「メーリカ少尉。できれば移籍してもらいたいのですが、なにせまだ準備室扱いなのです。絶対に必要な部署になるでしょうが、なにぶんにも貴族全体に必要性が認識されておりません。ですので、当分は出向扱いとさせていただきますが、決してあなた方には不利益の出ないように配慮します。他の方たちも同様ですからね」

「他の方たちって?」

「ああ、説明が足りていませんでしたね。先にも申しました通り、捜査及び逮捕するための組織ですので、捜査力がなければ話になりませんから、各星系から優秀な刑事の方たちにもお声を掛けております。また、王室直属の諜報機関からもエージェントを手配しておりますのよ。本当は軍や政府の諜報部辺りからも人を出してほしかったのだけれども、そちらの方はいろいろとひもが付いてきそうなので、今は遠慮してもらいました」

「で、私たちに要求される役割についてですが……」

「あなた方には海賊逮捕時の実働部隊としても期待しておりますが、主なものとしては捜査のための移動手段として活躍されるかと思います」

「移動手段?」

これは、俺の描いた人生からどんどん離れて行く予感が。

机に座っての事務職ではないだろうが、それにしてもバスの運転手か。

俺は顔には出さなかったと思うが、落ち込んでいるとフェルマンという初老の男性が補足してきた。

「当分の間、各星系に対する捜査に関して、殿下から要請する形になりますが、これは殿下ご自身が赴かないと話が進みません。親書を使う手もありますが、どうしても親書を持つ者の身分により軽く扱われます。ですので、ブルース中尉には殿下を安全にかつ素早く運んでもらう仕事をお頼みしたいのです」

「私の持つクルーザーを使っても移動はできますが、どうしても警護を頼まないといけなく、その関係上、日程の調整が発生してしまいます。海賊相手の捜査でそんな悠長なことを言っていたのでは全く成果など出せる筈もなく、どうしても単独で移動する手段がほしかったのです。私の願いを受けては下さりませんでしょうか」

「命令があれば、如何様いかようにでも。しかし、私の身分は軍からの出向扱いです。その辺りがどうなりますことやら」

「その辺りはフェルマンが如何様にでもできます。私はブルース中尉のお気持ちがお聞きしたいのです。王国の英雄に加わってもらえれば、とにかく懐疑的な貴族連中にもそれなりに説得力を持たせられます。ブルース中尉、私のお願いを聞いては下さりませんか」

流石に学校を卒業してからまだほとんど時間の経っていない俺でも分かる。孤児院出身の俺に殿下からのお願いを断れる筈がない。

そんなことは殿下ご自身も百も承知なのになぜか俺の答えを聞いてくる。

俺の答えは『イエス』一択なのだが、俺にどうしろというのだろうか。

唯一の救いは先ほどの話は、海賊逮捕の実働部隊としてもお使いくださるという。

もう、俺にはこれに賭けるしかないだろう。

そもそも、コーストガードに残っても、早々海賊とやり合える筈もない。

第三巡回戦隊なんて、仕事のほとんどが密輸船や、違法操業などの宇宙船の取り締まりだ。

前回が異常だったのだ。

本当に千載一遇のチャンスだった。

それなら、対象が完全に海賊になった組織にいた方が今後もチャンスがあるだろう。

尤も、そのチャンスは殿下を船に乗せていない時に限られるが。

そうなると先の整備の折にやたらに贅沢に内装をしてしまったことは、もしかしたらこういったことも考えにあったのかと疑いたくもなる偶然だ。

「分かりました。身分についてはお任せして、私自身は殿下のお話をお受けします。しかし、部下についてはどうなりますか」

「ですから、この船丸ごと頂きます。メーリカ少尉もそのようにお願いできますか」

「私としても艦長代理と一緒に仕事ができるのならどこでも構いません。それに何より命令があればそれに従うだけです」

「嬉しいわ、フェルマン。まだ、国民には知られてはいませんが、王国の英雄たちが加わってくださるのよ。もう、この組織の成功が約束されたものじゃないかしらね。すぐに手配して。くれぐれも、協力してくれる方たちの不利益にならないようにね。正式な組織ができるまでは皆さん出向扱いになるのだからね」

かしこまりました。直ちに手配をしてまいります」

「ありがとう、中尉。すぐに手配しますので、明日にでも私の部署に異動になると思います」

「明日ですか。えらく急な話ですね」

「普通なら難しいでしょうが、あなた方の扱いが、どうもコーストガードでもお困りのようで。ですから、あちらはすぐにでもあなた方を船ごと寄こすわよ。私としても、この船の性能が知れ渡る前に押さえておきたかったから」

「性能といっても、まだテスト中ですよ、殿下」

「でも、通常航行で王国最速を出したと聞いておりますのよ」

いったいどこから情報が洩れているのだ。

尤も秘密にはしていないことだが、それでも俺らに全く興味のないコーストガードの上層部とはえらい違いだ。

これほど評価されているのはメーリカ姉さんたちにとっても良いことだろう。

正直、俺自身でも経験のないことで、うれしくもあるがよく分からない感情だ。