リベンジ

自慢のような説明を聞いて、最後に邪魔だから持って帰れと言われたのには驚いた。

ここの専務もたいがいだ。

出来上がったものには興味を示さない人種のようだ。

しかし、いきなり持って帰れと言われても、困る。

「乗って帰ればいいだろう。ものが内火艇なのだから宇宙港まで乗っていけ。なんならうちの若いのに操縦させようか」と言ってきた。

操縦だけなら俺でもできるので、宇宙港管制に連絡を入れ、内火艇の着陸手続きをとった。

結局専務とドックの若い衆数人を乗せて俺が操縦して宇宙港に戻った。

カスミとカオリは多分今日は徹夜だ。

俺が宇宙港に戻ることを伝えに行ったら、白衣を着た知らない人たちと何やら真剣に問題の通信機の前で作業していた。

ああなるとあの連中は俺の声が聞こえない。

社長は辛うじて俺に反応したので伝言だけ頼んで、内火艇を納品してもらうために専務に同行してもらった。

宇宙港では『シュンミン』の横に着陸させて、殿下のクルーザーに人を呼びに行った。

内火艇の受領手続きのためだ。

殿下付きのマーガレットさんがこちらに来てくれて、書類にサインしてもらい、受領が終わった。

マーガレットさんが車を出すと言ったが、専務たちは電車で帰っていった。

内火艇は綺麗に赤と白の二色で『シュンミン』のように塗られており、明らかにどこの所属か分かるようになっている。

言い換えるとえらく目立つのだ。

本来このカラーリングはコーストガードのものだが、コーストガードの艦にはこのカラーリングは一切使われていなかったために、一部の間で広域刑事警察機構準備室のシンボルカラーになってしまった。

翌日から、機動隊のアイス隊長を呼んで、この内火艇の習熟のための訓練に付き合った。

この内火艇の操縦は機動隊が受け持つことになっている。

アイス隊長以下、主だったメンバーに内火艇の操縦を教えるまで、三日を要した。

なので、予定の一日遅れで宇宙港を出発した。

今度は内火艇を積んでの調査だ。

艦載機こそないが、ほぼフル装備となった『シュンミン』はその性能を遺憾なく発揮できるだろう。

……ただし、乗員の練度は除くという奴で。

前の改造民間船の宇宙海賊程度ならこの武装内火艇だけでも十分に相手ができる。

小型で小回りが利くので、手分けしての調査ができそうだ。

俺は前回の反省を踏まえて、小惑星帯に近づくまでは通常で航行。小惑星の手前で、艦の警戒レベルを準戦に引き上げた。

ここからでも戦闘に入るまでに二十分近くは覚悟しないといけないが、それでも逃げることにはならないだろう。

しかも、前回敵のいたポイントでは更に警戒して内火艇に付近の調査を頼んだ。

このポイント付近の調査には一時間ばかりを使ったが、得られるものはなかった。

内火艇を格納して、付近から徐々に小惑星帯の中に入り調査を始めた。

敵であると想定される宇宙海賊には当然注意しながら探していくが、それよりも、この小惑星帯の中に航路となる所がないかを探す。

ここまでくるとレーダーに加えて有視界で探していく方が効率が良さそうだ。

画像認識のソフトもあるので、取り込んだ画像データを艦内コンピュータを使って調べていく。

王国内標準時間で昼に当たる時間帯には準戦状態で、付近の調査を行い、夜になると一旦小惑星帯から出て、何もない空間まで下がり停船させて夜を過ごす。

なぜかというと、本来軍艦に限らず宇宙船は二十四時間態勢で運用される。

人は休まず働くことなどできないので、順番で当直を行いその体制を維持するのだが、俺らにはそれができない理由があった。

当直を置いて二十四時間体制で調査を行いたいのだが、いざ敵に遭遇した時には絶望的な未来しか見えない。

以前敵から奇襲されて、何もできずに逃げ出したことがある。

これは本艦の性能により可能だったのだが、もし当直がそんな臨機応変な対応ができなければどうなるのか。

マニュアルには、といってもまだこの艦には交戦規定などという大そうなものはない。

軍やコーストガードから借用したいが、そのどちらにも不測の事態では艦長を叩き起こして指示を待つことしか規定がない。

本艦も同じ規定としたが、本当にできるだろうか?

パニックになって右往左往で終わりそうなのだが、できるとして話を進めると、艦長である俺にできることは、すぐに応戦態勢に艦内の警戒レベルを上げることなのだが、それでも現状では一時間以上かかる。

奇襲された状態で一時間以上殴られっぱなしになれというのだ。

前に襲われた商船改造型の海賊船ならこの艦ならばどうにかなるかもしれないが、それでも、もしもはある。

そんなことなら、いっそのこと付近に何もない空間まで戻りそこで休めた方が絶対に安全だ。

人は休まないと生きてはいけない。

要は寝る時には安全な場所まで下がって休ませるという方針を決めたのだ。

今のところその方針が功を奏し、問題なく調査が進められている。

その調査もあれからなにも発見できずに三日目に入る。


「おはようございます、艦長」

「ああ、当直ご苦労様。悪いがこのまま準戦に入るよ。もし寝るのなら俺の部屋使ってくれてもいいからね」

「いえ、大丈夫です。私も三時間前に起きただけですから、このまま後ろで休憩に入ります」

三日目に朝まで当直に当たっていたケイトが俺との挨拶の後に艦橋から出て、近くの休憩場所に向かった。

俺は艦橋に来た副長に早速艦内レベルを通常から準戦に変えて、昨日の続きの調査をするために、指定ポイントに艦を向かわせた。

「流石に三日目ですから今日あたり何かを見つけたいですね」

艦橋にいるアイス隊長が俺に話しかけてきた。

「そうですね、実際襲われておりますから、この辺りに何かしらある筈なのは分かっておりますし、そろそろ何かを見つけてもいいころ合いかとは思いますね」

「艦長、そういうけど何もないよ」

「マリア、お前は別に戦闘はなくても退屈しないだろう」

「そんなことないよ。ただ、自由になる時間が無くなるのが嫌なだけ。早く敵見つけて帰ろうよ」

マリアはどこまでも自由人だった。

彼女のあまりに間の抜けた意見で艦橋の空気がかなり緩んだ。

往々にして事件はそんなときに起こる。

まあそれほど事件というようなものではないが、カスミの代わりに哨戒に当たっているバーニャが何かを見つけた。

「艦長、人工物体を発見。移動していますから宇宙船と判断します」

「ありがとう、バーニャ。副長、体制を臨戦に切り替えて調べるぞ」

「ハイ、艦長。艦内に通達。これより艦内レベルを準戦から臨戦に移行する。各自持ち場に急げ。繰り返す、臨戦に移行する。各自は持ち場に急行せよ」

「アイス隊長。今度は武装内火艇がありますので、強制的に臨検しましょう」

「ああ、これより準備する。内火艇の発進のタイミングはそちらの指示に任す」

アイス隊長はそう言うと後部格納庫に急いだ。

それから一時間後、メインモニターに目標の船が映る。

向こうにもこちらの存在が見つかり、逃げながらレーザー砲をこちらに向けて放ってくるが、照準があまりにでたらめで、全く当たる気がしない。

そうなるとがぜんこちらとしては余裕が生まれる。

「攻撃主任。無力化は無理でも相手の船足を落とすことはできそうか」

「レーザー砲では以前の二の舞になりそうですので、側面のパルサー砲でメインノズル周辺を攻撃しましょう」

「ああ、そうだな。副長、側面パルサー砲の射程圏内まで近づいてくれ。それと、内火艇を発進させる」

前回の戦闘の時とは違って、今回は落ち着いて対応している。

何より有無を言わさずに完全破壊となっていないのが評価できる。

ケイトの指示で、右側面にある三つのパルサー砲が、それも狙いをきちんと決めて斉射している。

改造した民間船の防御なんて戦闘艦からしたらなきに等しい。

この海賊も民間船などの武装の貧弱な船しか襲わないので、これでも済んだが、航宙駆逐艦と言われる最弱に等しい戦闘艦でも、その実力の差は歴然だ。

わずか二回の斉射で、目標の動きが目立って遅くなった。

すかさず、後部ハッチから武装内火艇を発進させて、強制臨検に入る。

予想はしていたが、機動隊の面々はうちと違って皆プロの集まりだ。

内火艇が目標艦に引っ付いてからわずか二十分で、制圧完了の無線連絡を受ける。

この状況では俺の殉職は望めない。

なら俺がわざわざ向こうに出張る必要などない。

面倒くさいからな。

「ということで、副長。メンバーを選定して向こうの艦橋に向かってくれないか」

「五人ほど連れて行っていいですか」

「いいけど士官はダメだぞ。それと下士官も二人までだ。あと、分かっているかとは思うが就学隊員も許可しない」

「承知しました」

それから小一時間で、向こうの船は完全に制圧された。

こちらの被害は突入時に負傷した機動隊員の二人だけだ。

しかもその二人とも軽傷だと報告を受けている。