すでに真夜中、外がい信しん社しやの明かりは落とされていた。

 マージョリーは、その隣となりのドアを開けて入る。

 ギリギリギリギリッ、と夜にも構わず、ドアに結ゆわえられた紐ひもがベルをけたたましく鳴らして、異い能のう者の来訪を店みせ全体に告げた。

 重い顔を上げると案あんの定じよう、外界宿アウトローには、イーストエッジが一人、カウンターの中で待ちわびるように立っていた。帰った人ひと影かげが一つであることを見て、しかしなにも言わない。

 付き合うように、黙って戸口に立っていたマージョリーは、やがて新しく着替えたスーツドレスの身をふらつかせながら、倒れ込むようにカウンター席に腰を降ろした。

 その拍子に、ゴトン、と〝グリモア〟が床に落ちる。

 マルコシアスは黙っていた。

 イーストエッジは、細い双そう眸ぼうの内から、カウンターに突つっ伏ぷす女を静かに見つめ、すぐ背を向けた。バックバーの奥から、隠かくしてあったウイスキーを一ひと瓶びん、粗そ末まつなショウガ水を一瓶、グラスを二つ、木のカップを一つ、カウンターに出す。

 と、いつの間にか、カウンターの上に、歪ゆがんだ針金の欠かけ片らが放り出されていた。それは、かつてガラスのレンズがはまっていた物の、残ざん骸がいだった。

 グラスが一つ、マージョリーの前に、もう一つがイーストエッジの前に、カップが針金の欠片の前に、それぞれ置かれた。瓶が、突っ伏す肘ひじに当たる。

 身を起こしたマージョリーは、自分のグラスにだけ、ウイスキーを注そそぐ。

 少し、溢あふれた。

 イーストエッジは、まずショウガ水をカップに、次いでマージョリーから受け取ったウイスキーを、自分のグラスに注ぐ。ショウガ水だけが、少し溢れて、針金を浸ひたした。

 二人にして四人はなにも言わず、ただ黙って、グラスの水面が静まるのを待った。

 と、いきなりマージョリーは一気にウイスキーを呷あおった。

 それを見たイーストエッジは、自分のウイスキーを飲み干ほした。静かに。

 そして、ショウガ水を床に撒まき、カップを握り潰つぶした。やはり、静かに。

 その音に、少しだけ肩を震わせたマージョリーは、一言、小さく呟つぶやいた。

「やっぱり、迷わなかったわ」




 悦よろこびに渇かわき、無力に憤ふん怒ぬする、果てなき悪あく夢むを破る叫びは、ただ一つ。

 なにがあっても変わらない、それだけでしか破れない、

 ブチ殺しの雄お叫たけび。