初仕事に向けて出港

俺は殿下と別れてクルーザーを降りたら、既に搭乗ゲート前にアイス隊長が機動隊員三十名を率いて待っていた。

今日の民間の船で着いたらしい。

「ナオ艦長。今回はお世話になります」

「あ、アイス隊長。殿下から聞いております。すぐに艦に案内します。お部屋はどうしましょうか」

「部屋ですか? 何故ですか」

「え、今回三日の予定で宇宙に出ますが、お休みになる部屋についてです。あの艦やたらに豪華な部屋を作ったやつがおりまして、正直皆さんには評判がよろしくないのですよ」

「ええ、聞いております。しかし、その心配は無用です」

「え? 無用とは……」

「ええ、今回は訓練です。これからのことを考えて、待機場所にて過ごそうかと。できればブリーフィングできる場所があれば」

「分かりました。多目的ルームをご用意しましょう。とにかく皆さんをこちらに。船に入ってから説明します」

俺はそう言ってから機動隊員三十名を連れて『シュンミン』に入っていった。


とりあえず全員を後部格納庫に案内して説明しておいた。

「ここに皆さんがこれから使う内火艇を収容することになります」

まだ内火艇の準備が整っていないので何もない格納庫で説明をしておいた。

あの機動隊員は以前に俺らが担当していた臨検に近い仕事をする人たちだ。

いや、臨検というような生易しい話ではない。

明らかに敵と判断される船に向かって突入していく人たちなのだ。

俺は艦内の案内をマリアに任せて艦橋に向かった。

艦橋では明日の出航に備えていろいろと確認作業をしている。

副長のメーリカ姉さんを捕まえて、ルートなど相談する。

艦長席に備え付けられているモニター上にこの宙域図をだして、情報室から貰った情報を調べながら調査の計画を立てていく。

その際に、アイス室長率いる機動隊員の訓練についても話しておく。

「艦長。その機動隊員って船外活動はするのですか」

「え? 知らないよ。でも実際に仕事になったら必要になるよね。だって俺らですらそれで突入したしね」

「そうですね。急ぎではないでしょうが一度話し合う必要がありそうですね」

「夕食にでも招待して話そうか」

メーリカ姉さんとの話し合いはそんな感じで済んで、俺は夕食まで自室で過ごした。

前のように艦の事前確認はしなくてもいいそうだ。

というより止めてくれと苦情があっちこっちから入ったので、俺は大人しくしている。

この艦に限って俺の存在って要らなくないかな。

夕食の時に士官を全員集め、アイス隊長に紹介しておいた。

流石に宇宙では全員集めることができないからね。

自勢力圏内で停泊中なら、下士官に当直を任せることもできるが、宇宙にいる最中はね。

ここは軍でもなければコーストガードでもないのでそういった決まりはないが、一応一般的な常識として俺は軍の考えを踏襲している。

客船だって、艦橋には絶えず航海士がいることになっているしね。

食事中にアイス隊長率いる機動隊の訓練についても話し合った。

メーリカ姉さんの質問のあった船外活動についても、彼らは全くの素人ではなかった。

いや、いろんな職場から引き抜かれた強者つわものたちばかりで、一応の訓練は受けている。

しかし、ここに集った者たちでの連携した訓練はできていないということなので、途中で船外活動の訓練も入れることになった。

アイス隊長の提案もあり、案内人が使っているパーソナルムーバーを使っての突入訓練もできたらしたいということで、急遽人数分のパーソナルムーバーを用意した。

元々二十近くはあったので、殿下のクルーザーからも借りてきてとりあえず数はそろえた。

実際に訓練に適した場所があればいいが。

俺の考えでは、途中にある小惑星帯の中の小惑星を使えば訓練できると思っている。

どうせこの小惑星帯は実際に行って調査したいとも思っていた場所だ。

レーダーも使えず見通せる距離も短いとあっては悪人たちの格好の巣籠り場所になる。

艦載機が使えればもう少し調査もはかどることが考えられるが、例の艦載機は使えるようになるまでにもう少し時間がかかる。

一番のネックはパイロットだ。

引き抜き元の『アッケシ』の艦長が決まらないと人を動かせないという話だ。

ないものを強請ねだってもどうしようもない。

それに今回は地元警察の依頼で動いてはいるが、訓練と言ってニホニウムを出るのだ。

そう、これは訓練だ。

俺の中では悪人ご用達の航路発見という成果など端から期待していない。

今回は調査訓練でもある。

夕食時に俺は『シュンミン』所属の士官と、機動隊の隊長、班長達と顔合わせを行った。

尤も俺のところの士官は副長のメーリカ姉さんを除くとマリアとケイトしかいない。

向こうの方はアイス隊長の他に副隊長に、三人の班長まで紹介された。

三十人しかいないのに部下を管理監督できる人の数に俺は正直羨ましかった。

とりあえず今回の訓練計画として、途中にある小惑星帯で機動隊にパーソナルムーバーを使っての突入訓練を提案してみた。

なにせ急ごしらえとはいえ、全員分のムーバーも用意したのだ。

せっかくなら使いたい。

アイス隊長も俺の提案に喜んで応じてくれ、二人でかなり盛り上がってしまった。

結局のところ適当な小惑星を見つけたら、そこを対象に『シュンミン』全体で、共同訓練をすることになった。

俺は副長のメーリカ姉さんに全員に通達してもらいその日を終えた。


翌朝早くに、俺らはニホニウムの宇宙港を出発した。

出港から三時間。

この間の通常航行の速さもあって、何もない空間にまで来ている。

「艦長。もうじきはぐれが認識できますがどうしますか」

「はぐれ?? 何だ、そのはぐれって」

「はぐれと言えばはぐれですよ。小惑星帯からはぐれた小惑星のことですよ。あと三十分もすれば本艦のレーダーで捉えられますが、そこで訓練しますか」

「そうだな。何かやらかして他に迷惑をかけるわけもないし、どうだろうか、副長」

「そうですね、本艦で初めての実践訓練ですし、ちょうどよい場所ではないでしょうか」

「そういうことなら訓練しよう」

「通達しますか」

「初めてだし通達しておこう。副長、よろしく頼む」

「了解しました、艦長。全艦放送だ、通信士」

「はい、副長。全艦に放送します」

「艦長より通達。この後、全艦での戦闘訓練を行う。各自準備されたし」

艦橋の空気に緊張感が加わった。

そういえばこの艦になってからこんなのは初めてだ。

良いものだな、この空気感は。

俺も本当の軍人になったものだと感じている。

そういえば、前に海賊と対面した時には感じなかった緊張感。

あの時には只々殉職することだけ、部下を巻き込まずに殉職することだけを考えていたから、余裕がなかったかもしれない。

あの時の状況をもし第三者の目から見たら、それは余裕が無いというより自己陶酔、そう自分に酔って自分の姿しか見えないが、当然俺には分かっていなかった。

だから、部下であるメーリカ姉さんにあっさりと無視されたのだろう。

そんな自分の感傷を破るような声がカスミから発せられた。

「艦長。はぐれの小惑星をレーダーが捉えました。レーダー圏内に入ります」

カスミからの報告を受けて、かねてから計画していた訓練に入る。

「副長。訓練開始だ」

「全艦に告げる。本艦の警戒レベルを準戦レベルに変更。総員起こ~し。全乗員は当直を除き待機任務に移行されたし。繰り返す。全乗員は当直を除き待機に変更せよ」

そう、この艦は二十四時間体制で宇宙を航行しているので、全乗員の内、約三分の一は就寝している筈だ。

まずはその就寝中の乗員を起こすことから始まる。

その上で、自分の担当部署にいつでも数分以内に行ける場所で待機状態になることを要求する命令だ。

この状態ではすぐに戦闘が始まる訳ではないので、慌てる必要がない。これは、これから戦闘が始まるかもしれないから準備だけでもしておけという命令だ。

「副長。初めてだから、状況の確認だけでもしてくれ」

「はい、艦長。各班のリーダーに通告。自身の部下の状況を確認して報告せよ」

「こちら機関室。二等宙兵の三名が来ておりません」

「こちら後部魚雷発射管制、うちは一人も来ておりません」

………

  ………

次々に入る各部署からの報告は目を覆うばかりのものだ。

中には前の臨検小隊からの仲間で、ルーキー扱いの連中も来ていない部署もあった。

どういうことだ。

「艦長。これはちょっと……」

「ああ、ちょっとまずいな。副長。悪いが保安隊の班長を艦橋に呼んでくれないか」

暫くして保安隊の班長が艦橋に来た。

「班長。申し訳ないが、君たち保安隊だけ、訓練を中止して艦内捜索をしてくれないか。まさかとは思うが、迷子でもいないか確認をしてくれ」

「あの、艦長。私からも報告が……」

おいおい、ひょっとしてお前らもか。

班長の報告は、さすがに迷子はいなかったが、艦内の当直部署が分からずに右往左往しているという話だった。

そういえばきちんと保安隊とは話し合っていなかった。

どうもそれが原因のようで、あっちこっちで右往左往しているのだそうだ。

「副長。訓練の中止を宣言してくれ」