再出向で艦長に

俺はその後、総務から渡されたメモを頼りに前に勲章をもらった高層の合同庁舎に向かった。

そこは王宮の近くで、先ほどいた官庁街からは少しばかり距離があった。

尤も距離があると言っても宇宙空間にいる訳でもないので、歩いても十分もあれば着いた。

庁舎に着くと、すぐに広々としたロビーで受付を探した。

すると後ろから声を掛けられた。

なんと前に殿下と一緒にいたフェルマンさんだ。

「艦長代理。お待ちしておりました。私が案内いたします」

フェルマンさんの後についてエレベーターホールから高層階に向かう。

最上階の見晴らしの良い場所に連れてこられたが、ここはワンフロア全体が閑散としている。

何だか、まだ内装工事中のような感じの場所だ。

「まだ、準備ができたわけではございませんが、ここが『広域刑事警察機構設立準備室』になります。ここにはあの『シュンミン』のグランドオフィスも入りますし、捜査員もここに詰める予定です。人員の方は予定の半数近くは確保できましたが、まだ皆さんの異動にもう少し時間がかかるようです。また、足りない人たちについても順次スカウトは続けております。奥に殿下の執務室は完成しておりますから、そちらに案内いたします」

そうフェルマンさんに言われながら奥にある執務室に通された。

「殿下。艦長代理をお連れしました」

「いらっしゃい、艦長代理。お待ちしていましたのよ」

「殿下。昨日頂いたお話通りに、本日付けでこちらに出向となりました。よろしくお願いします」

「これからは上司と部下の関係になりますわね。公式でもない限りもう少し砕けてくれてもよろしくてよ」

「………」

「ごめんなさいね。余計に固くなってしまったようね。仕事のお話をしましょうか。そちらに座ってください」

殿下の勧めるままに俺は部屋のソファーに座った。

殿下が対面して座ると、先ほどフェルマンさんから聞いた話をもう少し詳しく教えてくれた。

「ということなので、ここがきちんと機能するまでにはもう少しお時間がかかりそうなの。せっかく異動してもらったので、艦長代理には、すぐにでもここにお部屋を用意しますね」

「あの、殿下、地上要員はどうなりますか」

「地上要員??

「ハイ、船の運航管理や、資材の管理などをする部門です」

「ああ、そうでしたね。今あの船の管理部門には三人の女性がおりましたね。あの方たちにも異動してもらうことになっております。こちらに事務所も用意しますので安心してください。あ、それから、あの船の母港ですが、今のファーレン宇宙港の五番スポットを引き続き使用することになります」

「殿下、先走りする前に、辞令を」

俺と殿下のやり取りを横で聞いていたフェルマンさんがそっと殿下に注意を促す。

「ああ、そうでしたね。すみません。これから辞令をお渡ししますね。コホン。ナオ・ブルース中尉。貴殿を広域刑事警察機構設立準備室付けに出向を認め、船体ナンバーKSS9999航宙駆逐艦『シュンミン』の艦長に任命します」

「え? 艦長ですか。艦長代理の間違いでは……」

「いろいろと考えましたが、ここは軍でもなければコーストガードでもありませんし、何より面倒な前例も気にする必要がありません。そして何より重要なことは、出先での扱いもありますので、艦長にしました」

「すみませんでした。謹んで拝命いたします」

「あなたにはすぐにでもクルーの配置も決めてもらわないといけませんし、何よりあの船がいつでも活動できるように、確認の済んでいない試験を続けてお願いします」

「ブルース艦長。あの船には今後殿下を御乗せして王国内を移動してもらいます。そのためには王宮を納得させる必要があり、こちらで用意した試験官を乗せての査察航海に出てもらわないといけません。申し訳ありませんが準備ができ次第、そのように」

「ハ、了解しました。して、その査察官殿は?」

「そうでしたね。すぐに紹介しましょう。マーガレット、呼んでもらえるかしら」

殿下がそういうと、お付き女官のマーガレットが一旦部屋を出て行き、すぐに人を連れてきた。

「紹介しますね。こちらから私のクルーザーの船長をしています。フォードです。そして、その横にいるのが、今後この準備室の相談役も兼ねます王室造船研究所の主任研究員のサーダーよ。この二人を乗せて、いろいろと性能試験をしてもらえるかしら。終わるころにはこちらも準備を整えますから」

「フォードだ。殿下のクルーザーを預かっている。これからは同僚として働くことになるので、よろしく」

殿下のクルーザーの船長をしていたフォードさんから握手を求められてきたので、素直に握手をしながら挨拶を返した。

「若輩の新米艦長ですがよろしくお願いします」

「サーダーだ。王室造船研究所で戦闘艦用の武装などを研究している。これからは、ここで、海賊船などについての相談役も兼ねるので、よろしく」

「こちらこそ、学校を出たばかりの新米ですので、いろいろとご指導ください」

「早速で悪いが、君の艦に案内してくれるかな。出航前にいろいろと見ておきたいのでな」

「それは良いな。なんでも君の船は国内最速を出したんだって。非常に興味があるしな。私もいいか」

「あらあら、殿方はおもちゃに夢中のようね。私からは何もないので、構いませんよ。フェルマンからは何かありますか」

「はい、出航に当たり補給についてと考えておりましたがフォード船長にお任せしてもいいですか」

「ええ、構いませんよ。あ、そうだ、殿下。私がいなければクルーザーは飛ばしませんよね。でしたら、私のところから数名同行させたいのですが、よろしいでしょうか」

「私は構いませんが、どうでしょうかブルース艦長」

「補給さえしてもらえば構いません。乗員には余裕があると言いますか、足りないと言いますか、とにかく船室には余裕がありますので、構いません。是非お誘いください」

「では、私は部下を連れて五番スポットに向かいます。船で落ち合いましょう」

「それなら、私も助手を連れて行こう。それも構いませんか艦長」

「ええ、構いません。では、主任もファーレン宇宙港の五番スポットに停めてありますので、そちらで落ち合いましょう」

「ああ、そうさせてもらうよ。それなら早速準備にかかろう。殿下、そうなりましたので、私はこれで失礼します」

紹介された人たちはそそくさと殿下の元を離れてどこかに行ってしまった。

「艦長、すみませんね。あの方たちのことよろしくお願いしますね」

「ハイ、早速艦に戻り受け入れの準備をしたいと思います」

「そうですね。あ、出航だけはちょっと待っていてくださいね。明日もう一度お船に参りますので、その時に他の皆さまに辞令を渡します。それが済みましたら、試験航海に出てもよろしくてよ。戻りましたらここに来て下さいね」

「分かりました殿下。では、早速戻ります」

殿下と別れて、俺はファーレン宇宙港の五番スポットに向かった。

スポット前にはセキュリティゲートがあり、かなり厳しく守られて、俺の艦があるのにもかかわらず、近づくだけで一苦労だ。

この労力を嫌ったのか、スポット前のロビーにあいつらがたむろしていた。

「艦長代理~~。『シュンミン』に戻れないよ~」

俺を見つけたマリアが俺に泣きついてきた。

あれ??

昨日はもっと簡単に出入りできたのに、不思議なこともあるのだな。

俺はマリアの頭をトントン叩きながら慰めてからゲート周辺を守る責任者を探した。

すると、ゲートの外から急ぎ足で近づいてくる人がいる。

どうも俺に用があるようだ。

「艦長、探しましたよ。早く船に案内してくださいな」

先ほど別れたフォード船長だ。

「あれ、船長。来るのが早くないですか?」

「ああ、私は殿下付きなので、いろいろと特権があるのです。ここまでは公用車を使わせてもらいましたから三十分も前に来ておりました。しかし、船には艦長の許可がない以上は入れませんから探していたのです」

「そうでしたか。しかしあいにくセキュリティレベルが上がったようで、私でも艦には近づけないのです」

「そんな馬鹿な。おい、そこの君。これはどういうことだ」

流石に殿下付きのクルーザー船長だ。

この辺りには顔が利くようで、すぐにゲートを守る責任者らしい人を捕まえて問いただしている。

……

話が付いたようだ。

「艦長。すみませんでした。彼らは艦長を知らなかったようでして。なんでも、あの船には乗員が誰もいないとかで王宮警備部の指示で最警戒態勢を敷いているようです」

「あ、それなら、艦の入り口を守っているシーノメ主任を呼んでください。ブルースが入り口で困っていると伝言願えれば来てくれるでしょう」

「分かりました、そのように頼んでみます」