ドックでマークの父親と

俺らはつい最近も使った公共の交通機関である列車を使ってドックに向かった。

前に使った時とは逆のルートであるためか、時間的には通勤通学の時間をずれてはいるが、それでも乗り込んだ列車はわりと混んでいた。

俺らの使っている宇宙港は官民共用の宇宙港で、俺らと同じ方向の工業団地に向けて移動している民間利用のビジネスマンが多くいるように感じた。

流石に方向も逆だし、時間的にも違うので、今回はテッちゃんとは遭遇しなかった。

もし、テッちゃんと望まない形で遭遇でもしようものなら、マキ姉ちゃんとの時でもいろいろと問題がありそうなのに、カスミと一緒だと想像しただけでも恐ろしくなる。

冷静でいられる自信がない。

幸いというか、当たり前というかは別として、何事もなくお世話になっているドックについた。

ドックの事務所に入ると俺は事務員たちに声を掛けた。

「こんにちは。社長いますか」

事務所の専務が俺たちを出迎えてくれた。

「あ、艦長。悪いね、親父は今来客中だ。俺で分かるようなことなら話を聞くが、どうするね。少し待つかね」

俺よりも遅れて事務所に入ってきたカスミは俺と専務とのやり取りを無視するかのように大声で社長を呼んでいた。

「親方、いますか~。カスミです」

社長は応接で、対応中だったようだが、カスミの大声は聞こえたようで応接から、これも大声で声を掛けてきた。

「ちょうど良かった、いいからこっちに入れ」

俺と専務は顔を見合わせた。

「大丈夫ですかね」

「ああ、親父が言うんだから行った方がいいよ」

「ありがとうございます。中に入ります」

二人でそんな会話をした後に応接室に入っていった。

それにしてもここはかなりぼろい造りで、大声で話せば簡単に聞こえてしまう。

俺らに準備してくれた事務所は解体船から船室を取り出したものなので、機密性は万全な筈なのに、自分たちで使う事務所には本当に古い建物をそのまま利用している。

ドーフ人の価値観がよく分からないと思いながら案内されて応接室に入っていった。

「あ、素敵な人がいますよ、艦長」

カスミが一番に俺に声を掛けてくる。

早速ジャイーンを見つけてカスミが騒いでいた。

やっぱりこいつは爆ぜるべき野郎だ。

応接室で、社長と対面して座っている二人の内一人は俺のよく知るジャイーンだった。

もう一人は見覚えがあるのだが、思い出せない。

いったい誰だろう。

「ちょうど良かった。あ、艦長もいたのか、これは手間が省けたな」

「手間ですか?」

「ああ、そこの人がお前さんを紹介してほしいと言ってきたんだ。この人はマーク坊ちゃんのお父さんでもあり、俺の親友でもあるコロナ・キャスベルだ」

見覚えがある筈だ。会ったことはないが、マークの父親か。似ている筈だ。

「おい、グスタフ。この人がそうか」

「ああ、あの艦の艦長で、名前はえ~~と」

この人、俺の名前を憶えていないよ。

無理ないか。

大抵あんちゃんで通していたからな。

俺も社長の名前を知らなかったしな。

始めて聞いたよ社長の名前。

グスタフさんというのか。

いつまで覚えていられるか分からないが覚えておこう。

「初めまして。航宙駆逐艦『シュンミン』の艦長をしておりますナオ・ブルースです。その節はご子息のマーク准尉を通して私どものご無理を聞いていただき感謝しております」

「え? あ、それではあの時の……息子とはしばらく会っていなくてね、元気にしていたかな」

「私もお電話の時以来会っておりません。普通なら同じ職場で研修中なのでしょうが、何分いろいろとあり、あの艦を任されております」

「堅苦しい挨拶はいいから座れや、あんちゃん。それよりもカスミ」

「何です、親方」

「今日は、マリアはいないのか」

「准尉は当直ですので、艦を出られませんでした」

このドーフ人社長はとにかく豪快な人で、どんどん話をしていく。

俺はマークの父親に、あの時のお礼を座ってからも伝え、社長を介さずに話を始めた。

「私に会いたいとか。何か御用でしょうか」

「いや、先月のパーティーで、うちで研修中のジャイーン君が君と知り合いだったと分かってね。とにかく顔だけでも繋いでおこうかと思ったんだよ。まさか息子と知り合いだったとはね。君は知っていたかね」

話を急に飛ばされたジャイーンは何が何だか分からないといった顔をしている。

そりゃそうだ。

なにせ俺がここを飛び出してからの知り合いなのだから。

でも同じ上流階級に属しているので、マークのことは知っているようだ。

「マークさんは存じておりますし、ナオ艦長もそれこそ幼いころから知っております。学校が同じだったもので」

そこで、俺が簡単に説明しておいた。

俺がブルース孤児院出身であることとエリート士官養成校の出身だったことを。

マークとの付き合いはその士官学校からだということも説明しておいた。

そこからは俺はマークの父親と、ここでの件でいろいろと話をしていく。

技術的なことが多く、置いていかれたジャイーンは俺の連れのカスミをナンパし始めた。

いや、ナンパでなく、只手持ち無沙汰なので、カスミに話しかけただけだ。

本当は俺についての情報を集めるために社長やカスミに話を聞いているようだった。

俺の艦長ぶりについてはあまり話さないでほしかったが、今はコロナ専務と会話中だったので、何もできない。

俺はコロナ専務との話し合いで、航宙魚雷についていろいろと話し合った。

今はいい。

今後どうするかだ。

まだ在庫は沢山あるが、艦載機にも載せるとあってはすぐに使い切らないとも限らない。

しかし俺らのためだけに新たにラインを作れる訳もなく、キャスベル工廠で扱う廃棄船や廃棄武装などから航宙魚雷をこちらに回してもらえることになった。

殿下は隣に敷地を確保して、その魚雷の備蓄も進めるようだったので、その話もしておいた。

ここの社長と友人関係を持つだけあって、とにかく話が早くて助かる。

俺らの話も終わった時に社長が俺に聞いてきた。

「で、今日は何の用事だ。マキ主任から来た見積もりの件か」

「ええ、その件もあります。それに艦載機の件ですが、あの武装についてうちのマリアが関わっていると聞いて心配になりましてね」

「ああ、あの件か。大丈夫だぞ。武装については研究所の何とかといった主任だっけか、あいつの指示だ。殿下の承認も得ているぞ」

「え? で、何でうちのマリアが……」

「あの主任とかなり親し気に話していたから、あれはマリアの提案だな。流石に朝顔は艦載機に乗せられないから、俺も一緒にマリアのひまわりの改良を手伝ったよ」

そういうことか。

頭が痛くなることを聞いた気がする。

いったいいつ殿下の承認まで取り付けた……あ、サーダー主任か。

そうか、サーダー主任がまんまとマリアの提案に乗って殿下に承認を取り付けたんだな。

そんな細かいことまで普通王室は絡まないから『良きにはからえ』か。

それに、ここなら予算面でも何ら心配ないしな。

工数を算出して請求を掛ければ話は別かもしれないが、マリアのことだ、他の仕事中でも遊んでいただろうしな。

俺もそれを放置していたから、実質マリアは趣味に走ったという訳だ。

本当にここは油断できない。

俺が一番の懸案事項について片が付いたと思った時に社長が俺に聞いてくる。

「無線機な。掘り出し物があるんだが、ちょっと問題があってな。カスミ、お前ロックは外せるか」

社長が言ってきたのはかなり大出力で高性能の無線機の話だ。

星間無線もできるタイプで暗号ユニットは別のものだが、当然情報をやり取りするので、セキュリティは万全だ。

今回の物がジャンク品でも、ほぼ新品の物があるそうだが、誰もセキュリティロックの外し方を知らないという話だ。

「見てみないと分からないよ、親方」

「それは困ったな。うちでそのジャンク品を買ってもいいが、使えないとな……」

「なら、それをうちで買おう。うちの研究所で、市場調査の名目で購入しよう。セキュリティロック解除についてはうちでも挑戦してみるが、協力してくれるのだろう、艦長」

「ええ、そんな冒険しても……」

「市場調査はきちんとした仕事だよ。何よりセキュリティロックの調査は重要だ。ロックが外れたら、うちは要らないしね。その時にはここにジャンク品をここで処分してもらうよ」

「おお、それ良いな。流石コロナだ。話が早くて助かるよ。それでいいな、あんちゃん。そん時はカスミ、手伝えよ。マリアも寄こしな」

「ええ、マリアはあまり得意じゃないよ。艦長がよければカオリを連れて来る。カオリはそういうのも好きだから、かなり強力な助っ人になるよ」

「あんちゃん。それで決まりだ。こうしちゃいられない。すぐに手配しよう。それでいいなコロナ」

「いいけど……」

「いつまでこの星にいるんだ、あんちゃんたちは」

「明日から三~四日ほど近くをうろつくよ。訓練ですからね。でも、その後は未定ですね」

「そんだけあれば用意できるな。また寄ってくれ」

勝手にどんどん話を進めていく社長は相変わらずだ。

俺らはいつの間まにか追い出されるように外に出された。

それはコロナ専務やジャイーンも同じだった。

ドック事務所の外でコロナ専務たちと別れた。

彼らは高級車でここに来ていたようだ。

乗せていくと誘われたが、一応ここは断った。

殿下のホーム扱いであるニホニウムとはいえ、状況のよく分かっていない俺が特定な有力者と仲良くなっているのを知られる訳にはいかないだろう。

まあ、このドックの関係者なので今更なのだが、一応用心はしていますの格好は付けておく。

そうでなくともこんな若造が座乗艦の艦長というお役目を負っているのだ。

知らないところで相当にねたまれている筈だ。

まえにフェルマンさんにそう教えてもらった。

俺は昼近くになっていたこともあって、工業団地内にある食堂に寄ってから宇宙港に戻った。