敵の軍艦はどこから

艦載機が戻ってきてから一時間後に、結果をもって先輩は艦長室にやってきた。

情けない話だが、俺は緊張し過ぎて疲れたので、艦載機が戻ってきてからは艦長室で休ませてもらっている。

一応艦内レベルは臨戦でなく準戦になっているので、適法だ。

先輩は持ってきた資料を前に説明してくるが俺はそれを止めさせて、一緒に艦橋に戻っていった。

どうせ後で副長たちに説明するなら一緒の方が楽なのだ。

俺は艦長席で、副長を呼んで、資料の説明を求めた。

結果は正直ありがたいものじゃなかった。

二隻の軍艦はやはり改造商船のようななんちゃって武装ではなくガチの軍艦のようだ。

正式な艦名などは分からないが、今判明していることは艦種が航宙駆逐艦だということ。

本艦『シュンミン』と同じ艦種だ。

尤も『シュンミン』は改造が酷く、とても航宙駆逐艦とは言えないレベルにあるので、今では同じ艦種とは言いがたくなっているが、少なくとも改造前の『シュンミン』と同じ艦種の軍艦が二隻もいることだけは判明した。

「これはやすやすと近づけるものじゃないな」

「ええ、どうしますか」

メーリカ姉さんは俺にこの後のことを聞いてくる。

どちらにしても一度敵の所在が分かったので、報告を入れないと応援に来る軍とすれ違いになる。

「副長、一度殿下に報告する。応援とすれ違いにならないようにこの場所を伝えなければならないしな」

「ここからですと敵に近いかと。艦載機の電波は弱いからそう簡単に傍受されませんが、流石に本艦からですと敵に傍受される危険があります」

「副長、いったん下がろう。ある程度距離を取って殿下に場所を伝えてから戻ればいいだろう。その際、こちらからの発信が敵に悟られるから通信は受信のみとだけ伝えれば殿下の方で何かあっても考えてくれるだろう」

「分かりました」

俺たちは敵の拠点らしき場所を掴んだので、いったん下がることにした。

この場合敵に対しての監視が外れるから敵の応援があったり、逃げられたりしてもこちらが情報を掴めない危険があるが、それも考慮の上の判断だ。

何より安全を第一に考える。

死にたがりの俺が考える作戦が安全第一なんだからおかしな話だ。

これはある意味皮肉としか思えないが、やむを得まい。

俺らは十分に距離を取って殿下に敵拠点の場所と、現状分かり得た敵勢力を報告しておいた。

殿下からは軍から一個戦隊の応援を貰ったことを教えてもらった。

遅くとも三日以内に現場に到着するそうだ。

三日なら十分この場所に留まれる。

俺はこの後も監視することを伝えて元の場所に戻っていった。

これから応援が来るまで最長で三日間は退屈な監視作業に入る。

うちの乗員の練度から言って、通常には戻せないので、これから三日間は各自職場近くで睡眠と食事を取ることになる。

これは同乗している機動隊員と同じ処遇なので、文句は言えないが、それでもあいつらは耐えられるか少々心配だ。

かといって各自の部屋に戻す訳にはいかない。

見えるところに敵がいるのに、もし戻そうものなら一時間は戦闘できないことは火を見るよりも明らかだ。

今の準戦からだって二十分は見ておかないと心配だ。

最後の数字では十五分で臨戦になったが、それでもこの数字を次に出せる保証がない。

まあこの件については各班のリーダーを通して全員に通達しているからまず問題はないだろう。

あるのはこの退屈な時間の扱いだ。

とりあえず俺らは定期的に艦載機を飛ばして警戒に当たる。

初日は緊張感を維持できても所詮は若造だけの乗員たちだ。

二日目には飽きも来る。

「艦長。もう少し先に進めて調査しませんか」

副長のメーリカ姉さんは俺に提案してくる。

「そうだな、今のところ危険は感じないし……よし。艦を艦載機のいるポイントまで進めよう。隕石や小惑星の影に隠れるように進んでくれ」

「ハイ、十分に警戒しながら進めます」

『シュンミン』の持つ速度からは信じられないくらいゆっくりとした速度で、それこそ航路となっている空間から少し離れた隕石や小惑星が時折飛んでくる宙域を進んで、偵察に出している艦載機と合流した。

ここまで来れば艦載機を飛ばしている意味がない。

俺は艦載機を収納して、艦内のセンサーをフルに活用して付近の警戒を行った。

「攻撃可能範囲には人工物は見当たりません」

カスミからの報告で俺は安心して一息をついた。

「このまま警戒に当たってくれ」

俺は用意してもらったコーヒーを飲みながら副長のメーリカ姉さんに話しかけた。

「応援は早ければそろそろ到着するころだよな」

「ハイ、遅くとも三日と連絡を受けておりますから、計算では応援が来てもおかしくはありませんね」

「これからどうするかだが、応援を待つしかないか」

俺の独り言ともいえるこの発言を受けてカリン先輩から意見具申があった。

「艦長、具申したいことがあります」

「具申? 何か良い考えでも」

「はい、本艦がこの位置まで来ておりますから、もう少し先に艦載機を飛ばしてみてはいかがでしょうか」

「その理由は」

「一つには艦載機ならレーダーなどでも見つかりにくいことと、敵の航宙駆逐艦の種別の確認です」

「種別の確認か……」

「ハイ、もう少しはっきりと外観が分かれば種別の判別がつきます。それに何より外観から敵の武装が判明しますから、襲撃の際の安全性が格段に上がることが予想できます」

先輩の言うことは確かにそうだ。

敵主砲の数だけでも分かれば事前にこちらの対応策を決めておける。

まあ航宙駆逐艦と判明しているからそう違いはないが魚雷発射管があるのかないのかが分かるだけでも違うだろう。

「よし分かった。カリン少尉の具申を許可する」

「ありがとうございます、艦長」

「何度も言うがくれぐれも安全第一に行動してくれ。今度の襲撃の主力は軍になる筈だ。我らは軍が来るまでここに留まり情報の収集が第一だということを十分に理解して行動してほしい」

俺の許可を貰ったカリン先輩は早速後部格納庫に急ぎ作戦をパイロットに伝えている。

俺の許可から一時間後に艦載機は『シュンミン』から飛び立ち、これもとにかく十分に周りを警戒しながら敵に近づいていった。

三時間後に映像を貰って初めて敵の航宙駆逐艦の種別が判明した。

ブルドック型航宙駆逐艦の二隻だ。

このブルドック型航宙駆逐艦は王国最後の航宙駆逐艦型として生産された艦で、駆逐艦としては最高傑作とまで評価された艦でもある。

手元の資料では同系艦は三十隻まで生産されたとあり、この『シュンミン』もこの同系の二二番艦として生産された『ハウンドドック』という艦名であった。

尤も『シュンミン』はあの社長のおかげで外観こそ似ているがはっきり言って全くの別物になってしまったが、それでも改造を自分たちで行ったので、ブルドック型航宙駆逐艦の性能などは理解している。

「あのブルドック型なら今の『シュンミン』の敵にはならないね。二隻ならこの艦だけでも相手できるよ」

暢気にマリアはそう言っている。

メーリカ姉さんも同じ意見のようで楽観してすらいる。

まあ、敵が航宙駆逐艦と分かった段階で、それは分かり切っていたことなのだが、艦種が判明したことで安心につながったようだ。

考えたら当たり前の話で、ブルドック型は最高傑作と言われた艦でそれ以上の航宙駆逐艦は王国には存在しない。

王国以外の国ではまだ新造艦もあると聞くから、それだったらある意味危険もあっただろうが、あくまでもこの話も噂の域は出ていないので考える必要などなかった。

艦橋内にある意味緩い空気が流れた時に軍艦おたくのカスミがおかしなことを言い出した。

「艦長、おかしくはないですか」

「おかしい? 何が言いたいんだ、カスミ」

「軍艦ですよ、相手は軍艦。この艦もそうでしたが、軍艦はたとえ廃艦になってもきちんと処理される筈ですが、何であそこにいるんですか」

カスミの疑問は、最初理解できなかったがその後に続く言葉でことの重大性に気が付いた。

「軍艦が処理されずに海賊に渡ったか、ひそかに海賊に便宜を図る奴が関係者にいたかですよね」

そうなのだ。

本来軍艦を海賊が持てる筈はない。

前に鹵獲した航宙フリゲート艦はお隣の運用ミスで海賊に鹵獲されたことが分かっているので、艦歴がはっきりしている。

しかし、この『シュンミン』も含め目の前の二隻の航宙駆逐艦の艦歴が怪しい。

生産された三十隻のブルドック型航宙駆逐艦は全てが軍を退役しており、一部がコーストガードに払い下げされたが、それもとっくに退役している。

各星域にいる貴族の私設軍隊にも払い下げされたこともあると記録にはあるが、今航宙駆逐艦が現役でいるのは、その貴族の軍くらいしかない。

うがった見方をすれば、目の前にある航宙駆逐艦はその貴族が運用している私設軍の可能性すらあるという。

そうなると非常に厄介な問題を孕んでくる。