私の名前はカリン。

陛下の派閥に連なる伯爵家を寄親とする子爵家の娘だ。

家名については寄親や子爵である父親と考えを必ずしも同じとしておらず、若干のはばかりがあるのでここでは伏せてください。

第三王女殿下の御学友になって以来、王女殿下のお考えに賛同して、今では殿下の剣でありたいと考えているために、どうしても父たちのお考えとは相いれない部分も増えてきております。子爵家の娘としては失格なのでしょうね。

後悔などは一切ないのですが。


それにしてもおかしな話で貴族は例外なく陛下が率いる派閥に属さないといけないはずです。

というよりも、陛下が国を率いるので、それに協力してこその貴族なのだが、この国ではかなり前からおかしくなっているのが現状なのです。


各地に派閥ができ離散集合を繰り返し、現在では二大派閥に、弱小の派閥がいくつかあります。

それで、非常に残念な話なのですが、陛下の派閥はいくつかある弱小派閥の一つとなっています。

私の父は先代よりも前から陛下だけに忠誠を誓っておりますので今日でも陛下の派閥に属し現在も父の態度は変えようとはしていません。


私はそれを誇りにこそ思いますが、成長するにつれて世の中が見えるようになり今日では、若干異なる考えが芽生えてきました。


私が幼少教育の終盤に差し掛かるころに第三王女殿下の御学友としてお傍に侍ることを許されたころから私の考えに変化が現れました。


私が仕える第三王女殿下は、一口に言いますと……いや、一口では表現できません。

ここだけの話にしていただきますが、王女殿下は普通ではありません。

あえて不敬となる表現を使わせてもらえるのならば、それしか表現の方法を私が知らないためですがこう表現せざるを得ません。

とにかく貴族の範疇には収まらない性格をお持ちの方です。

なので、不敬にならない表現はひょっとするとこの国には存在しないのかもしれません。

少なくとも私は今日まで知りえませんでした。

それくらいおかしいお方なのです。

それに何よりあのお方の行動力が普通ではありえません。

初等教育を終え、中等の教育に進む頃になると、王都の街並みをほとんど護衛もつれずに歩き回り、国のありさまを直にご確認する方だったのですから。

その王女殿下と親しくさせて頂くうちに親友のような関係を持たせていただいておりますが、そのことについては大変光栄なのですが、私も王女殿下に引きずられて、貴族らしからぬ行動をとる羽目になります。殿下の振る舞いはもはや愛嬌としか言いようがありませんでした。

私も王女殿下に引きずられるように皇宮に近い首都周辺を直に視察する機会が増えるにつれ、国の行く末に非常に危機感を抱くようになりました。

それからというもの、機会があるたびに王女殿下と国の未来について話し合うようになりまして。

当然子供だった私たちには妙案など浮かびようがありませんが、それでも私たちは真剣でした。

本当に真剣に王女殿下と国とは何か、何のためにあるのか、なぜ昔の大帝国はバラバラになり滅んだのかなど、およそ答えのない疑問を話し合いました。

でも全く成果がなかったわけではありませんでした。

長らく話し合ううちに私と王女殿下とで、国のあり方について意見は同じくなりました。

それは、国のありようはどうあるべきかについて『国民の笑顔』を守るという一点に集約されるというものでした。

貴族に限らず、いやたとえスラムに住む庶民においても一人でも多くの国民の笑顔を守るために国があるということが国のあるべき姿だとお考えでした。

ひるがえって、今この国のありさまはどうなのでしょうか。

それを考えますと、真逆の方向に進んでいることが子供であった私たちにも見えてきます。

その元凶となるところに貴族がいるのもすぐに理解できました。

決して貴族が不要とか、害悪とかなどとはお考えではありませんでした。

それは私も王女殿下と同じでした。

王女殿下の父君である陛下も同じようなことをお考えだと王女殿下からお聞きしています。

しかし、その打開策については王女殿下と陛下とではお考えに若干の違いらあるらしく、王女殿下は中等教育を終える頃になって、独自の方向に進むことをご決心されました。

陛下のお考えとは、ご自身の派閥を大きくして、そのお力で貴族たちを押さえていきたいということだと私は王女殿下からお聞きしております。

しかし、それではいつまでたっても庶民は浮かばれてこないでしょう。

そのように王女殿下はお考えのようです。

とにかく私たちはあれからも何度も話し合い、何をすべきかを考えていきました。

いよいよ将来の進路を決める頃になり、王女殿下は国の治安を先に片付けるご決心をなされました。

このお考えに至った経緯は、王女殿下が国の辺境においての海賊の被害の実情を知ることとなり、猶予がないことをご理解したためであったと、今考えますとそう思います。

我が国の辺境の治安は酷いの一言では言い表せないくらいに酷いと聞いております。

辺境の特に便の悪いコロニーに派遣される官僚の方の安全が常に脅かされており、聞くところによりますと、貴族でもない出自の悪い方が派遣されるような場所では殉職を覚悟しないと務まらないとも聞いております。

また、王女殿下が尊敬しているブルース提督の御意思をご自身で引き継ぐ御覚悟を決めたためでもあったこともそれをお選びになった原因だと思います。

ブルース提督が存命時代のこの国は、警察が惑星やコロニーの治安を、それ以外の宇宙空間については宇宙軍が担っていました。

当然貴族が持つ領地には貴族の私兵にあたる貴族軍もおり、宇宙に跋扈する海賊たちを取り締まる責任がありましたが、現実にはそうなっていませんでした。

第三王女殿下も非常に残念にお考えのように、その状況は今も変わりがありません。

とにかく宇宙軍は敵対する隣国との小競り合いもあり、国防が第一に置かれていたために、どうしても国内の治安維持がおろそかになる傾向があります。

ブルース提督は軍を退官する前に首都周辺だけでも守れるようにと、ご自身が先頭に立ち首都宙域警備隊、通称コーストガードを創設しました。

ブルース提督のお考えは、ご自身が創設したコーストガードで培った経験をもとにノウハウを蓄積して各地の貴族軍に展開していけば軍に頼らずとも国内の治安、特に海賊の取り締まりには絶大な効果が望めるとお考えだったと聞いております。

首都周辺については設立されたコーストガードのおかげもあり、以前とは比べ物にならないくらいに治安を守ることに成功しましたが、他を見渡せばかえって酷くなったようにすら思える状況になっております。

ブルース提督のお考えの及ばなかったことをあげつらうことは致しませんが、王女殿下との話し合いでも、これについて何度も意見を交わしました。

貴族が仕事をしていない。

まさにこの一言に尽きるのだと思います。

なので、王女殿下は、とにかく海賊だけでもせん滅するための新たな組織についての構想を練っておられました。

高等教育も終盤に差し掛かりしのある日、私は王女殿下と初めて口論をしてしまいました。

それぞれの進路について、始めて王女殿下と意見が合わなかったためです。

王女殿下は、私が大学でも殿下と一緒の勉強して、ずっとご自身の従者として仕えてくれるものだとお考えだったようなのですが、私は王女殿下の剣となり、殿下をお守りしたいと殿下にお伝えしました。

私の家は、代々軍人を輩出しております。

父は宇宙軍で将軍職を拝命しておりますし、兄もエリート士官養成校を優秀な成績で卒業して、今は第一艦隊に所属して将来を嘱望されていると風の噂で聞くことがあります。

そんな父や兄に私も続きたかったのです。

はるか昔はどうなのか知りませんが、今の時代女性で優秀な軍人はたくさんいますし、何より将軍を拝命する女性も一人二人ではありません。

なので私が軍人を目指すのも別に珍しい話ではありません……と言いたいですが、私のように貴族の子弟、それも騎士爵のような一部では下級貴族ともみなされない貴族でなく、子爵ではありますが下級貴族の中でも上位に位置して、父の功績もありますし、兄に功績の一つでもあれば上級貴族の伯爵にも陞爵されそうな家では珍しい部類になるようです。

私のような貴族の子弟は普通ならば礼儀作法などを学び貴族社会の中で生きていくのが普通とされますが、私はあえて軍人を選びました。

それが王女殿下には裏切りにも似たようにお感じになられたようです。


「カリン。私はカリンがずっと私を助けてくれるものと思っておりました」

「はい、私の気持ちは変わりません。王女殿下のお力になりたいのです」

「それならばなぜ軍人に? 役人を志すのならばわかりますが……」

「確かに将来的には優秀でそれなりの地位にいる役人は必要になるでしょう。しかし、殿下がなされようとしていることのためには力が必要なのです。私が軍で昇進を果たし一個戦隊でも預かるようになる必要を感じております」

「それまで、国が保つのですか」

「確かに、その心配はどうしても付きまといますが、それでも絶対に武力は必要です。殿下が必要とされていることには武力は必要ですが、私以外にどこからその武力を持ってこられるとお考えですか」

「……わかりました。カリンの気持ちも理解しました。これからは競争ですね。国が亡ぶ前に私の組織ができるか、カリンが軍から戦隊ごと私に持ってこられるか」

「はい、殿下。必ず武力を殿下の元にお持ちします。なに、長くは待たせません。そうですね十年、十年あれば殿下の元に駆けつけます」

「十年ですか……長いようでいてきっとすぐに時間は過ぎるのでしょうね」

……

 ……

  ……

昔、こんな会話をした覚えがありますが。本当に王女殿下は私の予測よりも格段に早く十年どころかわずか数年で、しかもどこからも文句の出ないくらい実績を挙げて、ご自身の組織をお立ち上げになりました。

目の前で陛下よりその勅命を王女殿下は賜っております。

もっともまだ準備室ですが。『広域刑事警察機構』という組織の長官としての勅命を。

今日、私はかなり無理やりに軍から休暇をもらい王女殿下の招きで、この式典に参加しています。

私も早く殿下のもとに馳せ参じたく思います。