あり得ない待遇

五時間後に、航宙駆逐艦『シュンミン』は予定通りに惑星ダイヤモンドの管制圏内に入った。

「艦長代理、ダイヤモンド星の管制圏に入りました」

「すぐに管制官に連絡だ」

「了解しました」

そう言うと、カオリが無線を操作して惑星ダイヤモンドにある宙域管制局に連絡を入れる。

「こちら、KSS9999航宙駆逐艦『シュンミン』、管制局、応答願います」

「こちら惑星ダイヤモンド管制局だ。あなた方『シュンミン』の件は上から聞いている。直ぐに航路を開くから、指示に従ってくれ」

「ありがとうございます」

無線の直後にデータが『シュンミン』に送られてきた。

「艦長代理、航路データが届きました。これより管制局の指示に従い、データによる自動運航に切り替えます」

王国では宇宙から惑星に入るときには、その星の管制局の指示により入港することになる。

前にドック入りした時には、航宙タグボートに乗った案内人に乗り込んでもらい、彼の指示でドックなどに入ったが、民間船などの運航では一々案内人を待ってはいない。

今のように惑星圏内管制局との通信で、自動運航用のデータを送ってもらい、宇宙船に搭載されている自動運航システムで、入港する宇宙港の管制圏内まで案内される。

そこからは、それぞれの宇宙港次第だが、ほとんどの場合、通信の指示で入港するのが普通だ。

俺らも、管制局から送られたデータを使ってファーレン宇宙港まで自動運航中だ。

まあ、それも三十分もすればファーレン宇宙港の管制圏内に入るので、そこの指示に従うだけだ。

「艦長代理、あと三分でファーレン宇宙港管制圏内です」

「了解した。最終入港処理を」

「了解しました」

「こちらファーレン宇宙港管制局だ。船名及び船体ナンバーの申告を」

俺らの正体なんか、それこそ先の自動運航で情報が勝手に送られているので知っている筈だが、ここは確認の意味もあり、無線でのやり取りがなされる。

まあ、この確認が生きる時はこの船がジャックされているような場合だけで、乗員に問題なく正常な状態ならば挨拶のようなものだ。

これも形式美として皆が受け入れている。

「こちら首都宙域警備隊所属、船体ナンバーKSS9999、航宙駆逐艦『シュンミン』です。王宮からの要請で、ファーレン宇宙港に入港を希望します」

「航宙駆逐艦『シュンミン』、あなた方の訪問は聞いております。こちらの指示に従って、ゲスト航路三番から入港願います」

「ゲスト航路三番了解しました」

ゲスト航路だと、それはおかしくないか。

ここファーレン宇宙港は軍のための専用宇宙港だ。

当然いくつかある進入ルートも軍に優先権があり、軍艦はより便利ですぐに入れるルートが設定されている。

コーストガードもここに母港を置いてはいるが、間借りといった格好なので、進入するルートも軍の邪魔にならないような遠回りをするルートが僅かに一つ与えられているだけだ。

あとは、軍属などの民間用に同様な回り道のようなルートが与えられている。

しかし、軍よりも優先権の有るルートが三つあり、これをここではゲスト航路と呼んでいる。

その専用航路は王族の使用する航宙クルーザーか、後は外国からの国賓等の来訪用に使用するためにある。

当然、入港に際して最優先で誘導されるので待たされることなく快適に入港できるルートなのだ。

『シュンミン』のクルーが先の無線でいぶかしがったのもそういった理由からだ。

ここにもコーストガードはいるんだし、その航路を使えば済むはずなのに分からないな。

「艦長代理、指示に従いゲスト航路に進みます」

すぐさまメーリカ姉さんの確認が入った。

「ニーナ、聞いた通りだ。指示通りに進んでくれ」

「艦長代理、ちょっとおかしなことになっていますね」

「メーリカ姉さんもそう思うか。まあ当たり前だよな。ゲスト航路なんか、まず軍の連中でも使わないだろうに。精々王宮の関係者くらいしか使わないと聞いたぞ。それ以外では他の国からの外交関係者かな」

「確かに今回は王宮からの指示が出ていますが、それにしても……」

「いくら王宮からの依頼だとしても、王室と同じ航路を使わせるなんてね、まさか駐機スペースも王室用なんか使わせないよ」

「それこそまさかだよ。どこか空きスペースに停めさせられるよ。そろそろ駐機スペースの指示がある筈だよな」

「ハイ、今通信が入ります」

「こちら王室管理局だ。宇宙港職員に代わり無線をしている。殿下の指示により、王室専用スペースの五番スポットに停めてください。着陸後にこちらから訪問しますので、すみませんがその場で待機を願います」

「了解しました。ご指示に従います」

無線機の前にいるカオリがすかさず返答をしているが、いよいよおかしくなってきた。

「艦長代理??

「ニーナ、聞いた通りだ。指示に従って五番スポットに着陸だ」

「え、この指示通り進みますと軍の旗艦が止めてある駐機スポットのすぐ横を通りますが、大丈夫ですよね」

「大丈夫だろう。そのような指示なのだからな」

「もうすぐ、宇宙軍第一艦隊の旗艦『ホウオウ』の横を通ります」

「艦長代理! 見て、見てくださいよ! あれ、『ホウオウ』ですよ。王国が誇る宇宙軍一番の船ですよ。こんな傍で見たのは初めてです。カッコ良いな」

戦艦フェチのカスミのテンションはまさにマックスだ。

俺もあの士官養成校に入ってから一度しか見ていない。

尤もその時に中を見学させてもらってはいるから、カスミが聞いたらさぞうらやましがるだろうな。

あの時には只々大きな船くらいにしか感じなったのだが、まあ一般人から見たらすごい事なのだろう。

他の学校の士官候補生でもそのようなことはされないとも聞いているし、そういう意味ではあの学校の生徒は恵まれていたのかな。

「まもなく着陸します」

「おい、ニーナ。よそ見していてもいいが、あの船にはぶつけるなよ」

「メーリカ姉さん。私はそんなドジはしません。それにここではほとんど自動操船中ですので、ぶつけようもありませんよ」

艦は無事に指定された王室専用の五番スポットに着いた。

しかし、こんなところまで来たことはないので、この後どうすればいいのか皆目見当がつかない。

そんな俺に、無線が入る。

「艦長代理。外にいる王宮職員から無線です」

「すぐにつないでくれ」

「我らは王宮警備部第五課のシーノメです。船長と話がしたい」

「シーノメ殿。あいにくこの艦には艦長はおりません。現在私が艦長代理として最高指揮権を頂いておりますから、お話を伺います」

「そうか、失礼した。この後、第三王女殿下がこの船を視察なされるので、その前に殿下の安全を確保したい」

「我らはどうすればよろしいでしょうか」

「悪いが私が連れている警備部員で、船内を点検させたい。許可願えるか」

きた~~~。

恐れていたことがこんなに早くやってきてしまった。

このやたらに場違いなほど贅沢な内装が見られてしまう。

どんな反応をされるか正直不安だ。

まあ、唯一の救いはコーストガードの連中でなく王宮の人たちだということだし、呆れることはあれ、いきなり怒られることはないだろう。

「分かりました、これからメインゲートを開けますので、そちらにどうぞ。ゲート前に出迎えを出しておきます」

「協力感謝する」

「聞いての通りだ、メーリカ姉さん。悪いが、下に行って彼らを出迎えてくれ」

「分かりましたが、私は何を」

「彼らのしたいように自由にさせてくれ。常にどんな場所でも案内ができるように彼らには人を付けてくれ」

「分かりました」

俺の無線の後に艦内にわずかだが衝撃が走る。

艦橋真下に有るメインゲートとなるエアロックエリアの外に搭乗用のチューブが接続された。

これがもう少し大きな船ならほとんど衝撃を感じることはないだろうが、まあこの艦は宇宙クルーザーよりやや大きめなくらいなので、衝撃を感じるのも当たり前だ。

前にマークに聞いたことがあるが、クルーザーを持っている金持ちにはこの衝撃を感じて初めて惑星についた実感が湧くというそうだ。

大型の船では感じられないのがちょっと物足りないと、学生時代に訓練航海から帰った時に言われたのを今思い出した。

そもそも、搭乗用にチューブなんか使うのはここくらいで、他の星では、少なくとも第三巡回戦隊では母港でも後部ハッチからの出入りであるので、チューブには縁のない話だ。