◆露出過多少女の推し活2
学校でのテストやらなにやらがちょっと忙しくて、しばらくカフェに行けなかったある日のこと。
テストの点もいつも通りだったし、そのご褒美としてカフェに向かった。
行く途中に、エリムを連れて行った時に妙なことが起きていたことに気付いたけど、今更だなと思ってしまった。
あれから結構
気にしないことにしよう。
ミレイさんは「久しぶり」って迎えてくれて、本当にお嬢様達のことを把握してるんだな~と
……本当はアタシのことだけを把握してほしい、だなんてことは口が裂けても言えないけど。
きっとミレイさんを推しているお嬢様はみんな思っているだろうから、思うだけは許されたい。
「学校のテストはどうだったんだい?」
「もう完璧ですよ!」
「そうなんだ。私は学校の成績はイマイチだったから、ナナお嬢様に教えてもらいたかったよ」
「み、ミレイさんでも不得意なことってあるんですね!?」
私は心底意外で、思わず大きな声で驚いてしまう。
「そりゃあ、あるよ。私を完璧超人だと思ってる?」
「……思ってる節はあるかもです」
「ふふ。それならそれで、光栄ではあるけどね」
そんな風にいつもと変わらない平和で穏やかな雑談をしている時、衝撃的な言葉がミレイさんの口から放たれた。
「そういえば近々お店でイベントがあるんだけど、ナナお嬢様は来ないんだね。どうしたの? 予定でも入ってた?」
「い、イベント!? ですか!?」
聞き覚えのない単語に、思わず大きな声を出してしまう。
そんなの知らない。
どうしよう。
「そう、ちょっと大きな規模でね。チケットがもう少しで売り切れるところだったと思うんだけど……どうだったかな」
曖昧な言葉のまま、ちょっと待っていてねと席を離れてチケットの確認をしに行ってくれた。ちょっと、いやかなり不安になる。
もし、チケットがなかったら?
そう考えると、心臓が握りつぶされそうだ。
もちろん、そのイベントに行けなかったからってアタシのミレイさんへの愛がなくなるわけじゃない。それに、次のイベントだってあるだろう。
それでも、こんなに夢中になっている時に参加出来ないっていうのはなんだかとても悲しいことのように感じられた。
「ごめん。もうすでに
そういうおっちょこちょいなところも
「そういえばナナお嬢様、こういう話も知ってるかい?」
「何をですか?」
イベントの話で頭が真っ白になっているアタシに気づいていないのか、ミレイさんは興奮気味に切り出した。
「最近、この周辺をメイドが
「え? そ、そうなんですか」
メイドが、彷徨っている……?
ミレイさんにしては変なことを言い出したので、私は今度のイベントの設定だろうかと思ってしまう。
けれどそういうことを書いているポスターなんかもないので、なんなんだろうとモヤモヤする。
「あ、その顔は、信じてないね?」
「し、信じてないもなにもないのですが……え、本当の話?」
「どうやら本当の話らしいんだよね。同じ執事の中に、見かけたっていう子がいるから。その子が、そんな
「でも、メイドなんてこの付近にはいっぱいいるじゃないですか。それなのに彷徨うメイドって、一体どういうことなんですか?」
メイドカフェがあるんだから、メイドがこの辺りを歩いていても不自然じゃない。
「そこなんだよ。私も最初はそう思ったんだ。ナナお嬢様の言う通り、この辺りには、メイドなんて執事の数以上にいる。でもそのメイドの異質なところは、スカートの丈が長いってところなのさ」
「スカートの丈が、長い……?」
どういうことか分からずに、首を
「もっと都会に行けば、そういうクラシカルなメイドを売りにしているお店もあるだろうとは思う。けれど、この辺には少なくともないはずなのさ。つまり……」
「つまり……その人は自前のメイド服を着ているってこと?」
「ご明察」
まるで探偵のようなその仕草に、思わずときめいてしまった。
けれど、自前のメイド服を着ている人がいるだなんて、なんて地域なんだろうという思いが強くなってしまう。どこかの店のメイドになりそこねた腹いせかなにかだろうか? 性格が悪い。
「そのメイドが、
「それがね、ほとんどの人には見えないらしいんだ」
「ほ、ほとんどの人には、見えないってどういうことなんですか……?」
自前のメイド服ってことよりもヤバそうな話になってきていて、私は背中に悪寒が走るのを感じる。
それじゃあ、まるで幽霊みたいじゃないか……。
「その言葉の通り、見える子は限定されているんだ。かくいう私にも、見えなかったからね」
「そ、そうなんですね」
ミレイさんにも見えなかったのに存在しているなんて、逆に誰なら見ることが出来るんだろうか。
もしかして、また求愛性少女症候群絡みの話……?
「まぁそれは置いといて」
「置いといていいんですか!?」
置いておけないような、とんでもない話だと思うんだけど……
「都市伝説としては素敵だと思うけど、この周囲で起きているってところがダメだね。営業妨害にも等しいよ」
そんなことをお嬢様相手に言っていいのかと思ったけど、それくらい気を許してくれているってことなのかもしれないと解釈すると
「でも、チケットは
「なるほど、そういう見方も出来るのか。さすがナナお嬢様」
小さく拍手をされて、
「そういえば、最近このお店にもメイドさんが来ているんだよね……」
しみじみと、思い出したようにミレイさんが
「メイドさんが?」
この付近、いくらなんでもメイドさん多過ぎない?
「ああ、多分他店の人だと思うけどね。敵情視察なのかな?」
「人気店ならではですね」
「ふふ、ナナお嬢様は本当に嬉しい言葉ばかりをくださるね」
「だって好きなんですもん!」
そんなふうにキャッキャウフフと話をしていた喫茶店から帰って、我に返る。
イベント、どうしよう!?
チケットが捌けていることを忘れていたミレイさんのお茶目な姿はカワイイと思ったけど、それをかわいいで済ませられないくらいには動揺している。
そんなことって、ある……?
SNSで検索してみると、高額転売を見かけた。
いくら行きたいとは言っても、
そんなお金もないし、そもそも転売はいけないことだ。
転売チケットでイベントに入ったってミレイさんに知られたときには、きっとものすごく悲しまれるに違いない。
つまり今回のイベントを、アタシはただ指を
そんなことって、ある!?
○
「うー……!」
イベントがあるって分かっているのに、行きたいけど行けない。
その事実が、アタシの中で着々と大きくなってきていた。
ひとつ嫌なことがあると、モデルのほうにも影響が出てしまう。
目にハートマークは出なくなったけど、表情がやっぱりどこか暗くて影があるって言われてしまう。
この前はそれでもなんとかなる撮影だったから良かったけど、満面の笑顔が求められる撮影なんかになったら役に立たなくなってしまうだろう。
それは困る。
もうここまで悩むくらいなら、転売ヤーから買うのもありなのかな……?
そう思って、SNSをチェックしてみる。すると、該当のツイートは見つからなくなっていた。もしかすると、譲り手が見つかったから、消したのかもしれない。
これで本当に、イベントに参加する手段がなくなってしまった。
「ああ、終わった……」
自然とそんな言葉が口から出てしまうくらい、脱力してしまった。
見つけたあの時に、迷いなく買っていれば良かった。
お金なんて一生懸命モデルをやって手に入れれば良かったのに、どうしてチキってしまったんだろう。
ため息しか出ない。
それでもしばらくネットで探しているうちに、転売しているアカウントがメイドのサムネであることに気がついた。
……これ、もしかして敵場視察しているメイドさんが買っていっているのでは?
敵場視察どころか、邪魔をしている?
だとしたら許せないことだ。
それか、
悪者がいるんなら、なんとかしないといけない。
懲らしめに行こう!
アタシは不思議と、そう思っていた。
イベントチケットが手に入れられなかった腹いせもあるけど、ミレイさんが営業妨害って言っているんなら早めに対処するべきだろう。
よし!
明日にでも、コンカフェの周辺で探してみよう。
今のアタシは無敵なんだから、きっと見つけられるはずだ!
○
『ミレイさんのところで今度やるらしいイベント、転売屋のせいで行けなくなっちゃった!』
むしゃくしゃした気持ちを誰かにぶつけたくなって、そんなメッセージを求愛性少女症候群を解決するために作った三人のグループに送った。
すぐに既読が一件つく。もしかしてルルかな?
『なんの話ですか……』
と思ったら、エリムだった。
言い方からして、
『言葉の通り。転売屋のせいで、イベントのチケットがなくなっちゃったの』
『転売屋が悪らしいというのは、私も漫研の方々からうかがっているので話はなんとなく分かるのですが……イベントとは?』
聞かれて、イベントの詳細を知らないことに思い至った。
『分かんない』
『なんですか、それ』
また呆れているのが、なんとなく読み取れる。
『分からないけど、参加したかったの! それなのになんか敵情視察に来ているメイドだか
『メイドが、ですか』
『メイドが転売しているって、なんかシュールだね……』
ルルも来たので、私は二人に詳しい経緯を説明した。
かなりの長文になってしまったけど、二人なら読んでくれるだろう。きっと。多分。
『なるほど……でも彷徨えるメイドって人は、本当にいるみたいだね。裏のアカウントだと結構見たって人が多いよ』
「へぇ……」
『本当にそうなんだ』
ミレイさんがあれだけ説明してくれたから
『メイドがその辺を彷徨っているんですか?』
『そうそう』
『それは……なんというか……』
『なんというか?』
『なんでもありません! 明日も部活なので、早めに寝させていただきますね』
『熱心だなー。おやすみ』
『おやすみなさい』
そこでメッセージのやり取りはお開きになった。
なんてことはない、オチもヤマもないやり取りだった。
面白かったとも、言いづらい。
でもル二人に話したことでより一層踏ん切りがついて、しかもルルの言葉で明日やることに対する自信がついた。
頑張るぞ! むん!