◆見学



「エリムがちゃんと活動してるか、見に行ってみよう!」

 屋上でぼうっとしていると、そんなことを言いながらナナがやってきた。

「え、なんで?」

「だって今日、読モの活動もなくて暇なんだもん」

「暇だからって、そんな……」

 邪魔しに行くようなことしなくていいじゃんと思ったけど、気にはなるのでそこまで強く言えない。

「っていうか、活動再開したんだね」

「そうそう。でも、今日はなんにもないから暇だなーと思ってここに来たんだけど、来る途中にエリムのこと見に行けばいいじゃんって思いついて」

「なるほど……?」

「というわけで、行こう!」

「えっ、行くって言ってないのに!」

「どうせ気になってるんでしょ!」

 そう言われると否定出来ないので、大人おとなしくついていく。

 漫研の部室についてから、ナナは躊躇ためらうことなく扉を開けた。

「こんにちは! エリムの様子を見に来ました!」

「ひぃっ」

 ……とんだ第一声に、思わず苦笑してしまう。

 でも、学校でも話題になることの多いナナが急に部室に来たらビックリするだろう。

 気持ちは分かる。

「あ、貴方あなたたち何しに……」

「うわっ、漫画いっぱーい。これ部員だったら、読んでいいの? いいなー」

 エリムの心配をよそに、ナナは部室に遠慮なく入って漫画のたくさん置かれている棚を眺めている。

 エリムの様子を見に来たんじゃないの!?と思いつつ、他の人たちに思わず頭を下げてしまう。というか、私までヤバいやつだって思われたくない……!

「あ、そか。エリムの様子を見に来たんだった。たくさん漫画が並んでたから気になっちゃった。どう? 頑張ってる?」

「急に突撃してこないでください!」

 エリムはもう、そのまま平手打ちをするんじゃないかってくらいの剣幕でナナに迫った。

 流石さすがにその勢いで迫られたら謝らざるをえなかったのか、ナナはごめんなさいと頭を下げた。珍しい。

「でもエリムが心配だったんだもん!」

「また白々しい……」

「まぁまぁ、エリムちゃんも落ち着いて」

 本当に手が出るんじゃないかと思ったところで、先輩らしき人がエリムを止めた。

「心配して見に来てくれたんだよね? だとしたら、大丈夫だよ。エリムちゃんはよくやってるから」

 ナナにも落ち着くように諭しながら、そう話した。

「よくやってるんですか。それなら良かった」

 ナナは本当に安心したという姿を見せながら、ゆっくりと扉に近づいてきた。

「じゃ、帰ります。失礼しました」

 そのまま廊下に出ると扉を閉めて、私を引っ張って部室から離れて行くのであった。

「ただ荒らしただけみたいになっちゃった」

「うん……」

「でも、一瞬だけ見えた原稿本当にすごかったよ。才能だねー」

「才能、か……」

 それから何も言えなくなってしまった私はナナと分かれて、帰路についた。


 ○


 家に帰ってから、考える。

 エリムは、絵を描く才能を開花させた。

 才能もあるんだろうけど、漫研の一員として頑張っているのも大きいんだろう。

 ほとんど毎日、部活仲間と一緒に部室があるらしい場所に向かっている。一度先生に勉強を教わって遅くなってしまった帰りに、同じく帰ろうとしていたエリムとすれ違ったから、時間をかけて頑張っているんだろう。

 そりゃあそれだけ頑張っていたら、文化祭のパンフレットの表紙も任されるよね。すごすぎる。

 ナナはというと、読者モデルとしての活動を再開した。

 裏アカに、ナナの出ている雑誌の宣伝が流れてきたこともある。

 すごくキラキラ輝いていて……すごいと思った。

 そうだ。二人とも、すごくキラキラ輝いている。それだけ毎日が、楽しいってことなんだろう。充実しているってことなんだろう。

 羨ましい。

 私には、なにもない。

 やりたいことも、夢中になれることも、好きな人もいない。

 友達だっているとは言えないし、勉強だってそれなりにしか出来ないくらい……私はなにも持っていない。

 空っぽだ。

 それが、悔しくてたまらない。

 そんな風に悲しんでいると、なんと症候群が悪化してしまった。

 人混みのなかにいると、人に触れずとも気分が悪くなったり手先がピリピリと痺れるようになってしまったのだ。

 それに人に触れると、もっとひどい痛みが起きたりする。

 どうして、自分はこうなんだろう?

 いつになったら、この痛みや苦しみ、つらさから解放されるんだろう。


 症候群なんて、なくなってしまえばいいのに!


 こうして私は求愛性少女症候群に対して強く嫌悪感を持った結果、別の世界の私と入れ替わることになってしまったのである。