◆将来のことは悩みの種



「そういえば……向こうでキャバ嬢みたいなことをやっている二人を見かけたよ」

 屋上で三人が思い思いにくつろいでいる時に、ルルがそう切り出した。

 思わずアタシは、吹き出しそうになってしまう。

 だってアタシがキャバ嬢って、あまりにもイメージに似合っている……。

 けど、実際にはそうだと認めたくはない。

「キャバ嬢、ですか?」

 エリムはその単語の意味自体分かっていないのか、首をかしげている。

 どれだけ世間のことを知らないんだろう、この子。

 普通じゃないって憧れるけど、あんまり普通じゃないっていうのも困りものかもしれないなと思う。

「向こうって、ルルが陽キャにんでるって言ってた世界のこと?」

「うん、そうそう。二人とも素敵なドレスに身を包んでいて、とてもれいだったけど……ちょっと心配になっちゃった」

「確かに、ルルが高校生やってるのに、うちらキャバ嬢やってるなんてヤバいかもね」

「高校生ではなかったっていうんですか? それは……あんまりな……」

 エリムもなんとなく理解したのか、ちょっと落ち込んでいる。

 アタシも、落ち込むまではいかないけどなんでだよって気持ちにはなる。

 もっと頑張れ、向こうのアタシ。

 ……本当にいるのかも、そもそもそんな境遇で生きているのかも分からないアタシにエールを送ってみる。

 それから、ちょっといじわるを思いついたので口にしてみる。

「でもそれって、ルルのアタシたちに対するイメージが反映されてるんじゃないの?」

「え」

 ルルの表情に、焦りが浮かぶ。

「そうなんですか? ルル」

 それを図星だと感じ取ったのか、エリムはルルをにらんだ。

 ルルはそんなことないよと必死に否定しているけれど、アタシの問いかけにすぐに答えられなかった時点で間違ってないように思う。

 エリムの睨みに耐えられなかったルルは、ちょっとだけ塞ぎ込んだ。

「……実際、そういう仕事に興味ある?」

 それでも懲りずに聞いてくるので、なにか意図があるんだろうと判断したアタシは素直に答えた。

「興味なくはないけど、もっと興味ある仕事に就きたいかな」

「今の私はなんにでも興味がありますけど、ひとまず大学までは出たいですね。それまでになんとか考えたいです」

「エリムは、漫画家になるの?」

「それは分かりませんが……何か、悩んでいるんですか?」

 エリムはというと、素直に意図を聞いた。

 ルルは困ったように顔をいて、ちょっと黙った。

 けれど決意したように、また口を開く。

「いや、そろそろ進路について考えないといけないなって思って……でも、何も思い浮かばないから不安で」

「確かに、それなら不安なのもうなずけます」

 そうか。もうそんな時期なのかと思ってしまう。

 アタシたちが春辺りに出会ってから、結構ったんだなと思い知らされた。

 友達じゃないのに、長い付き合いになろうとしている。

 さすがに卒業したら疎遠になるだろうけど……今はメッセージアプリで簡単に連絡が取れるし、案外縁って切れないのかもとか思ってしまう。

 ルルがツボとか売りつけてきたらどうしよう、的な。いや、そのくらいならなんとか退けられるだろうけど。

「私は……漫画家とは言わなくても、デザインを考えたりなどの近しい職に就きたいとは考えています。大学も、その系統を目指すつもりです」

「なるほど……でも、両親とは大丈夫なの?」

「大丈夫じゃないので、説得が必要です」

「だ、大丈夫じゃないんだ」

「十何年もある確執が、いきなりゼロになったりはしませんからね……それに、学力の高い女子校ではないと学費を出さないとも言われているので、色々と難しいです」

「そうなんだ。お金があったとしても、そういうしがらみとかで目指す道が険しいのは困るね」

「でも、なんとしてでも目指してやるっていう決意にもなりますけどね」

「それはエリムがすごいだけだよ……ね?」

「性格の悪さが根性に変わってるってワケね」

「……今回は褒め言葉だと受け取っておきましょう」

 褒め言葉じゃないんだけどと思いつつ、それでいいならいいかと話を流した。

「そんなナナはどうするの?」

「アタシ? アタシは大学に行ってからもモデルを続けて、その流れでインフルエンサーになろうと思ってる」

「インフルエンサーって、なろうと思ってなれるものなの?」

「そのために動画投稿とかもはじめてみようかなって思って、最近勉強中」

「そ、そうなんだ」

「動画投稿って、どうやってやるのか気になります」

「投稿自体は適当に動画撮って雑に編集すれば誰にでも出来るけど、問題はバズれるかどうかなんだよねー……」

「バズ……最近よく聞きます」

「それは知ってるんだ」

 あ、漫研の人たちも使うだろうから知ってるのかな。

 漫研で世間を知っていく子……ちょっと将来が気にはなるかもしれない。

 定期的に連絡とっておこうかな。

「二人とも、得意分野も意欲もあってすごいなぁ」

 ルルが、ちょっと悲しそうに言う。

 どっちもないからこそ、余計に進路で心配になってしまうんだろう。

「せめて、意欲さえあれば良かったのに」

 アタシはからかうつもりでそう言った。

「い、意欲自体はないことはないんだよ!? ただ、どう活かせばいいのか分からないっていうか……」

 ルルは顔をにしながら、反論してくる。

 月並みだけど、タコみたいで面白い。

「どう活かせばいいのかを考えることもまた、意欲につながってくるんじゃないですか?」

「そ、そんなの堂々巡りだよ!」

「まぁ、頑張るしかないっていうかね……」

 頑張るしかないって何!?とルルはわーわーと騒ぎ始めたが、正直構っている余裕はない。

 からかおうとしなければ良かったと若干後悔しながら、はいはいと相槌だけ打つ。

 今のアタシの一番の悩みは、とあるイケメンにまつわることだから……それどころじゃない!

 そう思っていたら読モの撮影の時間が近付いてきたので、二人をあしらってから急いで学校を後にするのであった。

 今日の撮影では、ハートマークが浮かび上がりませんように……!