青年が就職した会社は、国際社会の中で、常に厳しい競争を強いられるような、国内有数の大企業であった。

 そんな企業の中では、社員たちは忙しく、誰も悠長に仕事を教えてくれない。

 社員たちには、自ら仕事を作り出す、高い意識が要求された。青年も、新入社員の頃から、よく直属の上司に𠮟責された。

「なにのんびりしているんだ! 仕事は自分で見つけろ! 探しても仕事がないなら、自分で仕事を作り出せ!!

 結局、青年にはそのような厳しい世界は合わず、五年ほどでその企業を辞めた。そして、試験を受け、地方公務員に転職した。


 転職してから二十年以上経った今でも、青年──今では、すっかり中年になった男は、かつての上司の言葉を思い出す。

 ──仕事がないなら、自分で作り出せ!

 男は、転職後、数年の間こそ、仕事がなくのんびりとした状態に満足していたが、しだいに、あの頃の緊張感を求めるようになった。

 そうだ、仕事がないなら、自分で作り出せばいい──殺人事件がないなら、自分で事件を起こせばいい!

 ぬるま湯につかったこの国には、殺人事件は、適度な緊張感を与える社会のカンフル剤になる。

 地方公務員──警察官になった自分は、捜査の最前線にいる。証拠をねつぞうするのはお手のものだ。いざとなれば、またあのときのように、取調室の中ででも、正当防衛で、容疑者を亡き者にすればいいだけだ。