敵駆逐艦との戦闘
まあ、王国で生産された数が三十隻となっているが、これには輸出分は含まれていないので、先に鹵獲した航宙フリゲート艦のように輸出先で鹵獲されたものかもしれない。
あまり難しく考える必要もないだろう。
「カスミの言い分は分かる。でも、輸出された分については王国での管理はされていないだろう。どちらにしても、応援が来ればあいつらを逃がさずに捕まえるからその時に艦名まで判明する。そうなればさっきの疑問もはっきりするから、難しく考える必要はないだろう。少なくとも今はだが」
「そうですね。初戦のようにバラバラにしなければの話ですが」
「そういうことだ。聞いていたかケイト」
「は? 何ですか」
ケイトのすっとぼけた反応に艦橋内に失笑が漏れた。
往々にして事件とはこんな感じの緩んだ空気の中で発生するものなのか。
艦載機から緊急の無線が入った。
敵艦載機に発見され攻撃を受けているという。
この連絡を受け、カリン先輩が俺に応戦の許可を求めて来た。
俺は何よりも部下の命を優先する。
間髪入れずに応戦を許可して、すぐにメーリカ姉さんと善後策を考える。
俺は完全に失念していた。
艦載機はなかなか発見されないということは敵の艦載機も発見しにくいということだ。
もし偶然が重なって発見されれば今の優位性もなくなる。
この時は運が良かったのか、敵艦載機は明らかに旧型。
多分ブルドック型航宙駆逐艦に初期から搭載されていた物だったのだろう。
こちらの艦載機は最新型も最新型。
開発中の採用前の艦載機だ。
尤も理由は分からないが採用が保留となっているものだが、性能面では雲泥の差がある。
ほどなくして敵艦載機を三機撃墜したと連絡が入った。
しかし、安心はできなかった。
まあ当然な話だが、艦載機をロストした航宙駆逐艦の方で、少なくとも敵の存在を認識したのだ。
それほど間を空けずにカスミからの報告が入る。
「敵レーダー波を受信。敵に発見されました」
この段階なら逃げることは可能だが、応援も予定ではすぐ傍まで来ている筈だ。
今回は敵駆逐艦に逃げられるわけにはいかない。
先のカスミの話ではないが、敵航宙駆逐艦の艦歴を調べない訳にはいかないのだ。
ちなみに改造前の『シュンミン』の艦名『ハウンドドック』は十三年前の戦闘時にロストされたと記録にある艦なので、敵国との戦闘時に航行不能になった状態でカーポネたちに鹵獲されたものと俺らは判断している。
「これより敵航宙駆逐艦との戦闘に入る。通信士、殿下に無線連絡だ。現在位置を知らせ、要請中の応援を急がせてくれ」
「艦長、艦載機には敵駆逐艦との交戦を命じます」
「艦長、我らにも協力させてくれ」
アイス機動隊長が俺に言ってくる。
二隻を相手にするのだから、俺たちの練度では厳しい。
完全に破壊するならまだ手はない訳ではないが、それでもこちらも被害を計算に入れないといけない状況になるだろう。
少々危険な作戦ではあるが、アイス隊長に俺はある作戦を相談してみた。
『シュンミン』の持つ高速性を利用して、二隻を引きはがし、艦載機を使って『シュンミン』から遠い方を強襲してもらう作戦だ。
敵の乗員は多くとも百三十名。
しかも戦闘中なので、艦内で戦闘が起こっても対応できる人数に限りがある。
半数は艦内操艦及び攻撃に従事している筈なので、機動隊員が戦闘で相手をするのが倍の六十名は越えない筈だ。
その上で、強襲乗艦をするかどうかを聞いてみた。
「艦長、ぜひやらせてほしい」
「分かりました。目標は動力部です。機関室を全力で確保して下さい。確保後は速やかに動力のシャットダウンをお願いします」
「分かりました。これより機動隊は作戦行動に入ります。内火艇は搭載機管制官に従います」
「カリン少尉。内火艇の指揮を任す」
「了解しました。アイス隊長。速やかに内火艇に機動隊員の乗船を命じます」
「副長、うちらはすぐに応戦の準備だ。内火艇を発艦したらすぐにこの場を離れるぞ。できる限り派手に目立つように飛び出してくれ」
「艦長、フォード船長より入信。後六時間後に現着予定です」
「六時間後か。最悪よりはましか。まあ、こちらとしては選択の余地はないし、予定通り作戦を継続する。臨戦体勢に入り次第、戦闘を開始する」
………
「命令後十四分で臨戦態勢に入りました」
「内火艇、今発艦確認」
「副長、操艦は任す。派手にやってくれ」
「『シュンミン』発進。速度十二宇宙速度へ。目標敵駆逐艦前方零ポイント二の距離をかすめて右側に抜ける。再度艦首を敵艦に向け攻撃の開始」
「了解しました」
「副長。敵艦をかすめる時にパルサー砲を敵に向け発砲してくれ」
「え? いくら駆逐艦でも大した効果は……」
「でも相手は頭に来るだろう」
「攻撃主任。聞いての通りだ。右パルサー砲に命令を出せ」
「了解しました」
実際に戦闘が起こるまでには時間がかかった。
俺らが発見された場所が敵からかなり距離があったこともあり、俺らが敵にパルサー砲を発砲するまで、最初の命令から一時間後だった。
応援が来るまであと五時間。
このままだと応援が来る頃にはここは片付いている。
その時には軍には敵の拠点として使っている小型のスペースコロニーを強襲してもらおう。
「敵駆逐艦の発砲を確認。推定コースは本艦を外れています」
「よし、そのままの進路を取れ」
「まもなくパルサー砲の射程に入ります」
「射程に入り次第、各自の判断で発砲」
ケイトが落ち着いて命令を出している。
緒戦から比べれば十分に成長した。
このまま順調に推移すれば俺らの計略に敵は嵌る。
「艦載機、左の敵艦に攻撃態勢に入ります」
「主砲を中心に攻撃を開始してくれ」
カリン先輩は実に上手に艦載機を扱っている。
今回は敵艦を沈めることを目的にはしていない。
そうなると艦載機の持つ航宙魚雷は駆逐艦相手では威力が大き過ぎてそう簡単には使えない筈だが、カリン先輩はあえて艦載機に航宙魚雷の発射を命じた。
しかも、敵艦をかすめるコースで魚雷を発射させ、敵艦の行動を抑えたのだ。
その瞬間を見事にとらえて、内火艇は後部ハッチに近づき、強襲乗艦に成功したと連絡が入る。
後は機動隊員の成功を祈るだけだ。
こちらも艦首を敵艦に向きなおして主砲を発射する。
数発の斉射で見事敵主砲の無力化に成功する。
そうなると敵は逃げに入るが、それもこちらの主砲で牽制して降伏勧告を出した。
こちらの降伏勧告に対して返信があった。
『止めだ止めだ。てめ~ら、おれらがシシリーファミリーだと知っての攻撃か。俺らを攻撃してただで済むと思うなよ』
「あいにくだが、俺らは公務員でな。そんな脅しには屈しない。そもそもこれも仕事の範疇だ」
『軍か、それとも警察か。どちらにしても俺らシシリーファミリーには心強い後ろ盾がいるんだ。たとえ軍だろうがただで済むと思うなよ』
オイオイ、きな臭い話が早速出て来たぞ。
まさか応援に来る軍が俺らに攻撃してくることはないだろうが警戒だけはしておこう。
敵の啖呵を無視して降伏を勧告する。
向こうも諦めたのか、こちらの指示に従うようだ。
どうも心強い後ろ盾をかなり期待しての行為のようだがはたして彼の思惑通りに助けてもらえるか見ものだ。
副長はてきぱきと仕事をしていく。
カスミの確認で敵艦は王国で使われていた艦だと分かり、艦隊指揮権コードを送らせる。
これは艦隊指揮官が自分の艦隊に所属する船の行動をリモートで制御できるシステムを立ち上げるのに必要なコードだ。
海賊さん達はそんな物騒なものがあることを理解していなくて、なかなか目的のコードを見つけられなかったが、カスミが懇切丁寧に海賊相手に説明して艦長席にあるエマージェンシーボックス内にある資料から探し出させて送らせた。
艦隊指揮権コードを貰ったカスミは早速『シュンミン』のシステムを使い、敵の航宙駆逐艦のリモート制御に取り掛かる。
最初に行ったのが艦船の指揮権の奪取だ。
早速セキュリティロックを掛けて、向こうからの操作を無効化して、完全に指揮下に置いたら俺に指示を求めて来た。
「人工重力を切っておけ。生命維持装置はそのままにしておくしかないが、重力を切っておけば動きをある程度抑えることができる」
「了解しました」
カスミが『シュンミン』から操作して人工重力を切ったら早速向こうから口汚く文句を言ってきた。
うるさいので無線を切ろうかと思ったが、とりあえず脅しておく。
「とにかく黙ろうか。でないと次は空気を抜くよ」
俺の脅しの効果は
すると通信機を扱っていたカオリから報告が上がる。
「艦長、応援の軍隊が来ます」
予定より二時間は早い。
「向こうは何か言ってきたか」
「いえ、こちらからの指示を求めております」
「なら、敵拠点の強襲を依頼してくれ。流石に俺らではあの規模は無理だ」
「軍からの返信。了解したとのことです」
「艦長」
今度はカリン先輩だ。
「どうした?」
「ハイ、アイス隊長より入信。機関室占拠に成功。現在緊急シャットダウン実施中。指示を待つとのことです」
「こちらも片付いたし、向こうの応援に行こう。副長、向こうにも降伏勧告だ」
「艦長」
急に忙しくなってきた。
ほとんど戦闘が終わった筈なのだが、なぜかしら戦闘が終わるころになってにわかに慌ただしくなってきた。
「殿下から入信。あと三時間で現着予定。現在三隻の軍艦に護衛されながらそちらに急行中。先行して一隻の軍艦が向かっているがそちらの指揮を頼むとのことです」
殿下からの無線は、応援の到着が殿下からの指示よりも早かったことで話が前後したが、どうも軍との話で、指揮権については決着しているらしい。
しかし、一介の中尉が少なくとも佐官以上に対して指揮するとは何だろうな。
ありえないだろう。
まあ、この場では俺は殿下の代理という扱いで済ませたのだろうが、俺の胃が持たない。
正直共同して敵に当たらなくてよかった。
もうあっちの拠点は全て軍に任せよう。
三時間もすれば殿下も着くし……いや待てよ、殿下がここに来る???
おかしくないか。
こんな危険な現場に殿下が来るなんてありえないだろう。
「艦長」
副長のメーリカ姉さんの呼びかけで俺は現実世界に戻って来た。
とにかく目の前の仕事に集中しよう。
「向こうも降伏を受け入れました」
「『シュンミン』を横付けして、マリアを連れて機関室へ行ってくれ。非常停止したエンジンを動かさないといけないしな」
「え? 起動させても大丈夫なのですか」
「カスミ、あの船も管理下にあるんだろう」
「ハイ、先ほど処理は終わっております」
「なら一緒だ。どう考えても敵の方が人数は上だ。余計なことを考えずに、船ごと留置場にしてしまうしかないだろう。後は軍なり、殿下なりの判断を待つ」
「分かりました。エンジンが作動し次第、機動隊員たちを引き上げさせて重力を切りますね」