艦長の手料理

「おかえりなさい、艦長、それとご苦労様でしたフォード船長にサーダー主任。それで、いかがでしたか。ここで報告を聞いてもよろしくて」

「ハイ、殿下。こちらで懸案としておりました査察は終了しました。結果は後程文書にて報告しますが、想定以上の良好な結果でした。速度試験では異次元航行でレベル十までを確認しております。そのために通常でもレベル八はいつでも出せます」

「それは凄いですね。レベル八ですか。船長、これはどのようなことでしょう?」

そこからフォード船長が殿下に丁寧にレベル八が持つ意義を教えていた。

「そうですか。王国内なら急げはどこでも二日以内で行けるということですね。これは凄いことになりますね」

「ハイ、殿下のお考えの各星系の貴族への依頼も殿下ご自身で簡単に行えますし、何より首都周辺の大半なら日帰りができます。これは凄いことです」

「船長、他に報告はありますか?」

「ハイ、あの艦については性能設備において一点を除いて全く問題はありません」

「問題視している一点とは」

「ハイ、あの艦に殿下がお乗りになるには、居住に関しては前に通された部屋で問題はないでしょうが、艦橋に殿下のお席がありません。これは早急に準備の必要があるかと」

「え? 私の持つクルーザーにも艦橋には私の席はありませんよ」

「ええ、しかし殿下はあの艦にお乗りになって、この『広域刑事警察機構』を指揮されていくのですから、艦橋に指揮官としてのお席は必要かと。場所は私が今回お借りした艦長席の後ろがよいでしょう。しかし、そのお席とされる椅子は生半可なものではなりません。殿下のお屋敷でお使いになる豪華なお椅子とまでは申しませんが、提督席か、もしくは豪華客船の船長席クラスのものをご用意する必要があるかと。そう致しませんと艦長席の方が良い椅子になってしまいます」

「報告にあった速さならば、艦橋にいる機会も増えそうですね。その改造は考えましょう。他に報告は」

俺が武装について報告しようとしたらサーダー主任が俺に代わって報告してくれた。

サーダー主任はかなり朝顔五号がお気に入りのようで、それを何度も興奮しながら報告していた。

「サーダー主任。武装はそれ以外ではどうでしょうか」

流石に殿下も付き合いきれないとばかりに、次を促したら、ここからも同じように止まらない。

どこまでもぶれないサーダー主任だ。

今度は見捨てられてからさほど時間のたっていない光子魚雷を語りだした。

いわく、レーダーが使えなくとも魚雷は発射できる、ただ、追尾ができないだけなのだ。

だから、追尾せずともいいような戦術が大事だと。

これは光子魚雷だけでなく、先の朝顔にも言えることだが、とにかくまっすぐにしか進まない攻撃兵器なのだ。

まっすぐはレーザー兵器にも言える。

だから、只まっすぐ飛ぶ兵器が悪いわけじゃない。

要は戦術だというのだ。

その戦術の神髄を語り出して、他の人間は諦め始めた。

サーダー主任はこういう人なのかと、この時初めて俺は思った。

そういえば、先のテスト期間中はほとんど会わなかったことを思い出した。

「サーダー主任。戦術の重要性は理解しました。ありがとう。ところで一つ気になったのですが、先ほどフォード船長が言ったあの艦の装備及び性能にはという言葉には、それ以外では問題があるということなのですか」

「ハイ、殿下。あの艦には、いくつか足りないものがあります」

「足りないものですか」

「ハイ、一つは内火艇ないかていがありませんでした。惑星上でしか出入りしておりませんでしたので、今回のテストでは問題ありませんが、私どもの対象が海賊ということですと、致命的になるかと。急いで準備する必要があります」

「フォード船長。どうもその言い方だとまだありそうですね」

「ハイ、後は人ですか。まずあの艦は、動かすための必要最低限しか人はおりません。艦内保安要員はこの先絶対に必要になりますし、なにより生活を守る人員の不足は目を覆うばかりです。今回のテスト期間中の食事は半数が戦闘用簡易食で済ませましたし、艦内の調理施設で調理したものも頂きましたが、それが最大の問題です」

「あの~、ひょっとして食べられないくらいな……」

「いえ、非常においしく頂きました」

「では何が問題ですか」

「はっきり言ってその食事を調理した人が問題なのです」

あ、それ、俺だ。

毎日簡易食ばかりだと飽きるし、俺が食べたくなかったんだよな。

艦にはフォード船長が補給で、食材も沢山積んでくれたし、誰も料理する人もいなかったから、俺が就学隊員を捕まえて一緒に作ったんだ。

あの時にも文句を言われたが、あれってまずかったかな。

ブルース孤児院で見かけた連中も就学隊員にいたから手伝わせたし、あいつらも何も文句は言っていなかったのに、ひょっとしてフォード船長辺りにチクったか。

俺は周りをそっと見渡していたら、マキ姉ちゃん以外が固まっていた。

「艦長。あなた……その……料理ができたのですね」

やっとのことでひねり出した言葉がこれだった。

「ハイ、私は孤児院出身でしたので、料理は幼いころからさせられました。同じ出身のマキ室長もできる筈です」

「いえ、そういうことでは……」

「ええ、幸いなことにあの艦には私と同じ孤児院の出身者がおりましたので、孤児院時代に私がしていたのと同じように後輩を使えば人数分食事は作れます。何より、簡易食ばかりですと艦内の士気に関わりますので、時間の都合が付くときには私がしておりましたが」

「フェルマン! 大至急です。艦内に調理できる人間を用意してください。そうですね、これは私たち地上にいる人間の責任でした。すぐに足りない人員の検討を始めましょう。他に何か気が付いたことはありますか」

「あの~、殿下」

「サーダー主任。武装関係でもあるのですか」

「武装と言えなくもないですが、あの船にはカタパルトが装備されており、格納スペースもあるのですが護衛機がないのがもったいなく思います」

「護衛機ですか。しかし、今から探してもどうにかなるものなんですか。何より購入費用の面でも問題が……」

「殿下。それなら私に心当たりがあるのですが」

そう切り出したサーダー主任は続けて説明してくれた。

なんでもサーダー主任と協力関係にある研究室で、新型の艦載機開発計画があったそうだが、試作機を数機完成した段階で中止になったとか。

完成した試作機は軍への納入前で、王室造船研究所内にあって、置き場所にも困る有様だと言っていた。

「その試作機は飛べるのですか、いえ、言い方を変えます。使えるのですか?」

「武装がないので、そのままでは使えません。改造が必要です。しかし、正規導入を目指して完成させておりますので、飛ばすことはできる筈です」

「では、それを引き取りましょう」

「ですが、殿下。その試作機にはパイロットがおりません。パイロットはこちらで準備する必要が……」

「それは困りものですね。……いいわ。それはこちらで考えます。とりあえずその護衛機を押さえましょう。頼んでもいいかしら」

「お任せください。すぐに押さえましょう。しかし……」

「分かっております。王室の財産である試作機の管理元の移動はこちらでします。サーダー主任は現物を押さえてください」

「分かりました」

「ほかに報告事項はありますか。……なければこれで解散とします」

殿下の解散の宣言で俺はマキ姉ちゃんと一緒に部屋を出た。

それから、俺をマキ姉ちゃんが別の部屋に連れて行く。

「ごめんなさいね。まだ職場名を記した看板ができていないのよ。ここが管理する船のグランドオフィスになります。奥にナオ君の部屋もあるから。今、案内するね。だから入って」

俺はマキ姉ちゃんに手を引っ張られるように部屋に案内された。

事務机の並ぶ部屋は、前に見たマキ姉ちゃんの部下もいたが、それ以外の人も半数近くいる。

「そうなのよ。ここは、あなたの船だけでなく、殿下のクルーザーも管理するようなの。王室管財部から人が派遣されてきたのよ」

「え? その人たちもマキ姉ちゃんの下に就くの?」

「ええ、殿下の説明では、ほとんどが『シュンミン』絡みの仕事なので、一応私の部下になるそうよ。でも、あそこには主任さんもいることだし、ほとんど仕事として絡むことはないかな。それよりも、こっち。ここがあなたの部屋になります、ナオ艦長」