◆志望校の再考



 誰とも話すことなく一人で過ごすお昼休みにも慣れた頃、志望校を変えようとふと思った。

 人の多い教室にいるのも苦痛なので、お弁当を片付けてからすぐに資料室に向かう。

 今の志望校は、元バレー部のみんなと一緒に行けたらいいねと考えていた高校だ。

 ただでさえ今の教室で顔を合わせるのも気まずいのに、高校までその気まずさが続いたら……そう考えると、ゾッとする。

 だから、改めて志望校を考えよう。

 そのためにも、ちょっとでも情報を手に入れなくっちゃ……。

 そんなことを考えているうちに、資料室についた。

 しっかり将来のことを考えるために来たのは、はじめてかもしれない。

 周りに流されるままに来ていたことが多かったから、なんかちょっと新鮮な気持ちだ。

「……うーん」

 近隣の高校がまとまっている資料を、備え付けの椅子に座りながらペラペラとめくっていく。

 どれもピンとこない。

 けど、もう体験入学の期間も過ぎているから、資料以外に頼れるものがない。

 とりあえず、あんまり遠かったり、倍率が高かったりすると嫌だなぁ……。

「お、ルルじゃないか。どうしたんだ。こんなところに来て」

 そんなふうに悩んでいると、担任の先生がたくさんの資料を抱えてやってきた。

 まさか先生がやってくるとは思っていなくて、ものすごく動揺してしまう。

 でも、そりゃそうか。それぞれの生徒が行く高校を把握していなきゃいけないだろうし……私の考えがそこまで及ばなかったのが悪いのかもしれない。

「えっと、志望校を、変えようと思ってて……」

 だから動揺して、素直に話してしまったのも自分のせいなのだ。

「志望校を変えたい? なんでまた」

 先生は、当たり前だけど怪訝な表情になる。

 いつも明るく笑っている先生だから、そういう表情になると変に緊張して固まってしまう。

「えっと、その……」

 みんなと同じ高校は嫌、とは素直に言うわけにはいかない。

 頭をフル回転させて、なんとか言い訳を繕おうと言葉を選ぶ。

「きゅ、急に、今までずっと周りに流されてきたんじゃないかと思って」

「周りに流されてきた?」

「そ、そうなんです! 周りに流されてきたから、本当に自分の行きたい高校なのか分からなくなってしまって……」

「なるほど……」

 先生はしばらく何かを悩んでいるようだったが、やがて納得したように口を開いた。

「そういうことなら、もう少し時間もあるし、納得がいくまで悩んだらいい。先生も話を聞くから」

「あ、ありがとうございます」

 とつに出てきた言葉だったが、どうやらうまくいったらしい。

 心の中で、あんのため息をついた。

「ただ……その様子だと、まだ両親にも志望校を変えたいって話はしてないんじゃないか?」

「え、あ、はい……」

「ちゃんとご両親にも話をして、それで納得してもらってから考えるんだぞ」

 そうか、お父さんとお母さんにも、改めて話をしなきゃいけないんだ。

 そう考えると志望校を変えるってものすごく大変なことなんだと、思い知ってしまった。

 けれど今更変えませんというわけにもいかず、はいとまたうなずいた。

「とりあえずもうすぐお昼休みも終わるから、一旦教室に帰りなさい」

 そう言われて、資料室から出た。

 廊下に出た途端、一気に疲労のため息が出た。

 先生に話すだけでこれなら、お父さんとお母さんに話すときはもっと緊張するだろうな……。

 でも、楽しい高校生活のためにも頑張らないと。

 今の状態のまま送れるのか分からないけど、きっとその頃までには良くなっていると信じて……楽しい高校生活を信じて、想像を膨らませる。

 とりあえず、バレー部のない高校がいいかな。

 やってたって知られたら、勧誘されてしまうかもしれないし。

 バレーにはいい思い出がなくなっちゃったから、出来る限り関わりたくない……。

 でも、どうせ体育でやるかな? だとしたら、あんまり意味がないのかもしれない。

 そもそも、バレー部のない高校なんてこの付近だと聞いたことないし……私が知らないだけかな?

 ちゃんと両親に許可を取ってから、また資料室に来よう……。


 こうして私は、ナナとエリムと出会う高校に進学することになったのであった。