに両手ででまわし、身を起こして顔を寄せてくる。

「ちゅっ……

 軽くキスされてしまった。

 顔が離れる。

 そこに潤んだ目と紅潮したほおがあった。恋する乙女といった風情だ。

「……反省したのか?」

 スタンクはすこし腰遣いをゆるめて問う。

「はい……あんっ、ぉおッ、おじさまがこんなにスゴいひとだなんて思わなかったの……」

「負けを認めるってことか?」

「はい……ロゼはおじさまの極太こらしめ棒に惨敗しちゃいました……クソ雑魚レッドキャップなのにたて突いてごめんなさい……嫌いにならないで、おじさま」

 謝りながら、何度もスタンクの顔にキスをする。

 レッドキャップにはあまり知られていない生態がある。

 彼女らはその凶暴性から敵を作りやすく、だからこそ仲間内の結束は固い。とくにつがいのきずなは強く、交尾中は別人のように甘ったるい性格になるという。

 他種族との性交では凶暴性が出やすいが、絶頂を重ねることで本能的な判断力が低下する。

 要するに、イキまくれば相手を同種のオスと脳が誤認してしまうのだ。

 ……というのは一説であり、ほかにも様々な考察がある。

 戦闘力が低下する妊娠中の生存率をあげるべく他種にびる本能だとか、血のかわりに先走り汁で酩酊しているとか、単に根がドスケベなだけだとか。

(よくわからんけど、このギャップはかなりクるな!)

 心の底まで屈服させたという実感にスタンクは打ち震えた。

「ぁおっ、ぉおんッ、おじさま、おじさまぁ……!

 しおらしい態度をしていればロゼはかなりの美少女である。線が細い体つきは色気よりもれんさが先立つが、喜悦によじれる様はとびきりいやらしい。

 壊れるほど乱暴にしたい。

 きめ細かな肌を汚してやりたい。

 限界を越えて蓄積してきた快感がバチバチっと下腹で紫電を飛ばす。

「おっと、そろそろ限界だな……! 雑魚穴めちゃくちゃにしてコキ捨てるぞ!」

「ああ、うれしいです……! おじさま、悪いロゼにたくさんお仕置きして……! 力いっぱい組み伏せて、乱暴に突いて、おじさまだけのアヘ肉チビ便器にしてぇ!」

 おまえだれだよ。一瞬のツッコミ欲は忘れることにした。

 スタンクは手加減せず、上から押し潰すように暴力的な抽送に徹した。ロゼがそれをとして受け入れていることは、しがみついてくる手足が証明している。

 トドメの時間だ。

「よーしよしよし! イクぞイクぞ、俺の大勝利だぁー!」

「あおッ、おおッ、ぉおんッ! おじさま、おじさまおじさまッ、ぉおおんッ!」

 全体重を乗せて、ばちゅんッと一発。

 ずっと締めつけてきた鈴口を景気よく解放した。

 全身が引き裂かれそうなほどの至福感が噴き出す。飛び出す。小さな子袋を一瞬で埋めつくし、結合部からぶびゅぶびゅとあふれ出した。

「思い知ったかッ……! これが俺の、俺とスーパー・デラックス・スタンクソードの愛と絆と怒りと性欲の力だッ……!

「ぉおおッ、思い知りましたぁ……! つよいっ、すごいっ、おじさま最強ぉッ……! あぉおッ、ぉおんッ、ロゼの子宮惨敗で妊娠しちゃいそうだよぉ……!

 ちゅっちゅとキスして、ぎゅっぎゅっとしがみつくきやしやな少女。

 彼女のひようへんに敬意を表して、スタンクは射精も終わらぬうちに再起動する。

 勝った。くり返し敗北をくれてやった。

 制限時間がくるまで、一度も負けることなく連勝しまくった。

 薬も抜けて賢者モードになるころには、ロゼが土下座で足をなめていた。

「いや、お嬢さん。そこまでされても困るっていうか」

「えぇ、だってぇ、アタシもうおじさまの便器だしぃ……一生ついてくしぃ……」

「どうせ間を置いたら素に戻るんだろ」

「それはそうだけどー、いまはそーゆー気分なのー。ねえ、また来てくれる? またロゼをみじめったらしい負け犬にしてくれる?」

「うんまあ機会があれば」

「やだ……素っ気ないところもかっこいい……好き……」

 ここまでちると逆に怖かった。





 二頭の馬が街道を駆けていく。

 またがるのはスタンクとゼルのふたり。

 ともにすがすがしい顔をしていた。

 おのれの力を出しきって勝利をつかみ、すでに大団円の心持ちである。

 心残りがあるとすれば、仲間をひとり失ったことか。

「ヴィルチャナは惜しいことをしたな……」

 スタンクは振り向いた。

 視線を送る草原の果てにサキュバス店はもう見えない。

 彼はいまもそこで孤独に戦っている。負けつづけて金を搾り取られていることだろう。

「アイツはもうアシュラの剣士ヴィルチャナじゃない……イクイクおじさんだ」

「違うぞゼル、イクイク豚おじさんブルーだ」

 店のフロントで合流したとき、八つんいの彼がブヒブヒ言い出したときはせんりつが走った。

 言葉も使えない豚のかわりにレッドキャップ嬢が代弁した。

「豚おじさんはうちでもっと遊んでくから、お仲間さんはお先にお帰りください」

「ブヒブヒ」

 屈辱のどん底で、イクイク豚おじさんブルーはちょっと嬉しそうだった。

「まあ童貞喪失があの店じゃおかしくもなるわな」

「ローションもギャザーも挿入なしだったみたいだしな……」

 二人は前方を見据えた。

 勝利者から敗北者にかける言葉などありはしない。ただ勝利の先の希望を求めるのみ。

 ちなみにピュグマリオはカンチャルが連行していった。馬のお相手でヘロヘロになっていたので大した苦労はなかった。それでも口だけは小うるさく回転して一同を感心させたのだが。

「カンチャルのやつ、メイドリーが怖いから体よく逃げただけだと思うんだが」

「ありえる……いまからだと追いつけるかギリギリだし」

 状況を考えるとこうよう感も薄れていく。

 ガラちゃんとメイドリーのご対面が近づいている。破壊神メイドリー誕生を防ぐためには、両者を会わせるわけにはいかない。でなければ鮮血の結末が訪れるだろう。

 ふたりはなけなしの勇気を振り絞って前進する。

 前方には地獄めいた暗雲が立ちこめていた。