殺人事件の容疑者がつかまり、取調室では、刑事と容疑者の二人が、やりとりをしていた。

容疑「いいかげん、本当のことを言ったらどうなんだ?」

刑事「本当のことって何だ?」

容疑「犯人は、おまえだ!」

刑事「証拠でもあるのか?」

容疑「ある。事件の一部始終を、オレが見ていた」

刑事「そうか、オレは、運が悪かったんだな」

 刑事がニヤリと笑った。


「自分は運が悪かった」と思った刑事であったが、考え直し、そしてニヤリと笑った。

 ──むしろ、自分は運がよかったかもしれない。

 誰かに犯行を見られていたと感じていたが、それが、この誤認逮捕された男だったとは……。自分で目撃者を探し、始末しなくてはいけない、と考えていたが、その手間が省けた。

 あとは、誰も見ていない、この「密室」とも言うべき取調室で、「容疑者が襲いかかってきた」とでも理由をつけて、この男を始末するだけだ。

 この男は手錠をかけられているし、簡単なことだ。

 そんな刑事の考えなど知らず、容疑者はまだ、「犯人はお前だ!」などと叫び続けている。