恋愛ものの少女漫画みたいな甘酸っぱいシチュエーションから、いきなりのエロゲー展開だ。

 ロゼが当然のような顔で言う。

「準備万端です、マスター」

 ──俺の心の準備が、まったく万端ではないんですが、それは。

「な、なんの?」

「もちろん、マスターの……を注いでいただくために」

「魔力な! 魔力!」

 重要なところを小さな声で言うのは、やめていただきたい。

「はい。マスターの、濃厚で、むせかえるような、ドロドロの……をロゼの中へ」

「わざと言ってるだろう?」

 彼女が本当に不思議そうな顔で、小首をかしげた。

 これ以上は、ツッコミを入れるだけ泥沼か。

「……あ、もしかして本日は難しいでしょうか、マスター? お疲れですか?」

 たしかに、疲れている。

 だが、魔王が〝疲れたから今夜は寝るよ〟なんて、残業続きのサラリーマンみたいなことを言うのは格好が悪かった。

「フンッ……我を誰だと思っている? あの程度の相手と戦ったくらいで、疲れなど感じるはずもない!」

「ああ、さすがです、マスター」

「魔力くらい、いくらでも注いでくれる!」

「ありがとうございます。感謝のあまり、身体が震えてしまいます」

 上半身裸の女性に、背中が見えるほど頭を下げられると、MMORPGクロスレヴェリではなく、別のゲームの世界に迷いこんだのではないか──と思ってしまう。

「と、とにかく、座れ。あ、いや、無理だったな」

 ロゼは全身板金よろいを装着した騎士が、馬に乗ったくらいの重さがある。

 二階の床が抜けていないだけでも、建物の造りの良さがわかるというものだった。

 椅子やベッドに腰掛けたら、家具を押し潰してしまう。

 ──立ったまま、やるか。

 ロゼが背を向けた。

「失礼いたします……本日は、損傷箇所に近い位置に魔力をいただきたく」

「よかろう」

 背中か。やっと、まともな話になってきた。

 ロゼが背筋をくねらせた。

「後ろから両手を使って、胸に」

「はい?」

 胸?

「……あの、ロゼは……強くしていただいても、かまいませんから」

 ぜんとしていると、彼女の手がディアヴロの手をやんわりとつかんでくる。

 たった今〝いくらでも注いでくれる〟とおおを切ったばかりだ。そうでなくても、この状況で手を振りほどくなんて酷いことはできなかった。

 彼女が望んでいるのだから。

 導かれるままに、ロゼの前側へと両手を回した。

 むんず、と大きなふくらみを両手に収める。

 ──やわらけ!?

 ロゼが身体を震わせた。

「はふぅん!」

「い、痛かったか……?」

「……ッ……とんでも、ありません。う、うれしくて……感激のあまり」

「震えが?」

「絶頂してしまいました……」

 ──早くね!?

 ディアヴロは問う。

「それは、じゆうてんの上限に達した、という意味だよな? もう満足したのか?」

「第一魔力槽は、満充となりました。まだ、他の魔力槽が……」

「なるほど。ここから、魔力を送ればいいのか?」

「はい……あッ……んんッ……そ、そこ……」

「ど、どうした? 俺は何も……」

 していないつもりだったが、戸惑う心とは裏腹に本能は猛っていた。

 指が勝手に動いてしまう。

 ──うおお!? 沈む。指がふくらみに沈む。

 そして、中指と薬指の間にある、ぷっくりとやわらかな突起が、だんだんと固くなってきた。

 二本の指で、つまんだり、こすったり。

 ロゼが身をくねらせる。

「はんッ!? んう……んん……マスター……そこ、は……」

「どうなのだ?」

「ああ、ロゼは……ロゼは、ダメになってしまいそう、です……はふッ!」

「ダメに……」

 ディアヴロの理性もダメになってしまいそうだ。

 手探りで、突起をなぶる。

 こねて、こすって、つまんで、引っ張って。逆に押しこんでみたりして。

「ひゃぐううぅッ!!

 ビクッ! ビクンッ! と両腕のなかでロゼが背筋を反り返らせる。

 ふるふる……と肩をけいれんさせた。

 ごくり、とディアヴロは空唾をみこむ。

「ま、また、達したのか?」

 魔力槽の上限に。

 ロゼが小さく首を横に振った。

「あの……マスター……」

「ん?」

「そこ、いじるだけでなく……魔力を注いでいただけませんと……」

「あああ!」

 ふくらみの先端の突起に意識を奪われ、魔力を流しこむのをすっかり忘れていた!

 つまり、今さっきのは、魔力注入ではなく。


 おっぱいをんでいただけ!?


 ──俺としたことがァ!!

 やはり大魔王との戦いで消耗し、思考力が落ちていたか。

「よ、よし! 今度こそ!」

 ディアヴロは改めて手の平に意識を向け、魔術を使うときのように魔力を注ぎこむ。

「ん……んん……マスター、いいです。魔力……流れこんできて……はふぅ……素敵です。あッ、はんッ」

 先程より、肌が吸いついてくるような。

 魔導機マギマテイツクにもかかわらず、うっすらと汗ばんで感じる。

 皮膚と皮膚のきようかいが不明瞭になり、自分の手が彼女の胸と溶け合っていくような錯覚があった。

「こうか?」

 ロゼが先程よりも甲高いきようせいをあげる。

「あッ!! あああぁあぁぁぁあッ!! マスター、マスター、マスター、すごい……ッ……すごいです! たくましいッ! もっと……もっと……奥まで……あッ! あッ! ひあああぁぁぁぁッ!!

 外にまで届きそうな声を出した。

 ──こんなん、レムに聞かれたら、また怒らせてしまいそうじゃね?

 早く満充にしなければ、と極大魔術のごとき勢いで注ぐ。

 ロゼが壊れてしまうのではないかと思うくらい、身体をけいれんさせるのだった。



 満足そうな顔で、ロゼが床に倒れこむ。

 上半身は裸のままだ。

 普通なら、ベッドに寝かせるところだが、彼女の場合は重量的に難しい。

 目のやり場に困るので、ディアヴロは毛布をかけてやった。

 一段落すると、ため息がこぼれる。

「ふぅ……ちょっと疲れたなー」

 独りごちた。

 部屋のドアがノックされる。

 レムかシェラたちが帰ってきたのだろうか。いや、それならノックはしないはずだ。

 ディアヴロは表情を引き締める。

「フッ……何者だ? 魔王を恐れぬというのなら、その扉を開けるがよい」

『あ、あの……俺ですが……』

 ドアごしの声は男のもので、なんとなく聞き覚えがあった。

 人の顔を覚えるのと同じくらい、声を覚えるのも苦手だ。

 ディアヴロは命じる。

「許す、入れ」

『し、失礼します!』

 たずねてきたのは、よろいを着た兵士だった。見覚えはある。

「あー……貴様は……」

「ボリスです」

 思い出した。ウルグきようさいを守っていた兵士だ。

 ふと気になる。

「なぜ、この場所を知っている?」

「あ……ディアヴロさんたちには監視がついていますから。部屋の中の会話までは無理でも、どこに居るかくらいは軍隊や冒険者協会ギルドは、把握してるんです」

 そういえば、前にシルヴィも同じようなことを言っていたか。

 クルムに各組織の監視がついている、とは聞いた。

 しかし、気付いていなかった、と思われるのは恥ずかしい。

 ディアヴロは肩をすくめた。

「ああ……あの羽虫か。近づきすぎるな、と言っておけ。目障りだと燃やしてしまうからな」

「りょ、了解!」

 ボリスは生真面目なことに、いちいち敬礼する。

「して、何用か?」

「あ……私、リフェリア王国ファルトラ駐留軍第十三連隊歩兵ボリス・マークスは、冒険者ディアヴロ殿を祝宴に招待するために参上いたしました」

 慌てて練習してきたような、棒読みだった。

 ディアヴロは首をひねる。

「祝宴だと?」

「はい。大魔王討伐、ファルトラ市防衛、これを祝しての宴です」

「まだ街の結界は消えたままだろう?」

 魔族たちも撤退していない。

 まだ終わったと断言できないはず。ラムニテスの性格からして、そんな浮かれた催しを許すとは思えなかった。

 ボリスが言いにくそうに、視線を彷徨さまよわせる。

「えっと……市議会の方々が」

「市議会?」

「ファルトラ市は領主が治めていますが、それとは別に有力貴族が中心となった市議会もあるんです。商業権や農地権などを管理しており、領主に納める地方税だけでなく、商業税や農業税を……」

 ディアヴロは手を左右に払った。

「やめよ、街作りに興味はない。政治の話を持ちこむな」

「すみません。つまり、街の偉い人たちが企画したので、領主やラムニテスきようとは関係なく催されることになりました。ついては、最大の殊勲者で英雄たるディアヴロ殿に御出席をいただきたい、と」

 ──それ行ったら、壇上でスピーチさせられるヤツじゃん?

 考えただけで背筋が凍る。

 ディアヴロはジロリとにらんだ。

「我を、そのような下らぬ席に呼びつける気か?」

「ですよね……ディアヴロさんは、そういうの嫌いだと思ってました。前に、一〇〇体の魔族がウルグきようさいまで押し寄せたときも、結局は〝冒険者たちの協力により撃退〟って発表されたし」

「そういうことだ」

「すみません。とはいえ、誰かが一言は伝えておかないといけない、と思いまして」

 ──たしかに。

 絶対に行かないが、大魔王を倒したディアヴロたちに何の連絡もなく、戦勝祝いをしていたら、それはそれで腹立たしい。

 断られるのを承知で、わざわざ伝えに来るとは……損な役回りを。

「貴様、相変わらずだな」

「はは……では、招待はしたということで、これだけでも受け取ってください。招待状です」

 ボリスが封筒を差し出した。

「ふんっ! そんなものは……」

「支度金として金貨が入っていますから」

「貴様に免じて、受け取るだけはしてやろう」

 ディアヴロたちは常に金欠だった。主にクルムの食費のために。

 ボリスが敬礼する。

「御欠席は伝えておきます。ディアヴロさん……俺たちの世代は父や祖父から、英雄アレンの物語を聞かされて育ちました。でも、これからは、英雄ディアヴロの活躍を語り継ぎます。貴方の戦いをこの目で見れたことは、俺の一生の宝です」

「え……」

 急な賞賛に、言葉が出なかった。

 失礼します──とドアが閉じられ、ボリスの足音が遠ざかる。

 ディアヴロは背中からベッドに倒れこむと、じっと天井を見つめた。

 ゆっくり目を閉じる。