「外から襲われたんじゃないな。外観には襲われた形跡がなかったよな」

「中で反乱でもあったんでしょうかね」

「反乱かどうかは分からないが中で暴れたのは事実だな。問題は誰が誰に対してだ。まあこんなところを航行していた船だ。まともな連中ではないことだけは確かだが」

そんな俺らに先に現場に到着したマリアから無線が入る。

『隊長、機関部ですが、ダメですね。動力は期待できませんよ』

「マリアか。何があったんだ?」

『しっかりエンジン周りが破壊されていますね。エンジンそのものというよりもコントロール関係とエネルギー伝達関係の要所だけをしっかり破壊されています。宇宙での修理は無理そうですね』

「そうか、そうなると艦橋も期待できないか。まあいいか。マリア、エンジンの状況は分かったからカスミと合流してくれ。艦橋に向かえ」

『艦長、了解しました』

「カスミ、聞いての通りだ。マリアと合流して、艦橋で何かしらの情報を掴んでくれ」

「了解しました」

ちょうど俺の方は船長室に着いた。

「俺は中を探すよ。何かあれば無線くれ」

そう言って俺は保安員一人を連れて船長室に入った。

当然全艦の動力が切れている。

照明などないから自前のライトを使って船長室を物色していく。

大したものはない。

しかし、船長室の机の引き出しの中に端末があった。

これは民間では航海日誌などの記録用に使われるものだ。

船内通信を経由して情報なども自動的に記録されるものだ。

当然スイッチが入らない……いや、中のバッテリーが生きており、電源が入った。

この端末は航海日誌と航海レコーダーを兼ねたものだからセキュリティロックはかかっていない。

相手が海賊か密輸業者か分からないが、きちんと法律に基づいて記録を取っているとは思えないが、それでも航海レコーダーだけでも見れば何か分かるだろう。

俺はその端末を操作して、情報を調べ始めた。

航海日誌の記録は船長には義務付けられているものだが、やはりきちんとは書かれていない。

しかし、途中で訳の分からない数字や多分金額などの数字が記載されている。

ここの船長が日誌を備忘録として使っていたようだ。

この数字が何を意味するか分かればもう少しはっきりとするのだが。

俺は、続きを調べていった。

すると昨日の日付のところにボイスメモがある。

そのボイスメモを確認しようとしたら、船長室にマリアとカスミが入ってきた。

「艦長、電源ないとダメだね。な~にもわからないよ」

「カスミ、マリアの言う通りか」

「ハイ、艦長。艦橋内の機材は全く機能していません」

「予備電源を期待してもダメだよ。とにかく実に効率的に壊されているから、ここでの修理は無理だね。外部から電源でも取らないとこれ以上の確認は無理そうだよ。メーリカ姉さんも空気はともかく人工重力がないと移動もままならないのでは」

俺は無線で副長を呼び出した。

「副長、無重力では艦内調査も捗らないか」

『ええ、ちょっときついですね。まだワンブロックも終わらないです』

「なら、予定の変更だ。『シュンミン』から最低限の電源を貰おう」

「え~、またあれをやるんですか」

「ああ、それしかないだろう。副長、聞いての通りだ。予定を変更して、『シュンミン』にワイヤーで繋げるぞ」

『了解しました』

俺はシュンミンを呼び出してこの船に『シュンミン』を接舷させた。

ほとんど艦内総出でワイヤーをこの漂流船と繋げ、シュンミンからケーブルを出して電源をこの船に供給させた。

これで、最低限人工重力と、艦内空気循環それに艦橋内の電源供給を行った。

艦内の照明については、本当に最低限で、非常灯のみの点灯に留めた。

とにかく節電しないと供給に無理が出る。

『シュンミン』の発電能力は戦闘していないので余裕はあるがこの船への送電がか細いケーブル一本のみだと送れる電力に限りがある。

それでも人工重力と、艦内空気循環ができたことで、艦内の探査は捗っているようだ。

俺は、中断していた船長の航海ログの確認に入る。

先ほど中断していたボイスメモを開き確認していく。

どうも、反乱に近いようなことが起こったようだ。

この密輸船は王国が必死に探している菱山一家に連なるものじゃなかったが、全くの野良という訳でもなく、菱山一家とは別の海賊集団のシシリーファミリー関連の船のようだ。

このシシリーファミリーもそこそこの規模を誇る海賊団で、王国とお隣のアミン公国を縄張りにしていることは俺でも知っている。

俺は自分の端末を取り出してこのシシリーファミリーを検索したら、面白い情報が出てきた。

先日のニュースで、最近内部抗争が活発に起こっているというニュースだ。

ニュースのコメントでは憶測記事として、シシリーファミリー内でお家騒動が始まったと書かれている。

もっと調べてみないと分からないが、どうもこの船もその煽りを食らったようだ。

俺は通信ログを調べようと端末内を探していると、無線が入る。

『艦長、大変です。来てもらえますか』

珍しく副長がかなり慌てた声で連絡をよこしてきた。

「副長すぐ行くが、どこにいる」

副長は慌てたのか、俺を呼び出しているのに場所を指定してきていない。

『あ、すみません艦長。第三デッキにある食料保管庫です。食料保管庫から大量の子供が見つかりました。かなり衰弱しており、多分死者も……』

「そ、それは本当か」

『ハイ……』

かなり声が沈んでいる。

「生存者はいるのだな」

『生存者はおりますが、衰弱が酷くて……』

「分かった」

俺は一旦副長の無線を切って、『シュンミン』を呼び出し、手隙の乗員、いや必要最低限の人員のみを残して全員で第三デッキにある食料保管庫に向かわせた。

とにかく一刻も早く子供たちの保護だ。

一応罠の警戒もしないといけないので、子供たちを設備の整ったシュンミンにはすぐには連れて行けない。

俺は食料保管庫周辺で介護スペースを作らせて、そこで治療と保護に当たった。

電源が一応回復しているが、それでも最低限で船内の気温管理まではしていない。

第三デッキのみ船内空調を復活させ室温を一五度まで上げた。

現状船内の温度はマイナス一五度だ。

恒星に近ければもう少し温度は高かったのだろうが、なにせ最果てに近い首都星系とレニウム星系との中間地点だ。

本来ならとっくに子供たちは死んでいたのだろうが、運が良かった。

子供たちが閉じ込められていたのが食料保管庫。

早い話が密閉された冷蔵庫内だ。

冷蔵庫内の温度は十度に設定されていた。

この船の元の主たちはここを食料保管に使うつもりはなく、子供たちを放りこんでおくために使用していたようだが、それが幸いして庫内室温が三度の状態で発見できた。

しかも五十人近い子供たちがいたので、集まって寒さをしのいでいたようで、助かったのだろう。

それでも発見が後半日遅れれば全滅だったのは明らかだ。

空気が循環されていないので、その限界が近かった。

一応、子供たちの保護が順調に進むようになって、俺は急に体が震えだした。

怖くなったのだ。

俺の判断が遅れていれば目の前でこの子供たちが全員死んでいた。

俺が死ぬのならいいが、俺が無垢の子供たちを殺すのなんて到底受け入れられない。

ここで出来る措置には限りがある。

俺の判断が遅れれば危ない状況はまだ続いているのだ。

なにせ、今は丸腰な状態だが、ここは既に敵地になっていることが判明している。

すぐに逃げよう。

俺は『シュンミン』に戻り、殿下と合流を急ぐべく艦を出発させた。

子供たちの面倒を就学隊員に任せ、その監督に数名の下士官を付け、残りで付近を警戒しながらレニウムに向かった。