初めてこの手で……

一応、俺の護衛として保安員が一人付いてきてくれる。

荒事に対して全く素養のない俺にとっては正直ありがたい存在だ。

ここはまだ残党狩りの最中、どこまで安全が確保されているか分からない状態なので、一人でもそういった人が付いてくれるのは心強い。

スペースコロニーの中はアルファベットと数字で管理されており、その場所を聞いていたので、俺でも迷わずに一般人を保護しているところまで来れた。

マークから聞いていた話だと大きめの会議室のような部屋に保護していると言っていた。

目的の場所に着いたら、マークから聞いていたように広めな会議室のような場所に十名近い男女が非常に疲れた顔をして座っていた。

入口のところにフル装備の軍人が数名待機して、この場所を守っている。

俺は、入り口で自身の所属を伝えて中に入れてもらった。

中に入り、すぐに近くにいた男性の一人に話を聞けた。

彼は客船の船医をしていたそうで、一月前に客船ごと襲われて、三日前にここに連れて来られたと言っていた。

彼の話では、ここで、臓器の摘出手術をするためにあちこちから医療関係者を集めていたという。

非常におぞましい話だ。

そんな彼が苦々しく俺に教えてくれたのは、海賊たちが仲間内で話していたことをたまたま聞いたことで、摘出する臓器の値段は子供の方が値が張るという話だった。

海賊たちは自慢げにどれだけ多くの子供たちをここに連れて来たかという話をしていたという。

そういえば、漂流中の船には多くの子供がいたが、ここにはいない。

え?

どういうことだ。

子供に価値があると言っているのに、この場には大人しかいない。

それにこの場にいる大人は臓器提供者ではなく、その臓器を摘出するための奴隷として連れてこられたようだ。

彼らが使えないと判断されればその場で臓器提供者に格下げになるとも言っていた。

となると、今ここで保護した人たちが大人だけだということは納得ができるが……そうなると、臓器提供を待つ人たちがどこかに別の場所にいる筈だ。

それも多くの子供も含まれることは彼の話からも疑いようのない。

ここに連れて来られた全員がすぐに臓器を取り出されて、捨てられたなんてありえない。

俺は無線で、殿下を呼び出してこのことを伝えた。

殿下は俺からの報告があるまで中央制御室にあって次々に挙げられてくる犯罪の証拠の重大さに驚き、精力的にその調査を行っており、被害者がいたことなど眼中になかった。

俺の報告で、その事実に気が付つくと、すぐに今の作業を中断して捜査員とこの場に着いたばかりの機動隊員全員に子供を含む一般人の捜索に掛からせた。

殿下も中央制御室のモニターなどを使い捜査をしている。

俺は、『シュンミン』にいる手隙の連中全員をこの場に呼んだ。

就学隊員はどの部署にいるのも関係なく全員をこの場に呼んで、今いる要保護者の面倒を見させた。

いずれ、これ以上の保護を要する人が見つかる筈だ。

今は人手を確保しておくことが重要になると判断したのだ。

この場の指揮をケイトに任せて、俺は成り行きを見守っている。

ほどなくして殿下から無線が入る。

俺の危惧したように沢山の子供たちを見つけたという。

俺は傍にいた就学隊員と下士官数名を連れて現場に向かった。

場所はここからすぐ傍にある病院のような建物の中だそうだ。

病室に当たる部屋は全てが格子で覆われており、明らかに監獄のようになっている。

その中に百名を超える子供たちが放置されていた。

監獄には当然のように鍵がかかっており、これを見つけた捜査員も困っていた。

俺は自分の腰にあるレーザーガンを取り出して鍵を壊しにかかる。

誰も俺の行動を止めようともしていない。

誰もがただ俺の行動を見守っているだけだ。

レーザーガンのエネルギーを半分ほど使ってどうにか人の通れるくらいの場所を作ることに成功した。

すぐに連れて来た就学隊員を使って子どもたちを保護していく。

とりあえず、大人たちを保護したあの部屋に連れて行く。

同じような部屋があと二つあり、そちらも今機動隊員が格子を壊して子供たちの保護を始めた。

俺は自分でも気が付かないうちに現場で指揮を執っており、無線を使って『シュンミン』のエーリンさんを呼び出して、すぐに厨房で作れる栄養があって消化に良いものをあの部屋に運んでもらうように指示を出した。

また、人手の確保のために就学隊員十名近くを『シュンミン』に戻してエーリンさんの手伝いをさせた。

とにかく俺はその場で声が枯れんばかりに指示を出していた。

保護している子供たちの衰弱も心配だ。

とにかく手隙な者たちには毛布なども探させ、あの部屋に運ばせた。

この辺りを走り回り大声で指示を出していると、二人の少女が疲れた顔をしながら俺の方に向かってきた。

そのうちの一人、幼い方の少女が俺に心配そうな目で訴えてきた。

「マー君がいないの。昨日連れて行かれてから戻ってきていない。マー君はどこ?」

その子は泣きながら俺に聞いてくる。

俺はしゃがんで少女に優しく聞いた。

「マー君はお友達かな」

「違うの、マー君はいつも私を守ってくれるの」

するとその少女の姉らしき少女が俺に近づいてきた。

「すみません、妹が。でも、マー君は妹にとって、いや私にとっても非常に大切な男の子なんです」

「そうか、なら捜さないといけないな。おじさんが捜してくるよ。君たちは皆と一緒に待っていてね」

その時、俺の中ではそのマー君は絶望的だとは思ったが、彼女には何も言わずに安請負してしまった。

後でどれほどこの時の会話を後悔したことか。

俺は少女の話からここ以外にも子供たちがいる場所がないかを探させた。

俺が忙しく走り回っていると俺の前にいつのまにか一人の男性が立っていた。

白衣を着たその人の目は完全に死んでいる。

どう見てもオカルト映画に出てくる亡霊と言ってもいいような雰囲気のある男性が俺に付いてこいと言ってきた。

俺は保安員を連れてその男性の後に続いた。

連れて行かれた場所は手術室を含む集中治療室のような場所だった。

そこにはその男性を含む二人の医師と数人の看護師のような人が、その場で呆然としていた。

しかも、一人の例外なく目が死んでいる。

何があったかは容易に想像がつく。

彼らがしていたことは生きている人からの臓器の摘出だろう。

本人の意思ではないだろうがそれでも許されることではない。

彼らも自分たちがしてきたことを理解しているからこそ、人であることすら辞めているような雰囲気を漂わせている。

その彼らに案内されるように中に入ると数人の子供たちが生命維持装置に繋がされて横たわっている。

「この子は持ってあと十時間といったところか」

ここまで案内してくれたその人は辛そうに俺に言ってきた。

そして、カルテを俺の前に提示してきた。

そこには心臓の摘出と書かれていた。

「なぜ?」

俺は思わず彼に聞いてしまった。

心臓を取られれば、後は死ぬだけなのにわざわざ生命維持装置を付けてまで生かそうとしているのか俺には分からなかった。

彼から聞いた話は、およそ人として尊厳など全く無視するような鬼畜の所業だった。

他の臓器の鮮度を保つためだと言っていた。

子供の臓器はいくらでも売れるが、それでも移植を待つ人と合う臓器などそう簡単に見つからない。

注文があればすぐに出荷できるように、生きている間順番に臓器を摘出して出荷していたそうだった。

この子の場合、緊急で心臓が欲しいとの注文を受けたので、最初に心臓を摘出したが、他の臓器も注文が入り次第摘出することになっていたそうだ。

これはまれなケースだとも言っていた。

この子は、他の臓器を売れるまでできる限り生かされていただけだった。

この子の心臓の摘出手術を八時間前、俺らがここを攻撃する直前に行ったと言っている。

「救うことは……」

摘出された心臓はこの傍にある筈だ。

彼は辛そうに一言「無理だ、心臓はもうない」

 ………

  ………

   ………

しばしの沈黙の後、俺は子供に繋がっている生命維持装置の電源を切った。

その子はすぐに静かに息を引き取った。