「俺は死ぬかもしれない」

 ナルガミはテーブルに絶望を吐き出した。

 吐いた分を取り戻すように殻付きの鶏卵を口に含み、えんする。

 ぺきょ、とのどで砕く。

 白身と黄身の喉ごしを味わってひとごこついたらしく、大きく息を吐いた。その下半身は食酒亭の床にとぐろを巻いている。

 上半身が人間で下半身が蛇の種族、ラミア。彼らの食事はヘビ同様、基本的にまるみである。ナルガミ自身はがただが、事によっては子豚ぐらいは楽に呑みこめるという。がくかんせつの構造が人間やエルフと違って口が何倍も大きく開くし、食道もきわめて柔軟なのだ。

 鶏卵、追加でまたひとつ嚥下。

「うえぇ」

 おぞましげに声を漏らすのはメイドリー。卵生の有翼人にとって、卵を丸呑みするヘビ男は生理的に耐えがたいらしい。食酒亭の暴力給仕にも弱点はあるのだ。

 とはいえ、今回ばかりは彼女以上にナルガミ本人が参っている。

「なにがあったんだよ」

 スタンクは目玉焼きをすすり取るように食らう。もちろん飲みこむのはしやくのあとだ。

「実はラミアのお仲間から依頼を受けたんだ……」

「その依頼ってのはどっちだ? 冒険者のほうか、レビュアーのほうか」

「レビュアーだ。金を出すから気になる店をレビューしてくれって」

 スタンクたちは異種族レビュアーとして着実に知名度をあげている。

 サキュバス店巡りのプロフェッショナル。好色三昧の酔狂人。自分の性癖を芸にして小銭を稼ぐド変態。女の敵。酒場でそういう話やめろ死ね。などなど。

「あの店がアタリかハズレか確かめてくれ」という依頼は珍しくない。

 もちろんタダでは滅多に引き受けない。最低でも店の料金分は支払ってもらう。レビュアー自身が気になって仕方ない店なら話は別だが。

「で、どういう店なんだ?」

「それが……もうきん系有翼人の専門店で」

「あー、ヘビにとっちゃ猛禽類は天敵ってやつか」

 一口に有翼人と言っても種類がある。通常の有翼人がラミアの食性に生理的嫌悪を催す一方、猛禽系はひと味違う。きようじんな翼で鋭く滑空し、凶悪なかぎづめでヘビを捕まえ、事もなく食い殺す──そんなワシやフクロウの特性を持つ者たちは、ラミアにとって脅威のハンターなのだ。

「ぶっちゃけ天敵ってどういう感じなんだ? 俺、あんまりそういう意識ないんだけど」

「人間だってゴキブリ見たらヒッてなるだろ」

「あれは天敵というか不快な害虫だが……」

 試しに想像してみた。

 あの黒くてすばしっこい虫とヤることになったら。

 ぞぞぞ、と全身に鳥肌が立った。

「……ないわ。絶対ありえんわ。どういう趣味だよ、おまえのラミア仲間」

「ドM」

「ああ……まあそうか。そうだよな。そりゃそうだわ」

 スタンクもソフトMならたしなんでいるが、ハードコアなMは完全にらちがいだ。かと言ってそういった者を否定する気もない。むしろどういう気分なのか興味がある。

 ふむ、としかつめらしくうなずくのは、エルフのゼル。

あらがいようのない自然の法則に抗うのがドMってわけだな。それともアレか、生命の危機に際して本能が子孫を残そうとちんちんをいきり立たせる的なアレか」

「うーん、でもさ、ドMなら自分でいきなり地獄に突撃しそうなもんじゃない?」

 腕組みで首をかしげるのは、ハーフリングのカンチャル。

「ナルガミに偵察なんて頼む必要あるかなぁ」

「いや、ガチのMは好みにうるさいぞ」

 と、スタンク。

「女王様に事細かに演技指導して、ヌルいとキレる面倒くせぇ客もいるって話だし」

「スタンク、正解……想定よりハードな分にはいいけど、ソフトだと暴れだすようなヤツなんだ。手本を見せてやるって嬢を締めつけて出禁になったりしてた」

「友だちやめたほうがよくないか?」

「子どものころはいいヤツだったんだよ……した鳥のひなを食べもせずに世話してやるような慈愛に満ちた男だったのに……なんでこんな方向の異種愛に目覚めちまったんだ……!」

 ダンッ、とナルガミはテーブルに手をいた。深く深く頭を下げる。

「頼む、一緒にきてくれ! 俺個人への依頼だから必要経費も一人分しか出ないけど、みんなの料金は半分ずつ俺が出すから! ひとりだと正直めちゃくちゃこえぇ!」

「それはべつに構わんけど。猛禽ははじめてだし興味がある」

「じゃあ俺もいくか」

 スタンクとゼルは軽い気持ちで請け負った。

「ボクはパス。夕方から仕事があるから」

 カンチャルはグビッとエールを飲みほす。真っ昼間である。

 ナルガミはさらなる仲間を求めて周囲を見渡した。

 だって怖いから。男だって寂しいと泣いちゃうから。

 目に入ったのは、ふよふよ浮かぶ光の翼。

「クリム、おまえもどうだ! どうですか! 天使の慈悲を哀れなラミアにさないか!」

「ボクまだ仕事中なんですけど……」

「猛禽類はいいぞ! ええと、その、アレっすよ。たくましい鉤爪で体を捕まえて、大きな翼で羽ばたいて素敵な空中旅行……うぅ、寒気がしてきた」

「無理して苦手なものの魅力を発掘しなくてもいいですよ……」

 クリムは気の毒そうにりゆうをひそめる。

「猛禽の翼と脚の強さなら、結合しながらの空中旅行はたしかに不可能じゃないかもな」

「マジかよゼル。空から愛の種がまき散らされちまうぞ。きたねえ雨だなオイ」

「スタンクさんの発想と言い方が一番きたないとボクは思いますけど」

 冷ややかにツッコミを入れながら、クリムはすっと目をらした。

「空を飛びながら……しちゃうんですか……」

「よし、興味があるんだな!」

「あ、いや、ナルガミさん、そういうわけじゃなくて!」

「さあいこう、四人でいこう! 俺たち仲良しだよな! 頼むよ、なあ……!」

「半泣きで尻尾しつぽまきつけないでくださいよ! わりと本気で怖いんですけどこれ! メ、メイドリーさんからもなにか言ってください!」

「そいつうるさいから外に連れてって。今日はお客さんすくないから私ひとりで平気だし」

「メイドリーさーん!」

 クリムは引きずられていった。

「よし、俺らも空の上から愛を散布しにいくぞ!」

「でもそこらへん法的にどうなんだろうな。土地によっちゃ野外プレイは取り締まりが厳しいし。いや、でも高度が一定以上ならいけるか……?」

 スタンクとゼルも飲食代をテーブルに放り投げると、すぐに後を追った。


 拠点としている異種混街からのんびり歩いて二日。

 山に入り、うつそうとした木々の合間に獣道を見つけて半日。

 八合目ほどで深い緑の合間に建築物が見えた。

 民家と酒場、雑貨屋、また民家、民家、そして一番奥に色気のある装飾の看板。

《いい女ほどたくさん飛ぶ──ミネルヴァ》

 目的のサキュバス店を見つけ、一行はあんの息をいた。

「ずいぶんと面倒な場所に店を構えてるんだな」

「有翼人の客が多いんじゃないか?」

「あ、たしかに空から来れば楽々ですね」

 獣道を踏破してもなお一同の体力は充分に残っていた。スタンクは冒険者として旅慣れているし、エルフはそもそも森や山に住まう種族だ。天使にいたっては基本的に浮遊している。

 ラミアのナルガミも蛇の尾で器用に蛇行してきたのだが──

「ふぅー、しゅー、しゅるー」

 息が乱れて、先の割れた舌が何度も口を出入りする。

「いけるぞ俺……ナルガミはデキる男の子です、やったれナルガミ、GO!」

「そうだな、ナルガミはデキる男だ。いくぞ」

「え、待ってスタンク。いきなり? あそこの酒場で一服してからにしないか?」

「がんばれ男の子、猛禽娘におまえのかんのスネイクをぶつけてやれ」

「俺の股間のスネイクはミミズよりも縮こまってる……」

 ナルガミの顔色は死体じみていた。もともと血色のよくない種族とはいえ、普段の五割増しで青白い。ビクビク震える尻尾はまるでイキっぱなしの男根だ。

「いくら天敵ったって、まえに猛禽の連中とすれ違ったときは平然としてなかったか?」

「すれ違うのと懐に飛びこむのは全然違うだろ……たとえばだな、例の黒い虫が」

「そのたとえ話はよせ。店に入るまえに元気棒がえる」

 ナルガミは全身を石のように硬くしている。

 もはや進むことはかなわないと思われた。

 それでも彼は男である。股間に剣を携えている。付け加えるなら、ヘビの剣はふたまただ。

「……行くしかない、よな」

 震えながらも男が、いく。

 二股剣のヘビ男、ナルガミ。イクために行く。

 天敵猛禽なにするものぞとまっすぐ、いやジグザグに蛇行するのだが、それは下肢がヘビなので致し方ないものとして。

「わかってたぜ、ナルガミ……おまえも俺もそういう生き物だ」

「ヤるかられるかだ。男を見せてやれ、ナルガミ」

「スタンクさん、ゼルさん、半笑いで面白半分にしか見えないんですけど」

「男のイキざまを笑顔で見送らなくてどうするんだ。おまえにサキュバス店を教えてやったときも俺たちはさわやかな笑顔だっただろう」

「ニヤニヤしてるだけじゃないですか……」

 スタンクの下卑た笑みは、しかし。

 店のまえで抜き身の剣を突き出されて消え去る。

 そうめん六手の男が立ちふさがり、秀麗な顔でスタンクを見つめていた。

「剣士スタンク──尋常に果たし合いを」

 アシュラの剣士ヴィルチャナは神妙に挑戦してきた。

 スタンクはおくすることなく視線を返す。

「……ヤだ。俺はこれからサキュバス店に入る」

「なぜだ? なぜ剣を抜かない」

「これからヌく剣はそっちじゃないんだ」

「ほう、隠し剣の存在をあえて明かすか──面白い」

「違う、そうじゃない。つーか何度目だよおまえ。もう十回は断ってるぞ」

「剣を握ったその日から天下無双を目指さぬ日はない……男ならだれしもそうだろう」

 青肌男はあきらめない。たくみな足運びでスタンクの正面をふさぎつづける。

「俺は握るより握られるほうが好きなんだ」

「受けの剣技、後の先か? なるほど──面白い」

「攻めも好きだぞ。やっぱりガンガンいてヒィヒィ言わせると男みように尽きるし」

「攻防自在、そして突き技によるじゆうりん──面白い」

「おまえとりあえず──面白い、って言っときゃいいと思ってないか?」

 ちょっと間をめるのがうっとうしかった。

「あの、スタンクさん、ボクたち先に入ってますから」

 ほか三名はヴィルチャナの横を素通りして店の入り口に差しかかっていた。

「ちょ、待てよ。さきに良い感じの嬢選ぶのはずるいぞ」

「スタンク、おまえには運命で結ばれた好敵手ライバルがいるじゃないか」

「そういうの求めてねえよゼル! おまえの魔法でこいつ眠らせてくれ!」

「アシュラは魔法抵抗力も高いって言うからなぁ」

「左様──我はようじゆつを扱う手管こそ劣等だが、耐える力は鍛えている」

「オイこいつ、左様──とか言い出したぞ」

 うまく言い表せないが、スタンクはどうしようもなく違和感を覚えていた。

(こいつ、出てくる世界間違えてない?)

 そんな疑問を裏付けるがごとく、ヴィルチャナは三本の剣を構えた。

 正面の両手で反りの浅い流麗な太刀たちを。

 右の残り二手で抜くのは、長さは控えめだがなたのように厚みのある蛮刀。

 左の残り二手で深く深く満月のように反り返った曲刀。

「もはや言葉はいらぬ──剣で語りあおう」

 言葉に熱はない。澄んだひとみに殺意はない。

 ただ純粋に剣技で高みを目指すだけの、ストイックすぎて無邪気なほどの男だった。

 ピュンッ!

 太刀の切っ先が風を裂いて突き出された。

 追って蛮刀と曲刀が別々の速度で弧を描く。

 三本すべてが本気の斬りこみであり、だからこそすべてがフェイントになりうる。ひとつをければほかを避けられない、殺傷理論の体現めいた太刀筋。

「うおッ怖っ」

 スタンクはひざの力を抜きざまのけ反り、つま先だけで地をり後転、回避する。

 ひとつかみの土をヴィルチャナの顔に投げつけてけんせいし、立ちあがって間合いを取る。

 ヴィルチャナは笑いもせずに、深く満足げな声を吐く。

「見事──やはり我が目に狂いはなかった」

「男ばっか見てないで視野は広くしたほうがいいぞ」

「なに──?」

 がしり、とヴィルチャナの首と腰が鋭いかぎづめにつかまれた。

 憲兵服のわし系有翼人が羽ばたいてホバリングしながら、ヴィルチャナを確保している。彼が剣を振るうと同時に、上空から猛スピードで降下してきたのだ。

「街中で凶器を振るわないでください。連行します」

「男同士の決闘に水を差すか──」

「街中でのにんじよう、および営業妨害で罰金を科します。公務執行妨害も上乗せしますか?」

「──持ち合わせはない」

「では簡単な強制労働をしてもらいます」

「剣以外のものを握るのは苦手なのだが──」

「作業が遅れた分だけ拘束時間が延長されます」

 しばしヴィルチャナは沈黙した。

「──スタンクよ、勝負は次のときまでお預けだ」

 憲兵に斬りかかるほどのイカレポンチではないらしい。

 飛び去っていくもうきん憲兵と蒼面男にスタンクは小さく手を振った。

「二度とくんなよー」

「猛禽のああいう鉤爪の使い方がゾワッとするんだよなぁ……」

 男たちは震えるラミアの背をたたき、猛禽専門店ミネルヴァに入店した。


 猛禽種は目に特徴がある。

 鷲系の者は概して鋭くにらみつけるような目つきが多い。攻撃的で残酷な印象。

 フクロウ系は丸く大きな目が多い。無機質なほどに丸く、思考がどうにも読めない。

 そのどちらもが、ナルガミの神経を刻々とすり減らしていく。嬢たちはガラスで仕切られた待機室から視線をくれていた。

「獲物を食い殺す目だ……はは、上等だ、俺はやるぞ絶対やるぞやりまくるぞ」

「お、落ち着いてください、ナルガミさん。お客さんを意識するのはどんな商売でもおなじですから、そんな凶悪な目じゃありませんから。ね、ゼルさん?」

「言葉のフォローなんてムダだろ。本能的な恐怖は理屈で抑えられるもんじゃない。メイドリーだって言ってたぞ、有翼人の無精卵を食べたがるラミアは理屈抜きでマジ無理って」

「こんなときにちょっと凹むこと言わないでくれゼル」

 強がりながらも尻尾の先まで震えるナルガミに、嬢たちの目はますます集中する。

 もしかして心配してくれてるのでは?

 スタンクはその疑問をあえて口にしない。いま彼に必要なのは慰めよりも男の尊厳だ。

「いいかナルガミ、俺たちの逸物はなんだ? 男の武器だ。剣だ。しかもおまえ、二股ダブルソードだろ? つまり俺やゼルの倍は強い」

「俺は強い……? 倍強い……?」

「そうですよナルガミさん! いやー、二股なんてうらやましいなあ!」

「励ましたいのはわかるが馬鹿にしてるみたいだぞ女殺しビックリ・ビッグ・ソード」

「クリムのサイズで二股だとマジで女が死ぬな」

 スタンクとゼルは白い目でクリムを見やる。

「う、生まれつきこうだから仕方ないじゃないですかあ!」

 愛らしい顔をにして、怒鳴っても声が可愛かわいい天使の美少年。でも股間は猛禽なにするものぞの破壊的極悪魔剣である。

 はは、とナルガミが小さく笑った。すこしだけ肩の力が抜ける。

「そうだな……クリムのアナコンダなら猛禽も軽く返り討ちだろうな。だが俺だって男だ。いや、この依頼をやりとげて本当の男になるんだ!」

 ラミアの青年は決意するなりガラス越しの嬢を指差した。

「そこの一番デカいワシのお姉さん、お願いします!」

「ためらいなく死地に踏みこんだぞこいつ」

「もう勢いしかないなこいつ」

「ナルガミさん……生きて戻ってください……」

 ヘビの尾が一足先にプレイルームへと消えていく。

「次は俺たちの番だな」

 スタンクたちも次々に嬢を選んだ。この瞬間もサキュバス店のだいだ。

 アタリもハズレも自分で選んで自分に返ってくる。それは男として貴重な経験だとスタンクは考えていた。ただの遊びに本気で挑む意義がそこにはある。

「じゃ、俺はそっちのハクトウワシのお姉さんにお願いしよう」

 二番手はゼル。次いでクリム。

「ボクは……そっちの大きなひとで」

 そしてしんがり、スタンク。

 残り物には福があるというわけでもないが、すこし気になる嬢がいた。

「そこのミミズクのお姉さん、まえに会ったことない?」

 古典的なナンパの手法、ではない。本当に見覚えがあるのだ。

 これでもかというほど丸く開いた大きな目、耳のように跳ねた羽角、二の腕から伸びゆく翼、たくましい鉤爪──というと、ミミズク系有翼人の大半に当てはまるのかもしれないが。

………………?

 ガラス越しの視線に気づいたのか彼女は首をかしげた。

 かしぐどころか、ぐるりとまわる。

 頭とあごの位置が逆転し、スタンクは思わず「うお」と声をあげてしまった。

 フクロウの首関節は可動域がおそろしく広い。まえにもギョッとした覚えがある。

「まあいいや。あの子で頼む」

 受付に声をかけて、ミミズク嬢を呼んでもらった。

 アタリハズレはれてみないとわからない。


 プレイルームに入るとミミズク嬢は腰を九〇度曲げて頭を下げた。

「ミミルです」

 抑揚に欠けた声で言い、グルンッ、と背中側に顔をまわした。

「こわッ! 不意打ちでやるのビビるんだけど」

「わりとウケは良いと思っていました」

「有翼人相手なら鉄板なのか……?」

 ミミルなる嬢はボケても完全無表情。目だけはまん丸く見開いて、ほとんど四白眼である。それでもどことなくあいきようのある顔立ちで憎めない。鼻の付け根あたりにそばかすがあるのも、不思議と親しみを感じさせる。たしか、まえにもおなじ感慨を抱いた。

「やっぱりどこかで会ったか?」

「ナンパですか。この状況でわざわざ」

「いやこの状況でわざわざナンパするほどアホじゃないけど」

「ナンパでないのなら、私でなく双子の姉かもしれません。しばらく会ってませんが、どこかのサキュバス店で受付嬢兼用心棒をしていると言っていました」

「あー、それかも。一発ヤッた相手なら絶対に忘れないんだが」

 あらためてミミルの全身を眺めてみる。

 背丈は人間基準で平均的。胴体の造りも人間の成人女性とおなじく、くびれのあるヒョウタン型。バストが量感たっぷりに張り出しているのは、翼腕を支える肩や胸筋が発達しているためか。腰つきの悩ましい曲線も、きようじんな鉤爪へと至る脚部を支えるためか。

 そんな体つきを隠すはずの衣装は、布地がすくなくて頼りない。

 つけ襟とリボンタイにひもじみた黒パンツのみである。

 羽毛が乳房の下半分とまたまわりを覆っていなければ、もっと際どい印象だっただろう。

(このギリギリ隠せてるかどうかの露出感、なかなか絶妙だな)

 かんが臨戦態勢になって持ちあがる。

 ミミルはお辞儀の姿勢のまま、興味深そうに目を向けた。

「ほー、ズボンがこんなに盛りあがって。お見事なモノをお持ちですね」

「首ぐりんぐりんしながら多角的に観察するのやめて」

「でもお客さん、見られるの好きでしょう?」

「いい勘してるな、おまえさん」

 スタンクはズボンから肉剣を取り出し、生の威容を披露した。

 使いこんで浅黒く染まった一振りのロングソード。

 ほー、ほー、とミミルは感嘆してスタンクの男心をくすぐる。

「そうそう、もっと見てくれ。俺の股間のやんちゃBOYを」

「ふーっ」

「あへんッ」

 切っ先に息を吹きかけられ、そうよう感にびくんッとやんちゃBOYが跳ねた。

「じつに敏感なお利口BOYですね」

「お、お利口なんかじゃないぞ。女をたくさんイジメてきた極悪BOYだ」

「羽なんてどうでしょう」

「ほひッ、んおッ」

 さわさわっと翼の先でくすぐられ、極悪BOYが腰ごと震える。

 ごく微弱な刺激、だからこそ耐えがたい。巨漢の振るうせんであれば受け流せるが、風に舞う羽根はたやすくやいばを避けてしまう。ミミルのあいはそういった種類のものだ。

 さわさわ、ふー、ふー。

 びくびくっ、おへあへっ。

 抜けた声を抑えようにも歯の根が合わない。

(マジで上手うまいな、このミミズクねーちゃん……!)

 羽と吐息で、いら立たしいほどソフトにでまわしてくる。

 軽い愉悦も積み重ねれば膨らんでいく。海綿体がむくむく大きくなる。息子よすくすく成長してお父さんはうれしいぞと涙目にもなった。

 ただ、ひとつひとつの刺激が微弱で、イクにイケないのが問題か。

「ほー。ずいぶんと赤くなってきましたね。赤ちゃんと呼びましょうか。びくびく震えて怖がり赤ちゃん、あーかわいいかわいいプルプルBABY」

「こ、怖いもの知らずのドラ息子を赤子あつかいか……! んおッ、はひッ、だが、残念ながら羽や吐息だけではこの荒くれBOYを倒すことなど不可能!」

「ちゅっ」

「おんんんッ」

 不意打ちで亀頭にキスをされ、先端から喜悦の先走りが矢のように飛ぶ。

 さらにミミルは連打した。緩急をつけてのバードキス。

 ちゅっ、ちゅ、ちゅっちゅ、ちゅうー、ちゅっ。

 徹底して敏感な粘膜部をねらう。本来ならさほど強い刺激ではないが、くすぐるような愛撫に慣らされて神経が過敏化していた。

「うほッ、おぉッ、ちっくしょう、もう駄目だぁ……!

 鮮烈な快感が股間から全身へと波及した。足腰が震え、その震えが一転して逸物へと収束する。沸騰するような感覚とともに、スタンクは敗北を喫した。

 やんちゃBOYがやんちゃエキスを気持ちよく吐き出す。

 びゅるるー、びゅるんッ、と小気味よいほど勢いよく、たっぷりねっとり。

「んっ、ほー、お元気なことで大変すばらしい」

 ミミルは敗残汁を泰然と顔で受けとめた。汚されることに抵抗はないらしい。まぶたを閉じることもなく、大きな目に入りそうになると軽く首をよじって回避する。

 ぶっかけられ慣れたプロの風格だった。

 しかも射精が止まるまえから、追撃のバードキスをくれた。

「あへッ、ちょッ、待ッ、んおへッ」

「お客さん精力強そうだから、まだまだ平気でしょう、ちゅっ」

「おひーッ」

 毛羽立った神経が混乱し、収まりゆくはずの絶頂感が膨れあがる。

 こうがんが引きつるほど激しく精が出た。

 それはもう出まくった。

「ほー……どろっどろになっちゃいましたね」

 ミミルの表情は変わらない。目以外をパックされても平然としている。

 ただ、吐息だけはすこし熱を帯びていたかもしれない。


 出会い頭に一本取られたが、つづく二本目は男が絶対に有利な条件である。

 戦場はプレイルームの奥にある洗い場。はつすい性の樹脂を使った空気入りのマットにふたりで腰を下ろしていた。

「総はいせつ孔手洗いサービスをしますか? こちら基本料金内となっています」

「するする。せっかく有翼人の店にきたんだからな」

 有翼人の多くは股に穴がひとつしかない。排泄も生殖もその穴で済ませるのだ。当然、穴は汚れがちで、ハーピー種は翼腕のため細かな部分を洗うのが難しいという。

 だからこそ、洗浄はサービスになりうる。

「ではどうぞ、ご自由に洗ってください」

 ミミルは股を開いて、黒パンツを横に分ける。

 羽毛のすきから赤々とぬめつく縦付きの唇が現れた。人間の女にくらべると皮膚部の丘が肉厚でぽってりしている。

「なるほど……一目でわかる汚れはないな」

「事前に専用の器具で洗っていますので。本気で汚いものを見せて引かれても困りますし」

「ここを洗う器具っていうと、形状的にはやっぱり張り型的な?」

「もうちょっと特殊な形です。使ってみますか?」

「いや、どうせなら自分の手を使いたい」

 道具に頼ってはリベンジのよろこびも薄れてしまう。さきほど速攻で敗北した屈辱は逆襲の意欲に変わっていた。

(逆転してヒィヒィ言わせるか、それとも負けっぱでソフトMな気分をたのしむか──)

 どちらに転んでも構わない。スタンクは基本的に快楽至上主義なのだ。

 だがそれはぼうようと結果を待つけの姿勢ではない。

 チャンスに全力で取り組んでこそ勝利も敗北も尊いのだ。

 すでに服は脱ぎ捨てている。隠すものなどなにもない裸一貫の勝負だった。

「それじゃあ早速、と」

 スタンクは洗浄用スライム汁をたっぷり泡立ててから、総排泄孔に手を伸ばした。

 人差し指と中指を重ねてやりとし、押し通す。

「んっ……」

 分厚い肉唇がむっちりと締めつけてくるが、進行を止めるほどではない。

 内側にはひだがいくつもある。プルプルして小気味よい触り心地。その隙間に汚れがまっているかもしれないので、指で丹念にこすりまわす。

「んん……ん、んー、んぅう……」

 仮にも性感帯を直接いじられながら、ミミルのうめき声は小さく、表情も変わらない。

「有翼人はけっこう感じやすいイメージだけど、もうきんるいはそうでもないんだな」

「感じてますよ、とても気持ちいいです。ほら、れ濡れ」

「あ、ほんとだ、めちゃくちゃ垂れてる。どんだけ顔と声に出ないタイプなの」

「フクロウ系はだいたいこんな感じですよ」

 難敵だ。それはそれで燃える。

(まずは弱点を探るか)

 スタンクは遠方を見る心持ちで目の焦点をずらした。表情が見えなくなってもかまわない。剣術における視線の使い方とおなじく、相手の全体像をぼんやりと把握する。

 指先で襞穴を、ゆっくり、じっくり、ぐるぅり、となぞった。

「ん……ふぅ、ほー、お上手……んーっ」

 声がわずかに大きくなる瞬間、肩とひざが強く震える。一点に視線を集中していれば片方しか見えなかったかもしれない。

「なるほど、ここか」

 腹側の一点を指の腹で押すと、またも肩と膝が震える。

 押しこみながらこすると、顎もひくんっと跳ねる。

 やはり弱点だ。そこを重点的に責めながら、焦点を彼女の顔に戻して表情を確認する。

「お、ほっ、ほー、もう弱い部分を見つけましたか、お見事、んっ、おっ」

 表情の変化と言えば、まぶたがたびたび半分降りる程度のもの。それでもほおは赤らみ、声の質も甘くなっている。充分すぎる成果にスタンクはニヤついた。

「素っ気ない態度のわりにマジで感じやすいんだな?」

「むしろミミルは顔に出やすいと仲間内ではよく言われています」

「いまので表情MAXか……つまり本気で気持ちいいってことなんだな」

 スタンクは指を細かく抜き差しして弱点を擦りあげた。より速く、軽くねじりを加えて。

「ほー、ぉうっ……んっ、ほッ、ぉお……」

 ミミルの顔にも声にも大きな変化はない。ただ、腰の律動がテンポをあげていく。

 膝の震えに引きずられるように彼女の脚が持ちあがり──

 がしり、と足のかぎづめがスタンクの肩と腰をとらえた。

「お、お、ちょっとびっくりしたッ」

「んっ、ほぉ、ごめんなさい……気持ちよくなるとたかぶって、近くにあるものをつかみたくなるというか……もともと生殖は木の枝などにつかまってするものなのですが……ほー」

「気持ちよくなって反応してるんならOKだ」

 驚きはしたがダメージはない。せんたんが食いこまないよう体の曲面に爪の反りを沿わせている。ぐ、ぐ、と締めつけてくるのもごあいきよう。気持ちよくなった女の子は辛抱たまらなくなってしがみつくものだ。

「そんなに気持ちいいのか? ほら、どうしたどうした、グチュグチュ鳴ってるぞ?」

「はい、濡れまくりで……んぉッ、ほぉう、ほー、おふッ、気持ちいいです」

 激しく抽送すれば泡立ったまつがマットに散る。

 あなの内部は慌ただしくしゆんどうしていた。

 トドメフイニツシユの頃合いである。

「おららえッ!」

 思いきり弱点を押しあげた。

「ほーッ」

 ミミルの腰が大きく跳ねあがり、鉤爪が体を締めつけてくる。孔内のうごめきはけいれんになった。ありがとうございます、うれしいです、とスタンクの指に熱い抱擁をする。

 これで一勝一敗──

 勝利感に浸ろうとしたスタンクのまえで、

 ぐりんっ!

 ミミルの頭がさかしまに反転した。

「うっわ、ビビッたぁ!」

「ほんとに気持ちよかったのでサービスで首をまわしました」

「それはサービスにならないと思う!」

「では次のプレイに参りましょう」

「やっぱり見た目のまんま動じないタイプだわ、この子……」

 肝は冷えたが目的は果たした。

 ひと相撲ずもうかもしれないが、それで構わない。

 男の快楽は概して自慰という名の独り相撲からはじまる。

 いつもどんなときも、突き詰めればすべて己との戦いなのだから。


 本番にはベッドでなく壁から伸びた止まり木を使うことにした。

 鳥にとって自然な体勢はあおけでもつんいでも騎乗位でもない。木の枝に止まって危なげなく睡眠まで取るのが本来のライフスタイルだ。

 ミミルは枝を足の鉤爪でつかみ、膝を曲げて腰を落とした。

「うん、やっぱりその体勢が堂に入ってるな」

 スタンクは彼女の背後にまわった。壁のレバーをまわして止まり木の高さを調節し、彼女のしりと自分のまたの高さをあわせる。

 尾羽が持ちあがってオスを誘っていた。

 ぴと……と、床にしずくの落ちる音がする。

「はやくしていただけると助かります。もう濡れ濡れですので」

「淡々と求められると変な気分になるな……」

 やや前のめりになって尻を突き出す彼女の意気込みを買って、腰をがっちりつかむ。

 いきり立った肉剣を総排泄孔にねじこんだ。

「ほぉうッ……」

 ミミルの声が鼻を通って高まった。背後からで顔が見えないのはかえってよかったかもしれない。表情の乏しさに惑わされず、孔内の反応でミミルの悦び具合を計れる。

 奥まで貫き一時停止をしていると、肉膜が戸惑いがちに粘りついてきた。

「お、可愛かわいらしい反応するな」

「私たちの総排泄孔は挿入されるための構造じゃないので」

 鳥類のオスは多くの場合ペニスを持たない。あるのはメス同様に総排泄孔のみ。交尾は雌雄が総排泄孔を擦りあう形となる。例外はダチョウやエミューのような地を走るものや、カモのような水鳥のたぐい。つまり空をテリトリーとする者はNOチンポなのだ。

(空を飛んでる最中にブラブラさせるのが嫌なのかな)

 などとスタンクは思うのだが。

 鳥の生殖機能が有翼人全種にそのまま当てはまるとも限らない。それでも目の前にあるのはNOチンポ男とつがうための穴だ。

 むりゅむりゅと異物を押し出そうとする動きは排泄のためのぜんどうだろう。

 それでいて、豊かな湿潤は快楽を求めてやまない証拠だ。

「本当は入れるための穴じゃないのに、こんなぶっといの突き刺されて気持ちよくなっちゃうなんて、ミミルちゃん異種交尾だいすきのえっちな子なんだね」

 ぐへへ、と下卑た笑いを添える。

 ミミルが肩をよじるのはしゆうの動きだろうか。

「ん……嫌いなら、こんな仕事してません」

「好きなんだろぅ? 答えてくれないと、ぶっとくて硬いの動かないよぅ?」

「まあ好きです、はい。異種交尾だいすきー、いえーい」

「棒読みだけど答えてくれたから良しとしよう!」

 ノリは大事なので無理やりにでも乗っていくことにした。

 動きだす。ゆっくり、大きく、後退していく。

 エラで全体をかきむしれば、ミミルの背に陰影が増えた。日常的な飛行で健康的に鍛えられた背筋が愉悦に引きつっている。

「お、ほ、ほぉ……ほー、ぉおー……」

 とろけるあえぎ声が耳に心地よい。総排泄孔の機能からすれば、異物を引き抜かれる刺激は排泄や産卵のそれに近い。有翼人にとっても愉しみやすい快感なのだろう。

 スタンクは亀頭が抜ける寸前に切り返し、すこし速度をあげて前進。

「おうッ、うッ、んッ、んんぅうう……」

 息が詰まるような声音だが、甘露汁はますます量を増した。総排泄孔の役割を無視した背徳的な刺激に、彼女は感悦を示している。

 サキュバス嬢になって、悪い遊びにハマっている証拠だ。

 ゆっくり動くことで彼女の快楽を浮き彫りにしていく。

 往復するたび、反応が大きくなっていく。

「おぉっ、ほーっ、おうッ、うぅぅぅ……おほッ」

「そうらそうら、ちょっとずつ速くなってくぞぉ。ミミルちゃんの総はいせつ孔どんどんえっちにしていくぞぉ。なにせ腰遣いには自信があるからなっ」

 指先ではカンチャルに及ばず、ゼルと違って相手の反応を魔力的に察知することもできない。剣のサイズではクリムに完敗している。

 されどスタンクには剣士として鍛えた肉体がある。

 鉄の剣と肉の剣を扱うことにおいては負けるつもりがない。

「おぅッ、ほぉッ、ううッ、んーッ、たしかにこれはッ、なかなかお上手……ほンっ」

 抽送速度が脈拍を追いこすころ、ふたりの股は湿り気にまみれていた。

 なおも加速する。

 ミミルの孔内を我が物顔でかきまわす。

 ぼっちゅ、ぼっちゅ、と粘着音がはじけるたびに興奮が高まった。

(やっぱり腰を振るって動きには本能的な、なんていうか……アレがあるな、アレが)

 ペニスを刺激して快楽を得、種を注ぐための運動。男がそれを好まぬはずがない。ぶっちゃけ気持ちがいい。ミミルの肉孔はどんどん粘つきを増していく。

 このまま最大限の喜悦に没頭するのも悪くはない──のだが。

「そういえば、空飛びながらハメるサービスもあるって聞いたんだけど」

「あ、それは、んんッ、お客さんぐらいの体格だと、ぁおッ、ほー、ちょっと待ってください、甘イキしますから、ほぉおんッ」

せきばらいするようなノリで甘イキするな」

「んっ、おほッ、ふぅ……失礼、なかなか素敵な腰振りでしたので……」

 ミミルはぶるりと全身を震わせ、浅い絶頂に浸った。

 震えが止まるまで待ってから話を再開する。

「空中飛行プレイはお客さんぐらいの体格だと、すこしばかり危険です。墜落時に一切の責任追及をしないという念書にサインをしてもらえば……」

「いや、いい。それはやめとく」

「ちなみに飛行中の射精は厳禁です。まき散らして民家や歩行者に降りかかった場合、責任や罰金はすべてお客さまに──」

「いいって! このままハメてりゃ充分だから!」

 念押しするように急加速。ぱんぱんぐちゅぐちゅと攻めまくる。

「んっ、ほぅッ、安心しました……おんっ、ぉうッ、お客さんのすごいから、飛びながらじゃなくて集中して味わいたかったので……ほッ、おうッ、んぉおッ」

 羽毛の生えていない皮膚から汗をにじませ、彼女は愉悦の声を高めた。

「おんッ、ふうッ、ほぉ……私たち、総排泄孔を上手に刺激されたら、産卵しやすくなるんです……んっ、あう、ほッ、無精卵、たくさん産んでしまって……」

 ミミルはおのれの肩越しに横顔を見せてきた。

 とろーんとした、半眼。

 愛欲に潤んだメスの表情がそこにある。

「気持ちよくしてくれた男性の卵を産みたいと、体が求めてるんだと思います……」

 殺し文句だった。

 スタンクは燃えあがった。

 腰でなく彼女の腕をづなのようにつかみ、背を反りあげさせて突きまわす。

 心の底まで責め落とすつもりで摩擦行為に狂った。

「そんなに有精卵を産みたいか! 俺の有精卵を! 体だけの関係なのにホカホカ卵で巣をあっためたいと思っちゃうのかッ!」

「おッ、ぅおッ、ほぉッ、んほッ、おぉ……避妊魔法、切れてほしいと思ってしまいます……卵産みたいです、んんーッ、ほーッ、卵、卵、お客さんの卵ぉ……!

 有翼人にとってこれほど熱烈ないんがあるだろうか。

 種の違う人間にとって、これほど征服欲を刺激する言葉があるだろうか。

 爆発的にこみあげた衝動が下腹で脈打ち、男剣を激しく震わせた。

「なら産めッ、卵を産めッ!」

 本当に産まれたら困るがノリで言ってしまうのがスタンクだった。

 ミミルも孔肉を荒々しく痙攣させて決着の時を迎える。

「おふっ、ほッ、んんんんんッ」

 ミミズク娘の全身が狂おしく律動した。同時に孔内も。

 ──勝った!

 スタンクは深い勝利感に酔いしれながら、かんに渦巻く衝動を解放しようとした。

 その瞬間。

 ぎゅるんっ!

 目の前でミミルの後頭部が正面顔になった。

「うわっ、ビックリしたッ!」

 驚いた拍子にびゅっと出た。

 びゅーびゅー出た。

「なんで素直に気持ちよくイカせてくれないのかな!」

「イキながらキスしましょうお客さん。キスしながらイクと気持ちいいですよ」

「そりゃそうだが! ああくそッ、するよキス!」

 もうヤケクソだった。

 ちゅっちゅ、むちゅむちゅ、と唇を重ね、舌を絡めてえきを交換する。

 釈然としないものはあるが気持ちよかった。

 気持ちよくはあるが、最後の最後で負けたような気もした。





 貼り出されたレビューに今日も男たちが集う。

 ひとり、異様に鼻息の荒いラミアがいた。おそらく依頼主のドMだろう。

 彼の頼みで死地をくぐり抜けてきたナルガミは、テーブルにぐったりとうなだれていた。

「なんでアレがいいんだよ……恐怖しかなかったよ……」

「食われるほうの気持ちがよくわかったんじゃない?」

 にひー、とメイドリーが悪戯いたずらっぽく笑い、ナルガミのまえにエールを一杯置く。

「俺、頼んでないけど……」

「あちらのお客さんからです」

 カウンター席のスタンクが手を振った。ひとつの試練を乗りこえた仲間に無言のねぎらいを送る。男同士の気遣いに、ナルガミは目を細めてエールを一気飲みした。

「実際、ナルガミのやつがんばったと思うぞ。わざわざ飛行プレイまで体験して」

 スタンクのとなりでゼルが言う。

「ナルガミさんは合わなかったみたいだけど……ボクはちょっと良かったと思います」

 カウンター越しにクリムがうっとりと目を細めていた。

「ボクはいま翼があんまり安定してないから高所の飛行はちょっと……なんですけど、もうきんの方と一緒にどこまでも高みに登れて、心が洗われるような気分で……」

 クリムの頭上に浮かぶ光輪は一部欠けていて、そのために天使の力が不調なのだという。治らなければ天界にも戻れないので、わりと深刻な状況ではあるのだが。

(こいつ、サキュバス店めちゃくちゃ満喫してるよな)

 少女のような顔で恥じらいながらも、どんどん遊び人として深みにハマっている。

 そんな彼がほほ笑ましくて、スタンクはついついからかってしまうのだ。

「で、空のうえから愛の種をまき散らす気分はどうだった?」

「う、うぅ……正直けっこうよかったです……罰金さえ取られなければ」

 かあーっと赤らむ天使の少年。その可愛かわいらしい反応を悪い大人がニヤニヤと見ていることに彼も気づいている。だからすため、通りすがったメイドリーに話しかけたのだろう。

「あ、そういえばあの日、メイドリーさん出かけてませんでしたか?」

「私? なんで?」

「空から見下ろしたとき、森のすきからメイドリーさんを見かけて……」

 言いかけて、クリムは「ん?」と小首をかしげた。

「でもメイドリーさんにしては肌が黒かったかな」

「他人の空似でしょ。私、ここでずっとウェイトレスしてたし。それよりあんたたちにまた名指しで依頼がきてるわよ」

 メイドリーは封書を置いた。

 あてにはスタンク、ゼル、カンチャル、クリムの四名が並んでいる。カンチャルはべつの仕事を受けているので、残り三人で封を切ることにした。

 依頼主は《性のマリオネット》。

「これって、こないだのゴーレム店だよな」

「あ? なんか言った、ゼル?」

 即座に嫌なことを思い出してにらみつけるのはメイドリー。

 スタンクは手の平で彼女の圧力をやんわり押し返し、おもねりの笑みで応じる。

「いやメイドリー、あの一件については反省してるから。マジで。な?」

「……次はないからね」

 全身から殺意を漏らしながら有翼人の少女は立ち去った。

「……危なかったな。この文面読まれてたらもっとヘソ曲げてたぞ」

 ゼルはすでに読み終えたらしく、あごをしゃくってスタンクとクリムを促した。

 追ってふたりも読み終える。

 三人そろってかたんだ。

「……あのときのメイドリー人形が行方不明?」