「──AIなあ……」

 紫苑がそんな風につぶやいたのは、テープ録りの合間。

 いつものように録音に集まった、紫苑の家でのことでした。

「どうなるんだろうなあ、声優業も……」

「どうしたの?」

 台本を読んでいたわたしは、PC前の紫苑に尋ねる。

「AIって、最近色々話題になってるけど……声優にも、関係あるの?」

「うん。なんか、誰かの声をデータとして取り込んで、自分の声としてしゃべれるようになるAIがあるらしくって。VTuberの人が配信で遊んでたりするんだけど、それがかなりリアルでさあ」

「ほう……」

 紫苑はPCに向き直り、VTuberの配信を見せてくれる。

 AIを使ったボイチェンで他のVTuberになりきって、知り合いを驚かせよう! みたいなドッキリ企画らしい。

「……おお、確かにこれはすごいね」

 動画内で使われたそのAIボイチェンの機能に、思わずそんな声を上げてしまった。

「ここまで、本当にそっくりにできるんだ……」

 いわゆる『ボイスチェンジャー』でイメージするのとは、数段階上のリアルさだった。

 男性Vが女性Vの声になることもできるし、声質に違和感はほとんどない。

 実際、声を加工して別人の声にする『ボイチェン』とは全く別の処理が行われているんだろう。

 たぶん、しゃべっている声を取り込んで分析して、データ上の声質に置き換える、とかそういう処理がされてるような予感。

「ここまで来ると、仕事にも影響ありそうな気がしてさー」

 珍しく、紫苑はちょっと不安そうな声で言う。

「声優業界、どうなるんだろうって思ったんだよなあ……」

「ふむふむ、なるほど……」

 そういうことか、紫苑の不安はよく分かった。

 確かに、声優にとって声質は一つの武器だ。

 それが沢山の人に解放されてしまうことに、動揺するのはわからなくもない。

 けど……わたしには、言いたいことがある!

 ずっと紫苑と同じ声質で、紫苑のお芝居を真似てきたわたしだから言えること──。

「少なくとも……今は全然大丈夫!」

 はっきりと笑みを浮かべて、わたしは紫苑に言う。

「紫苑のお芝居の魅力は、声質だけ再現されても全然真似できないと思うよ!」

「……そうかなあ?」

「うん、断言できる」

 うなずいて、わたしは紫苑に説明する。

「わたしが紫苑のお芝居を真似する中で感じたのは、その本質は『キャラ把握』と『表現の提案』なんじゃないかってことだよ。声質って言うのはその素材に過ぎなくて(中略)つまり、今のAIの技術では紫苑の作り出す『良さ』は再現できない、ってこと」

「お、おう……」

 なんだかちょっと引いたような顔で、紫苑はうなずいた。

「良菜、やっぱりときどき急にディープなオタクになるよね……」

「でね」

 紫苑はそう言うけれど、話はまだまだ終わらない。

「もちろん、いつかそこまで再現するAIが出るかもしれないよ。紫苑がする把握と提案をできるようになったAI。きっと、生体の限界も取り込んでて、そういうAIが出る可能性ももちろん(中略)でもそこまで至るなら、既に全ての産業構造にAIが大きな変革をもたらしてるだろうし、そうなったらもう社会全体が──」

「──ちょ、す、ストップストップ!」

 止められた。

 紫苑に、わたしのアツい解説を止められた。

「も、もうわかった、ありがとう!」

「ほんと? ならよかったんだけど……」

「……いや、実を言うとまあ、確かにあんまわかってないけど」

 言うと、紫苑はいたずらな顔で笑う。

 けれど、彼女はちゃんと、その目に感謝の色を浮かべて、

「でも……ありがと!」

 うれしそうな顔で、わたしにこう言ったのでした。

「良菜がそこまで言ってくれるなら、大丈夫かなって思えたよ──」