シファンシー皇国への護衛任務


 出発までのんびりとした生活をするつもりだったのに、冒険者ギルドからの連絡はすぐに来た。

 一〇日ほどの期間で出発になるとは……。陛下に確認したら特に問題ないと言われた。ただ「必ず帰ってきてくれ」と念を押されたくらいだ。

 この帝国は居心地もいいし、皇帝を含めて俺が生活するのにはいい環境だ。確かに、世襲貴族からは冒険者あがりの貴族だと陰口をたたかれることもあるが、おおむね〝救国の英雄〟という立場から正面切って敵対されることはない。

 まぁ、お見合いの申し込みが来るのが苦痛なくらいか……。

 護衛にあたるメンバーの顔見せということで、徒歩で冒険者ギルドへと向かう。護衛の際に初対面でも問題はないが、今回は商業ギルドとしても冒険者ギルドとしても失敗が許されない案件である。

 下手に失敗したら国から商業ギルドに請求が行く可能性すらあるのだ。

 のんびりと歩き、ギルドへ入ると受付に向かう。

「護衛の件で来たんだけど……」

「トウヤさん、お待ちしておりました。他の皆さまはみんなそろっていますので」

 受付にいたのは先日いた女性だったので、すぐに護衛の顔合わせだと理解してくれ会議室へと案内された。

 扉をノックして開け、受付嬢の後に部屋に入る。

 中には──。

「おぉ、トウヤも一緒なのかっ」

 ルミーナがいる。しかも相変わらずのセクシーなビキニアーマーで。

 屋敷にいる以外、他の格好を見たことがない気がする。

「ルミーナも一緒なのか……」

 確かに今回の護衛はBランク以上となっており、ルミーナは問題ない。

「なんだ、この姉ちゃんの男かよ……」

「そんなこと言わないのっ」

 他にも冒険者たちが座っている。残念そうにした男の頭を隣にいた女性冒険者が叩いた。ルミーナの格好を見たら男だったらかれてしまうのは……仕方ない。

 席は二組のパーティーが分かれて座っており、片方は男性だけの三人組、もう片方は男性二人に女性一人のパーティーだ。

「トウヤさんはルミーナさんと知り合いでしたらこちらに座ってお待ちください。すぐにギルドマスターを呼んできますので」

 受付嬢がパタパタと部屋を出ていった。

 ルミーナの隣に座り顔を向けると、満面の笑みを浮かべている。

「トウヤがいれば……美味うまい酒に美味い飯にありつけそうだな……。今回の護衛依頼受けてよかった」

「まったく……ルミーナは屋敷にいなくてよかったのか? 一応サヤたちを護衛するとか言っていただろ?」

「あの屋敷で危険なところなどないだろ? それにそろそろ遠くの依頼も受けるつもりだったしな」

 確かに冒険者としてあの屋敷の護衛だけしていたら腕がなまるのは仕方ない。特にルミーナは戦闘が好きだしな。俺たちが王国から逃げる時もたいしたくらいだし。

 しかし俺とルミーナが話しているのが気に入らないのか、三人組の男たちが俺とのことをずっとにらんでいた。

「ふんっ、女連れだからって……ガキがっ」

「軟弱者などに興味などないっ」

「……いいなぁ……」

 男三人の冒険者は剣士にやたら筋肉がついている大楯持ち、あと魔法使い風。

 確かに他から見ればルミーナと仲が良い俺は、嫉妬の対象なのかもしれない。

 ……しかしルミーナの性格を考えると嫉妬されても困るというのが本心だ。──脳筋だしな。

 まぁ今回の護衛にルミーナがいるのは襲撃があるのがわかっているだけに心強い。安心して前衛を任せられるし、俺との息も合う。

 今回シファンシー皇国に向かうのは、商業ギルド、大手商会などの馬車が何台も連なる大規模な商隊となっている。一番価値があるのは賠償金の証書であるが、それは商業ギルドの中でもどこにあるかは秘匿されている。

 数億ギルの証書など、滅多に出回るものではないし、今回の証書が紛失などされては商業ギルドの威信に関わる問題となる。

 だからこそ〝木を隠すなら森の中へ〟という形を選んだのだろう。

 全員が座ったことで、冒険者ギルド側から説明が始まった。

「今回はシファンシー皇国皇都までの護衛となる。護衛対象の馬車は一〇台。それに護衛用の馬車が二台、合計一二台の予定だ。護衛は最前列と最後尾に馬車を一台ずつ、護衛中の食材、他にギルド間の資料もその馬車で運ぶ。職員も一名同行させる予定だ」

 ギルド間の資料も一緒に運ぶのか。確かにこんな時に同時に運ぶのは効率がいいかもしれない。

 説明が終わり、護衛場所の確認と人数の振り分けが行われた。俺は魔法職となっているので、ルミーナと一緒だ。ルミーナは小声で「トウヤのどこが魔法職なんだよ……。でも美味おいしいの食べれるからいっか」とつぶやいていたが気にしないでスルーしておいた。

 最後に集合場所と時間を確認し、解散することになった。

「なぁ、トウヤ。また美味い食事をたらふく用意しておいてくれるんだろ? まかせたぞ」

 ルミーナが期待を込めた視線を送ってくる。

「……わかった。ルミーナの分も用意しておくよ。酒は持っていかないぞ? 一応護衛の任務があるんだから」

 俺の返事に満面の笑みを浮かべたルミーナは勢いよく首を縦に振る。

「うんっ! それで構わん。酒は途中の街で飲めばいいんだしな。また冷やしてくれっ」

「わかったよ。じゃあ当日な」

 ルミーナはサヤたちの暮らす養護施設に泊まっているとのことで、ご機嫌よく帰っていった。

 俺も自分の屋敷へと戻ることにする。

 のんびりと街を歩き貴族街にある屋敷へと戻ると、二人揃って出迎えてくれる。ダリッシュはいろいろと仕事を頼んでいるから執務室にもっているのだろう。

「ただいま、フェリス、ティル」

「トウヤ、おかえり」

「……」

 相変わらずティルが口を開くことはないが、家精霊エレメハス同士では意思確認ができるようなので特に気にすることはない。普通の家精霊エレメハスはティルみたいなのが普通みたいだし。

 いつかは話してくれるといいんだけどな……。


 ダリッシュの執務室へと赴き、護衛のための食事を十分に用意してもらうように手配すると、急ぎ部屋を出ていった。

 時限収納ストレージに入るおかげか、毎回大量に手配するダリッシュには気の毒になるが、干し肉など食べたくはないので仕方ないと思っている。

 自分の執務室でくつろいでいると、フェリスとティルが現れたので、護衛の依頼を受けたので長期留守にすることを伝えた。

 毎回心配されるし、長期間会わないとご機嫌を損ねる。

 しかし今回だけはゆうだった。ティルと二人で留守番をしていることにあっさり同意してくれた。

 本当なら精霊石のネックレスに宿り、一緒に同行することも可能であったが、ティルの世話をすることを選んだみたいだ。

 街の宿に宿泊する予定ではあるが、場合によっては野宿になることのほうが多い。フェリスとティルが同行したとしてもほとんど精霊石の中で眠っている状態になる。

 それならばこの屋敷を守っていてもらったほうが俺としては安心だ。

 あとは自分の荷物だけだが、料理だけは追加を頼んでおく必要がある。護衛の期間を考えると数種類のメニューを用意しておかないといけないだろう。数が少なくてもルミーナが文句を言うことはないが、俺としても料理のレパートリーがあるのは助かる。

 料理長に空になったずんどうをいくつか渡し、ダリッシュからすでに手配されているが、改めて俺からも料理を頼む。

 これについてはあくまで冒険者の仕事の手伝いになるので、材料代と手間賃を別に支払っている。最初は恐縮して受け取ってもらえなかったが、無理を言って毎回頼んでいるので手渡すようにしている。

 一人ならそんなに消費しないはずなんだが、依頼の時にも食べるし養護施設に行くと寸胴ごと置いてくることも多いので消費量は半端ない量になる。

 それでも嫌な顔をせず毎回満足ができる美味しい食事を作ってくれるのには感謝しかない。

 こうして、空いた時間で次元収納ストレージに保管されている荷物の確認をしたり、養護施設を訪れて子供たちと遊んだりしているうちに護衛の日を迎えることになった。



 護衛に向かう日を迎え、朝から冒険者の服装を身にまとい、商業ギルドへと向かう。現地ではすでに馬車の列が組まれており、荷物が次々に積み込まれていた。

 先日顔合わせをした冒険者が集まっているのでそこへ向かう。

「お待たせしました。今日からよろしくお願いします」

 軽く挨拶をし、輪の中へと入る。

 ちょうど同行するギルド職員が集められたばかりだったようだ。ギルド職員は三〇代半ばの男性で冒険者ギルド職員というよりは、冒険者といったほうが正しい気がする。

「あと一人だな。あ、きたきた。こっちだ」

 最後の一人はルミーナだった。相変わらずのビキニアーマーで周りの視線をくぎけにしている。

「待たせたな。お、トウヤもすでに来ていたか……」

 ルミーナが俺の隣に立つと、職員が説明を始める。

「それでは全員揃ったな。今回同行する冒険者ギルドの職員のハルビンだ。護衛をする馬車の割り振りに関しては、前回の説明の通りだ。各自の荷物に関しては最前列と最後尾にあるうちのギルドが用意した馬車に載せてくれ。それではみんなよろしく」

 ハルビンの言葉に返事をし、各自荷物を載せていく。俺の荷物は全て時限収納ストレージに入っているので問題はない。

 ルミーナも俺の食事を当てにしているのか、肩から背負う最低限の荷物だけのようだ。

「それにしてもトウヤが一緒とは本当にありがたいよな。食事は美味いし、あの干し肉だけの護衛任務はもうできなくなりそうだ」

「それはそれで困るんだけど……。護衛任務なんてそうそうできるとは思っていないし。今回は頼まれたから仕方なくだし」

 実際にジェネレート王国からの襲撃計画がなければ俺が同行することはなかった。

 しかもそれなりの人数が出てくると予想されている。

 帝国が情報をつかんでいるなら、冒険者ギルドや商業ギルドもその情報を掴んでいるのかもしれない。だからこそこの人数の護衛を用意したし、これだけの馬車を集めたのかもしれない。

 もちろん今回護衛をする冒険者たちには〝ジェネレート王国からの襲撃があるかもしれない〟とは説明されていない。下手すれば戦争に参加するのと同じであり、辞退する冒険者も出てくるだろう。

 のんびりと考えながら割り当てられた最後尾の馬車へとルミーナとともに向かう。

 俺はAランクの冒険者ではあるが、周りからは回復術師プリーストだと認識されている。だからこそ戦士職であるルミーナに護衛してもらうという名目だ。

 あくまで俺は対ジェネレート王国からの襲撃に対しての役目を果たすことになっており、それについてはギルドマスターから便宜を図ってもらっている。

 実際にいつも使用している両手剣バスターソード時限収納ストレージに収納しており、見た目は手ぶらだ。他の冒険者もまさか俺が戦士の役割もできるとは気づいてはいないだろう。

 だから俺がルミーナとセットでいることに対して嫉妬の目を向けられるが、仕方ないと諦めている。

 ある意味、役得かもな……。

 同行する冒険者たちが荷台に荷物を載せて手荷物だけ持ち、各自の馬車へと分かれていき、俺たちは最後尾の荷台の空きスペースに座る。

 目の前に座るルミーナは俺を見てニコニコとしている。本当に食事にありつけるのがうれしいようだ。

「トウヤ、食事楽しみにしているぞ。途中の街でも一緒に食事をしような」

 その目はどう見ても冷たいエールを思い浮かべているのがわかる。

「あぁ、わかったよ。あと一応この護衛では俺が貴族だということは内緒な。気を使われるだろうし」

「うむ、そこらへんは任せておけ。もともと知り合った時は貴族ではなかったしな。貴族となっても基本的には変えるつもりはない」

 うん、助かるんだけど、場所だけはわきまえてもらえるとありがたい。まぁBランクの冒険者だし、多少の貴族付き合いもあるだろうから平気だとは思うけど……。

 少し心配していると、御者台から出発の声が掛かる。

 ゆっくりと馬車は動き出していく。

 今回はシファンシー皇国の皇都にある、商業ギルドの総本部まで行く予定だ。

 ある程度の書類は各国にある商業ギルドで保管されているが、国家間における責務の書類に関しては、皇都にある商業ギルド本部で厳重に保管されることとなっている。

 その分、国家間の責務を果たさなければ、その国の商業ギルドは国を相手に圧力をかけることになっているが、あくまで正式に皇都の商業ギルド本部にて受理された場合に限る。

 だからこそジェネレート王国としては、今回の賠償金についての証書が受理される前に奪取したいと考えているのだろう。

 自国に多少の被害があろうとも、どうしても破棄させたいらしい。

 あの国王とあの姫の考えていることはよくわからない。それに振り回される兵士や勇者のことを少しだけかわいそうだと感じてしまう。

 だからといって証書を奪われるつもりもないし、襲ってくれば全力で抵抗するつもりだ。

 俺たちを乗せた馬車は、帝都の門を出て北東へと向けて道を進んでいく。

 今回、ルネット帝国内のいくつかの街や村を経由し、国境を越えてシファンシー皇国皇都へと一〇日ほどの旅路となる。

 事前にグルシアと地図を見て襲撃地点については予想をつけている。

 国境内で襲撃をしてくることはまずない。あるとすれば、国境を越えて二日ほど続く森の中になるだろう。もちろん警戒を怠ることはないし、事前にルミーナにだけは説明するつもりだ。

 下手に他の冒険者に話をして、護衛から引き上げられても困るしな。

 一人でこの台数を護衛することなど不可能に近いから仕方ない。

 やはりこれだけの大所帯だと、道中で現れるおおかみ系の魔物など、一瞬にして始末されていく。

 俺たちも最後尾で警戒にあたるが魔物がこちらに来ることはなかった。


 野営地に到着すると、各自荷台から荷物を取り出してテントを組み立てる。

 俺は次元収納ストレージから同じようにすでに出来上がったテントを空いているスペースに広げた。

「やはり次元収納ストレージがあると便利だな……。それにしても二人で寝るなら十分に余裕はありそうだ」

 後ろから声が掛かり振り返ると満面の笑みを浮かべたルミーナがいた。

 ……もしかして俺のテントに泊まるつもりか?

「いや、確かに余裕はあるけど男女が一緒のテントに泊まるのもどうかと……」

 やんわりと断りを入れる。俺のテントは見た目が普通のテントになっているが、中は空間魔法で拡張されていて、あまり他の人には見せたくない。

 ルミーナだったら問題はないのだが、シャルやアルも最初このテントに泊まった時は驚きの声をあげていたからな。

「今さらそんなこと気にする仲でもないだろ。つつき合った仲なのだからな。私はもうグロッキーにさせられてしまったが……」

 しかも戦闘マニアだけあって、その戦いを思い出しているようでほおあかく染めている。

 確かにフェンディーの街から逃亡した時に戦ったけど、その言い方。その仕草! 周りから俺を見る目が冷たい。殺気じみた視線が俺に集まっている。

 しかもルミーナは全く気づいていないから余計にたちが悪い。

「いやいや、あの時は普通に敵対していたから戦っただけでしょう。その言い方だと誤解を受けてしまいますよ」

「そうなのか? 寝食をともにしたのも一度ではないんだし、問題はないぞ」

 だからその言い方! さらに強まる殺気が痛い。

 確かに冒険者ギルドの依頼で一緒に行動するし、サヤや子供たちからせがまれて屋敷に一緒に泊まったこともある。しかもそれは俺の屋敷であって、二人だけでなどではない。

「もういいから。テントに入っていいよっ」

 俺が諦めるとニコニコしながらテントへ入っていく。説明しないと面倒になることはわかっているので後を追って中へと入る。

 ルミーナはテントの中で目を輝かせていた。

「なぁ、トウヤ、このテントはすごいな! 私はもう護衛中はずっとこのテントに泊まるぞっ」

 この光景を見られたら今さら嫌とは言えない。仕方なくうなずいた。

「このテントはあまり知られたくないので、黙っていてもらえますか? ほかの人にバレたら普通のテントを出しますからね」

 同じテントは実際にないし、この世界に召喚された時に持っていたアイテムだから、作ることなどできない。

「黙っていればこのテントに泊まらせてくれるんだろ? それなら黙っている!」

 テントには二つベッドがあるので、そこで寝るのは問題はない。

「なら、どちらかのベッドを使ってください。空いているほうを使いますから」

 ルミーナは片方のベッドの脇に自分の荷物を置いて腰掛けた。

「こちらを使わせてもらおう。まさか護衛の最中にベッドで寝られるとはな……。やはりトウヤと一緒に依頼を受けるのは最高だなっ!」

 満面の笑みを浮かべているルミーナに思わず苦笑する。

 ここで話していても仕方ないので、食事の準備を始めることにする。

 テント内にテーブルを取り出し、そこにスープがなみなみと入った寸胴を置き、バスケットにパンを並べる。

 最近は屋敷の料理長にいくつも料理を準備してもらい、全て時限収納ストレージに収納しているから、護衛の依頼で食に困ることはない。スープも日替わりで変えられるように数種類の準備をしている。

 以前はテントの前で食事の準備をしていたが、今回は大人数で移動なので、食事の匂いを周りに漂わせるわけにはいかない。他の冒険者たちの食事は干し肉がメインなのに、俺たちだけ豪華な食事をしていたら反感を買うからこっそりと食べるつもりだ。

「もう食事の準備できたよ」

 ベッドに転がっているルミーナに声を掛けると、のそのそと起き上がってきた。

「いい匂いが漂ってきたから待ち遠しかったぞ。早く飯にしよう」

 椅子に座ってニコニコとしているルミーナの前に料理を置いていく。

「ほら、食べよう」

「おう、いただきます」

 二人で食事を進めていく。

「トウヤの飯は最高だな! やっぱりお前とパーティーを組むのが一番いいなっ」

 笑顔のルミーナに苦笑しながらも自分も食事を進めていく。

 実際に貴族の職務がなければ、たまには違う街へ行く依頼もいいかもしれないが、屋敷にはフェリスやティルがいるし、コクヨウを外に出していないと機嫌を損なうから無理だけど。

 コクヨウは今回の依頼では、俺の時限収納ストレージに入ってもらっている。

 あくまで冒険者の一人として参加しているが、黒曜馬バトルホースに乗っていたら、俺が救国の英雄だと気づく人も増えるはずだ。

 ましてや今は侯爵という立場上、他の者が気を使ってしまうことになるから大勢で依頼を受ける場合は身分を隠すようにしている。

 さっさと食事を済ませて、今夜の監視の順番について打ち合わせを行うために、ギルド職員のテントへとルミーナと向かう。

 一人の場合はコクヨウと一緒に寝ていれば魔物が近づけばすぐにコクヨウが気づくし、低レベルの魔物であったらBランクに分類されるコクヨウになど近づいてこない。

 それができないのが大人数の痛いところだ。

 打ち合わせができる天幕に入ると、すでに食事を済ませた冒険者のパーティーの代表たちが集まっていた。

 俺の後にもう一組揃ったところで、ハルビンが打ち合わせの司会を始める。

「まぁ護衛依頼だが、今回は大規模になるし人数が多い。三組をバラバラにするのも意味がないし、パーティーごとに分かれてもらう。ソロで参加しているトウヤ殿とルミーナ殿は一緒になってくれ」

 ハルビンの言葉に素直に頷く。

 話し合いが行われ、俺とルミーナの夜番は最後となった。

 それまでゆっくり眠れるのはありがたい。

「これだけの大人数だ。大規模な盗賊団が動く可能性もあるし、魔物も出てくるかもしれないから気を引き締めてくれ」

 全員の表情が締まる。

 やはりBランク以上の冒険者であるからか、理解しているようだ。

 解散してから自分のテントへと戻る。

 ルミーナと一緒に同じテントに入ろうとした時、他の男たちからの殺気を感じたが気にしないようにした。

 テントに入るとルミーナはベッドに飛び込んでいった。

「地面に寝るよりベッドのほうが疲れが取れるからありがたい。私たちの夜番は最後だろう。装備はまだいらないな」

 いきなりビキニアーマーを外し始めるルミーナに思わず背を向ける。

「ルミーナ、着替えるなら言ってくれ。俺もいるんだから」

 俺の言葉にニヤリとしたルミーナは、気にせず着替え始めた。

「なんだ、トウヤ? そんなに気になるのか? フフフ」

 なんだか負けた気分になったので、ルミーナの言葉をスルーしてテントを出る。

 時限収納ストレージからまきを取り出して組んで、魔法で火をつけて椅子を用意して座ってのんびりする。

 シンファシー皇国までの数日をこんな調子でのんびりできればいいんだが、やはりグルシアの言葉が脳裏に浮かぶ。

 どこかで必ず襲撃があると……。

 王国の兵士がルネット帝国内に侵入してまで襲撃はしないと思うが、シンファシー皇国に入ったらわからない。

 俺も初めての土地になるし、盗賊だっている。どこで襲撃があるか探査サーチを使って探っていかねばならないだろう。

 追加で薪をくべながら気を引き締める。

 時間をおいてテントに戻ると、ルミーナはすでにベッドに潜り込んでおり、寝息が聞こえてくる。

「……のんなもんだな。おやすみ」

 ルミーナに一声掛けて俺もまぶたを閉じた。



 眠っているルミーナを起こし夜番を行ったあと、朝食を済ませてから出発となった。

 特に襲撃もなく、何事もないまま朝を迎えることができた。

「それにしてもベッドで寝るとこれだけ朝がさわやかに迎えられるとはな。ある意味街の安宿のベッドより快適かもしれん」

 確かに俺もそう思う。俺はいい宿に泊まっていたし、早々にフェリスがいた屋敷を購入できたし、護衛依頼を受けることも少なかったからそこまで苦労はなかったけど、長年冒険者をやっているルミーナの言葉は重い。

 明日の夕刻には途中の街に着いてそこで一泊する予定だが、あと一日野営の予定があるので気を引き締めて馬車へと乗り込んだ。

 日中は何事もなく馬車は進んでいく。

「これなら次の野営地まで問題なく到着しそうだな」

「あぁ、次の野営地は森のすぐ横と聞いているから、もしかしたら魔物が出てくるかもしれないけどな」

 休憩時に商人と話している時に、この先の道について尋ねておいた。

 草原を進み、森の入り口に沿って街道が延びていて街へと続いているらしい。

 幾度かの休憩を終え、次の野営地へと到着した。やはり情報通りで森のすぐ近くにある広場だった。

 夕食前に護衛が集められ、俺たちの夜番はまた最後になった。

 食事が済んでからゆっくりと眠れるのはありがたいけどな。

 相変わらずテントの中での食事になる。さすがにこの料理をひけらかすわけにもいかないし、俺とルミーナだけの秘密だ。

「こんな護衛依頼ならいくら受けてもいいな。トウヤがいればだが」

「護衛任務なんてそうそう受けるわけないだろ。今回は特別だから」

 普段は貴族としての役目はないが、陛下からはなるべく帝都にいてほしいと言われている。高ランクの討伐系の依頼で数日屋敷を空けることはあるが、基本は帝都にとどまっている。

 食事を済ませてから魔法で身体をれいにしてからベッドへ潜り込む。ルミーナも早々に寝るようなのでテント内を暗くして、夜番まで眠りにつくことにした。