その医者は、たぐいまれな手術の腕をもっていたが、一方で、高額な手術代金を請求する「銭ゲバ」として有名であった。

 医師のその倫理観に疑問をもつジャーナリストが、あるとき、意地の悪い質問を投げかけた。

「あなたの前に、二人の患者が運ばれてきたとしましょう。一人は、汚職まみれ、悪政で国民を苦しめる政治家。でも、お金は持っている。

 もう一人は、将来を期待され、プロ選手になることを夢見ている天才サッカー少年。でも、家庭は貧乏で手術代は払えない。あなたは、どちらの患者を先に手術しますか?」

 医者は、記者を冷笑するような目つきで見た。

 そして答えた。

「そんなの簡単な問題だろう。より重篤な患者、緊急性を要する患者を先に手術するに決まっているじゃないか。

 その患者が犯罪者だとか、才能や将来性があるとか、そんなことは関係ない。私たち医師は、裁判官じゃない。ただ目の前にいる患者を治すだけだ」