残りの評価試験

艦内の人事は艦長の権限でどうとでもできるし、決定権も持っている。

しかし、決まった人事を本部に伝えないといけないことになっているはどこの組織でもそれは同じだ。

まあ、艦長自身が決めることなど少なく、グランドクルーや本部人事などが決めてきたのを了承する方が多いとも聞く。

それは、軍もコーストガードも同じで、俺の最初の配属先も本部の人事部署で決められたようだ。

しかし、今回の場合は俺らが決めないといけない。

まだ、組織が固まっていないところに殿下に人事を任せても負担なだけだし、何より、全く面識のない連中の人事など成功させる方が難しい。

その辺りを殿下はわきまえており、俺が辞令を貰って下がるときにフェルマンさんから依頼されたのだ。

明日の辞令発布までに決めろとは言われてないが、実際に組織として実務をするまでには決めてほしいと言われた。

俺がこの艦を預かってから、メーリカ姉さんと話し合っていたこともあり、辞令発布前までに決めることができたので、早速フェルマンさんに連絡を入れてもらった。

翌日、約束通りに殿下が艦にいらした。

俺は全乗員を使い道が分からない多目的ホールに集めた。

倉庫にするにはやたら豪華な造りになっているが、とにかく何もないので、ここに集めた訳だ。

普通ならこういった場合は後部格納庫を使うのだが、今のところ俺の部下の数が六十名と少ないためにどうにかこの部屋で収まるので使った。しかしもしこの先人が増えたらどうしようか。

これが殿下でなければ、何も考えずに後部格納庫を使うのだが、今回は王女殿下という超の付く国の要人なので、警備上の理由などを考慮した措置だ。

これが宇宙に出ていればまた違う対応も取れるが、今日のところはこれで済んだ。

メーリカ姉さんが皆を代表して辞令を受け取る。

「代表してメーリカ少尉、前へ」

「ハイ」

「メーリカ少尉、貴殿の広域刑事警察機構設立準備室への出向を認め、我らが所管する航宙駆逐艦『シュンミン』の副長を命ずる」

「謹んでお受けいたします」

とにかくこれで、辞令の交付も終わり、事務的な手続きは終わった。

「この後、『シュンミン』へ命じる。ナオ・ブルース艦長。この艦の性能の把握を目的とした試験航行を命じる」

「はい、拝命いたします。これより、準備が整い次第、出航いたします」

「成果を期待しております、ブルース艦長」

殿下のお言葉を頂き、出航の準備にはいった。

今回この航行に同行してくださるフォード船長の計らいで、補給に関しては問題なく昨日中に済んでいる。

ケイトとマリアが散々苦労して作り上げた兵士のローテーションに基づき、二等航宙兵を部署に連れて行くのに一番時間を取られたが、それも殿下が退艦するまでには終えることができた。

なので、殿下の見送りを受けながらの出航となった。

「これよりファーレン宇宙港を出港する。副長、出航の命令を出せ」

「これより出航する。カオリ通信士、管制に連絡を」

「了解しました、副長。………ファーレン宇宙港管制官へ。こちらKSS9999航宙駆逐艦『シュンミン』、出航の許可を願う」

「こちらファーレン宇宙港管制。五番スポットからの出航を許可する。ゲスト航路三番を使用して出航してください」

「ゲスト航路三番。了解しました。データ受信完了」

「ラーニ航宙士。データに基づき発進させよ」

「発進します。自動航行システム異常なし。高度上昇中。五分でファーレン宇宙港の管制圏内を離脱します」

初めてとは思えない操艦の様子に俺は驚いている。

本当にあいつらは器用というか、キャパが高い。

何でこんなに優秀なのにいらない子扱いだったのだろうか。

俺はそんなこと考えていると後ろのゲストシートに座っているフォード船長が感想を言ってきた。

「素晴らしい操艦ですね。とてもこの船に慣れていないとは思えませんよ」

「ありがとうございます。しかし、私もここまでできるとは思ってもみませんでした。今まではドックからの出航でしたので、案内人任せでしたから」

「そうでしたか。でも、これなら殿下を御乗せしても安心です」

最後に漏らした感想で、この人の目的の一つも分かった。

殿下は既にこの船であっちこっちを行き来する気満々だが、やはり周りの人は気が気じゃなかったらしい。

そんなことを話していると、いよいよ管制が代わるようだ。

「KSS9999航宙駆逐艦『シュンミン』、これより管制権を首都星管制局に移管する。良い航海を」

「ファーレン宇宙港管制。管制権の移管の件、了解しましたまた。ありがとうございます。これより首都星管制局に連絡します」

……

「艦長、予定通り航行中。あと三十分で、首都星管制圏内から離脱します」

「艦長、そろそろ準備しましょうか」

副長のメーリカ姉さんが俺に聞いてくる。

「そうだな、今回は異次元航行のテストからだな。異次元航行の準備をしてくれ」

「異次元航行ポイントを指定しておきます」

メーリカ姉さんはレーダーや光学観測機を扱うカスミの元に行き、何やら話をしている。

異次元航行に際しての安全の確保にいろんな部署と連絡を取りながら確認を進めている。

三十分後に、いよいよ首都星ダイヤモンドの管制圏内から出た。

「艦長。管制圏内から離脱しました」

無線担当のカオリが声を掛ける。

「艦長」

「ああ、これより異次元航行の試験を行うため、指定ポイントに向かう。巡航速度に増速の上、指定ポイントへ向かってくれ」

「了解しました、艦長。ラーニ、目標座標に進路変更、巡航速度七宇宙速度へ増速」

「目標、指定座表に変更、速度七宇宙速度へ増速、了解しました」

俺の後ろにあるゲストシートに座っているフォード船長が速度を聞いて驚いている。

「艦長、いきなり七宇宙速度へ増速するのですか」

「はい、フォード船長。この艦の通常航行における速度試験は済んでおります。この艦にはカタログこそ存在しませんが、一応最高速度を十宇宙速度としております。戦闘時などでは出力の百二十パーセントくらいまでを想定しておりますから、十二宇宙速度まではすぐにでも出せますので、巡航速度を七宇宙速度としております」

「我が国の最速船の速度を巡航で超えるとは、つくづくすごい船ですね。私の船でも出せて五宇宙速度までですよ。巡航に至っては四宇宙速度ですか。それでも最速船を謳っておりますから恥ずかしくなりますね」

「いえいえ、この船のエンジンを乗せ換えた時に大型客船のエンジンを無理やり乗せ換えたので出力に余裕ができたおかげです。普通じゃあんな無駄はしませんよ」

「それでもです。内装といい、速度といい、殿下が気に入る訳ですね。ちなみに異次元航行ではどれくらいを見ているのですか」

「先の実在しないカタログ上ではレベル八を謳っております。航行システム上ではレベル十までは設定しておりますので、今回のテストではレベル十まではテストをしたいと考えております」

「ちなみに、今まで異次元航行は……」

「ハイ、ファーレン宇宙港に向かう時にレベル二まではテスト済です。ですので、指定ポイントにつき次第レベル五を試してみます。そこから徐々に上げて、レベル十まで出せればと思っております」

「いきなりレベル五を出すのですか。レベル五といえば我が国最速と言われる超弩級航宙戦艦に匹敵する速度ですよ。しかも、目標がその倍のレベル十ですか。もしそれが可能ならものすごいことに。まあ、いいでしょう。私はあなた方のテストの立会人ですから、しっかり立ち会わせていただきます」

「艦長、指定の座標に到着します」

「えらく速かったな」

「ええ、巡航とはいえ七宇宙速度も出ていれば、すぐですよ。この速度になると、多分近隣を含めて最速ではないでしょうか」

「となると海賊狩りには使えそうだな。逃げたとしてもこの船からは逃げ切れないな。後は武装だけか」

「それも、レーザー砲の使えないところでもこっちからは攻撃する手段もありますし」

「使えればの話だ。それもテストするぞ。……そういえば、あのサーダー主任はどこにいるんだ」

「ハイ、なんでも私らの兵器が見たいと言ってあっちこっちの兵器を見てまわっておりますよ」

「誰か付けているのか。迷子にはさせるなよ」

「大丈夫です。出来の良い子を常に付けているから」

「ああ、就学隊員のことだな」

「ハイ、それに各部署には責任者として必ず誰かいますし、質問があっても答えられますから大丈夫です」