解体屋が殿下ご用達に

その後はサーダー主任とも面会して、ここでの契約面での処理は終えた。

当面準備室関連での整備契約をここと結んでもらった。

年間で契約料を支払い、個別案件ごとに追加で費用を支払うようだ。

また、サーダー主任との件だが、とりあえず航宙魚雷は無償で譲渡することで話が付いたようだ。

元々処理費用を払うとも言っていたくらいなので、それならばと無償譲渡の契約を結んだようだ。

ついでに俺らの使う魚雷も無償のようだ。

ここに来た本来の目的である殿下の席についてだが、どこから持ってきたのか提督用の座席を持ってこさせて、その場で取り付け工事を終えてしまった。

これも解体船からの流用品だと言って、費用が発生しなかった。

とにかく、この社長は気に入ると完全に商売っ気がなくなる。

経営的に大丈夫かとこちらが心配になる。

殿下は、座席取り付け工事の間中、部屋でフェルマンさんと話している。

後で聞いた話だが、隣の倒産した工場を買い上げるつもりのようだ。

ここで、フェルマンさんを降ろして、俺らはその日のうちに首都に戻っていった。

夕食時間までにはファーレン宇宙港に帰りたい。

流石に夕食まで殿下のお食事を準備する勇気は俺にはない。

◇◇◇◇

あのニホニウム行きから一週間は地上で勤務している。

俺のために用意された部屋で、いろいろと運航計画などの調整をしている。

なにせ、王立造船研究所との共同研究の話が持ち上がっているのだ。

あの魚雷を使う研究をするとやたらに張り切っているサーダー主任とテスト計画などを話し合っている。

いくらただみたいな値段で魚雷を撃ち放題だと言っても、やみくもに撃つわけにはいかない。

魚雷はただでも発射するのに宇宙まで行くのが大変だ。

小型とはいえ航宙駆逐艦を宇宙まで行かせるのには経費がばかにならない。

我々準備室として協力はするが、その経費までは持てそうにないので、実験のための経費を研究所に持たせることになる。

なので、研究所としてもその辺りの予算申請にはうるさく、実験計画書をきちんと作成しないと魚雷一本も撃てない。

サーダー主任は必死になって、その計画書を作っているのだが、それに俺も巻き込まれたのだ。

それこそ毎日のようにこの事務所に来て、持ち込んだコンピュータでシミュレーションを何度も行い、レーザー砲の使えないエリア内での戦術を検討している。

かたや殿下やフェルマンさんは検討事項にあった人員の補充に走り回っているそうだ。

前に出かけた時に乗せた兵士たちは王室直轄の近衛兵のうち王妃や王女の警護を担当するために女性だけで構成された部隊から連れてきたのだが、そこから三十名ばかりをこの組織に引き込んだようだ。

ちなみにその女性で構成された部隊の名前は『百合の園』と言うそうで、更に蛇足だが他の男性の部隊には『バラ部隊』というのがあるとも聞いた。

決して変な意味があるのではないとこれを教えてくれた人は何度も言っていたが、意味深だ。

その『百合の園』からいつも殿下を警護していた一個小隊をそのまま持ってきた。

殿下が言うには、俺の船に常に保安要員としてその百合小隊から一分隊十名を乗艦させ、殿下が乗るときには更にもう一分隊の十名を乗せるつもりだそうだ。

その三つの分隊をローテーションで常に回していく計画を立てている。

俺の部下として保安要員も使える話だが、俺の直接の部下としては前から付いてきた六十余名になる。

この船は軍艦でなく、警察の船になる。

ゆえに、状況に応じていろんな部署の人を部署ごとに乗せることが計画される。

例えば、海賊船に対しての取り締まりにおいて、海賊船との交戦では俺の範疇になるが、海賊船に直接乗り込む場合には殿下があっちこっちからスカウトしてきた猛者たちがチームを組んで乗り込んでいくことになる。

当然指揮権の問題が発生するが、この場合には捜査本部が立ち上がっているので、指揮権は現場に出張ってきた捜査室長か、その代理が行い、俺もその指揮下に入ると説明してくれた。

まあ、組織ができあがっていないので、試行錯誤にはなるが、俺の所属する組織は軍ではなく警察なのだ。

今まで学校で習ってきたこととは感覚が異なるがそれもやむを得まい。

コーストガードも本来は警察なのだが、軍人が作った組織だったので、軍に準拠していたから違和感が少なかった。しかしここははっきり言って違和感ばかりだ。

まあ、俺が艦長になった段階でおかしいこと甚だしいが。

そんな生活を続けていたら、殿下が俺のところに料理人を連れて来た。

女性の料理人で名をエーリンさんという二十八歳の美人だ。

彼女と彼女の助手の女性三人の四人を俺の配下として使えという話だ。

これから艦内での食事は彼女たちに任せればいい。

食材等の補給に関しては、必要に応じてグランドオフィスから人を出して当たるという。

この段階で、艦載機を除くすべての懸案事項が解消されたことになる。

その艦載機も、やっと王室管財部の許可を得て、俺らに回されることになりそれを載せて例のドックにもっていかないといけない。

強襲用の内火艇も例のドックに発注しており、この艦載機の改造と一緒に納入される話と聞いた。

「ということで、明日彼女たちの訓練と艦載機の輸送を兼ねてニホニウムまで飛んでもらいます。私たちも当然乗船しますからそのおつもりで」

「ハイ、了解しました。しかし、料理人を乗せる話ですが、食材の補給はいかがしましょうか」

「心配はいりません。先ほどマキ室長に話を付けてあります。この後マキ室長とエーリン厨房長とで話し合うそうです」

「分かりました。私の方では艦載機の搬入と明日の航海の準備を進めておきます」

いよいよこの広域刑事警察機構設立準備室が本格的に稼働する。

はっきり言って俺の艦だけが最後まで準備が遅れていたのだ。

隣に部屋を構えているフォード船長の方もいろいろと準備をしているそうだが、あちらの方は俺よりも少し前に準備を終えたと船長から先週聞いた。

やはり俺の艦の準備が最後になったようだ。

考えたら当たり前だがここは専門色が強く、情報収集部門や、捜査部門、逮捕などの強襲部門もそれぞれ人間をスカウトして命令形態を整えれば準備が済んでしまうところがある。

また、マキ姉ちゃんのように事務部門は仕事さえ明確にされれば準備完了だ。

それに引き換え、俺の艦はその準備するものが多岐にわたる。

人も連れて来ないといけないが、それだけでは済まない。いろいろと準備をして訓練もして初めて使えるのだ。

俺の方はサーダー主任の研究に付き合いながら訓練と準備を進めていたので、かなり遅れた。

いや、これは言い訳か。

俺の経験と資質の不足から来るのがかなり大きい。

メーリカ姉さんにはすっかり面倒ごとを丸投げして、それでやっとどうにかなっている。

それもこれも、これで一段落ができる。

明日からはルーチンの業務が入ってくる……かな?

俺は殿下と別れて、マキ姉ちゃんのところに行き、エーリンさんに打ち合わせが終わったら艦に案内するのでここに戻るように伝えた。

暫くして、マキ姉ちゃんがエーリンさんとその助手を連れて部屋に入ってきた。

「艦長、準備ができました」

「ああ、それでは艦に案内しよう。明日の出航までにある程度艦に慣れてもらわないとな」

「ハイ」

「今日から、まかないを任せてもいいのか」

「ええ、大丈夫です」

「では、みんなへの紹介後に頼むとしよう」

俺は、マキ姉ちゃんを含めてエーリンさん達を連れて運転手付きの公用車でファーレン宇宙港に向かった。

思えば俺も偉くなったものよ。

運転手付きの車で移動だって。

これは、隣に部屋を貰っている殿下のクルーザー船長と同等の待遇が与えられているためで、全員できる訳ではない。

しかし、一介の中尉の待遇でないことは俺も理解している。

ただ、殿下座乗艦の艦長としての格式を重んじた結果だ。

俺は歩いても、いや、公共交通機関を利用しても構わないのだが、この待遇を気に入っている。

何より時間がかなり節約できるのだ。

『シュンミン』に着くとすぐにメーリカ姉さんに全員を後部格納庫に集めてもらった。

一応エーリンさん達は俺の直接の部下になる。

保安要員も集まってきたが、彼女たちもこの場で紹介はしておくが、指揮権こそ持っているが人事権を持っていない。

交代してこの船に乗ることになるので、一々全員をこの場で紹介はしないが、その話だけはしておく。

最後に賄いを任せられる人としてエーリンさん達を紹介して解散した。

「艦長。乗員の構成が複雑になりましたね」

副長であるメーリカ姉さんの正直な感想だ。

「ああ、この他にも実際に業務に入ると捜査員やら、突撃用員やらの人たちで艦内がごった返すぞ、覚悟しておいた方がいいよ」

「あまりうれしくない情報を頂きありがとうございます。彼らと揉めるか、マリアたちが爆ぜるか、どちらにしても居心地の良い艦になりますね」

「こっちこそ、うれしくない予測をありがとう。どう気を付けていいか分からないが、少なくとも言葉だけでも言っておくよ。『十分に気を付けて』と」