ジャイーンとの再会
まあ、そういう訳なので彼は必然的に『壁の花』作戦中だった。
「と言う訳だが、ナオはどうしてここにいるんだよ」
「さっきも言っただろう。俺は出向中だ。今は王宮に出向しており、俺の上司が王女殿下だ。俺はその御供さ。なので、今は仕事中だ」
………
「あら、そうなのかしら、艦長。艦長の御仕事はそこにはなくてよ。皆さん艦長のお話を聞きたがっていましたよ」
な、なんでここに殿下が来るんだよ。
殿下は俺の他に人がいるのを知っていた筈なのだが、今気が付いたように話を続けた。
「これは失礼しました。お話し中に割り込んでしまいましたね。艦長、私にご紹介して下さりますか」
これには俺よりもジャイーンの方がえらく驚いていた。
完全に固まっているぞ。
こいつのこんな姿は正直初めて見たような気がする。
こいつは完璧超人とばかり思っていたが、こういうおちゃめな面もあるんだ。
やっぱりこういうのが女性心をくすぐるんだろうな。
やっぱりこいつは爆ぜなければならない。
「殿下、申し訳ありません。彼は私の友人で、ジャイーン・ストロング・アームと言います。ストロング・アーム財閥家に連なる者ですが、彼はまだ学生でして、ここには実習先の社長の配慮で随行員としてここにおります。ですので、改まってのご挨拶はその……」
「分かっておりますわよ。でもブルース艦長のお知り合いならご挨拶をしたいじゃないですか」
「殿下の御尊顔を身近で拝見できる栄誉を承り大変きょ、恐縮しております。わ、私は先ほどナオの……いえ、ナオ・ブルース艦長の紹介の通り、ストロング・アーム家の三男でジャイーンと申します。現在ケイリン大学四年生です。ここにはキャスベル工廠の社長のご配慮で参加させていただきました。このような席には初めての参加でして、その……」
完全にテンパっているな。
まあ、誰でもそうなるよな。
ここで俺が奴を助ける義理はないのだが、あれ、ないかな、まあいいか、殿下から助けてやろう。
これって大きな貸しだぞ。
今度俺にも女を紹介でもしろよって訳ないか。
「ところで殿下。私に御用ですか」
「ええ、艦長はお仕事中なのですよね。そのお仕事はあちらでお待ちですよ」
そう言うと殿下が見つめる先には貴族たちの視線がこちらに向いている。
あの中に入らないといけないのか。
殿下には俺の秘中の作戦が二つも破られたわけだ。
殿下は侮れない策士だ。
俺は諦めてあの中に向かうことにした。
「すみませんね、お話し中に」
「いえ、私こそ殿下とお話の機会を承り大変恐縮しております」
殿下は俺よりも先に貴族の集まりに向かって歩いていった。
さすがに俺が遅れるわけにもいかずジャイーンに一言だけ言ってから殿下についていった。
「悪いな、俺はいくよ」
ジャイーンはやっとのことで一言だけ「ああ」と言っただけだった。
俺の向かった先は貴族連中が
はっきり言って俺には勝ち目のない戦場に何故殿下は俺を送り込む。
ひょっとして殿下は俺の敵か。
俺はあえなく簡単に敗北したのだ……。
殿下は、集まった有力貴族たちにこれからの活動について説明している。
その際に俺の乗る船についても説明していたので俺が呼ばれたのだろう。
この場には公爵もいたので殿下は最後に驚くべき提案をしてきた。
「ねえ、艦長。公爵にお船を見てもらいましょうよ」
見学、いや内覧会といった感じなのか俺は簡単に了解したのだ。
「ええ、構いません。皆様方がいらしたら、新たに生まれ変わった『シュンミン』をご案内します」
「どうでしょう、公爵。今回ご招待してくださったお礼にお船で簡単なパーティーを開きたいと思います。流石に今ここにいる全員は無理でも公爵の親しい方たちをご招待したいのですが如何でしょうか。この星域を周遊してみますよ」
「よろしいのでしょうか、殿下。それなら喜んでご招待に預かりましょう」
「まあ、あの綺麗なお船で周遊ですか。楽しそうですね公爵閣下。是非私も同行させてくださりませ、殿下」
「明後日では如何でしょうか。詳しくはフェルマンを残しますので、お話しください」
せ、船上パーティーだと。
今のここより格段にハードルを上げたぞ、この殿下は。
俺はこの段階で、殿下を敵と認定せざるを得なくなった。
そんな訳ある筈ないが、それでも、これはキツイ。
当然殿下には勝算あっての提案なのだろうがどうするつもりだ。
この後、俺と殿下はパーティーの途中だが退出させてもらった。
公爵のお屋敷から車であのドックに向かう。
俺と殿下は同じ車に乗せられた。
当然、王室警護隊と保安要員数名も同乗しているが、殿下の傍には俺しかいない。
「艦長、心配なさらなくても大丈夫ですよ。あのお船ならどこに出しても恥ずかしくはありませんし、私の『百合の園』たちの皆がいれば給仕についても何ら心配はありません。クルーザーで慣れていますから。強いて問題点を挙げるとしたら艦長ですかね。ご自身のお船では逃げられませんしね」
しまった、殿下は今日の俺の行動をチェックしていた。
しかし、俺にどうしろというのだ。
「これから回る各星系でも同じことが繰り返されます。少なくとも表立って敵のいないここなら経験を積むにはもってこいの環境なのですよ。私もあの船を見た時に、ここで船上パーティーを開きたいと思いましたからね」
「そ、そうなんですか。それは光栄です」
「で早速問題ですが、あのお船にはどれ程人が乗せられますか」
「以前に報告しましたが百二十三名くらいでしたっけ」
「くらい? まあいいでしょう。それは乗員の定員数ですよね。私が聞きたいのはゲストとしてどれほど乗せられるかなんですが」
「ゲストですか。それは考えてもおりませんでした。すぐに問い合わせます」
俺はそう殿下に断って携帯端末からドックの社長を呼び出した。
端末で社長と話しても要領を得ない。
イライラしたのか殿下は俺から端末を取り上げてあろうことか直接話始めた。
五分くらい話し込んでいただろうか。
話が終わると嬉しそうに俺に報告してくれた。
「艦長。本当に良い会社を紹介してくださいましたね。あそこと契約が結べたのは本当に幸運でした。現状ではそういった機能は全くないそうですが、すぐに用意してくださるとのことでした。いくつかある多目的なホールにエマージェンシーシートを用意してくださるとのことでしたので、貴族用に三十席と随行員用に九十席を頼んでおきました」
車がドックに着くころには既に工事が始まっていた。
嬉々として働くマリアがいたのは見なかったことにする。
殿下はそのまま後部ハッチから艦内に入り、厨房に寄って厨房長を捕まえてから自室に向かった。
パーティーでの料理の計画でも話し合うのだろう。
俺はそのまま艦橋に入り副長のメーリカ姉さんから報告を聞いて自室に入った。
今日は本当に疲れた。
慣れないことばかりで、体の芯から疲れたので、そのまま俺は横になった。
いつのまにか寝ていたのだろう、気が付くとあれから二時間は経過していた。
部屋の扉をノックする音で俺は目を覚ました。
「ハイ、入室を許可する」
俺がドアをノックする人にそう言って部屋に入ってもらった。
入ってきたのは殿下付き女官のマーガレットさんだった。
「艦長、お疲れの所申し訳ありませんが殿下がお呼びです。同行してくださりませんか」
殿下に呼ばれて殿下の部屋に入ると、中ではちょっとばかり酷いことに。
早速部屋に呼んでいた厨房長をリーダーとして助手たちを使い、食材やらの手配をしている。
厨房長は厨房長で、殿下とパーティーに出す料理の確認をしており、いくつか部屋に散らばっている端末には各種の料理が表示されている。
保安要員も先ほどから部屋に出たり入ったりしており、ここではまさに戦争が始まっている。
「すみません、お呼び出ししまして。私たちの中では既にパーティーは始まっておりますのよ。艦長には、船上パーティーの時の航路の設定をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか」
軍隊における司令官の権限は旗艦艦長よりも上だが、この船は軍でもなければ殿下は司令官でもない。
殿下は準備室長なので俺の上司だが、艦の中では艦長が一番強力な権限を持っている。
この場合俺が艦長として権限上では殿下よりも強く、殿下は俺に要請ができるだけだ。
尤も殿下の要請を断ることなどできないが、殿下もその辺りはきちんと弁えているので、俺に要請してきた。
「時間はどれくらいをお考えでしょうか」
「出発から帰還までで四時間といったところでしょうか。途中で会食の他に、この船のデモンストレーションをしたいのですが、構いませんか。デモンストレーションは三十分もあれば十分です」
「分かりました。途中の条件の良い場所で主砲とパルサー砲の実射を予定しておきます。殿下のおっしゃられたお時間ですと、この星域の最外惑星を通り越してしまいますが、そことの往復で構いませんか」
「ええ、構いませんよ。計画ができましたらデータをください。公爵閣下にお知らせしておきます」
「分かりました」