帰還


 途中の街から助っ人に入った冒険者たちはすでに自分たちの街へと戻っていた。

 今回、この数日間の間に正式に商業ギルド本部とようへいギルド本部から改めて謝罪され、少なくない慰謝料が支払われた。

 大丈夫なのかと少し心配だったが、全てジェネレート王国に請求することを聞き、安心して受け取ることにした。

 ジェネレート王国としても、商業ギルドと傭兵ギルド、冒険者ギルド全てが王国から撤退すると脅されたら受けざるをえないだろう。

 実際に今回の事件については、シファンシー皇国としても許せる限度を超えていて、俺たちに支払った以上に慰謝料を取り立てると息巻いていたし、自業自得としか言えない。

 これに懲りて大人しくなってくれれば助かるのだが……。

 護衛の人数が減った分は、ルネット帝国に移住するアオイたちハイスクール傭兵団がルネット帝国まで護衛として入ることになった。

 それと同時に俺の侯爵としての立場が発覚してしまったせいで、護衛として働くことはできなくなってしまい、自分の馬車を次元収納ストレージから出し、コクヨウに引いてもらうことにした。

 御者台に乗りのんびりとコクヨウの馬車で進んでいるが、馬車の中からは女性特有のにぎやかな声が御者台まで聞こえてくる。

 俺を含めて探査サーチが使えるシノブがいるので魔物からの襲撃は問題ない。

 弱い魔物なら、コクヨウの気配を感じただけで逃げ出すから心配はしていないけど。

 アオイたち四人は俺の馬車でのんびりと休憩しながら道を進んでいる。

 あれ? そういえば俺って一応侯爵だよね? いつも御者をしている気がするが、コクヨウは俺の言うことしか聞かないから仕方ないか……。

 それにしても御者が俺で、傭兵団が馬車の中って……。

 気にしても仕方ないか。


 数日をかけ、国境を越えルネット帝国に戻ってきたのだが、一つだけ心配がある。

 窓から外を眺めながら騒いでいる四人だ。

「トウヤさん! もう少しで帝都に着くんですよね? 貴族の屋敷って楽しみだなぁ。お姫様みたいな生活にあこがれちゃう」

「ドレスとか着てみたいよね! ずっと傭兵の格好をしていたし。もしかしてお茶会とか開いちゃったりして!」

「そんなぁ、ドレスなんて恥ずかしい」

 こいつら、やはり屋敷に住むつもりらしい。

 確かに余っている部屋はいくらでもあるから問題はない。俺もそう言ってしまったし。

 まぁ養護施設で使っている建物もあるし、後で考えてもらえば大丈夫だろう。


 そして帝都が見えてきた。

 正門はいまだ復旧工事をしている。まぁ俺が壊したといっても過言ではないから後ろめたくもあるが、復興に向けての公共工事だと陛下も言ってもらったし、そのおかげで気も楽になった。

 入場するための列の横をコクヨウが引く馬車が通ると、全員が道の端に寄っていく。

 さすがに、このいかにも貴族の馬車で平民と一緒に並ぶことはできないから、貴族の特権を利用させてもらって優先的に入場させてもらうためだ。

「トウヤさん、あの門すごいですね! イタリアとかにある建物みたい! でもジェネレート王国との戦争であんなに壊れたんですか?」

…………そんな感じかな」

 正直にあまり言いたくないので言葉を濁すしかない。

 門に近づくと、衛兵が俺の姿に気づき、整列を始めた。

「キサラギ侯爵のお帰りだ。道を整理しろっ!」

 衛兵の一人が叫ぶと住民たちに道を空けるように指示していく。しかし、俺は〝救国の英雄〟として名が広まっているので、歓迎の声が響き渡り始めた。

 しかも俺は業者台にいるのでギャラリーからしてみれば格好の餌食だ。

 苦笑しながらも集まっている住民たちに片手を振りながら門をくぐっていく。

「それにしてもトウヤさんってすごい人気ですね」

 アオイが小窓から顔を出して俺に声を掛けてくる。

「まぁ、ジェネレート王国に占領されていたのを追い出すのに頑張ったからね……」

 言葉を濁しながら冒険者ギルドへと向かうことにする。

 冒険者ギルドに到着し、コクヨウと馬車を預けてからアオイたちを連れてギルドの中へと入る。受付でギルドマスターへの面会を頼んだら、そのまますぐに案内されることになった。

 先導してくれた受付嬢が扉をノックし、部屋の中から許可が出ると扉を開く。

「キサラギ侯爵、どうぞ中へ。すぐにお茶をお持ちいたします」

「ありがとう」

 お礼を言い、アオイたち四人を連れて中へと入る。

「おぉ。トウヤ、帰ってきたか。まぁ最初から心配などしていないけどな」

 相変わらずのグルシアの態度に思わず苦笑してしまう。まぁ気兼ねなく話せるからいいんだが。

「あぁ、今帰ったきたとこだ。道中でいろいろとあったが、あちらから書状を受け取っている。冒険者ギルド宛と陛下宛だ。商業ギルドには別で送っているはずだ」

 次元収納ストレージから冒険者ギルド宛の手紙を取り出してグルシアに手渡す。

「また、派手にやってきたんだろ? しかもそこのべっぴんの姉ちゃんたちまでお持ち帰りしてきて……」

 グルシアが俺の後ろに並んでいるアオイたち四人を見渡してから、手紙を開け始める。

 四人にソファーに座るように指示し、俺も空いている席に座る。

 じっくりと書状を読んでいたグルシアがそのままテーブルに投げて、あきれたように大きなため息をついた。

「──また派手にやってきたんだな……。しかも予想以上に……。それにしてもジェネレート王国も完全に落ち目になるな、これは……」

 グルシアの言葉に無言でうなずく。商業ギルド本部を敵に回し、シファンシー皇国の傭兵ギルドもきっと敵になるだろう。ルネット帝国への賠償金も増額され、さらに商業ギルドからも賠償請求がいくことになる。

 大国だとしても痛い金額だ。まぁ、自業自得だから同情の余地もないが。

「それで、その四人のことも書いてあるが、移籍手続きでいいのか? 便宜を図ってくれと書かれていたが」

「あぁ、それで構わないだろう? 四人ともカードを出してくれ」

「「「「はいっ」」」」

 俺の言葉に四人が返事をしてカードをグルシアに手渡した。

 グルシアが四人に視線を送ったあとにカードのランクを確認し、少しだけ悩んだような表情をした。

「Cランクならそれなりの実力だろう、まだ若いが……。実際どれくらい使えるんだ?」

「実力で言ったら……。俺の──次くらいか?」

 実際にレベルがを超えているし、そこらの冒険者に絡まれても負けることはない。それは魔物に対してもだ。

 武器についても魔法の技術に関しても、ここの世界で暮らす冒険者たちが束になってもかなうことはない。

「──そこまで使えるのか……。よし、わかった。俺の権限でBランクに昇格させておく。それで様子を見て、使えるならAランクにすぐに上げるように手配する。それでいいか?」

 Bランクなら下手に絡まれることもないだろう。

 グルシアが机に置かれた鈴を鳴らすと、すぐにノックされ受付嬢が入ってくる。

「ここにいる四人の移籍手続きだ。案内してやってくれ。全員Bランクに昇格させて構わない」

 受付嬢はグルシアの言葉に少し驚きの表情をするが、すぐに頷く。

「では、ご案内いたしますのでこちらにどうぞ」

 俺が頷くと四人は受付嬢の後を追って部屋を出ていく。

 俺と二人だけになったグルシアはいきなり、ゴソゴソと棚をあさり酒を取り出した。

「最近忙しくて飲んでる時間もなかったからな。トウヤもいくか?」

 自分のグラスにコトコトと酒をいでいく。

「相変わらず飲んでるのか……。俺はこの後もあの四人を案内する必要があるからやめておくよ。あとそれと……」

 次元収納ストレージから酒を一本取り出してテーブルに置く。

「便宜を図ってもらった礼だ」

「やっぱりトウヤはわかってるなっ! もう少しで前にもらった酒がなくなりそうだから助かったぜ! この酒を飲んだら他の酒が飲めなくなるしなっ」

 置いた酒をすぐに戸棚に隠すように仕舞っているグルシアに、相変わらずだなと思いながら苦笑する。


 二人で情報交換をしていると、扉がノックされ四人が戻ってきた。

「無事に手続き終わりましたっ」

 アオイの言葉に四人が同時にBランクのギルドカードを見せびらかすようにかざす。

「なら、ここでの用事は終わりだな。四人でまたギルドに来ることもあるだろうから、頼んだ」

「あぁ、任せておけ。俺はなんもしないけどな」

 がははと笑いながら酒をあおるグルシアにため息をつきながら部屋を出る。

 冒険者ギルドを出てコクヨウの馬車に乗り込んで出発する。

「トウヤさん、これからどこに?」

「とりあえずは俺の屋敷かな。今回の件で陛下にも説明する必要があるし、数日は屋敷で待機してもらうつもりだ」

「ついにお屋敷訪問ですねっ! かくれんぼとかできそう!」

「こら、サキ! 子供じゃないんだからっ!」

 養護施設にいる子供たちと同じかと思わず笑ってしまうのをこらえながら馬車を屋敷へと進めていく。

 貴族街へと入りほどなくして屋敷へと到着した。

 屋敷の前ではすでに家令を含めメイドたちが整列して待っていた。

 俺が最初に馬車から降り、アオイたちも順に降りる。

「トウヤ様おかえりなさいませ」

「「「「「おかえりなさいませ」」」」」

 家令の掛け声に合わせ、全員が頭を下げる。

「あぁ、ただいま。留守をありがとう。それとこの四人を任せていいかな」

「はい、お任せください」

 俺の言葉に家令のダリッシュが頷く。

「ほほーっ。リアル執事にリアルメイドだよっ! これはたまらんっ」

 サキの目が一番輝いている。他の三人の表情も何かを期待しているかのようだし。

 四人を任せ自室に入る。

「フェリス、いるかい? ただいま」

 俺の言葉にフェリスがすっと現れる。その後ろにはティルもいた。

「フェリス、ティル。ただいま」

「おかりなさい、トウヤ。寂しかった」

 俺の帰りにフェリスは笑みを浮かべる。ティルはフェリスに促されるように前に出てこくんと一度頷いて、そのままフェリスに抱きついた。

 フェリスはいとおしそうにティルの頭をでながら二人とも姿を消していった。

 執務室でくつろいでいると、扉がノックされ、許可を出すとダリッシュが部屋に入ってくる。

「四人とも部屋にご案内いたしました。王宮のほうにもトウヤ様が帰還されたことを伝えに走らせております」

「ありがとう。明日にでも陛下に説明しに行くよ。夕食は四人と一緒に食べるから用意を頼む」

「わかりました。では手配しておきます」

 一礼した後、ダリッシュは部屋を出ていく。

 ソファーで寛ぎながら、明日からの予定について考える。

 陛下たちに説明した後は久々に養護施設の子供たちにも会いたいしな。四人については、ルミーナに任せれば問題ないだろう。傭兵ギルドと冒険者ギルドの違いを説明してもらう必要もあるし。

 少しの間はこの屋敷で問題はないが、俺の専属護衛でない限り、この屋敷に長期間の滞在は面倒ごとになるはず。

 他にも今後のことについて考えていると、いつの間にか窓から夕日が差していた。


 メイドに夕食の準備が整ったと伝えられ、ラフな格好でダイニングへと向かう。

 ダイニングにはすでに四人が座っていた。

「待たせたね。食事にしようか」

 俺が席につくと、メイドたちがテーブルに食事を並べていく。

 俺一人の時より明らかに豪華になっている。

 テーブルに並べられた料理を、アオイたち四人は目を輝かせて眺めている。

「トウヤさん、貴族っていつもこんな食事をとっているんですか?」

「こんな料理見たことないです」

「早く食べたいで……ござる」

「ここまで豪華なのは来客がある時くらいだよ。普段は一人だし、もっと簡素にしてる。それは同郷だからわかるだろ?」

 俺の言葉に四人は勢いよく頷いた。

「それより、食べよう。とりあえず無事にルネット帝国へ帰還できたことと、四人の歓迎を含めて乾杯」

「「「「乾杯」」」」

 俺は酒を飲めるが、アオイたち四人はまだ未成年だ。この世界では成人を迎えているとはいえ、酒の代わりにジュースにしている。

 四人が勢いよく食事を始めたのを確認し、俺も食事を始める。

 さすがにダリッシュやメイドたちがいるのに、日本の話はできないので後で話そうと思う。

 その前にこれだけは説明しておかないとな……。

「みんな、食べながらでいいから聞いてくれ。この屋敷には──浴場がある。食事を済ませたら入るといいよ」

 俺の言葉に四人が反応した。

「お、お風呂があるんですかっ!!

「こっちに来て……初めてのお風呂……」

おけで体を拭くだけの生活だったのが……」

「すぐにでも入りたいでござる」

「あぁ、四人で入っても問題ない広さがある。食事を済ませたら案内させる」

「「「「ありがとうございます!!」」」」

 四人とも満面の笑みだ。やはり一般市民にはあまり広まっていないが、貴族たちは基本、毎日風呂に入ることが多い。ただ、蛇口をひねればお湯が出るということがないこの世界では貴重であり、それなりに裕福であったり、貴族でないと屋敷に設置されていない。

 四人の反応を見て、やはり入れる機会がなかったんだなと思う。

「そういえばトウヤさんに聞きたいことがあったんですが……」

「うん? 答えられることなら問題ないが……」

 少しだけ恥ずかしそうな表情をしながら言葉を続ける。

「あの……この国の女性冒険者の戦士って……みんな……ルミーナさんみたく────ビキニアーマー着ているんですか……?」

「プハッ」

 アオイの言葉に思わず吹き出してしまう。

「いや、ルミーナ……だけだな。あの格好しているのは……。今までギルドの依頼をいくつも受けたことがあるし、他の国、街へも行ったことがあるが、ルミーナ以外に見たことは……ない」

 俺の言葉に四人はあんの息を漏らす。

 逆にあれが普通かと思ったほうがすごいと思う。俺でも最初はかなり視線に困ったしな。

「よかった。私も戦士職だから、あのビキニアーマー着ることになるのかと思った。まだ、見せられるスタイルじゃないし……」

 顔をあかくしながら答えるサキに思わず笑みを浮かべる。

「今の装備で問題はない。それどころか、その装備ならこの帝国でも問題なくやっていけるはずだ」

「それを聞いて安心しました。また相談に乗ってください」

 アオイの言葉に頷く。

「食事を済ませたら、そのまま風呂に入ってもらって構わない。その後、俺の執務室で少しだけ話をさせてもらっていいか? 疲れているだろうが、俺も明日には王城へと報告に行かなければならない。その前に話をしておきたいんだ。PWOのことも含めて」

 俺の言葉に四人とも頷いた。


 食事を済ませ、風呂に入った後に執務室で今までまっていた書類を終わらせゆっくりしていると、扉がノックされた。

 許可を出すと、ダリッシュが四人を連れてきた。

「それでは失礼いたします」

 ダリッシュは四人を案内すると、そのまま退室していく。

「好きなところに座ってくれ」

 俺の言葉に四人が座ったので話を始める。

「とりあえず、俺の名前はこっちではトウヤ・フォン・キサラギだが、そのままわかる通り、日本名は如月きさらぎとうだ。サラリーマンをしていてPWO中にこっちのキャラに荷物を移動している時に召喚された。レベル1の回復術師プリーストで召喚された時は本当に大変だった」

 こんなことを正直に話せる相手は、同じ境遇にあるこの四人だけだ。

「今はレベルを上げて賢者に転職している。でも、次元収納ストレージに入っていたのはメインキャラバーサーカーの不用品ばかりだったから、そのまま使用しているんだ」

 俺の説明が終わるとアオイが手を挙げた。

「では、私から改めて自己紹介をします。この世界ではアオイです。平民扱いですから。本名はかわさきあおい17歳の高校生です」

「次は私ね。アオイ姉ちゃんの妹のサキです。本名はかわさき15歳のピチピチ中学3年生です!」

「じゃぁ、次は私。アオイの同級生でシノブです。本名はたちばなしのぶで、ござる。としは、アオイと一緒で……ござる」

「もう、シノブったら。まだその言葉を続けるの? 最後は私ね。名前はアユミ、なべあゆです。アオイとシノブと同級生です」

 リアルJKとJCか……。なんか俺だけおじさんで申し訳ない気がする……。日本じゃ俺、三五歳だしな……。

「四人ともありがとう。一応知っていると思うが俺はこのルネット帝国で侯爵位を授かっている。この国なら俺の名前を出してくれれば問題はないはずだ。とりあえずこの屋敷で帝国に慣れてもらってから、どうするか考えればいい。しばらくなら滞在してもらっても構わないし、街へ出るのにも貴族街への通行証をだしておくから」

 俺はもうこの世界で骨を埋めることを決めているが、四人のことはわからない。もしかしたら元の世界へ戻る方法を探すために旅立つ可能性もあるし、俺が強制することではない。

 同郷のよしみで協力は惜しむつもりはないが。

「そうですね、いつまでもトウヤさんに甘えてばかりもいれませんし、この屋敷で少し暮らしながら四人で相談して決めたいと思います」

「えーっ、この屋敷から出ていくの!? こんな貴族の屋敷に住めることなんて一生ないよ? しかもあんなれいなお風呂だってあるし……。トウヤさんだって、いたいだけいていいって言ってるじゃん」

 アオイの言葉にサキが反論する。

「サキ、トウヤさんは今すぐに決めろとは言っていないの。トウヤさんの仕事だってあるし、いつまでも頼ってばかりではダメでしょう」

「ああ、アオイの言う通りだ。帝国の土地勘もないのに放り出すことなんてするつもりはないから安心してくれ。帝都を自分の目で見て四人で決めるのがいいと思う」

「ほら、トウヤさんも言ってるじゃない。私たちがここにいると、トウヤさんに恋人がいたら迷惑がかかるでしょう」

 ……恋人じゃなくて婚約者ならいるけどな……。しかも複数。

 しかしその言葉に反応したのがアユミだった。

「え、トウヤさんって恋人いるんですか!? どんな人ですか!? もしかして同じ貴族の令嬢とか!? もしかして──悪役令嬢とかっ!?

「「「きゃーー!!」」」

 四人できゃあきゃあと女子トークが始まってしまった。それにしてもどんな本に影響されているのか……。

「恋人はいない、が……婚約者ならいる、な……」

 ここで隠しても仕方ないから正直に話す。

 そのあとも質問責めにあったが、全てを話すつもりがないので、早々に解散することにした。まだ話し足りないらしく、四人は寝るまで一つの部屋で話すそうだ。

 俺はため息をつきながら早々に寝ることにした。

 それにしても日本の女子の好奇心の怖さを初めて知った……。



 朝食を四人と一緒に済ませた後、アオイたちには屋敷にいてもらうように指示して城へと向かった。

 今回、シファンシー皇国への護衛任務におけるジェネレート王国とのことを説明する必要があったからだ。

 門の衛兵に軽く手を上げて通り抜け、そのまま城へと入ると、従者が待機しており応接室へと直接通された。

 少しの間待っていると、陛下と殿下、ガウロスも一緒に部屋に入ってくる。

「久しいな。すでにある程度の連絡を受けているが、シファンシー皇国へと赴いていた件でか?」

 陛下の言葉に頷き、商業ギルド本部からの手紙を次元収納ストレージより取り出しテーブルに置く。

「詳しくは後で説明いたしますが、まずは商業ギルド本部からの書状を預かっておりますので」

 陛下は手紙を開封し、何枚かにまとめられた紙を読みながら眉間にしわを寄せた。

 読み終わった書状をテーブルに置き、大きなため息を一つつく。

「要件について書状にまとめられていた。詳しく教えてくれるか?」

「えぇ、道中についてですが──」

 道中であったことを詳細に話していくと、ジェネレート王国の対応に全員が呆れた表情をした。

 一〇〇人も傭兵を集めたのに全く役に立たないし、一番強いと言われているアオイたちハイスクール傭兵団は俺に寝返った。しかもギルド職員を斬りつけるなど、冒険者ギルド、商業ギルドを敵に回しても仕方ない。

 傭兵ギルドも今回ジェネレート王国から依頼を受けたせいで、それなりの厳しい処罰が下っているしな。

「それにしても、賠償金五億ギルだったのが、倍額か……。ジェネレート王国も自分で自分の首を絞めたということか……」

 今回の賠償としてさらに五億ギル追加されたのだ。

 商業ギルドからは、それに合わせ自分の分を乗せ、ジェネレート王国に請求すると聞いている。

 他にも俺は直接傭兵ギルドから三〇〇〇万ギルの賠償を受けている。依頼とはいえ、非合法的に他国の貴族に剣を向けたのだから仕方ない。

 これに関しては同行した冒険者にある程度配分しておいた。冒険者たちは傭兵ギルドと直接たいしていないのに、臨時ボーナスがもらえたと喜んでいるくらいだった。

「今回の賠償金でトウヤにはさらに一億ギルを褒賞として出そう。残りは復興資金に回させてもらうが構わんか?」

「えぇ、もちろんです。それだけいただければ問題ありません」

 冒険者ギルドからの依頼料や、魔物の素材料などそれなりの金額を受け取ることになっているが、養護施設の運営や屋敷の維持などを考えたらいくらあっても問題はない。

 その後も今後の話をし、席を立つ。

 そして従者にテラスに案内されると、ちょうどシャルとアルが紅茶を楽しんでいた。

 二人は俺の姿を見ると、表情を緩ませ立ち上がる。

「トウヤ様おかえりなさい。無事でよかったです」

「あぁ、ただいま。二人とも相変わらず元気そうでよかった」

「どうぞ座ってください。紅茶を用紙しますから」

 アルが席を立ち、近くで控えているメイドに指示を出す。

 俺も空いている席に座った。

「トウヤ様、シファンシー皇国のこと教えてください。どんな旅だったのですか?」

「旅というか護衛任務だけどな……。いろいろなことがあったよ、道中で──」

 二人にも道中で起こったことを説明していく。最後まで説明すると二人とも拳を強く握りしめ怒りをあらわにする。

「ジェネレート王国も毎回毎回本当にりないわね……」

「えぇ、それで自国の首を絞めているのですから本当に仕方ないかと……」

「まぁこれで少し大人しくなってくれればいいかな」

 運ばれてきた紅茶に口をつけ、背もたれに寄りかかる。

 少しの間は依頼も受けるつもりはないし、のんびりとしたい。もう少し屋敷にいて、家精霊エレメハスのティルとも意思疎通もしたいしな。

「トウヤ様、この後は城でゆっくりとできるのですか?」

「あぁ、午後は養護施設にも顔を出すつもりだけど、当分の間は依頼を受けるつもりもないし、帝都にいるつもりだよ。もしかしたらレベル上げはするかもしれないけど」

 今回の依頼でも魔物を倒し、レベルは上がった。それでもまだゲーム全盛期の実力にはほど遠い。

 魔法職の最高峰の賢者であっても、この先、勝ち続けることができる保証はない。

 一度の敗北で周りの大切な人の命が奪われる可能性があるなら、俺はずっと負けないように実力をつけていきたい。

「それで……ひとつ確認したいことがあるのですが、屋敷に滞在している四人の傭兵の子たちは……もしかしてトウヤ様のハーレムに入れるつもりですか?」

 シャルの言葉に思わず首を横に振る。

 実際にわいい子たちだと思う。今の俺の年齢からすればつり合いは取れるが、同郷の常識を持っていたらハーレムになんか入りたくないだろう。

「いや、そんなつもりはないが……」

「実際に会わせてください。女子同士で話し合います。午後からはサヤさんの養護施設ですよね? そこで待ち合わせしましょう。アル! 行く準備をするわ」

「はいぃ~! トウヤさん、またあとでー!」

 勢いよく立ち上がり走っていくシャルに、それを追いかけるアルを見て苦笑する。

 俺は最後の一口を飲み干し、席を立つ。

「あとは女の子たちに任せるしかないか」

 そう言って、紅茶をれてくれたメイドたちに礼を伝え、城を後にし屋敷に戻ることにした。



 屋敷に戻ってきてから、四人を呼んで一緒に養護施設に向かうことにした。

 それにしてもこの四人はいつでも元気だ。

 養護施設に行くのにあまり目立ちたくないので、俺も四人に合わせて冒険者の装いをしている。

 アオイたちも俺の後を追ってくるが、街並みが気になるのかきょろきょろと見まわしながら楽しんでいた。

 そのためにまっすぐに養護施設に向かうのではなく、市場やギルドなどを経由している。

 ある程度帝都を説明しておけば、四人とも自由に動き回れるだろう。強さには安心しているし、そこらの冒険者に絡まれても返り討ちにできるのは目に見えているし。

 屋敷からのんびりと歩き養護施設へと到着すると、中庭からは子供たちの元気な声が響いてくる。

「ここが運営している養護施設なんだ。中を案内するよ」

 俺の言葉に四人は頷く。

「おう、元気にしてるかー?」

 俺の言葉に中庭で遊んでいた子供たちが一斉に振り向いた。

「あー! トウヤ兄ちゃんだー!」

「ほんとだー!」

 子供たちが次々と俺に群がってくる。子供たちを順番に抱きかかえながら四人のことを紹介する。

「今日は一緒に来ているお姉ちゃんたちもいるぞー! アオイお姉ちゃんにサキお姉ちゃん、あとはアユミお姉ちゃんにシノブお姉ちゃんだ! みんな遊んでもらえー!」

 俺の言葉で子供たちの興味は四人に移っていった。アオイたちも子供が好きなようで、視線を同じ高さに合わせいろいろと話し始めていた。

 中庭が賑やかになったので、サヤとルミーナ、そしてシャルとアルの四人も建物から出てきた。

「トウヤさんおかえりなさい」

 サヤは勢いよく俺に抱きついてきた。驚いたがそのまま受け止める。

「あ、サヤさんずるいです!」

 シャルが俺の背中に抱きつき始めた。その姿を見て笑うアルとルミーナ。

 少しだけ柔らかい感触を楽しんだあとに二人に離してもらい、四人のことを紹介する。

「アオイたちちょっと来てくれ。みんなを紹介するから」

 子供たちと遊んでいる四人に声を掛けると、子供たちの頭を軽く撫でてから集まってきた。

「こっちにいるのが、シャルとアル。あとはこの養護施設を運営しているサヤだ。ルミーナもここに住んでいるんだ」

 俺の適当な紹介に、アルは少しだけ苦笑したが、シャルが一歩前に出てスカートの端をつかみ優雅に貴族流の挨拶を始める。

「私はルネット帝国第一皇女、シャルロット・ヴァン・ルネットでございます。気軽にシャルと呼んでください」

「私は護衛の近衛騎士副団長のアルトリア・フォン・ミルダです。私も同じようにアルと呼んでもらえれば」

 二人の挨拶にアオイたちは口を開いたまま絶句している。

 まぁ、確かに養護施設で紹介されたのがいきなり皇女だったりしたら驚くよな、普通は……。

 普段は城にいるし、いくら帝都とはいえ平民街にある養護施設にいるとは誰も思わないし。

「あ、私はこの養護施設の運営をトウヤさんから任されているサヤと言います。二人と違って平民ですから……」

 サヤの相変わらずの優しい笑みは癒される。

 四人はロボットのようにカクカクと俺のほうを向くと、いきなり俺のことを囲み、サキが俺の胸倉を掴んできた。

「なんで皇女様がこんな軽く挨拶してるのよっ!」

「皇女様がこんな気軽に……」

 そんなこといっても俺はサランディール王国時代からの付き合いだし、ポンコツなのを知っているから今さら敬えといっても無理だ。

「ちなみに私とシャルはトウヤさんの婚約者です」

「そうなんです!」

 アルの言葉に胸を張って応じるシャル。

 その言葉は今伝えたくなかった。

 恋バナ好きのJKとJCにはその言葉は禁句だ……。

「「「「えーー!! しかも二人とも!!」」」」

 やはり四人の瞳がキラキラと輝いている。俺の周りにいた四人はすぐにシャルを囲むように移動していった。

「どんな感じに知り合ったんですか!? ぜひ教えてくださいっ!」

 俺を放置して女性だけで話し始めたので、俺はルミーナの隣へ行く。

「ルミーナ、護衛任務お疲れ様。もう疲れは大丈夫か?」

「あぁ、帰りは楽だったしな。それより、この四人ってこんな感じなのか?」

「まぁ、いろいろとあるんだよ。年齢的にな」

 ワイワイと騒いでいるのを眺めながら苦笑する。

 話が終わりそうもないので、食堂へと移動してまた女子トークが始まった。

「もしかしてサヤさんも、トウヤさんを狙っていたり!?

 アユミの問いに顔を真っ赤に染める。

「トウヤさんはもう貴族ですから……。でも、あいしょうにでもなれればそれで……」

「「「「このスケコマシ!!」」」」

 なぜか四人からせいが飛んでくる。

「なんだ? 貴族なら普通のことであろう。それも性であるしな」

 しかし一人ルミーナだけこちらの味方がいた。

 ルミーナは言葉をさらに続ける。

「私はお前たち四人もそうなると思っていたのだが。女を屋敷でかくまっているのはそういう意味ではないのか?」

 ──やっぱりルミーナも敵だった。

「「なんですって!? どういうことですか!」」

 シャルとアルが見事に反応した。


 収拾のつかない状態になり、俺を非難する声が養護施設に響き渡ったのだった。