艦上パーティー

殿下から依頼を受けたので、俺はその足で艦橋に行き、メーリカ姉さんと相談した。

すぐに船上パーティーのための航路が決まり、明日の宇宙港への移動も案内人を予約しておいた。

食材等の搬入も明日の午前中には終わるという話で、明日の午後からは厨房で準備が始まるとも聞いた。

つくづく貴族のパーティーって手間と時間とお金がかかるものだと、この時に初めて知った。

殿下が頼んでいた工事はもうすでに終わっており、検査も終了していた。

俺はその検査報告書にサインを入れながら艦載機についてメーリカ姉さんに聞いた。

「ところで、ここに持ってきた艦載機はどうなった。何か聞いているか」

「ハイ、あれは試作機でしたので、安全証明の取得に時間がかかるとか。武装はこの艦にも搭載しているパルサー砲のほかにマリアが『ひまわり四号』を積むんだと張り切っていましたが、許可したのですか」

「え? 俺は知らないぞ。そもそもあの艦載機については俺の裁量かどうかも知らないしな」

「どこからの指示なんですかね? 後で聞いておきます」

後でメーリカ姉さんが聞いたことには殿下からの指示が出ており、あの社長がマリアと喜んで作っていたとか。

その他にも魚雷を二本も搭載するかなり重武装の艦載機になっている。

しかし、通常使用するためにお役所への認可を取り付けることで時間がかかっているとの話だ。

この辺りは親会社のキャスベル工廠を巻き込んで力業ちからわざで通すと社長は息巻いていたから、一か月以内には完了していることだろう。

尤も俺らは、ここでのパーティーが済み次第、順次各星系に出向いて新たな組織の説明をしていく予定だ。

殿下の話では各星系で有力者をこの船に招いて、海賊の捜査から取り締まりまでを全部行うので、協力してほしいと説明していくそうだ。

軍には頼らず、発見次第すぐにでも取り締まるので、海賊の検挙率の向上が望めるから絶対に協力は拒まないでほしいと圧力を掛けるらしい。

その最初が明後日の船上パーティーだそうで、失敗は許されない。

俺もホストとして頑張らないといけないそうだが、学校では貴族との付き合い方など教えてもらっていない。

客船の高級船員は客との付き合いも仕事のうちで、船長なども乗客との会食は度々あるとかで、どこの船舶会社もそういったマナー教育にも力を注いでいるそうだが、軍にはそんな教育項目はない。

コーストガードでも必要はなさそうで、俺を始め士官全員が正直言って明後日を恐れている。

殿下は「気にすることはありませんよ」と言ってくださるが如何なものだろうか。

フェルマンさんやマーガレットさんからは、誰もここがクルーザーや豪華客船でないことを理解しているからいつも通りで大丈夫と言ってくださるが、それでも俺を始め士官全員に簡単にマナーを教えてくれた。

そんなこんなで時間が過ぎて、いよいよお客様をお迎えすることになった。

艦橋をメーリカ姉さんに任せて俺はロビーで殿下の横に立ち招待客を待つ。

俺の艦は昨日のうちに宇宙港に運ばれて、今は搭乗用のしかも貴族が利用するやたらと豪華なチューブが搭乗ゲートに使っているホールに繋がっている。

たとえ貴族といえども保安検査を通らないといけないので、ゲストがここに来るまでに時間を要したが、公爵を先頭に招待した貴族連中がやって来る。

俺は持病になりつつある胃痛をこらえながら笑顔でゲストをお迎えした。

前に殿下をお迎えしたような最敬礼はここでは取れないので、軽く会釈をしながら挨拶を交わしていく。

お迎えしたゲストは殿下の『百合の園』出身の保安要員が上手に案内して、随行員とゲストをそれぞれ別の多目的ホールに連れて行く。

とにかく離陸するまでは規則もあり全員座らせるので、貴族連中を待たせないように、準備ができ次第、すぐに離陸した。

この辺りについては、流石に公爵や殿下のご意向もあり、全く待たされることなく離陸できた。

離陸後すぐに宇宙港の管制圏内から離脱した。

ここまで来れば、通常航行に移るので、お客様を解放してパーティーの始まりだ。

俺は後ろに座っている殿下に、「これより通常航行に入ります」と報告を入れる。

殿下もすぐに自身の席から立ち上がり次の行動に移る。

殿下は傍に控えているフェルマンに指示を出した。

その後、俺に向かって「艦内のお客様にご挨拶がてら案内をお願いします」と言ってきた。

俺は殿下の言われることが分からなかったが副長のメーリカ姉さんがヒントを教えてくれた。

「艦長、あれですよ、あれ。ほら定期便の船長がシートベルト外していいよっていうあれです」

「ああ、そうか。それなら分かったよ」

俺とメーリカ姉さんの話が聞こえていたのか殿下はにっこりと頷いてくれた。

俺は艦長席から艦内放送用のマイクを取り上げ、挨拶を始めた。

「私は本艦KSS9999航宙駆逐艦『シュンミン』の艦長のナオ・ブルースです。只今ファーレン宇宙港の管制圏内から離脱しましたので、ご不自由をおかけしておりましたシートベルトを外してくださって構いません。ここで改めて本艦にご来艦してくださりました皆様に御礼申し上げます。これより約四時間と短い間ですが、できうる限りの歓迎をしてまいります。楽しんでください」

俺の挨拶の後に殿下が「私にも話させてください」と言ってきたので、殿下の席から使えるようにマイクのスイッチを入れた。

「改めまして、私の招待を快くお受け下さり感謝いたします。これよりパーティーの準備が整いますまで、お飲み物などお出しするために、皆様方を別室にご案内させて頂きます。私どもの者が参りますので、もうしばらくお待ちください」

殿下の挨拶の後に殿下が俺に向かって「では、艦長参りましょうか」と言ってきた。

え?

どこに参るというのだ。

俺の仕事場は艦橋だろう。

「艦長。艦橋の指揮権を預かります」

殿下の意を受けたメーリカ姉さんは早速艦橋の指揮権を俺から取りあげた。

「ああ、分かった。副長、艦橋の指揮権を預ける」

とにかくしまらない艦長になってしまった。

まあ今更なので気にはしないが、それよりもこれって行き先が会場だろう。

また、先日の悲劇が……あの時には悲劇などありませんでした。

しかし、俺にとっては苦痛のひと時だったのは事実です。

「これより、第一〜第三の多目的ホール、ロビーホール、それに後部格納庫を開放する。また、正規の招待客に対しては士官食堂も開放する。各員、客人に対して礼を徹底するように」

副長のメーリカ姉さんは艦橋から各部署の責任者に対して命令を出している。

俺よりもよっぽど艦長らしい態度だ。

俺は殿下に続いて第一多目的ホールに向かう。

ここには正規招待客として貴族を中心に三十名のゲストを入れていた。

あのドックの社長に急遽追加で工事してもらった貴族用のエマージェンシーシートを取り付けた部屋だ。

中に入るとそこには既に保安室長のバージニアさんが公爵たちのお世話をしていた。

殿下は保安室長に目で合図を送ると、少し大きめな声で話し始めた。

「公爵はじめ、私の招待に応じてくださった皆様にお礼を申し上げます。これより艦長が皆様をもう少しくつろげるお部屋にご案内します。そこでドリンクなどを楽しみながらもうしばらくお待ちください。それほどお待たせは致しません。では参りましょう」

そう言って俺に笑顔を向けてくる。

そういった話なら事前に打ち合わせしてほしい。

バージニアさんがそっと俺に『皆さんを士官食堂へ』と命じてくる。

ヘイヘイ、分かりましたよ。

どうせ俺の扱いなんかこんなもんでしょうね。

「では、皆さま。大変お手数ですが私に付いてきてください。なお、この部屋は開放しておきます。簡単なお飲み物程度ならここでもご用意もできますから、いつでもお使いください。お連れの方たちとの打ち合わせなどにもご活用ください。なお、随行の方たちがいた部屋も開放しておきます。あちらもご自由にお使いください」

そう言って、みんなを士官食堂に連れて行った。

そこでは、保安要員の人たちが多数待っており、ゲストの方たちに対して飲み物を手渡している。

早速貴族政治が始まるようだ。

殿下も公爵との談笑を始めた。

俺は、全員がこの部屋に入り落ち着いたのを見計らってパーティーのメイン会場にしている後部格納庫に向かおうとしたら、バージニアさんに止められて、幾人かの貴族を紹介された。

正直俺の胃のためにも勘弁してほしい。

それほどの時間を空けずにパーティーの準備が整ったとの連絡を受け、今度は殿下自らみんなを後部格納庫へ案内している。


貴族を招いて後部格納庫でパーティーなんて、どんな罰ゲームかよと俺は思ったのだが、随行員まで入れると流石にどの多目的ホールでも収まらない。

一同に会するのならあそこしか場所はないのだが、どうしたものか。

しかし、あそこはマリアたちのいたずらで、格納される内火艇がなければただのホールにしか見えないくらいに贅沢な造りになっている。

マリアの説明では、あの豪華客船のメインホールの材料を使って内装を整えているという話だった。

なんでもレーザー兵器や少々の爆薬では歯の立たないくらい丈夫な材質でできていると聞いたのだが、殿下はその内装の造りを気に入ったようで、端からここでのパーティーを考えていたという。