四人の異世界生活


「ねぇ、アオイ姉ちゃん。今日の戦争もすごかったね。私も早く前線で活躍できるようになりたい」

「えぇ、そうね。私たち四人ももっと頑張らないと。やっと一次職が終わって二次職になったばかりだからね」

「うんうん、もっと強い魔法覚えてドバーって敵を倒したい」

「私も早く影分身のスキルが欲しいで……ござる」

 オンラインゲーム『PWO(パンデミック・ワールド・オンライン)』の戦争が終わり、シファンシー皇国のギルドホールは人であふれていた。

 戦争の後は、多くの人が反省会や慰労、そしてレベル上げの狩りのメンバー集めを目的として集まっていた。

 アオイ、サキ、アユミ、シノブの四人は同じテーブルを囲む。

 四人はアオイとサキが姉妹、アユミとシノブはアオイの高校の友達であった。最初は三人で始めたゲームであったが、高校受験が終わり、アオイたちと同じ高校に入学が決まったサキが合流してきたのだ。

 アオイは回復術師プリーストの二次職である上級回復術師ハイプリースト

 サキは戦士ウォーリアーの二次職、剣闘士グラディエーター

 アユミは魔法術師マジシャンの二次職、魔術師ウィザード

 シノブは盗賊シーフの二次職、暗殺者アサシンであった。

 比較的レベルが上がりやすいゲームではるが、一次職上限はレベル、二次職は、最終職はレベル1000と最後までレベルを上げるには途方もない労力と課金が必要となる。

 四人もそれなりに頑張ってはいるが、二次職でレベルもまだ未満であり、廃人ゲーマーたちに勝てるはずもない。

「それより、早く狩りに行こうよ。明日は休みだし、二四時くらいまでなら頑張れるから!」

「もう、サキったら。怒られてもしらな──」

 その会話の途中で四人の視界は真っ白に染まった。



「あれ……。さっきまでギルドホールにいたはずなのに、なんでこんなところに……?」

 見渡す限り草原の中、アオイが目を覚ます。すぐに近くに倒れていたサキたちに近づいた。

「ねぇ、みんな起きて」

 アオイの声にサキ、アユミ、シノブの三人が次々と目を覚ます。

「……あれ? なんでこんなところに?」

「なんか、違和感が……」

「うん? おはようで……ござる」

 四人は草原で目を覚まし、円を囲むように座り込んだ。

「ねぇ、ちょっと確認なんだけどさ……」

「サキ、どうしたの?」

「あのさ……手に……地面の感触が……あるんだけど……?」

「「「!?」」」

 三人は目を大きく見開き、自分たちで草を引きちぎったりして、自分で感触を確かめていた。

「ほ、本当だ。もしかして……これってうわさに聞く──異世界転移ってやつ!?

「どうしよう。私たち帰れなくなっちゃったの? アオイ姉ちゃん……」

「リアルコスプレ……うふふ」

「ちょっと整理しましょう。もしかしたら……ステータス」

 アオイがステータスを唱えると、目の前には透明な板状のものが表示され、そこにステータスが記載されていた。

【名前】アオイ 【種族】人間族 【性別】女

【年齢】17

【種族】上級回復術師ハイプリースト

【レベル】

【特殊スキル】鑑定 次元収納ストレージ

【魔法】回復魔法

「す、ステータスが見える……」

「え、ほんと!? 私もやってみる」

 四人は各自、自分のステータスを開き、見入った。異世界へ転移したという混乱と、PWOの世界にいるという興奮がせめぎ合っている。

 数分ほど沈黙のまま自分たちのステータスを確認していると、アオイが一つせきをする。

「みんな確認できたね。このままこの場にいても仕方ないと思うの。できれば街を探してそこで同じように転移した人を探したい」

「私はアオイ姉ちゃんと同じかな。この場にいても仕方ないし」

「えぇ、私も同じでいいわ」

「同じ意見でいいでござる」

 四人は立ち上がり、向かう方向について考える。四人が立っている場所は四方に草原が広がっているだけだ。

 遠くに山などが見えるが、それは歩いてもかなりの距離になる。

 サキは剣をさやから抜き、本物の剣を見て目を光らせる。そして一方向に剣を向け叫んだ。

「よし、向かう先はあっちだー!」

「まったく……」

 やれやれと、先を歩くサキに三人はついていく。

「あっ」

 そこでアオイが足を止めた。

「どうしたアオイ?」

 不思議そうにアユミが尋ねると、アオイは思い出したかのようにつぶやいた。

「私たちって……。この職業だけど、魔法なんて……どうやって──使えばいいの?」

 全員がその言葉に気づいた。

 今まではゲームだったので、キーを押したりすればその通りに動いてた。しかし、ここは──現実。

 自分で考えなければならない。

「──この場で練習しましょう」

「「「うん!」」」

 アオイの提案に全員がうなずいたのは言うまでもなかった。



 二時間ほど自分のスキルや魔法を確認するのに費やした。

 自分の次元収納ストレージに入っているアイテムに関しても、一度取り出して確認も行った。

「PWOと魔法もスキルも一緒ね。これなら記憶にあるから問題なく使えそう」

「うん! リアルで剣の衝撃波が出るのにびっくりしたっ!」

「アオイが魔法使い……。まさか本当に魔法を使うことができるなんて……」

「私は……くノ一。にんにんで……ござる」

「それにしても、スタミナ回復のアイテムがそのまま食事になるなんて……何も食べられないと思っていたわ」

「それはわかる! パフェ、最高に美味おいしかった」

 アユミはアイテムで取り出した食事だけでは飽き足らず、チョコレートパフェを出すと同時に食いついた。

「これで少しの間は問題なさそうね。あとは、街でこのお金が使えれば当面の生活には困らないはず。言葉が通じるかすらわからないけど……」

 アオイは手のひらに次元収納ストレージから取り出した硬貨を確認し、また次元収納ストレージへと戻す。

「PWOと同じ世界なら魔物も出てくるはずでござる。気配察知のスキルがあるので任せるのでござる!」

 先頭にシノブが立ち、道のない草原を不安を抱えながら歩き始めた。

「それにしてもシノブはいつまで『ござる』をつけるつもりなのかね……」

 最後尾のアユミはつえを抱えたまま呟いた。


「魔物の気配! 右のほうから来る! 数は三!」

 一時間ほど歩いたところで唐突に叫んだシノブの声に三人は各自武器を強く握りしめ、指さす方向をにらんだ。

 いくらゲームで魔物と戦っているとはいえ、実際に魔物を目にするのは初めてだ。恐怖でサキの剣先は震えている。

 草むらが揺れ、そこから現れたのはフォレストウルフ。鋭い牙を見せながらゆっくりと近づいてくる。

「これはフォレストウルフ! まだ最初の頃に戦った魔物だ!」

 弱い魔物だとわかったサキは少しだけ余裕を取り戻す。

「私が先に魔法でけんせいするわ! ファイヤーボール!」

 アユミの詠唱によって杖の先から現れたバスケットボールほどの火の球がフォレストウルフへ勢いよく飛んでいく。

 一頭のフォレストウルフは悲鳴をあげてそのまま息絶えた。

「私も!」

 サキが剣を振りかぶり、襲い掛かってくるフォレストウルフを一気に一刀両断した。

 残る一頭はかなわないと思ったのか一目散に逃げ出していくが、その後ろからシノブが投げた短剣がそのままフォレストウルフの身体を貫通して地面に突き刺さった。

 最後の一頭が絶命して初めての戦闘が終わる。

 全員が大きく息を吐き、地面に座り込んだ。

「終わったー! やった! 勝てた! 私たち勝てたよっ!」

 寝ころんだサキが空に向かって大声で叫ぶ。

「ほんとだね。私たちきっとやっていける」

「あれだけの威力がでてた。多分私たちは強い……でござる」

 四人は少し休憩した後に立ち上がり、再度歩き始めた。

 二時間ほど歩くと整備された道にぶつかった。

「道があった。これで街に行けるはず。あとはどちらに行けばいいかだけど……」

「それは剣が決める!」

 サキは剣先を地面に突き立て、倒れたほうを指さす。

「方向はあっちに決定!」

「まったく……」

 陽気なサキにアオイはため息をつく。

 そして四人は道を歩き始めた。


 途中、数十所帯程度の村を見つけ、言葉が通じることに四人は歓喜し、国を聞いてPWO時代に所属していたシファンシー皇国であったことにさらに喜び、皇都までの道のりを村長から教えてもらった。

 親切に教えてくれた村長宅に一泊させてもらい、お礼に金貨を一〇枚渡したら驚かれた。

 四人の所持金にとっては大した金額ではなかったが、この世界では銅貨や銀貨は使うが金貨は高額なので使うことは少ないと教えられる。

 それでも親切にされたのでと手渡したら、村の宿に宿泊していて皇都に向かっている商人を紹介してもらうことになった。

 商人は馬車一台で護衛はいないとのことで、護衛を引き受ける代わりに馬車に乗せてもらうことにする。

 街道はほとんど魔物が出ることはなく、皇都から近いこともあり、定期的に依頼を受けたようへい団が巡回し魔物や盗賊団の対応をしているので治安が良いことを教えてもらった。

 若い女の子四人に囲まれた商人も口が軽くなり、皇都の情報を仕入れることができた。


 村を出発してから二日間、何事もなく皇都に到着した。

 身分証明書を持っていない四人は、皇都では傭兵ギルドがいいと商人から教えてもらっていた。

 入国料として銀貨を支払い、皇都に入ったところで商人と別れた。

「無事に着いたね。まずは宿を探してから商人さんから教えてもらった傭兵ギルドに行きましょうか。身分証明書は今後必要ですし」

「そうだね。私たちの持っているお金がそのまま使えるのはよかった」

 商人にいくつかの宿を聞いてあったが、四人部屋が空いている少し高級な宿をとることにした。商人からも女性だけなら大通りにある少し高級な宿のほうが安全と聞いていたからだった。

 やはり未成年の四人にとっては安全が最優先だろう。

 魔物との闘いは道中経験したが、それが対人だったら同じようにできるとは思っていない。

 しかし、これから先、生きていくのに、この世界は戦いが必須であることは全員理解していた。

 それでもこの世界の常識を完全に理解していない四人にとって一番必要なのは安寧であった。

「休憩もそろそろいいでしょう。傭兵ギルドに行きましょうか」

「うん! そうだね。ついに傭兵デビューかぁ」

「私たちでできるのか少し心配だけどね……」

「何とかなるで……ござる」

 四人はカウンターへと向かい受付嬢の前に立つ。

「いらっしゃいませ。傭兵ギルドへようこそ。ご用件をお伺いいたします」

 受付嬢は営業スマイルを浮かべながら四人に声を掛けた。

「あの、四人とも新規登録したいのですが……」

 代表してアオイが言うと、受付嬢は引き出しから四枚の紙を並べた。

「新規登録ですね。四人でいらっしゃいますし、どこかの傭兵団にご加入予定でしょうか?」

 アオイたちは異世界へ転移したという事情から、他の傭兵団に加入するつもりはなかった。この世界のシステムはわからないが、それでも四人で頑張っていこうと考えていた。

「いえ、四人でクランを組むつもりです」

「……そうですか。少人数ですと限られた依頼しか受けられませんが、必要に応じて他の傭兵団と連携することをお勧めいたします」

「ありがとうございます。相談してみます」

 四人はその場で用紙を受け取り内容を記入していく。

 記入する内容は大したものはなく、名前、年齢、性別、職業、得意分野程度であった。

 日本語で記入しても、この世界の言葉に書き換わるので特に問題もなく書き終わり、まとめて受付嬢に提出する。

「それではクラン結成の申し込み用紙になります」

「ありがとうございます。あっ……クランの名前はどうする……?」

 実際に四人はクランの名前について何も考えていなかった。

「どうしよっか。わいい名前で!」

「でも、同じように転移者がいればわかってくれるような名前がいいんじゃない?」

「和風にすればいいでござる」

「「「「うーーん」」」」

「……私もあと少しで高校生になる予定だったし、『ハイスクール傭兵団』とかどう?」

「他に案はなさそうね……。同じ転移者が聞いたらわかるだろうし、それにしましょうか」

「「「はーい!」」」

 アオイが代表してクラン名を書き込み、メンバーを加えていく。

 書き終えた紙を見直して、アオイは大きく頷いた。

「それでは出しに行きましょう」

 四人は先ほど話した受付嬢のところへ用紙を提出した。

「はい、ありがとうございます。それでは『ハイスクール傭兵団』で登録しますね。身分証明書もクラン名を記入して発行しますので呼ばれるまでお待ちください」

 受付が済み、四人は呼ばれるまで待合場所で座って待つことにした。

「まずはどんな依頼があるかとか、この皇都の情報も欲しいですね。歩いてきた感じだと、PWOと同じような感じですが、こちらのほうが圧倒的に広いですし」

「確かにそうだよねー。ゲームには民家なんて簡単なオブジェクトでしかなかったし。かといって、異世界お決まりの酒場で情報収集! って言いたいけど、私たち未成年だからな……」

「異世界の成人は一五歳が基本でござる」

「かといって、お酒なんて飲んだことないでしょ?」

「「「確かに!」」」

 四人はゲームだけではなく、元いた世界で異世界系のライトノベルも多く読んでいた。冒険モノ、悪役令嬢モノ、または追放モノまで。

 妹のサキも姉の部屋にある本の影響を多大に受けていた。

「これがまさに現代社会からの──追放モノだったりして」

「「「ぷっ」」」

 サキの一言に思わず三人は吹き出してしまう。

「そんなことより呼ばれているよっ」

 カウンターから声が掛かり、四人は受付へと向かった。

「お待たせいたしました。それでは四人の身分証明書になります。クラン名も書かれておりますが、ハイスクール傭兵団、ランクはFに登録してあります。ランクは応じた依頼の達成率、組織規模などを考慮して決定しており最初はFランクからのスタートとなります」

 新しいカードをそれぞれ受け取り、自分の名前を確かめる。互いに見せ合ったり盛り上がっていると、後ろから声が掛けられた。

「おい、新人か? それにしても全員女とは……。どうだ? 俺たちの傭兵団に所属しねーか? 何でも手取り足取り教えてやるぜ」

 大柄のスキンヘッドの男で、筋肉が隆起し大きなおのを背中に背負っていた。その後ろには同じ傭兵団であろう数名が立っている。

 しかし、そんな掛けられた言葉に四人はギルドカードに夢中で気づいていなかった。

「おい……。お前ら無視するつもりか? 新人だからって容赦はしねぇぞ? 一晩中仕込んでやろうか?」

「「「「ぎゃはははっ!」」」」

 再度、掛けられた言葉と下品な笑い声にやっとサキが気づいた。

「……ん? このおじさん何か言ってるよ、アオイ姉ちゃん」

「……サキ、どうしたの?」

 アオイはもらったカードに夢中で、視線はまだカードのままだ。そんな態度に男は怒りで顔を赤くする。

「……おい。いい加減にこっち見ろ!」

 男がアオイに手を伸ばすが、その腕をサキが前に出てつかんだ。

「何しようとしてるの?」

 サキが睨みつけるが、体格が優位な男は力任せに腕を振りほどこうとする。しかし、サキの力が勝っていたのか腕は動くことはなかった。

 次第に男の手は変色していく。男は冷や汗をかき始めた。

「うぐぐぐ……離せっ! この小娘っ!」

 振りほどこうとする男の腕をサキが手放すと、勢い余って男はしりもちをついた。

 男はまだ力が入らないのか、右腕をかばうように後ずさり、逃げるようにギルドを去っていった。

「あの人はどうしたの?」

 今さらながら気づいたアオイに思わずサキはため息をついた。


 依頼をいくつか確認した四人は宿へと戻って今後の方針について話し合うことにした。

「依頼は簡単なことから始めていきましょう」

 アオイの言葉に三人はあいづちを打つ。

「四人だから受けられるものは限られちゃうしね!」

「四人いれば十分でござる」

「とりあえず明日、依頼を受けてみましょう」

「そこらへんはアオイ姉ちゃんに任せるよ」


 この世界に転移したばかりの四人はまだ自分たちの強さを理解していなかった。

 先ほど傭兵ギルドで絡んできた男もBランクで皇都でもそれなりの有名な男であったが、四人は理解していない。

 たとえゲーム時代に低レベルの部類に扱われていたとはいえ、この世界では十分に通用する四人であった。

 次の日から始めたクエストにおいて、四人は請け負ったクエストは全て完遂し、高評価が続くことになった。

 Fランクから始めたが、ひと月が経過する頃にはCランクに上がっており、皇都でも新鋭クランとして名前が通るようになっていた。

 特に美少女なのに強いということで、他クランからの勧誘も多く、中には下心を持った者も現れたが簡単に四人に撃退されていた。

 他クランとの合同依頼を受けることは勉強になるからとギルドから勧められ、いくつかの特定クランとのみ付き合うようになって四人はさらに成長していく。

 しかも皇国ではAランクに分類されている上位クランとの合同依頼においても無類の武力を発揮し、ますます名声は高まっていった。

 そんな中、大手クランから一つの依頼を頼まれた。一〇〇人ほどの大手傭兵クランからの依頼に四人は首をかしげたが、内容が内容だけに真面目に聞き入った。

 〝ルネット帝国から秘密裏に非合法なものがシファンシー皇国に持ち込まれようとするのを阻止したい〟と。

 アオイはメンバーと相談し、依頼主が身元がしっかりとしたジェネレート王国の貴族だったこともあり助太刀することを決めた。

 それと同時にやはり非合法という言葉に正義感が働いたためだった。

 数日の準備の後、四人は大手クランと合流し皇都を出発する。

 迎え撃つ場所はすでに決められており、大人数でその場所へと向かった。

 現地では馬車を検問するために街道の両端に陣を取り、目的の馬車を迎え撃つことになる。

 四人は馬車で休憩しながら話し合うことにした。

「それにしても、これだけの人数が必要なんて相手はどんな大規模な密輸組織なんでしょう」

「密輸組織って言葉を知っているアオイがすごい」

「その前に密輸組織ってこんな大人数で捕まえるものなの……?」

「戦闘が前提に考えられているので……ござる」

 元の世界であってもこんな大人数が集まることなど聞いたこともない。

 しかし、この世界では素直に捕まるとは限らない。武力行使による鎮圧などよくあることなので自然と大人数が集まることが多い。

 人数が五分五分であれば犯罪者は争ってでも逃げようと思うが、絶望的な人数差があればきっと相手も諦めるだろうと思われていた。

 自陣が人数をそろえていればにんを減らすことにもなるし、今回の依頼に関してはジェネレート王国の貴族からなので依頼料も多い結果、これだけの人数を集めることができたのだ。

 待ち受けること半日で、遠くまで斥候に行った傭兵から合図が上がった。

 四人がテーブルを囲みながらお茶を楽しんで待っていると、連絡係の傭兵が四人に駆けていく。

「おい、来たぞ。俺たちが相手をするから、もし何かあったら頼む」

「はい、わかりました。出番がなければいいのですが……」

「いよいよ出番だね。魔法でドパーッとやれればいいんだけどなぁ」

「アユミもそんなこと言って……。あなたの魔法はただでさえ他より大規模になるんだから使えるわけないでしょう」

「そうでござる。ここは私とサキの二人で対応するつもりでござる」

「シノブちゃんも『ござる』が板についてきたよね」

「「ぷっ」」

 サキの言葉でアオイとアユミの二人が吹き出した。

「そんなことないで……ござる」

 少しだけ恥ずかしそうにしたシノブが席を立つ。それに合わせて他の三人もそれぞれの武器を持って立ち上がった。

「それじゃ、行きましょう」

「「「おうっ!」」」

 三人は自分たちの陣営に向かってくる馬車を迎えるために、傭兵たちの集まりの中に向かっていった。


 馬車から三人が出てきて、クランの団長と話し始めたが集団の最後尾にいた四人には話の内容は聞こえていない。

 しかし途中、クランメンバーの笑い声が響き渡り、その次に男性の悲鳴が聞こえてきた。

 四人は武器を持つ手に力が入る。

 そして予想外に大規模な魔法が最前列にいる傭兵たちを包み込んでいく。

「魔法使いがいる? それにしても、かなり高レベルじゃないとこんな規模の魔法なんて出せないよ。それなりに強いのかな?」

 四人はこの世界に来て時間がち、周りのレベルを知っている。

 レベルを超える者はおらず、せいぜいレベル50程度で、しかも全員が一次職である。

 だからこそレベルを超える四人にとっては気持ちに余裕があった。

「もう前に出ましょう。サキ、シノブ頼んだわよ」

 アオイの言葉に二人が頷く。

 四人が倒れている傭兵を避けるように前に出ていくと、集まった傭兵の半分がすでに倒れていた。

 しかも団長と一人の青年が戦っている。

「おお、あんな大きな剣を簡単に振り回すとかすごいね。まるで狂戦士バーサーカーみたい」

「どんなに強くたって、サキには勝てないでしょ?」

「それはもちろん。レベルが違うからね」

 アオイとサキの二人が話している間に勝負はついた。

 青年の一言で他の傭兵たちはおじづいている。

「みんな行こう」

 アオイの後を四人がついて前に出る。他の傭兵たちを見まわしたが、傭兵の表情を見たアオイは思わずため息をついた。

 完全に恐怖に飲まれていると。

「あれあれ。一人にこれだけの傭兵団が怖気づいちゃうんだ~?」

「サキちゃん、そんなこと言わないの。みんながおびえてしまうでしょう」

 感じたことをそのまま口にしたサキをアオイがたしなめる。

 だが、たった一人にこれだけの人数が怖気づいたことに、普段温厚なアオイでさえ毒を吐きたくなる。

「わかったよ、アオイ姉ちゃん」

「アオイが一番お姉さんっぽい。キレたら一番怖いけど……」

「──アユミ……後でわかっているわよね?」

「あーやっぱり怖いっ」

 緊張感のない四人の登場にバスターソードを構えた青年──トウヤもぜんとしていた。

「それにしてもお兄さん強いね。この傭兵団じゃ、全員でかかっても勝てるでしょう? まったく、念のためってことで助っ人に来たけど、これは楽しみかもしれないね」

「魔法職で両手剣バスターソードを持つなんて、常識知らずもいいところで……ござる」

「それよりも、隣のビキニアーマーのお姉さんがわいですっ! もがなければっ!」

「アユミ、うらやましいからってそんなこと言わないの」

「くノ一には巨乳は邪魔なのでいらないでござる」

「シノブちゃん。だって、だって、あのボイーンですよっ! それを私たちに見せつけるようにっ!」

 四人の会話の内容に男性は苦笑している。

 ビキニアーマーの女剣士──ルミーナも四人の会話に首を傾げて男性に質問をしているが、その男性はあきれていた。

「それで、四人は助っ人ということでいいのかな? 戦うつもりなら容赦はできないけど……」

 男性の言葉にサキが一歩前に出てくる。

「女の子だからって甘く見ているでしょう? さっきも言ったように私たち四人はこの皇国でも最強と言われてるのよ。名前は──ハイスクール傭兵団」

「ブハッ」

 その言葉に男性は思わず吹き出した。

「なに笑っているのよっ!」

 笑われたことにいらったサキが剣先を男性に向けた。

「いや、悪い……。懐かしい名前につい思わずね……? 俺も自己紹介しておこうか。名前はトウヤ、今はルネット帝国で冒険者兼──侯爵をしている」

 この世界に転移して、それなりに世界のことを勉強した四人は、貴族階級についてもそれなりの知識があった。

 中世ヨーロッパと同じであり、階級についても熟知していた。

「……侯爵? 貴族なの? 冒険者なのに?」

 サキも貴族だとわかり思わず尋ねる。

「あぁ、帝国ではいろいろとあってね。それよりもこれを見てくれないかな?」

 トウヤはPWO経験者ならわかる黒くまがまがしいデザインと普通では持てないような二メートルを超える長さの両手剣バスターソードを取り出して地面に突き刺した。

「そ、その剣はっ! も、もしかして……」

 サキは戦士職であり、自分がレベル不足で持てない武器であっても今後のために知識として武器は知っていた。

「それにしても、ハイスクール傭兵団って……どこの──高校だい?」

「「「「……!?」」」」

 トウヤの言葉に四人は固まる。

 もしかしたら知っている人がいるかもしれない、という期待を込めた傭兵団の名前。

 それがこの場にいたのだから固まるのは仕方なかった。

「……少し待って。相談してくる」

 この人は四人と同じ転移者なのかもしれないと思ったサキは相談することにした。

「あぁ、わかった。好きなだけ話してこい。できれば交戦は控えたいしな」

 トウヤが頷いたので四人で円陣を組む。

「ねぇ、あの武器って……」

 アオイの言葉にサキが頷く。

「あれは、PWOでイベント配布用の武器だよ。攻撃力は皆無だけど、見た目だけは強そうでしょ? しかもあのイベントをもらえる人なら相当な高レベル。私たち四人で戦っても勝てる見込みなんてないわ」

「やっぱり……。私が一度確認してきていい?」

「うん、アオイ姉ちゃんなら上手うまく話ができると思うから頼んだ」

 四人は円陣を解き、代表してアオイがトウヤの前に出る。

「トウヤさんでいいんでしたよね。やはりトウヤさんは──PWOの……?」

「あぁ、この場で詳しくは言えないが、その通りだ」

「いくつか確認させてください。あの武器はイベント用だと記憶にありますが、あれは戦士職用のでは?」

「確かに。あの時は──狂戦士バーサーカーだったしな。たまたまこのアカでインしている時に呼ばれた」

 アオイは記憶に残っていた。

 狂戦士バーサーカーのトウヤといえば、毎週行われる対抗戦において最前線で戦っている有名なプレーヤーだった。

 所属している国は違うが、シファンシー皇国とも交友はあり、直接会話したことはないが酒場で話しているのを見かけたことは何度もあった。

「……もしかして、王国の狂戦士バーサーカーのトウヤ……? あの高レベルで有名な……」

 トウヤが頷くと、アオイの表情は引き締まる。

「もう少しお待ちください。みんな集まって」

 アオイたちは再度円陣を組んだ。

「聞いて……あのトウヤって人はPWOでジェネレート王国に所属していた狂戦士バーサーカーの人よ。多分レベルはを超えている。かなりの実力があると見ていいわ。だからこそ、冒険者なのに侯爵という貴族の地位にいるのだと思う」

「私もその名前は知っている。いつも最前線で戦っている人だよね?」

 アユミの問いにアオイは深く頷く。

「それにしても超えって……最上級の職業なら私たちじゃ相手にもならないんじゃ……」

「多分……瞬殺されるわ。あの人にその気があったらだけど……」

「どうしたらいいので……ござるか」

 アオイ、アユミ、シノブの三人は悩み始める。

「ねぇ、それなら同郷のよしみってことで、私たちも仲間になればいいんじゃない? 同じ日本人同士だし、面倒を見てくれるはずでしょ。しかも侯爵って貴族でしょ? 貴族っていうなら、もしかしたら家は豪邸かもしれないよ。宿屋暮らしから抜けられるかも。それに……もしかしたらリアルメイドさんとかもいたりして」

「「「メイド!」」」

 三人は貴族の生活をそれぞれ思い浮かべる。

 ドレスを着て、れいに手を入れた庭園でメイドにれてもらった紅茶を飲みながら優雅に会話を楽しむ。

 たるに入れたお湯で身体を拭くだけの宿屋暮らしの四人にとっては甘美な誘いであった。

「……あの人に下りましょう。そして、何をしてもついていってルネット帝国に同行しましょう」

「「うん」」

「それに、見た目も悪くないしね? 日本に帰れなかったらそのままお嫁さんにしてもらうのもありかも? そしたら侯爵夫人だよ」

 小説や漫画などで読んだ貴族の生活イメージを四人は思い浮かべる。

「決まりね」

「「「うん」」」

 アオイの言葉に三人は頷く。

 円陣を解き、代表してアオイがトウヤの前に立つ。

「私たちはトウヤさんに──ついていきます」

 アオイの言葉と同時に四人が深々と頭を下げる。

「……どういうこと?」

 アオイたちの言葉に驚いたトウヤだったが、アオイが言葉を続ける。

「詳細は省きますが、私たちはトウヤさんと敵対することはないです。勝ち目はないですし、私たちはトウヤさんのことを知っています。PWOで共闘したこともありますし。まぁ後ろから眺めていただけなんですけど」

「敵対しないのなら助かる。俺たちは護衛の依頼で皇都の商業ギルド本部に行きたいだけだしな」

「それでしたら、私たち四人もその護衛に加わらせてもらいます。私たちがいれば皇国の傭兵団は手出ししないと思いますし」

「それなりに有名なんだな?」

「えぇ、トウヤさんに比べれば低いですが、四人ともそれなりのレベルなので、そこらの男たちには負けませんわ」

「わかった。護衛の依頼料としては俺の懐から出すつもりだ。その他に要望はあるか?」

「それも後で詳細をつめさせていただけたら。私たちのホームも皇都にありますから、そこで話をさせてください」

 アオイが前に出てトウヤと握手をした。

 同郷のPWOプレイヤーに会えた安心感と、ついでに甘美な貴族の生活を想像しながら──。