同期との再会
「艦長、機動隊の皆さんがマリアたちを連れて帰還しました」
「怪我人の報告は受けているか」
「いえ、誰からもまだです」
………
………
「たっだいま~」
ひどく間の抜けた声で挨拶をしながらマリアが帰ってきた。
「おかえり、どうだった」
「え? 何が」
「マリア、まず報告しろよ」
「あ、そうでした。あの艦、酷かったですよ。まあ以前のこの艦よりはましですが、まともな整備は受けていなかったでしょうね。機動隊が緊急停止したから、あっちこっちガタが出ていました。とりあえず動かしましたが、いつ壊れても不思議のないレベルですね」
マリアの報告から、少なくともあの航宙駆逐艦は現役でどこかの軍に所属していたとは思えない整備状況のようだ。
貴族の私設軍では、整備不良なんか割とあるそうだが、それでも貴族が直接関与したかは分からないまでも、貴族が自分の私設軍に直接海賊行為をさせる馬鹿がいるとも思えない。
俺も貴族社会に詳しい訳じゃないが、もしあれが貴族の軍なら何かしらのカモフラージュくらいはするだろう。
ひとまずは、マリアがエンジンを動かしたことで、リモートでどこでも運べる状態にはなった。
「そうか、これで敵軍艦の制圧は完了したことになるな」
「そうなりますね。艦長、この後は」
「それよりも、あっちのコロニーはどうなった?」
「二時間前にスペースコロニーの制圧は成功したようです。今は残党狩りの最中だと軍の戦隊司令から連絡がありました」
「殿下はどうしているのかな」
「そ、それが……」
「どうした。何があった」
「今から一時間前に制圧の済んだスペースコロニーの中央制御室に入られたと、殿下から連絡がありました」
「え? だって、まだ残党狩りの最中だろう。安全の確保はどうしているんだ」
「周りに軍が少なくとも二個小隊は待機しているから大丈夫だそうです」
「そんな訳あるか。まあ俺の責任でどうとかなる訳じゃないし、それに俺に殿下を止められる筈もない。かわいそうなのは保安室長だろうな。後で絶対にお叱りを受けるぞ。下手をすると陛下から直接な」
「そうなんですか」
「分からない。それより、殿下に報告だけでもして、この場を離れよう」
「え? 何でですか」
「嫌な予感がする。絶対に面倒ごとに巻き込まれる」
「何を言っているですか。面倒ごとは日常茶飯事でしょ。とりあえず報告だけは入れておきます」
副長のメーリカ姉さんから中央制御室にいる殿下に報告を入れてもらった。
すぐに折り返しで殿下から二つの指令が入る。
一つ目は、こちらで確保している捕虜の件だ。
スペースコロニーで確保した捕虜と一緒に軍で管理してもらえることになったので、こちらに運んでほしいとのこと。
二つ目に、捜査に人手が足りないから、そちらにいる機動隊員をコロニーに運んでほしいということだった。
俺は殿下からの指令を受け鹵獲した二隻の航宙駆逐艦を引き連れて、大して広くないスペースコロニーのポートに入っていった。
正直ここのポートはスペースコロニーとしては狭い。
そのままでは先に入った軍の航宙フリーゲート艦が邪魔になり俺の艦を入れることができなかったので、ポート内にいる軍の艦を出してもらった。
このスペースコロニーはポートが狭く、作業には苦労しそうだが、元々が海賊の秘密基地だ。
この広さで問題がなかったのだろう。
そんなことを考えながら俺は副長を伴いポートに降りた。
ポートでは軍の士官が俺らを出迎えてくれることになっている。
自艦からポートに出たら三十人ばかりの軍の一団が俺らを待っていた。
そのうちの一人の士官が俺の前に来て挨拶をしてくる。
その士官が同期のマークだった。
まさか、ここでマークに出会うとは思ってもみなかった。
マークは敬礼をして所属を名乗る。
「第一艦隊補給艦護衛戦隊所属マークじゅ………え??? ひょっとしてナオ……か?」
非常に驚いた顔をして確認してくる。
後ろにいた二人の士官もおかしな雰囲気に気が付き、確認のためこちらに近づいてきた。
後から来た二人とも顔は知っている。
それほど話したことはないが、二人とも同期の連中だ。
当然、マークでも驚いていたのだが、二人とも俺を確認すると固まった。
「やあ、マーク。しばらくぶりだな。あ、今公務中だったな、ごめん、やり直す。改めて言い直して挨拶するとしよう。広域刑事警察機構設立準備室所属、航宙駆逐艦『シュンミン』の艦長、ナオ・ブルースです。お出迎えありがとうございます。また、今回の応援の依頼を受けてもらい感謝いたします。殿下の指示により、軍への捕虜引き渡しの件の処理をお願いします。実務は副長のメーリカ少尉に任せておりますので、そちらと話し合ってください」
「こんにちは、マーク准尉。あの時以来ですね。今回はよろしくお願いします」
後ろで固まっている二人に気付いたマークは二人を俺の前まで連れてきて、挨拶をさせた。
「え、え、ひょとしてナオ君なの」
「何を言っているの、失礼でしょ、ソフィア」
「だ、だって、しょうがないでしょエマ」
「二人とは卒業以来だな。久しぶり、ソフィア准尉とエマ准尉」
「し、失礼しました、艦長」
「そ、それにしてもどうして。艦長はその……」
俺たちの会話が制圧したばかりの戦場というには完全に場に合っていないので、俺らの周りの雰囲気がその場にそぐわない。
不思議に思った彼らの部下の下士官の一人がこちらに向かってきた。
流石に、これ以上彼らを拘束するのはまずい。
「詳しい話はマークに聞いてくれ。マークとは卒業してからも数回会っているし、その時に説明だけはしておいたから」
「え? 俺は聞いていないぞ。俺はナオが艦長代理になったことは聞いていたが、いつ代理が取れたんだ」
「まあ、今そんな話をする時間はなさそうだな。後で時間が取れたならゆっくりと説明するよ。それよりもうちもそうだが、君たちの部下がしびれを切らしそうだ」
「マーク准尉、捕虜の引き取りをお願いします」
メーリカ姉さんが気を利かせて仕事にかかる。
こちらに向かってきた下士官に話を聞いて捕虜の引き取りについて相談を始めた。
蚊帳の外になった俺とマーク達士官はとりあえずその場で彼らの仕事を見守る。
あ、もう一つの依頼を忘れていた。
「マーク准尉。殿下からうちの機動隊を連れてきてくれと頼まれている。悪いが中央制御室に案内を頼めるか」
「マーク、ここは私たちが見ているから、その……ナオ艦長をお願い」
「ああ、分かった」
俺は無線で艦橋を呼び出してアイス隊長をこの場に呼んだ。
ほどなくアイス隊長は一仕事を終えた機動隊員を連れてここにやって来た。
見た感じでは誰も負傷はしていなさそうだ。
こちらの被害は今のところなしだということか。
俺は一安心して、集まった機動隊員を前にアイス隊長に話した。
「アイス隊長。殿下からの要請は聞いているでしょう。お疲れのところすみませんが、これから機動隊員をコロニーの中央制御室に案内します」
「気遣いは不要です、艦長。幸い機動隊の被害はありませんでしたから、まだまだ殿下のお役に立てますよ」
「こちらが今回応援で来てくれた軍のマーク准尉です。彼が殿下の元まで案内してくれます」
「機動隊のアイスです。よろしくお願いします、准尉」
「こちらこそ、機動隊長殿」
「艦長。こちらは私で大丈夫です。艦長もご一緒してください」
「なんで?」
「少し気になることがあります。前に捕まえた船には沢山の……」
「あ、そうだな。その件はまだ聞いていないな。分かった。そっちは私の方で調べてみるよ」
「マーク、俺もついていくよ。途中、コロニーの現状について知っているだけでいいから教えてほしい」
マークは俺の問いに真摯に答えてくれた。
本来なら隠さないといけないことが沢山ありそうなのだが、こちらでの主導権を完全に殿下が握っているようで、マークも上から何も隠すようなことは指示されていない。
それでも、マークが知っている情報は限られたものだ。
しかしマークの話で、一つだけ気になったのが、保護している人たちについてだ。
そこには数人を回して監視しているだけで、正直保護しているとは言えないようなことを言っている。
俺はその場所だけ聞いて、そこに向かうとアイス隊長に伝えてからこの一団から離れた。