一変した事務所

「それなら安心だ。こっちはテストの続きをしようか。副長、大丈夫か」

「ハイ、艦長。何時でも準備はできております」

「なら異次元航行だ。一応艦内放送で伝えたらすぐに始めてくれ」

「ハイ、了解しました」

そういうとメーリカ姉さんは艦内放送向けにマイクを取り出して艦内にいる全員に異次元航行のテストを伝えた。

一応レベル二では航行しているが、その先何があるか分からないので、もしものために伝えるだけで、テストを終えれば一々伝えるようなことはしない。

「ラーニ航宙士、異次元航行準備」

「異次元航行準備完了。目標地点の安全の確認終了」

異次元航行する際に到着地点の安全確認は直接できる訳はない。

異次元航行管理局というお役所で、航行計画が出された船の所在を確認するだけだ。

尤も軍事関係での航行時には一々そんなことはしないで、異次元から出る際にのみ確認して、安全を図るだけだ。

これは、常に行う作業だが、いきなり目の前に現れたら驚いて事故を起こす可能性があり、それを防ぐための措置だ。

まあ、こんな面倒な作業もみんなコンピュータ任せだが、軍艦でもないので一応の措置は取った。

「それじゃあ、始めよう。副長、よろしく」

「了解しました、艦長。航宙士、異次元航行レベル五で発進」

「レベル五の異次元航行にて発進します」

異次元航行中は、艦内はほとんど変化ない。

下手をすると通常航行時よりも慣性力が働かない分だけ慣性力の変化が少なくないのだ。

「異次元航行、終了します。現在地確認。目標地点からの誤差、適正の範囲内です。テスト結果は良好です」

「よし、順調だな。このままレベルを上げて行き、ニーム星系まで行くぞ。副長、テストを続ける」

「了解しました」

その後はレベルを一つずつ増やしての異次元航行を行い、すぐに目標であったレベル十もクリアした。

「航行面では問題はないな。これなら文句なく殿下を御乗せできる」

「ありがとうございます。ニーム星系には寄らずに首都星系まで戻ります」

「帰還するのか」

「いえ、首都星系に戻りましたら、できる限り超新星に近づいてからの武装のテストを行います。尤も武器を使うような場面では殿下は御乗せしませんが、この船の特徴となりますレーザー砲の使えないエリア内での武装の確認をします。航宙魚雷に朝顔と呼んでおりますレールガンを使用してテストをします。それが済みましたら、一度首都に戻ります。こんな感じですがよろしいでしょうか」

「結構です。私はこの船の確認のために乗っているただの乗客なのです。私に分からないところはお聞きしますが、全ては艦長にお任せします」

俺とフォード船長とは艦橋で割とこんな感じの話をしながらテストを続けた。

テストそのものは順調だったのだが、その期間中にサーダー主任とはほとんど話をしなかった。

マリアから聞いた話では武装の関係者とはよく話をしていたそうで、なかなか武装に関してのテストがされないことを残念がっていたそうだ。

その武装も異次元航法のテスト後に行ったので、サーダー主任はすこぶるご機嫌だ。

すっかりマリアに毒されたか朝顔五号に夢中になっている。

まあ、武器の研究者であった人ならばやむを得ないことか。

なにせ、あの朝顔は現在ではロスト技術になっていたレールガンだ。

そのロスト技術が復活したとばかりに大喜びで、また、魚雷についても見識を改めたようだ。

レーダーの使えないところでも、追尾や誘導は使えなくともまっすぐには飛ばせるのだ。

光学的な処理さえすれば十分に威力も出せよう。

要は戦術面での工夫をすればよいだけだ。

今まで気にもしていなかった武装でも、場所によっては十分に活用のできることを認識したようだった。

そんなこんなで、無事に一週間でテストも終えて帰投する。

今回もゲスト航路を使って五番スポットに着陸した。

着陸後に俺はフォード船長、サーダー主任を連れてあの高層ビルにある事務所に向かった。

合同庁舎の高層ビルでは、受付などを通さずに保安ゲートを通りエレベータで上に向かった。

辞令を貰った時に同時に入館証を兼ねるIDカードを貰っているのだ。

以前に経験した自艦に入れないようなことはなく目的の最上階に着いて、一同が驚いた。

殿下との付き合いが俺なんかより相当に長い筈のフォード船長も目が点になっている。

まだ、フロアには余裕はありそうだが、とにかく人がいる。

表現がおかしくなったが、少なくとも、俺が前回来た時には、ほとんど人はいなかった。

まるで工事中のビル内部のようだったのだが、今は、あっちこっちで忙しく働いているのだ。

何より驚いたのは、エレベーターホールから事務所に入れない。

ここにも保安ゲートがあり、さらには受付嬢までいる。

その受付嬢も今は別の人の対応中だ。

本当にこのフロア全体が忙しそうだ。

俺らはもう一度入館証を出してゲートを通ろうとすると、なんと、今度はエラー表示だ。

また、保安ゲートでの足止めだ。

あの時の悪夢の再来か。

とりあえず、受付を通せば何とかなりそうなのだが、あいにくその受付嬢は別の人の対応中だ。

「もうこれは、待つしかありませんね」

「ええ、しかし、驚きましたね。こんなに変わっているかと思うと、なんだか取り残されたような気がします」

「ええ、私は今まであっちこっちにたらいまわしのように職場が変わりましたから、そんなものかと思いますが、船長のお気持ちも分かります。なんだか私たちに付き合わせて申し訳なく思います」

「何を言いますか、艦長。今は過渡期なんです。殿下はこのプロジェクトに、この国の未来を掛けております。その気持ちの表れが、この準備の早さなんでしょうね。確かに驚きましたが、これは殿下の手腕を誇らないといけないんでしょうね」

「ええ、それにしても……この手腕は凄いですね。何で道楽なんて言われているのでしょうか」

「あ、その噂をどこで聞きましたか」

「え、まずかったですか。私は軍の人事部で聞いたのですが」

「いえ、まずくはないのですが、この仕事は今までのやり方を根本から変えてしまいますから、あっちこっちからの反対勢力からの圧力がかかっております。その噂もその一つなんですよ。でも、今のここを見れば違うと胸を張って言えますが、噂を流す連中にはそんなの関係がないのでしょうね」

そんな話をフォード船長としていると後ろから声を掛けられた。

「ナオ艦長。すみませんでした。行き違いになったようです」

「え? マキ姉ちゃん……いや違った、マキ主任?」

「ええ、でも今の私は『シュンミン』グランドオフィス室長になりました。よろしくお願いします、艦長」

「え? 出世したの。すごい」

「ゴホン。プライベートな時間ではありませんよ、艦長」

「ああ。失礼した」

「艦長、そのご婦人は……」

「自己紹介が遅れまして申し訳ありません、フォード船長。私は、『シュンミン』のグランドオフィスを預かりますマキ・ブルースと申します。ナオ艦長とは、孤児院からの知り合いでして、つい最近までもコーストガードで担当事務を任されておりました」

「これはこれは、私も自己紹介がまだでしたな。私は殿下の宇宙クルーザーの船長をしておりますフォードです。以後よろしく。ところで、先ほど行き違いと言っておられたようだが」

「ああ、申し訳ありませんでした。私が船長たちをお迎えに上がりましたが、あいにく行き違いになっておりました。急いで戻りましたが、間に合わなかったようで」

「ああ、入港があまりにスムーズだったので、連絡よりも早く到着したんだな。それより……」

「ええ、私がお迎えに上がったのもこの件でして。船長たちのお持ちのIDカードが、まだここの保安ゲートに登録前でして、それで中に入れないかと。そのため急ぎお迎えに上がりましたが、間に合いませんでした。殿下もお待ちでしょうから、私が中にご案内します。次からは問題ないように後で登録もしておきます」

俺はフォード船長と一緒にマキ姉ちゃんに案内されて殿下の部屋に向かった。

部屋の前でマキ姉ちゃんはノックをして中からの返事を待つ。

「殿下。三人をお連れしました」

「お入りください」

そう言って部屋の扉を開けたのは殿下のお付きのマーガレット女官だった。