3章 怒れる破竜
私が療養と称して部屋に引き籠もらざるを得なくなった後、レイニから
しきりに心配するアニスは私から事情を聞き終えた後、静かに微笑みました。
「そっか……そんなことがあったんだ」
「はい……ご心配をかけて申し訳ありませんでした」
「ユフィが悪い訳じゃないでしょう? 気にしないでいいよ」
「えぇ……それはそうなのですが……」
私があの一件について頭を悩ませていると、レイニに察知されてしまうので考えないようにしていました。
もし例の一件に思いを巡らせれば、どうしても頭を悩ませてしまいます。心労がかかっていると判断されれば、レイニが気を回して色々としてくれるのですが、それもまた心苦しかったので、静かに過ごすように意識していたのです。
この話題に触れれば私はどうしても気が沈んでしまいます。けれど、触れなかったからこそ思い至らなかったのかもしれません。
その話を聞いた時のアニスを。その想像を、私はあまりにも甘く見積もっていたと悟ったのは、アニスの次の言葉を聞いた瞬間でした。
「──もう、面倒だな」
とても静かな、けれど確かな重さを感じられる
息を吐くように
その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏には警告のように嫌な予感が駆け巡りました。
何かがおかしい。でも、何がおかしいのかはっきりしません。異常があると、見落としてはいけないと、私の感覚がそう訴えているのです。
それが何か確かめようと、私はアニスの様子を
顔を上げたアニスの表情に浮かんでいたのは、どこまでも
「……アニス?」
不安になって、彼女の名前を呼びます。
けれど、私の声が届いているのかどうかすらわからない程に反応がありません。
かと思えば、アニスは急に私に向かって柔らかく
けれど、私は全く落ち着くことが出来ません。
「ユフィ、暫く休んでなよ。後のことは私が全部やるよ」
「……アニス、何を言ってるんですか?」
「
「待ってください、アニス」
「大丈夫だよ」
「何がどう大丈夫なんですか? アニス、貴方は一体何をしようとしていますか?」
思わず手を伸ばしてアニスの手首を
そうはさせないと手に力を込めて、アニスの手を強く握ります。私がそう簡単に離そうとしないことを理解したのか、アニスは解かせようとしていた手を離しました。
「間違ってたんだ」
「……何が、ですか」
「全部間違ってた。私が甘かったんだ。……そりゃそうかもね。夢を
それは、まるで自分に言い聞かせるかのような呟き。それを聞く度に私の不安は増していきます。
どうして、そんな自分を追い込むような言葉を繰り返すんですか。
「これは私の
「アニス、一体何をしようとしているのか説明してください。それを聞くまで私はこの手を離すつもりはありませんよ?」
アニスは私の目を見るように視線を向けました。表情だけは柔らかいのに、その目だけは常ならない様子のままです。
こんなアニスの表情を、私は見たことがありません。だから、何もわからなくて不安になるのでしょうか。
……いいえ。私はアニスが口にするまで、その現実を直視したくなかったのでしょう。
「──ユフィ、西部は潰そう」
……あぁ、と。私の喉から
これは、
──私が見たことがない程に、アニスが激怒してしまっている。
「待ってくださいアニス、落ち着いてください」
「私は落ち着いてるよ」
「落ち着いてたらそんなこと、言わないですよ?」
「だからこそ言うんだよ。こんなの、どうやってもユフィを煩わせるだけだ。どうしようもない、表沙汰になってしまった以上、なかったことにも出来ない。だったら
「それがどうして西部を潰すという話に……!」
「救えないよ、こんなの何をどうしたって救えない。どうにもならないなら、潰す以外にどうしろっていうの?」
どこまでも冷え切った声でアニスはそう言いました。
浮かべた笑みはいつもの笑みではなくて、見ているだけでゾッとしてしまいそうな冷笑です。自分に向けられた蔑みではないとわかっていても、
いつもは太陽のように暖かい彼女の
私の震えに気付いていないのか、アニスは淡々と言葉を続けました。
「今回問題になったレグホーン伯爵だっけ? 彼だけを裁いても西部の腐敗を黙認したことになりかねない。じゃあ、レグホーン伯爵の訴えで西部を裁いたという格好になっても要らぬ前例を作り出してしまう。じゃあ、会議に参加した西部の貴族だけを裁けば良い? それをやるなら西部そのものに手を加えないと筋が通らない」
「……それは」
「こうなったら、もう全部やりきるしかない。半端な
きっぱりとアニスはそう言った。その目には不穏な光が宿っていて、本気であることが伝わってきます。
この人は、やると言ったら本気で西部を滅ぼすつもりです。そんな覚悟を決めていることを嫌でも理解させられました。
「喧嘩を売られたのは私だ。レグホーン伯爵が私の功績を
「アニス!」
「そもそも、国が
アニスが吐き捨てるように告げた言葉に、私は一瞬言葉を失ってしまいました。
今までのアニスなら、仕方ないからと力なく笑うばかりでした。でも、今の彼女は違います。
「私が甘かったんだ。これ以上、魔法と伝統にばかりに
「それを、私が許すと思ってるんですか!?」
あまりのことに、私は叫んでしまいました。今のアニスはあまりにも残酷です。慈悲なんて
その姿は、アルガルドと
それは、私が最も見たくなかった彼女の姿でした。その姿が私の胸を
「私は、そんなことを
肩を摑んで、私は訴えました。けれど、アニスは静かに私を
「じゃあ、私が傷つかないためにユフィを犠牲にしろって?」
「そのために、私は王に……!」
「そうだね。ユフィとそう約束した。無理も多少は許すと言った。でも、これは許容範囲を超えてる。私は西部を許しておけない」
「アニス!」
「……こんなに失望するぐらいなら、最初から何も期待しなければ良かった」
堪えかねたかのように零れた失望の声に、私も引き
いっそ、私もこの感情に身を委ねられればどれだけ楽でしょうか。アニスの気が済むまで好きにさせればいいと。
それで結果的にこの国が滅びても、仕方ないことでしょう?
だって、そうじゃないですか。こんなにも国のためを思い、自ら身を引いて、
その資格を誰よりも尊び、憧れ、
それを思えば、いっそここまで堪えてくれたことが奇跡でしょう。だったら、もう
……だけど、それでも。強く
やはり、それだけはダメなのです。アニスに失望させてはいけない。そう誓ったのは、他でもない私なのですから。
「ダメです、アニス」
「……離してよ、ユフィ」
「嫌です、絶対に離しません! もし、今の貴方を止めなかったら一生後悔させることになります!」
「もう、してる」
アニスの目は、
浮かべている笑みは力がなくて、どこまでも重苦しい。笑顔なだけで何もかもが空虚に感じてしまいます。
これが、諦めてしまったアニスなのでしょうか。こんな姿になってしまうのでしょうか。それを思えばアニスを摑む手にも更に力が入ります。
「後悔なら、もう昔からずっとしてる。それでもって飲み込み続けてきただけだ。でも、あとどれだけ飲めばいい? あとどれだけ我慢したら、私の望みは叶う? あとどれだけ頑張れば、私は安心して胸を
「……それは」
「そんな日は、このまま待ってたって来ない。だから変えようと思った。でも、出来るだけ血は流したくない。父上たちが守ってきたものを私も守りたかった。でも、結局ダメなんだよ」

「そんなことはありません! まだ、まだ私たちは何もかも始めたばかりではありませんか! だから……」
「本当に? これからだって言える? 信仰を重んじるのはまだいいよ。この国を支えてきた文化であり、象徴だ。これがなければ国が纏まらなかった。精霊信仰があったから、今日まで国が続いてきた。それは間違いないことだよ」
私の手にアニスの手が重ねられました。その手を血が通っていないのではないかと思う程に冷たく感じてしまったのは、私の気のせいなのでしょうか。
「でも、時代は変わった。王族も、貴族も、平民も、何も変わらずにはいられないんだ。世界は不変ではいられないから」
「アニス……」
「時代には流れがある。その流れを、私は
ふっ、と。アニスが鼻を鳴らして笑いました。ゆっくりと上げた顔に浮かんでいた表情は──嘲笑。
「その結果が、これ? 笑えてくるよ」
これは、誰に向けた嘲笑なのでしょうか。
脳裏でずっと警鐘が鳴らされているようで、
「私がそんな甘い考えだったから、ユフィをこんなに辛い目に遭わせてしまった」
「アニス、私は……!」
「ユフィが私のために背負おうと思ってくれたのは
私に向ける声は、とても優しい。
でも、同じぐらいに
「西部の貴族たちは、そもそもユフィを敬う気すらないとしか思えないよ。ただの都合の良い信仰の道具ぐらいにしか思ってないんじゃないの? 仕えるべき主君だと思ってすらいない。もしも、そんな思想が
「それは……」
アニスの言っていることは、否定出来ません。
以前から私に対して都合の良い理想を見いだそうとする人はいました。その度に忠告をしてきましたが、あそこまで話が通じない相手は初めてでした。
私自身、失望を感じなかったと言えば噓になります。こんな人たちのせいでアニスが苦しめられていたのかと思うと怒りすら覚えました。
でも、アニスなら。それでも何とかするのではないかと思ったのです。そう思ってしまえば私だって堪えざるを得ません。
……だから、わかっているのです。アニスが諦めてしまいたいという気持ちを。
でも、それを認めてしまったら……私はどうすれば良いんですか?
「私が侮辱されたのは、むしろ都合がいい。私が全部、始末すればいい。ユフィを悪者にしなくて済む。私に
「そんなことを言わないでください! お願いですから、落ち着いてくださいアニス! 貴方は今、冷静さを失ってるんですよ!」
「──じゃあ、このまま黙ってろって言うの!?」
空虚に熱が
アニスの感情に反応したのか、ドラゴンの魔力の気配がします。それは強烈なまでに噴き出て、空気を震わせました。まるで空気そのものが悲鳴を上げているかのようです。
そんな中でアニスの瞳が徐々にドラゴンのものへと変わっていくのが見えました。いけない、これは本格的に我を忘れ始めています……!
「私がコケにされるのは、まだいい。長い間信仰されてきた精霊信仰において私は失格と言われてもおかしくない存在だ。そこはどれだけ功績を重ねても、
ギリッ、と歯を嚙みしめる音が鈍く響きました。今にも唇を嚙み切らんばかりの勢いでアニスが
「でも、ユフィを利用して思うままにしようとするのは許せない。しかも、ユフィが不調になった原因? そこまでされて! 私にこの怒りを抑えろって言えるの!?」
「それは……でも! それでも私は、貴方のそんな姿は見たくないのです!」
「私も、ユフィにこんなことになって欲しかった訳じゃない」
「アニス!」
あぁ、どうすればいいのでしょうか。何の手立ても思い浮かばず、涙が浮かんできました。アニスを止められなかったら、私は……!
──そんな中、アニスが
「頭を冷やしなさい、アニスフィア」
「リュミ!?」
いつから部屋にいたのか、いつもの神出鬼没さでリュミが立っていました。
アニスの気が
「酷い顔ね、アニス。今にもこの国を滅ぼしそうな顔してるわよ、貴方」
「……だから何?」
「そんな怒りを撒き散らしてたら部屋の外にいる人たちも気付くわよ? 貴方の今の様子を見たらどんな
「……うるさい、そんなことわかってる!」
「えぇ、貴方は馬鹿じゃないもの。普段だったら気を配れるでしょうね。それなのに出来てないじゃない。つまり冷静じゃないってことよ」
「冷静になんてなれないよ! だって、ユフィが……!」
今にもリュミに嚙みつきそうな勢いでアニスが言い放ちます。すると、リュミが目を細めてから
「ユフィが大事だと言うなら、
「突き放してなんか……!」
「じゃあ、ユフィリアの顔を見なさい」
リュミに指摘されても、アニスは私の方へと視線を向けませんでした。その代わりに拳を握りしめながら俯いてしまっています。
それを見たリュミは腕を組み、
「ほら、ユフィの顔が見られないでしょ? 自分が見せられないような顔をしていることを自覚してる」
「……うるさい」
「少しは周りが見えた?」
「うるさい!」
「そうねぇ、
「……くっ!」
「黙って欲しいのなら口出しされないように振る舞いなさい。出来ないから言われるのよ。まずは深呼吸でもして落ち着きなさいな」
リュミの言葉を受けて、アニスは何も言い返せないまま口を閉ざしました。
それからアニスは大きく深呼吸をしました。その度に空気を震わせていた怒りが静まり、静寂が戻ってきます。
ようやく静かになったところで、リュミは満足げに
その顔には、母性を感じさせる満面の笑みが浮かんでいました。
「よく出来ました」
「……」
「落ち着いたのなら、ユフィとちゃんと話し合うことね。貴方たちはお互いに大事に思い合ってるんでしょ」
「……」
「アニスフィア。別に怒るな、なんて言わないわ。でも、一時の感情で
「……わかってる」
「そう、ならユフィとゆっくりすることね。貴方も急いで王都に戻ってきて疲れてるのよ。お互いに甘え合いなさいな」
そう言ってから、リュミは手をひらひらと振りながら部屋を退室していきました。
閉じられた扉を
アニスはやや俯きながら
それでも今のままでいるのはもっと嫌なのです。意を決してアニスに声をかけようとしたところで、彼女は私の方へと倒れ込むように寄ってきました。
「……アニス?」
アニスは何も言いませんでした。ただ、私を抱きしめながら震えています。
私はそれから何も聞かず、アニスを抱きしめ返しました。私が抱き返すと、一瞬アニスの身体が震えました。それに気付いてないフリをしながら、互いに抱きしめ合います。
どれだけそうしていたでしょうか。ぽつりと、アニスが口を開きました。
「……ごめん。頭に血が上ってた」
「仕方ありません。立場が逆だったら、私も同じように怒っていました」
「……ユフィに、申し訳なくて」
「私は大丈夫ですよ」
「大丈夫だって、そう言わせてしまってるんじゃないかって
「……そんなこと」
ない、と言おうとしたところでアニスの身体が震え始めました。握る手の強さが縋るように強さを増して、更に距離が密着します。
アニスの顔は見えませんが、まるで泣いているかのようです。
「このまま一生、ユフィの感覚が戻らなくなってしまったらどうしようって……そうなる前に、もう全部終わらせちゃおうか、なんて思っちゃって」
「……私のせいです、ね」
私が弱ってしまったから、アニスはそう思ってしまった。彼女を前後不覚にさせてしまうだなんて、それが私にとって何よりも辛い。
彼女に望まない選択をさせないために、私は精霊契約を望んだのに。なんて
けれど、そう思うことすらもアニスは気にしてしまうのでしょう。
アニスは顔を上げないまま、首を小さく左右に振りました。
「ユフィに自分が悪いって思って欲しくない」
「ですが……」
「ユフィは被害者なんだ。悪いのはユフィじゃない。それなのに、どうして自分が悪いだなんて思うの?」
納得がいかないと言うようにアニスが顔を上げる。やはり、その頰には涙が伝っていました。
「相手の言ってることは言いがかりのようなものだし、身勝手だし、受け入れられないよ。それなのに受け入れられなかったことを自分が悪いみたいに考えないでよ」
「……それを貴方が言うんですか? アニスだって、自分が悪いんじゃないかってずっと飲み込んできたじゃないですか」
私なんかより、アニスの方がずっと辛かった
それなら、私だって耐えなければいけない。アニスにこの苦しみを負わせないために、私はこの道を進むと決めた。けれど、それが結局アニスを傷つけてしまっています……。
「……逆の立場になって、初めてわかった。理解したつもりになってた。でも、わかってなんかいなかった。こんなの、耐えられないよ」
「アニス……」
「自分のことなら、まだ我慢出来る。だけど、大事な人が苦しんでて、でもそれを無理にでも飲み込もうとしてるなんて、どうにかしたくなっちゃう。何も出来ることなんてなくて、何も望まれなくて、自分が嫌になりそうになる……」
アニスはまた私に顔を
「お互い様、ですよ。お互い様だから……人は支え合うんだと思います。私がアニスを心配するように、アニスも私を心配してくれてたんですね。だから怒るし、納得がいかないし、相手に気持ちが通らなかったら苦しくなって、何かしなきゃいけないって気が
「うん……」
「アニスのことを私は責められません。怒ってあげられません。だって、
「……ごめん」
「ありがとう、アニス」
「ごめんね……!」
「私は、大丈夫ですよ」
「うぅ、うぅっ……! ごめ、ごめん、ごめんねぇ……!」
震えながら、アニスは何度も謝ってきました。その声があまりにも幼くて、迷子の子どものように思えて仕方ありません。
「不安だよね、怖いよね。人でなくなっちゃって、普通からどんどん離れていくなんて、そんなの平気じゃないのに……!」
「アニスも、そうじゃないですか」
「自分が我慢出来るからって、同じ我慢をユフィにさせたかった訳じゃない……!」
「そうですね、私もそう思います」
「全部、自分に返ってくるんだ……! ユフィにどんな思いをさせてきたのか、わかってしまうから……! こんなにも今、苦しいんだ……!」
こんなに泣いているアニスは、アルガルドがいなくなって王位継承権を復権させた時以来でしょうか。
それを思えば、本当に申し訳ないと思います。けれど、それなのに私は頰が緩んでしまいそうになるのです。
「ごめんなさい、アニス。……泣きたくなってしまいそうな程、嬉しいって思ってしまうんです。貴方が私を
「私も、ユフィにたくさん想って
「幸せですね」
「……幸せだから、辛いんだよ。夢なんか見なきゃ良かった。私の夢がユフィを壊してる。そんなことを考えたら貴方を傷つけるってわかってるのに、そう思う気持ちが止められないんだよ……!」
「……そんなこと、思わないでいいんですよ」
「じゃあ、だったらこの
アニスは声を震わせるけれど、私は何も言えません。
だって、それを言ってしまえば私だって同じ思いに
アニスを傷つけてきた人たちを、アニスを傷つけ続けるこの国をなんで守らないといけないんですかと。
そんなこと、口にすればアニスを傷つけるとわかっているから言えないだけで。
「わかってる、わかってるんだよ……それでも、私は嫌なんだ……」
「……そうですね」
「いつか、ユフィが言ったよね。自分だけが傷になればいいって」
「……そんなことも言いましたね」
「私も同じことを思った。ユフィを傷つけるのは、私だけでいいって。ユフィは、どんな思いでそう言ってくれたの……?」
「……アニスには自分らしさを失って欲しくなかったんです。
私がそう言うと、アニスの目の潤みが一層増してしまいました。
ボロボロと大粒の涙が
「私の諦めが悪いから、色んなものを失ったって思わないの? それが嫌だって思わないの? 本当に後悔してないの?」
「そんなこと思えないですよ。それは私が望んだ自分の存在意義への裏切りですから」
「私がユフィに選ばせちゃったんだね」
「えぇ、貴方が選ばせてくれたんです」
「……呪いみたいだ」
「私には祝福でしたよ」
「でも……」
「アニス、大丈夫ですよ」
「……何が」
「私たちは、魔法という祝福を呪いにしないために誓い合ったじゃないですか。お互いに思い合っていれば必ず乗り越えられます。そのために手を取り合ったんです」
アニスの手を取って、指を
「苦しくなったら支え合いましょう。私たちは、そうするべきだった」
「……ユフィ」
「ごめんなさい、貴方を苦しめるぐらいなら真っ先に貴方を呼べば良かった。苦しくて、怖いって言えば良かった。素直に甘えれば良かった」
「……そうだよ」
「……怖かったです。自分が、抑えられなくて、貴方の夢を、壊してしまいそうで」
「馬鹿……! 私の夢なんかより、自分のことを大事にしてよ……!」
「アニスだって、じゃあ私のために西部を滅ぼすようなことなんてしないでください」
「それじゃあ、この憤りは晴れないままじゃない……!」
「……えぇ、苦しいですね。ただ思うままに振る舞えたら、どれだけ楽なんでしょう」
でも、私たちはその道を選ぶことはないのでしょう。互いの夢や想いが、互いを縛り付ける限り。
それは呪いのように思えるかもしれませんが、私は間違わないための祝福なのだと思いたいのです。
「私たちは自分で自分を戒めようとする誓いを立ててしまう。そうでもしないと、この腕から零れてしまいそうな程に大事なものを多く抱えてしまったから。それがとても大事だから、どれだけ苦しくても受け入れられます……」
「そう、だね……!」
「それすらも壊してしまえば、楽になれるかもしれません。それでも壊したくないから、傷ついてでも抱えようとしてしまう。……苦しいですね。それでも、私はそれで幸せなんですよ、アニス」
「……ッ、ぅぅ、ぅああぁぁ、あぁぁあああっ、ぅっ、ぁぁああああ──ッ!」
アニスが声を震わせて泣いている。彼女を抱きしめる私の手も震えてしまっている。
それから私たちは何も言わずに、互いに震える
嵐が過ぎ去るのを待つ子どものように、互いに抱え込むように顔を伏せながら。