◆プリクラ行こ!
『プリクラ行こ!』
そんなメッセージがナナから来たのは、金曜日の夜だった。
もう寝ようとしていた私は、プリクラというのが一瞬なんのことだか分からなくて首を
ぷりくら、プリクラ……プリクラ!?
『なんで急にプリクラなの?』
驚きで目が覚めてしまった私は、そんな風にメッセージを返した。
『いや、モデル仲間の先輩が気になってた
『いいですよ』
了解のメッセージは、エリムが送っていた。
まさかエリムがこんなに早く承諾するとは思わず、私はさらに驚く。
『ありがと。二人でも撮れるからどっちでもいいんだけど、ルルはどうする?』
ナナはあんまり驚いてないようで、端的にお礼を言うだけだった。
なんでそんなにすぐ了解するのとか、聞かないんだろうか……。
「いや……」
きっとエリムのことだから、自分が描く漫画のネタになるとでも思っているんだろう。
あとは純粋に、庶民の文化として気になっているとかもあるのかもしれない。
ナナもきっとそれを分かっているから、あえて深掘りしないんだろう。
『私も、久しぶりに撮ってみたいな』
小学生や中学生の頃は頻繁に撮っていたけど、最近は撮っていない。
どのくらい技術が進歩しているんだろうってことも気になって、撮ってみたくなってきた。
『じゃあ決まりね。明日、学校近くの駅に集合ってことでよろしく!』
『はーい』
『はい、分かりました』
急なお誘いだったけど、明日は何もないし大丈夫だろう。
友達じゃないから、そんなに長く一緒にいるってこともないだろうし……。
いやでも、少しくらい遊べたら楽しいかもしれないな。
そう思ってちょっとは楽しみにしながら、眠りにつくのであった。
○
「どう? お母さん。変じゃない?」
「変なことないわ。ルルはいつでもかわいいわよ」
「そういうことじゃなくって!」
プリクラを撮るということは、写真として撮り終わった後も形として残るということなのだ。
そう気付いた私は、朝早くに起きてからああでもない、こうでもないと言いながら服を選んでいた。
二人はスタイルもいいし顔も
服を決めたら、それに合うメイクもしなきゃ。
でもあんまりメイク道具を持っているわけじゃないし……そもそも服もそんなにたくさん持っているわけじゃないし!
あーもう! どうしたらいいんだろう!
バタバタと悩む私を、あらあらといった様子で見つめれているお母さん。
普段ならどんな時でも私のことを可愛いって言ってくれるのは
でもお母さんにイライラするのも良くないから、一旦落ち着かなくちゃ……。
「うーん……」
冷静になると、どれだけ着飾っても私は私でしかないって思えてきた。
逆に着飾り過ぎると、二人から笑われるだけかもしれない。
そのほうが絶対に嫌だ。
ナナとか、何度でも掘り返して笑ってきそうだし……。
それならばと、好きな服を着て行くことに決めた。
そうして落ち着いた私は、最近買ったお気に入りのTシャツを軸にコーディネートをした。それに合わせたメイクも、しっかりと決める。
「……よしっ」
お母さんに確認を取らなくても、私らしい可愛さがある感じでまとまったと思う。
我ながら満足だ。
さて、そろそろ行かなきゃ……。
「わっ! もうこんな時間!?」
朝早くから用意をしていたはずなのに、もう約束の時間が迫っていた。
そろそろ出ないと間に合わない。
いや、もしかすると間に合わないかも……?
そんな時間に、私は慌てながら外に出た。
「いってきます!」
「いってらっしゃい」の声を背中に聞きながら、私は出来るだけ急いで駅に向かった。
駅に着くと、ナナとエリムがもう待っていた。
「ギリギリ!」とナナは怒りを表してくる。
「ごめん! ちょっと色々あって!」
「まぁ、そんなに急ぐことでもないでしょうしいいじゃないですか」
「大切なナナ様の時間を無駄にされるのが嫌なの!」
「ナナ様って」
「自分でそこまで言いますか……?」
「アタシはナナ様だから言うんですー!」
よく分からないナナの主張のおかげで、ギリギリに来た私の扱いはそんなに悪くならなかった。
エリムがフォローしてくれたのもあるかもしれない。
でも二人とも本心からそう言っているだけだろうから、感謝するのもなんか違う気がして黙ったまま電車に乗り込む。
三人で立って電車に揺られながら、二人はそうじゃないからなんだろうけど、あんまり無言だとちょっとつらくなってしまう。
何か話さなきゃと思って、話を切り出した。
「新しいプリクラって、どんなのなの?」
「それがね、目の角度を変えられる機能があるらしい」
「目の角度を……?」
「ほとんど整形じゃないですか」
「それは言えてる」
笑いながらいうナナ……笑うしかないっていう感じだろうか?
「というか今ってスマホの自撮りでいくらでもなんでも出来そうなのに、わざわざプリクラに行ったりもするんですね?」
エリムの言葉に、思わず
確かに、それは私も思っていたことだった。
小学生や中学生の頃はスマホを持っている子もいない子もいた影響からかプリクラを撮っていたというのもある。
だから、ほとんど全員がスマホを持っているだろう高校生であるナナからプリクラっていう言葉が出てきたから驚いた。
「うーん。役割が違うじゃんかね?」
「役割?」
「うん、役割。言葉には
「そういうものなんですね」
「なるほど……?」
イマイチよく分からないけれど、きっと感覚的な要素が多いから言葉にしづらいだけなんだろう。
そういうことって、結構ある。
ぼんやりとそんなことを思っているうちに、大きなショッピングモールが隣接している駅に着いた。
三人で電車から降りて、ゲームセンターに向かう。
ゲームセンターはただでさえゲームの音で騒がしいのに、休日だからか人の声も重なってすごくうるさかった。
こんなにうるさかったっけと思いつつ、ナナの後についていってプリクラコーナーに向かう。
そこでやけに人が多いテーブルがあると思ったら、なんとそこでは女の子がコテで髪を整えていた。
コテは台に固定されているようなので、どうやら備え付けのものらしい。
すごすぎる……。
「い、今ってコテとかあるんだ」
「今日は整えてきたから大丈夫だけど、学校帰りとかだったら重宝するよね」
「確かに……」
「こういう場所は見たことがなかったので、参考になります」
本当に漫画のために来ているってことが分かって、思わず苦笑してしまう。
コテがあるって描写、難しそうだけど……エリムなら、うまく表現出来るのかな?
ちょっと完成したら、見せてほしいかも……。
「コテがあるところってあんまりないと思うけど、参考になったなら良かったじゃん」
「はい」
「あ、今空いたから行こ」
そう言ったナナにつられて、一台のプリ機の横にある画面を三人で囲んだ。
「三人で撮るっと……設定とかこっちで自由に設定しちゃっていい? お金ももちろん払うからさ」
「それはもちろん」
「分からないので、むしろお願いします……」
昔は積極的にああじゃないこうじゃないって言ってたような気がするけど、今はもうそんな気力がない。
過去の元気は、一体どこから来ていたんだろうか……。
そんな風に今から思ってしまって、大丈夫なんだろうかとも感じる。
まだ私って、高校生なのに。
「設定終わったから、中に入って入って」
そう言われて、撮影スペースに押し込められる。
撮影スペースは白一色で、なんだかすごかった。
「撮影スタジオみたいなものに近いですね……」
エリムもすごいと思っているのか、そんなことを言いながら興味深そうに狭いスペースを見回している。
「これから撮るから、気合い入れてよね!」
「そ、そんなに気合い入れるの……!?」
やっぱり着飾ってきた方が良かったのかなと若干後悔しつつ、ナナや機械の音声に促されるままポーズを撮って写真を撮っていく。
それがやたら忙しなく、こんな感じだったっけとまた思ってしまった。
「エリム、もっと笑顔で……いや、怖い怖い! それじゃ笑顔じゃなくて、威圧だってば!」
「これ、もうすでに別人じゃないですか? これからさらに目の角度を変えたら整形どころではないのでは……」
「このポーズ恥ずかしいのになんで二人ともそんな素直に出来るの……!」
七枚ほどを撮り終わってやっと終わったと思っていたら、なんと動画撮影というものが始まってしまった。
「ど、動画撮影ってなに!?」
「言ってなかったけど、この
「先に言ってよ……!」
そんな感じだったけど、高速で時間は過ぎていった。
本当の撮影終了に、もはや
「つ、疲れた……」
どことなく疲れてしまった私に構うことなく、ナナとエリムは落書きブースに行ってしまった。
そういえば落書きブースって撮影するところより狭いから、二人で入ったらもういっぱいいっぱいだよね……。
そう思った私は、落書きブースを背にして外で待つことにした。
中からは「あれ? スタンプってないんですか」「最近はないやつのほうが多いかも」といった会話が聞こえてくる。
スタンプって、最近のやつはないんだ。
じゃあ今の二人は、一体なにをしているんだろう……? それこそ目の角度をいじったりしているんだろうか? ちょっとした神様気分かもしれない。
っていうか、こんなに会話が聞こえてくるんだ。
昔よくプリクラを撮りながら友達たちと騒いでたけど、全部周りに筒抜けだったのかもしれない……。
そんなことを考えながら、ちょっとゲームセンターを見回してみる。
あ、あのウサギのキャラ……最近SNSで話題になってる子だ。
最近話題になってると思ったのに、もうクレーンゲームの景品になってるんだ。
すごいな……。
「……んー」
ちょっと欲しいかもしれない。かわいいし。
でも待ってる間にクレーンゲームしてるっていうのも悪い気がする。
……早く終わらないかな。
と思った途端に、二人がブースから出てきた。
ついでに、プリントされたらしい。
プリントされたものをナナが取って、私とエリムにちぎった分を手渡した。
「うわぁ……」
「整形どころじゃないですよね、本当に」
「あんまり言わないでよ。そういうものなんだから」
撮影している時にはあまり気にしてなかったけど、落書きでさらに強調されたからだろうか。
ものすごく、盛られている。
エリムの言っていることも、あながち間違いじゃないだろう。
お母さんに見せたら一瞬だけど、どれが私か分からなさそうだ。そのくらい、みんな盛られている。
「えーでも、楽しかったでしょ?」
「はい、いい勉強になりました」
「まぁ、楽しかったのは楽しかったよ」
「これからどうする? せっかく集まってもらったけど、もう解散する?」
「ちょ、ちょっとクレーンゲームでも見ていかない?」
「見れるのなら、私も見てみたいですね。どういうものが景品としてあるのか気になります」
「じゃあ決まりね! ついでにお昼も食べて行こうかーエリムお嬢様のおごりでさ!」
「そんなに私を当てにしないでください!」
それからお目当てのうさぎのクレーンゲームをしてみたけどまったく取れなかった。
代わりに
でも全体的に、ちょっと友達っぽい休日を過ごしてしまった。
楽しかったのは事実だけど、また明日からはしっかり線引きをしていかなくっちゃ。
私たちは、友達じゃないんだから。