周知のための行幸

確かに綺麗に作られてはいるが、ここが格納庫と知ったら公爵たち貴族連中は何と言うか正直庶民には心配の種は尽きない。

立食形式の華やかなパーティーにはなっている。

俺も殿下の希望に沿うようにあっちこっちの貴族たちと挨拶を交わしている。

その間、気になったのだが、貴族たちやその随行員の殿下を見る目に違いがありそうだ。

その多くは、殿下の道楽に付き合ってやるよといった感じの明らかに不敬になりそうな感情が見えてくる。

しかし少数ながら、明らかにおかしい感じの視線も感じる。

どう例えればいいか俺にはよく表現できないが、あえて誤解を恐れずに言うと前に対峙した海賊のしかも親分に近い感情を持っているようにしか思えない連中もいそうだ。

こんなことを殿下のお耳に入れてもいいか分からなかったので、とりあえず情報室長のジェームスさんだけには話しておいた。

「流石ですね、艦長。気が付きましたか。私もそう思いますので、マークだけは付けておきます。殿下もそのあぶり出しも兼ねているのでしょうしね」

なんだか物騒な話になったが、とりあえず今回のパーティーでは事件など起きずに済んだようだ。

どの貴族連中も本艦を案内した限りでは、その内装の豪華さを褒めてはくれたが、誰一人として軍艦とは見てくれなかったようだ。

デモンストレーションで主砲のレーザー砲を礼砲のごとく出力を落として発射したが、どうもおもちゃでも見ているような感じだった。

絶対になめているとは思ったが、殿下からもそれでお願いと事前に言われていたこともあって、デモになっていないとは思ったがそれで済ませた。

無事に四時間で殿下主催の船上パーティーは終わった。

公爵たちを全員下船させたら、俺はその場で座り込んでしまった。

非常に疲れた。

殿下に心配されたが俺はメーリカ姉さんたちに片づけを頼んで、自室で休ませてもらった。

とにかく殿下の考える広域刑事警察機構設立準備室はその仕事を始めた。

最初は国内周知のために、これから各星系を回り、挨拶をしていく。

その最初がここだっただけだ。

これは殿下の計画にはなかったようだが、結果的には良かったようだ。

何より事前に問題点などがいくつか分かったのだ。

殿下の考えでは、ここは王室のお膝元なので、官報で知らせるだけで何ら問題ないと判断していたようだが、それだけに殿下に対して敵意をむき出しにしてくる連中はいなかった。

事前の練習にはもってこいの環境だった。

ここは首都星域内だけあって殿下にとってホームだ。

アウェイでないにもかかわらず殿下の考えに賛同してくれた人は正直皆無だと思うのだが、これは殿下も分かっていたようで、何も気にはしていなかった。

それよりも、他に回る星系ではあからさまに敵意をむき出しにしてこちらに当たって来る連中もいるので注意してほしいとお言葉を貰ったくらいだった。

特に敵対する国と国境を接する星域ならば完全にアウェイだ。

しかもここには、実際にホームであるにもかかわらず殿下に敵対する輩は少数ではあるがいたのだ。

それが殿下のホームである首都星系から外れれば、殿下の事前の注意にもあったが本当に敵意むき出しで、向かってくるのも考えられる。当然、その配下である俺らにも、特に若輩の俺に対しては遠慮なく敵対してくることだろう。

先ほどのパーティーでもいくら俺に対してだって、敵意むき出しできたのだから、不敬罪に問われかねないとすら感じたくらいだ。

スタートから不安だらけだったのだが、それでも行幸は続き、一か月かかってようやく殿下の各星系訪問は終えた。

この間、事務所というよりも各部署は何もしていなかったわけではない。

最初の艦上パーティーから事務所側でも仕事を始めていた。

俺たちが移動中でも、『シュンミン』の艦内の一室にこもり、捜査室長と情報室長はしきりに本部の事務所と連絡を取り合って仕事を始めていた。

各星系でのパーティーや船上パーティーで受けた感触で怪しげな連中をマークしており、それらの中から絞り込みを情報室は行っていた。

捜査室は捜査室で、各星系内での未解決事件を中心に怪しげなものを探している。

そんななか、最初の訪問地であるニホニウムで早速つかんだ情報をもとに先週から殿下の持ち船であるクルーザーをニホニウムに派遣して捜査をしているようだ。

毎日のように艦内の捜査室長が籠る部屋にしきりに情報が送られてくる。

聞いたところでは俺らと別れたフェルマンさんの指揮で、殿下のクルーザーに捜査員を乗り込ませてニホニウムに送ったそうだ。

現在ではニホニウムにあるクルーザーを拠点に捜査員が捜査をしているという話だった。

まあいつまでも殿下のクルーザーに捜査本部を置く訳にもいかないので、近々殿下がもう一度ニホニウムを訪問して正式に協力を要請する予定だ。

流石に一か月もの行幸だったので、殿下も王宮に報告する必要があるそうで、その報告が終わり次第、ニホニウムに向かうと聞いた。


俺は殿下を下ろしてから、艦内の点検に入った。

艦橋で艦長席周辺の点検を始めているとカスミから声を掛けられた。

「艦長。お願いがあるのですがいいですか」

「お願い? 何だ??

「はい、この船に捜査官や情報官をまた乗せますよね」

「ああ、そのようだな。もうじきすると今度は機動隊と呼ばれたむさくるしいのも乗るらしいが。それが何だ」

「はい、通信担当のカオリからも言われたんですが、この船って通信の使用量が半端ないんですけど。私も使いたいときに使えなくて困っています。通信設備を強化しませんか」

「そういうのはきちんと稟議りんぎを上げろや。俺が見て殿下に回すから」

「わ~。やっぱり艦長は話せるね。すぐに稟議書を作ります」

そういうとカスミは自室に走って向かった。

ここの確認はもういいのか。

大丈夫かな。

まあ、カスミは手を抜かないだろうし、何より何も戦闘行為をしていないから大丈夫か。

俺も区切りをつけて止めるか。

俺も艦長席から各種パラメータの確認を急いで終わらせて自室に戻り休んだ。

しかし、いつ来ても落ち着かないんだよなこの部屋は。

いっそのこと余っている二等客室にでも移るか。

あそこでも落ち着かないのに、本当に困ったものだ。


翌日はマキ姉ちゃんの手配で補給も無事に終わりいつでも出港できる体制が整った。

カスミからの稟議はすぐに届いたので、マキ姉ちゃんに回しておいたが、予算が見えないとの理由で一時保留となっている。

すぐにマキ姉ちゃんから社長に見積依頼を出したのは本当にすごい。

夕方になって殿下から連絡が入り、「いつ出発できるか」との問い合わせがあったので、俺の方からは「いつでも」と答えたらその一時間後に殿下がやって来た。

流石にまずくはないかとも思ったのだが、殿下の要望通りにすぐに出発した。

出発から六時間後にニホニウムの管制圏内に入った。

「殿下もうじき宇宙港に入港します」

俺は後ろで座っている殿下に報告を入れた。

「あら、そうですか。でもこの時間では役所は閉まっておりますね」

時刻は午後十時を少し回ったところだ。

午後四時前に出発したのだから普通の感覚ならずいぶん早く着いたと感じるだろう。

明日朝一番で動いてもよさそうなものなのに、何故だか殿下は急いで出発させた。

「今日は宇宙港でお休みね。このお船なら、快適ですからなんにも心配はありませんしね」

「それなら途中で時間調整をしたものですが……」

「飛んでいる間は皆さんお休みができないでしょ。だからそのまま入港してくださいね。駐機場で休んでいる間はうちの保安員だけで大丈夫でしょ」

「いえ、流石にそれは。停泊中ですから最低限の人間だけは仕事につきます。特に、艦橋や機関室などには当直を置きます。しかし、殿下のご配慮に感謝いたします。停泊中と運航中とでは当直の数に雲泥の差が出ますから、慣れない我々にとっては非常に助かります」

「ならよかったです、艦長。明日からはしばらく私はこの船を降りますから艦長の自由にしてください」

「ええ、分かりました。情報室や捜査室からの依頼もありますので、明後日から数日付近の探査を行います。ニホニウムの関係機関には訓練と申請しておきます」

「早速、このお船の実力が試されますね。私は明日からはここにあるクルーザーにおりますね。何かあれば連絡ください」

「了解しました」

「では私は休ませてもらいますね。おやすみなさい、艦長」

「お休みなさい、殿下」

殿下は俺に挨拶をすると自室に戻っていった。

いったい何だったのだろうと疑問に思っていたら保安室長のバージニアさんが教えてくれた。

「今日中に首都を離れないと当分出られなくなりそうでしたので慌てて出発してもらいました。本当にこちらの都合でしたが艦長には感謝しております」

「スタンレー室長。事情を教えてもらい感謝しております。まあ、知らなくても殿下の指示には従いますが、正直疑問に思っておりましたから。これで今日はすっきりと寝ることができます。私も自室に戻ります。おやすみなさい、スタンレー室長」

俺はそう言って艦長室に入っていった。

翌日は簡単な点検の他には艦での予定はない。

俺はカスミを連れてドックに向かった。