悪あく夢むの中では、全てが上う手まく行く。

 これ以上ないほどに、上手く行く。

(やめて)

 テトス親おや父じは、父の旧きゆう友ゆうからの書状を携たずさえ、予定に倍ばいする兵士たちを引き連れてきた。書状には、同どう僚りようの娘たちの身の安全、然しかるべき身み請うけ先を探す旨むね、保証されていた。

(もう、やめて)

 芸人と馬ば丁ていに扮ふんした兵士たちは、玄げん関かんや庭、裏うら口ぐちだけでなく、調べ上げた隠かくし扉や抜け道にも密ひそかに配置された。女たちを囚とらえる檻おりだった屋や敷しきは、主あるじと客にとって必殺の死し地ちと化した。

(見たく、ない)

 ジェイムズの色いろ金がね狂ぐるいは、私によってデイヴィットの糞野郎を落とすことで、その近きん隣りんの筋すじから、『館やかた』の新たな上じよう客きやくを獲かく得とくできる、宮きゆう廷ていに繋つながりができる、と浮かれていた。

(もう、見たくない)

 常は用心深ぶかいデイヴィットの糞くそ野や郎ろうも、遂ついに私に受け入れてもらえる日が来た、という期待と確信から、緩みきっていた。屈くつ強きようの護ご衛えいたちにも、その緩みが伝でん染せんするほどに。

(お願い)

 娘たちは、この護ご衛えいたち、『館やかた』の用心棒ぼうや男どもを、いつも以上に歓かん待たいした。私と糞くそ野や郎ろうの愛の成じよう就じゆを祝う、という名めい目もくを怪しむ者は、どこにもいなかった。

(お願い、だから)

 腰に感じる腕、頬ほおに感じる頬に、思わず催もよおす吐き気と悪お寒かんを、しかしドレスの中のナイフを握りしめることで、必死に抑え込んだ。これを存ぞん分ぶんに振るう時を思い描いて、耐えた。

(見せないで)

 今ここにある全てを、壊して、殺して、奪うばって、嘲あざ笑わらってやる──そう、誓ちかった。

 私の合図で始まる、私の手で変える、私の意思が世界を拓ひらく──そう、思った。

(ここから先を、見せないで──)

 背中を焼くような焦しよう燥そう感かんと、胸に甘く満ちる快かい美び感かんだけを、抱いていた。

 そして、時は来た。