終 積み重ねていくべき明日



 夜の街をシーモアは一人歩いていた。

「はぁ」

 と何かいきこぼしてはみたが、特に何かが困っているわけではない。

 昨日までの大騒動を思い出して、そして結局何も変わらなかったことに、いきでしか表せない感慨を抱いていただけだ。

 街を巻き込んで何かができるほどの選択肢があった。

 そしてシーモアは何もしないことを選んだ。

 それだけの話。

「また明日から仕事を頑張らないとな」

 ふところの封筒に手を触れる。

 シーモアとルーミー、バーズアイ姉妹にサム。五人分の家にしては随分と破格の部屋が運良く契約できそうだが、それでも今のガレージよりも安いということはあり得ない。これからも自転車操業で金を稼ぎ続けなければならないし、これからもマフィアをはじめとしたあらゆる種類のトラブルが降り注いでくるし、そのたびに頭を悩ませることになるだろう。

 それに、ルーミーがあらゆる問題を解決してくれることも、もうない。

 なぜならば他ならぬシーモアが、それを望むからである。彼女に笑っていてもらうために、彼女の予想をくつがえせるような何かが必要になる。わいしようで愚かな人間なりに頑張っているところを見せねばならず、ならばトラブルを見えない場所で全て潰されてはかなわない。

 これから始まるのは、戦いだ。

 シーモア・ロードが自らの価値をかけて、ルーミー・スパイクに挑む戦い。勝ったところで利益はなく、負けたところで穏やかな日々が待つだけの、意味のない戦い。

 それでも、戦っている間はルーミーがきっと笑ってくれるならば、シーモアはそれに挑まねばならない。

「いや全く。よくよく僕は悩むのが好きなんだなぁ」

 そんな風にされたことを思い出し、次にそう指摘されたらもう否定することはできないだろうなとも思った。

 不意に気配を感じて、空を見上げる。

 その空のずっと高み、雲すらも超えたその先に、ルーミーがいることがわかった。人間が散歩をするとしたら地べたをいずりまわるしかないのに、吸血鬼は散歩気分であんなにも遠い場所に上っていってしまうのだから困ったものだ。

 だが、まぁ、あまり気張っていても仕方がない。

 シーモアが選んだのはそんな日常で、そんな戦いだ。

 これからずっと吸血鬼に向けて人間の価値を叫び続けなければいけないのに、今日から緊張していては保たない。気楽に、適当に、普通に生きていくように、そうしながらも戦い続けなければならない。

 その手始めとして、シーモアは空に向かって大きく腕を振った。

「おーい、ルーミー! これから引っ越し先を見に行くけど、くるー?」

 はるか高みから、金の瞳がこちらを見た。