あとがき


 お芝居のすごさに気付いた後、ずっと僕は混乱していたように思います。

 唐突に広大な新世界が見えて、その奥深さも知った。

 しかも、その世界で使われる技術は小説技法と地続きのものである。

 目にするもの全部が新鮮だし、一つ一つにばくだいな情報が籠もっていて、その全てを受け止め切れずパンク寸前! みたいな感じがずっと続いていました。

 ぶっちゃけると、なんか眠れない夜があったり、逆に一日寝込んでしまったりすることもあった。


 考えてみれば、小説家としてデビューした直後もそうだったんだよな。

 初めてのことばかりで、右も左もわからない。

 なのにやるべきこと、勉強すべきことがめまぐるしく目の前を通り過ぎていく。

 そんな中で混乱して、自分はどうあるべきかとか、何を目指すべきだとか、そういうものがわからなくなってしまっていた。

 そのとき、道しるべになったのは『他人』でした。

 しかも、自分と同じ感覚を持った他人ではなく、むしろあいれない感覚を持った他人。

 つまり、別種の作家ですね。

 彼らと話すうち、その価値観の強さや誇り高さに感銘を受け、同時に『この人のようにはなれない』『なりたいとも思わない』と感じた。その経験が、今の僕を形作っているように思います。


 この『午後4時。透明、ときどき声優2』でも、おんは自分とは別の、それでも強力な価値観を持った役者たちに遭遇します。

 混乱した彼女たちが何を失うのか、最後に何を手に入れるか。

 それはきっと、僕自身やその他の創作者、表現者が経験することにもつながっているんだと思う。結局この巻もまた、作家としての僕が直面したことの鏡映しな部分があるんでしょう。それがこれを読んでくれるあなたに響いてくれれば、心に何か変化を起こしてくれれば、それ以上にうれしいことはありません。


 さて、長く続いた僕のお芝居に対する混乱も、そろそろ終わりそうな気配を感じます。

 そんな僕がどんな変化をするのか、どんな物語を書くのかを、次作以降で見届けてもらえるとうれしいです。またね。

みさき鷺宮さぎのみや