貴族流の解決方法
数分でマッグラー子爵の屋敷に到着したが、門には二人の衛兵が待機している。
「そのまま門をぶち壊せ」
俺の言葉がわかっているのか、コクヨウはスピードを緩めることなく門を蹴り飛ばす。
「ぎゃぁぁぁぁ」
吹き飛ばされた衛兵には悪いが、今は構っている暇はない。
屋敷の入り口でコクヨウから下りると、そのまま魔法で屋敷の扉を吹き飛ばす。
ずかずかと屋敷に入っていくと、私兵が次々と現れた。
すぐに
二階の端の大部屋に四人がいるのを確認できると、俺はそのまま進んでいく。
「襲撃者だっ! こいつを止めろ!」
向かってくる私兵を殴り飛ばし、時に魔法を使い吹き飛ばしていく。威力が高すぎたのか、屋敷の壁をブチ抜いて私兵は消えていった。
階段を上っていくと、剣で斬りかかってくる私兵たちを次々と殴り飛ばしていく。
「今の俺は容赦できないぞっ! 次からは命の保証はしない」
そう言い切ってから
私兵たちが一歩下がったのを見計らって一気に
部屋の中には貴族服を着たマッグラー子爵と、養護施設の監査をした上級監理官、あとはスエーン商会の会頭、そして縛られたままのサヤがいた。
「トウヤさんっ!」
「何やつ!?」
そのまま部屋に入り、入り口近くにいたサヤの前に立つ。
「お前たち……何をしたのかわかっているんだろうな?」
殺気を向けて言葉を放つと、マッグラー子爵はソファーから崩れて尻餅をついて後ずさりながら
「お前! 貴族の屋敷に襲撃などかけてわかっているのだろうな! 不敬罪で死刑だっ!」
「そうですよ。ここにはマッグラー子爵がいらっしゃる。冒険者が入ってこられる場所だと思っているのか」
三人の言葉に気にせず、俺はサヤのロープを切る。
「サヤ、待たせたな」
「トウヤさん……助けに来てくれて……ぐすっ、ありがとうございます……」
目に涙をためたまま俺に抱きついてきた。
「大丈夫だったか? もう俺が来たから安心だからな」
「……はい、大丈夫でした……」
サヤの頭を軽く
「お前たちは誘拐の現行犯だ。すでに商会は衛兵たちが押さえている。ここに来るのも時間の問題だ」
俺の言葉に立ち上がったマッグラー子爵が鼻を鳴らす。
「冒険者風情の言葉に衛兵が言うことを聞くと思っているのか? ここは貴族街だぞ。わしの言葉が誰よりも一番に決まっているだろう」
その言葉と同時に下の階から声が聞こえ、次第に駆け上がる音が大きくなってきた。
「ここかっ!」
衛兵が数名、剣を構えながら部屋に入ってきた。
マッグラー子爵はしめたとばかりに、手を大きく広げる。
「衛兵たちよ、よく来てくれた。この貴族の屋敷に侵入してきた男を捕らえよ! あとで褒美をとらすぞ」
しかし誰もマッグラー子爵の言葉に耳を傾けず、三人に向かって剣を向けた。
その反応にマッグラー子爵の表情は真っ赤になり、怒鳴り始めた。
「なぜ、わしの言うことが聞けない! わしはマッグラー子爵だぞっ!」
その言葉に衛兵の一人が剣を向けたまま、一歩前に出る。
「……マッグラー子爵だということは理解しております。しかし、誘拐事件の主犯としてマッグラー子爵を捕らえるのは変わりません」
「なぜだっ!? なぜ、わしの言葉を聞かずにそいつの言葉を信じるんだっ?」
「なぜと言われても……」
衛兵が俺に視線を送ってきたので一歩前に出て貴族の
「トウヤ・フォン・キサラギ侯爵だ。お前は俺が援助している養護施設を襲った。他に何かあるか?」
「な、なんだと……。あの……救国の英雄……だと……」
「そんなバカな……」
「
マッグラー子爵、上級監理官、スエーン商会会頭が
「キサラギ侯爵が確認をして許可をもらっている。お前たちは貴族でもなんでもない。ただの犯罪者だ。この三人を連行しろ」
衛兵の言葉に残りの衛兵がロープを持って縛っていくが、反抗する気も起きないのか下を向いたまま縛られていく。
「よし、全員詰め所へ連れていけ!」
隊長が指示を出し、衛兵が三人を連れ出していく。
「キサラギ侯爵、あとはお任せください。朝一番で城には連絡を走らせますので」
「うん、ありがとう。俺からも陛下に説明しておくつもりだ」
「はっ! あと……握手してもらっていいですか。ずっとファンだったのでお会いできて光栄です」
照れくさそうに手を差し出してきたので笑顔で握り返す。
「こちらこそ光栄だよ。よく来てくれた。あとは頼んだよ」
「はいっ! それでは失礼いたします」
衛兵たちを追うように隊長は駆けていった。
思わず大きなため息をつく。
これでやっと終わりかな……。それにしても全員無事でよかった。
「トウヤさん……」
勢いよくサヤが抱きついてきたので、俺はそっと背中に手を回し抱きしめる。
「よかった、間に合って……」
「はい、トウヤさんならきっと来てくれると信じてました……。やっぱり私にとってもトウヤさんは──英雄です」
俺に抱きついたまま上目遣いで見上げてくる。
「早く子供たちにも無事の姿を見せてあげないとね。一緒に連れていかれた子供たちも保護してルミーナが見てくれてる」
「そうですね。でも今は少しだけこのままいさせてください」
サヤは俺の胸に顔を
そのサラサラの髪をゆっくりと撫でると、気持ちよさそうに目を細めている。

少しの間、サヤを抱きしめてから二人で屋敷を出る。
外では衛兵たちが私兵たちの手を後ろで順番に縛っていた。マッグラー子爵が捕らえられたことで全員が従順になっているようだ。
人数が多いので馬車を用意しているらしく、一か所にまとめて座らされていた。
その中にマッグラー子爵や、上級監理官、スエーン商会会頭もいる。
マッグラー子爵は俺を見つけ憎らしげに
上級監理官と会頭は諦めたように
人身売買に手を染めていたら、基本的に打ち首だし良くて鉱山奴隷だろう。特にマッグラー子爵には厳しい処罰が下るはずだ。
あの陛下が簡単に許すとも思えないし、もし許したら俺が許さない。
発覚するまでにどれだけの子供が犠牲になったかわからない。これからの尋問で明らかになっていくだろうけど。
俺は三人の前に立つ。
「お前たちがやっていたことは許されることじゃない。明日、陛下に報告をするつもりだ。厳しい沙汰が下ると思え」
マッグラー子爵は諦めたように俯いた。しかし上級監理官が俺を見上げ口を開く。
「な、なんで今まで身分を出さなかったのですか……? 監査の時といい、あくまで冒険者として通していたのに……」
「それは、養護施設の管轄は俺じゃないからだ。そこのマッグラー子爵だからな。身分を明かせば監査も簡単に終わるだろう。それじゃダメなんだ。俺の
「……そうですか。だから……」
諦めたように上級監理官は俯いた。
小さい悪事ならこの世界、
これくらいのことなら仕方ないと思っているし気にしない。
ただ、人の命に関わること。特に大切な子供を商売にするのは許容できるものではない。
しかも今回はサヤや子供たちを襲ったのだ。絶対に許すつもりはない。
衛兵の隊長に挨拶し、俺たちは養護施設に戻ることにする。
屋敷の横で待っていたコクヨウに
「コクヨウ、
養護施設に戻ると、勢いよく子供たちが出てきた。
「サヤお姉ちゃん!」
子供たちが次々とサヤに抱きついていく。スエーン商会に捕らえられていた子供たちも養護施設に戻ってきたようだった。
最後にゆっくりとルミーナが出てきた。
「やっぱりトウヤだな。サヤも無事でよかった」
「あぁ、ルミーナには今回世話になったな」
「いや、結局私一人では助けられなかった。やはりトウヤは頼りになるな」
俺は首を横に振る。
スエーン商会に子供たちを取り戻しに行った時も、俺一人ではできることは限られている。
ルミーナがいたからこそ、子供たちをすぐに保護できたのだ。
素直に言葉にすると、ルミーナは少しだけ
「トウヤ……。こんな時に口説くなんてずるいぞ……。お前だったら……」
いや……素直に礼を伝えているだけなのに、なぜ口説いていることになるんだ?
そんなモジモジされても俺が困るんだが……。
思わず頬をかいていると、コクヨウがいきなり頭を
俺のことを忘れるなと言わんばかりに。
そうだ、お前にも感謝しなくちゃな。
「コクヨウもありがとうな」
礼を伝えると、当たり前だと言わんばかりに尻尾が
「トウヤ兄ちゃん、サヤお姉ちゃんを助けてくれてありがとう」
サヤに抱きついていた子供たちがいつの間にか俺のことを囲んでいた。
「あぁ、俺にとってサヤもお前たちも大事だからな。何かあったら必ず助けてやる」
抱きついてきた子供たちの頭を順番に撫でていく。
「ほら、もうすぐ朝だ。今日は俺が朝ごはんを作ってやるからな!」
「「「やったー!」」」
喜ぶ子供たちと明るくなってきた空を見上げながら建物に入っていった。

子供たちと朝食を済ませたあと、俺は早々に城へ向かった。
衛兵たちに挨拶をし、そのまま中へと入っていく。すぐに応接室へと案内され、待っていると陛下が皇太子とシャルを連れて入ってくる。
立ち上がり挨拶をすると、陛下が手で制し、また席に座る。
「昨日の話は簡略にだが聞いている。当事者であるトウヤ殿から詳しく聞かせてもらっていいか?」
「はい、もちろんです」
今までのいきさつを話していく。些細なことなので、役人に渡した賄賂などは省かせてもらったが。
「まさか、マッグラー子爵がな……。あの父親はたいそうな子供思いでな、それで帝国内の養護施設を任せておったのだが、先の戦争で命を落とした。後を継いだ子息がそんなになっているとはな……。世話をかけたな、トウヤ」
「いえ……。私が庇護している養護施設にも被害があったので……」
「うむ……。それで後任についてだが、トウヤ、お主がやってみないか?」
陛下の提案はありがたいが、俺はあくまで冒険者だ。役所で監督する気などない。
できるだけ帝都にいるつもりだが、依頼で帝都を出る時もあるはずだ。
「それですが……。シャルロット殿下に任せるのはどうでしょうか?」
「えっ!? 私ですかっ!?」
驚いた表情を浮かべるが、シャルが度々城を抜け出して、養護施設に遊びに来ているのは知っていた。
アルを護衛としてつけているから安心だが、養護施設でのシャルは子供たちの世話をしているというより、子供たちに遊ばれているような感じだった。
シャルだったら安心して子供たちを任せられる。
「皇族が庇護しているとなれば、同じようなことは二度と起こることはないでしょうし、シャルロット殿下なら子供たちも喜ぶでしょうしね」
陛下は少し考えてから大きく
「確かに……。シャルがやっている復興中の街々への激励も落ち着いたことだしな。護衛をつければ問題はないか。シャル、お前に任せる」
「はい、父上。子供たちのことはお任せください。トウヤ様との子供ができる前に勉強してきます」
シャルの言葉に俺と陛下が思わず苦笑する。
「……わ、わかった。任せるぞ」
正式に婚約者になっているから間違ったことは言ってないが、気が早い。
このままここにいたら、何を言い始めるのか危ないので俺は席を立つ。
「それでは俺はこれで失礼します」
「え、せっかく会えたのですから私たちの今後についても話し合いたかったのに……」
シャルの言葉に逃げるように部屋を後にする。

陛下はさすがにシャルだけでは心配であったのだろうか、内政を担当している貴族がシャルの下で養護施設の管理を行うことになった。
やはり前面にシャルを出すのは正解だった。
帝国内でもシャルが皇女として養護施設を管轄することになったという話が広まり、上々の評判となっている。
精力的に養護施設を巡回し、子供たちとも触れ合っているそうだ。
上から目線ではなく、同レベルで接することができるシャルなので子供たちからの評判もよく、好意的に受け止められている。
精神年齢的に近いものがあったのかもしれないが、そこらへんは口にしない。
補助金についても現地の養護施設管理者から事情を聴き、見直しが行われている。
マッグラー子爵家が取り
かなり裏で
これで安心してサヤたちが養護施設を運営できるだろう。
「トウヤ兄ちゃん、ご飯まだー?」
鍋をかき混ぜながらシャルのことを考えていたら、それなりの時間が
「ちょっと待ってろ、もう出来上がるからな」
オークの肉をたっぷりと入れたスープの味見をし、頷いてから
順番に器によそっていき、全員に行き割ったところでサヤが挨拶を始めた。
「それでは神の恵みと、作ってくださったトウヤさんに感謝して食事を始めましょう。いただきます」
「「「「「「いただきます」」」」」」
俺は子供たちの笑みを