同郷


 四人は緊張感もなく俺たちの前に出てくる。

 とてもようへいをしているように見えない四人に、周りにいる男たちは一歩引いた。

 その四人は戦士、盗賊職、魔法使いに回復術師プリーストだろう。冒険者としてもバランスが良いパーティーに見える。

「サキちゃん、そんなこと言わないの。みんながおびえてしまうでしょう」

「わかったよ、アオイ姉ちゃん」

「アオイが一番お姉さんっぽい。キレたら一番怖いけど……」

「──アユミ……後でわかっているわよね?」

「あーやっぱり怖いっ」

 四人の緊張感がない状況に、俺も思わずぜんとする。

 しかもそれ以上にその装備に見覚えが……。

「それにしてもお兄さん強いね。この傭兵団じゃ、全員が相手でも勝てるでしょう? まったく、念のためってことで助っ人に来たけど、これは楽しみかもしれないね」

 サキと呼ばれていた子は戦士なだけあり、戦闘が好きみたいだ。

 四人を見ても全員が成人になったばかりに見える。まぁこの世界では一五歳で成人と言われているから元の世界と比べられるわけじゃないけど……。

「魔法職で両手剣バスターソードを持つなんて、常識知らずもいいところで……ござる」

 この子は盗賊シーフ職? いや、どこから見ても忍者、くノ一の格好に見える。

 シファンシー皇国ではこんな格好でもいいのか? それにしても『ござる』っていつの時代だよ。

 それ以前に全員の装備が気になる。

「それよりも、隣のビキニアーマーのお姉さんがわいですっ! もがなければっ!」

「アユミ、うらやましいからってそんなこと言わないの」

「くノ一には巨乳は邪魔なのでいらないでござる」

「シノブちゃん。だって、だって、あのボイーンですよっ! それを私たちに見せつけるようにっ!」

 自分の胸を見つめ憤慨している魔法使いのアユミって子に思わず苦笑してしまう。

 ルミーナは気にした様子もなく、俺のそばに寄ってくる。

「なぁ、トウヤ。私の装備に何か問題があるのか?」

「……いや、いろいろと羨ましいだけだと思う……」

「そうなのか? ならいいんだが……」

 首をかしげながら胸を持ち上げるように腕を組む姿に、またアユミが憤慨する。

「アオイも見てよっ! あの見せつけたようなポーズ!」

「そんなことに気にしていても仕方ないでしょう。私たちは頼まれた仕事をするだけですし」

「確かにそうだね。お兄さん、素直に白旗上げてくれないかな? これでも私たち四人はシファンシー皇国では最強と言われている傭兵団なんだ。お兄さんよりも絶対に強いよ?」

 確かに周りの傭兵の様子をうかがっていると、その実力差はわかる。いい大人の男たちがこの子たちには気を使っている。

 だからといって今回の依頼を放棄するつもりもない。

「それで、四人は助っ人ということでいいのかな? 戦うつもりなら容赦はできないけど……」

 いくら強いといっても、この世界ので一次職だ。俺の職業で勝てないってことはない。

 こんな女の子たちをさせたくないが、この世界ではらないと殺られる。

 確かに賢者は魔法職になるから、武器について補正が効くわけじゃないが、動きについては誰よりも覚えている。

 それだけPWO(『パンデミック・ワールド・オンライン』)に時間と金を注いできたんだから。

 全く戦意を失ってないことに少しあきれ気味のサキが一歩前に出てくる。

「女の子だからって甘く見ているでしょう? さっきも言ったように私たち四人はこの皇国でも最強と言われてるのよ。名前は──ハイスクール傭兵団」

「ブハッ」

 その言葉に思わず吹き出してしまう。

 いや、確かに年齢的にはそうだと思う。この世界に高校って名前そのものがないのに、その言葉を使うか?

 それにしても、やはりそうだったか……。どうりで見覚えがある装備だと思った。

 ──俺以外にもいたのか……。

「なに笑っているのよっ!」

 少しムキになったサキが剣先を俺に向けてくる。

「いや、悪い……。懐かしい名前につい思わずね……? 俺も自己紹介しておこうか。名前はトウヤ、今はルネット帝国で冒険者兼──侯爵をしている」

「……侯爵? 貴族なの? 冒険者なのに?」

「あぁ、帝国ではいろいろとあってね。それよりもこれを見てくれないかな?」

 俺は次元収納ストレージから一本の両手剣バスターソードを取り出して地面に突き刺した。

 黒くまがまがしいデザインと普通では持てないような大きさ。二メートルを超える長さの両手剣バスターソードだ。

 イベントで配られた武器で攻撃力は皆無。見た目の派手さだけの戦士用に配られたアイテムだ。もちろん、その武器を手にするのにはそれなりの高レベルでないともらえないイベントだったけど。

 サキの表情が一気に変わった。

「そ、その剣はっ! も、もしかして……」

 なんとなく理解してもらったのかと思う。あとは……。

「それにしても、ハイスクール傭兵団って……どこの──高校だい?」

「「「「……!?」」」」

 決定的な一言だろう。

 四人の表情が一気に変わった。

「……少し待って。相談してくる」

「あぁ、わかった。好きなだけ話してこい。できれば交戦は控えたいしな」

 俺の言葉にうなずいて、サキは後ろに下がり四人は円を囲うように小声で話し始めた。

「なぁトウヤ、あの四人はどうしたんだ? これから戦うんだろう」

「いや、もしかしたら戦いを回避できるかもしれない。多分だけど……」

「まぁ私とトウヤの二人がいればなんとかなるだろう。私は指示に従うだけだしな」

 五分ほど、四人の会話は続き、終わったと思ったら、一人の回復術師プリースト、アオイと呼ばれていた女の子が出てきた。

「トウヤさんでいいんでしたよね。やはりトウヤさんは──PWOの……?」

「あぁ、この場で詳しくは言えないが、その通りだ」

「いくつか確認させてください。あの武器はイベント用だと記憶にありますが、あれは戦士職用のでは?」

「確かに。あの時は──狂戦士バーサーカーだったしな。たまたまこのアカでインしている時に呼ばれた」

「……もしかして、王国の狂戦士バーサーカーのトウヤ……? あの高レベルで有名な……」

 無言で頷いて肯定する。

「もう少しお待ちください。みんな集まって」

 アオイの言葉に全員が先ほどと同じように円を囲い小声で話し始めた。

 また五分くらいだろうか、話し終えた四人は俺の前で一列に並んだ。

「私たちはトウヤさんに──ついていきます」

 アオイの言葉と同時に四人が深々と頭を下げた。

「……どういうこと?」

 いきなり態度が軟化したことに驚いてしまう。先ほどみたいな敵対心は全くない。

「詳細は省きますが、私たちはトウヤさんと敵対することはないです。勝ち目はないですし、私たちはトウヤさんのことを知っています。PWOで共闘したこともありますし。まぁ後ろから眺めていただけなんですけど」

「敵対しないのなら助かる。俺たちは護衛の依頼で皇都の商業ギルド本部に行きたいだけだしな」

「それでしたら、私たち四人もその護衛に加わらせてもらいます。私たちがいれば皇国の傭兵団は手出ししないと思いますし」

「それなりに有名なんだな?」

「えぇ、トウヤさんに比べれば低いですが、四人ともそれなりのレベルなので、そこらの男たちには負けませんわ」

「わかった。護衛の依頼料としては俺の懐から出すつもりだ。その他に要望はあるか?」

「それも後で詳細をつめさせていただけたら。私たちのホームも皇都にありますから、そこで話をさせてください」

 アオイが前に立ち、右手を差し出してきたので握手をする。

 これで一件落着かと思ったが、そうはいかなかった。

「おいっ。どういうことだ!? お前たちはうちの傭兵団が雇ったはずだろう? なんで敵と手を組んでるんだ?」

 先ほど吹き飛ばした傭兵団の団長が、他の傭兵に肩を借りながら前に出てきた。

「えぇ、その契約は破棄させていただきます。私はこのトウヤさんについていくことにしましたから」

「そんな簡単に傭兵の契約が解消できると思っているのか!? しかも敵側に寝返るなど、この皇国で傭兵団全てを敵に回すつもりかっ!」

 憤慨する団長に、表情を変えないままのアオイが前に立つ。

「それでしたら、あなたの傭兵団全てをつぶして、私たちに敵対する皇国の傭兵団全てを──潰すほうがいいですね」

 アオイの言葉に団長は絶句する。

「では、トウヤさん行きましょうか」

 振り返ったアオイは俺にほほみかける。

「あぁ、わかった。ルミーナ。後ろで待機している連中を呼んできてくれ。このまま通り抜ける」

「ちょっと、待てっ! おい、どうなっているのだっ!? こいつらを全員殺せと契約したはずだろう」

 一人だけ戦闘服ではない、貴族服を着た三〇代の男が前に出てきた。

 こいつが依頼主だろう。

 この格好はどこから見てもジェネレート王国の貴族服だ。

「あ、いや……しかし……」

 団長としても、契約だから何とかしたいのだろう。しかし、俺がいる。それに今加わった四人を相手にして勝つのは無理なんだろう。

 地面に突き刺した禍々しい両手剣バスターソードを片手で持ち上げその男に向かって剣先を向ける。

「……お前、ジェネレート王国の貴族だろう。賠償金をさらに──増額させたいのか?」

 今回、ルネット帝国とジェネレート王国で交わした証書に次のような記載がある。

 〝両国は商業ギルド本部に提出する書類について、妨害を行ってはならない〟と。

 こいつを捕まえて、商業ギルド本部で身分照会すれば、足がつくはずだ。

 だからこそ王国の連中は第三国であるシファンシー皇国の傭兵を使ったんだろう。

「わ、私は王国とは関係ないっ! 失礼するっ。おい、そこをどけっ!」

 逃げるように去っていく男に呆れてしまう。

「これで決まりだな。通してくれるか」

 俺の言葉に団長は渋々ながら頷くと、傭兵たちに指示を出す。

 ゆっくりと近づいてくる馬車を先導するように、俺と四人、そしてコクヨウが先頭を歩く。

 傭兵たちも納得いかないだろうが、これが実力だから仕方ない。

 特にこの四人はそれなりに皇国では有名なのであろう。

 無事に傭兵たちの囲いを抜けた俺たちは、馬車へと戻る。

 コクヨウには申し訳ないが、また次元収納ストレージに戻ってもらうことにした。

「やはり……先ほどの馬もアイテムだったのですね。私たちはその馬をゲットできるレベルまでいかなかったので……」

「さっきの馬に乗ってみたい! トウヤさん、あとで乗せてよ」

「あぁ、コクヨウがいいっていえばな。皇都に着いたら君たちのことを教えてくれるか? お互いに召喚について話しておきたい」

「えぇ、私たちもです。情報交換させていただけたら」

「狭いところだが、この荷馬車に乗ってくれ」

 俺とルミーナが乗っていた荷馬車に四人を乗せる。俺とルミーナ含めて六人乗るとやはり狭く感じてしまう。

「……近くで見るとやはりすごい……もぎたい」

 静かだったアユミはルミーナの胸を凝視している。

「私は大きさなど気にしないで……ござる……」

 アユミとシノブはルミーナのことが気になるみたいだ。

 ルミーナは二人の会話を聞きながら意味がわかっていないようで、不思議そうに首を傾げたまま皇都へと馬車を進めた。