電子限定 特典SS 魔王と勇者の戦闘の経緯



Side:デリーユ

「絶対、許さない!」

「その通りです! 旦那様や奥様、それに娘たちまでさらっておいて、こちらが譲歩することなどあり得ません!」

 旅館に戻ってみれば、玄関で叫んでいるのは、勇者リーアとメイドのキルエ。

 ユキを筆頭に妊娠メンバー、そして子供たちが別の大陸に召喚誘拐され、ウィードに残っているメンバーは大混乱に陥った。

 まあ、割とすぐにユキたちとは連絡がついて、戻る手段もすぐに確立できたのはぎようこうだった。

 そうでもなければ、もっとウィードは荒れていたと思うからじゃ。

 何せ、今から会いに行こうというリーアとキルエがこのざまじゃから、と言えば分かりやすいか。

 いや、会えるからこそ暴走しているのか……。

「じゃから、落ち着け。向こうにも事情があり、止むを得なかったと言っておるじゃろう」

「だからって誘拐していいわけじゃないよね!」

「その通りです。旦那様やシェーラ様、子供たちをさらっていい理由にはなりません! 何が協力ですか!」

 妾の説得は右に左というか、わりかし正論で反撃される。

 国の重鎮を攫われて、戦争利用したとか、普通はこうなっても仕方がない、仕方がないのじゃが……。

「それで、無意味に戦争をして関係のない人を巻き込んでも良いのかと言っておる」

「む、むぅ」

「リーア様、大丈夫です。責任者だけの首を取ればよいのですから。邪魔する者は関係者なので首を取る。魔王を倒すようなものです」

「そ、そうだよね!」

 まったく、リーアだけならともかく、キルエは的確に反撃してくるのう。

「おバカ。キルエ、それで殺された家族親戚が納得するか」

「納得も何も、元から私たちの愛すべき旦那様、奥様、子供を攫ったからいけないのです。その分の代償は必要です」

「そーだ! 私は許さないよ!」

「えーい! 妾より魔王思考になるでないわ! もちろん、妾もこの企てに絡んだ大馬鹿者たちの首を取ってやりたいとは思う!」

「でしょ!」

「当たり前です」

 妾の言葉にうんうんと頷く2人。

 それができれば、いやそれで済めばどれだけ楽か。

「じゃがな、そんなことをかつにやってしまえば、どうしても民衆への被害が出るのは当然じゃ。それをユキが望んでいるわけないじゃろう。というか、言われておるじゃろうが」

「むぐぅ」

「……旦那様が望まれているのは知っていますが、それではウィードが軽んじられます。王配を攫って言葉だけの謝罪などと、国民は攫っても問題ないと」

 キルエは本当に正論をもって返してくるのう。

 そうなんじゃよな。

 しでかしたことに対して、適当な罰、つまり今回に限っては代償を払ってもらわなければウィードの格が疑われる。

 舐めてよいのだと。

 とはいえ……。

「はぁ、そのぐらいユキが考えておらぬわけないじゃろうが。下手に剣をもって罰するよりも、よほどいやらしい罰を与えるじゃろう」

「そうですよ~。あの旦那様なら確実にそうしますって~」

 いきなり現れたサーサリに3人ともびっくりして視線を向ける。

「さて~、私もお嬢様を攫われてぴきぴきしているのですが、旦那様のご命令で耐えているのですよ~。奥様であるお二人の気持ちも分かりますが~、旦那様を立てるべきでしょう~」

 サーサリは笑顔でそう言いつつも、絶対怒っているって感じじゃな。

 二人のありように、メイドとして騎士として腹立たしいものがあるのじゃろう。

「サーサリからそう言われるとは思いませんでした」

「おや~、キルエ先輩。私はこれでも忠実なメイドなんですよ~。それが分かっていないキルエ先輩はメイド失格ですね~。ああ、もちろんリーア様も勇者失格ですよ~? 虐殺肯定なんてドン引きですから~」

「「……」」

 思ったより、サーサリは煽りよるな。

 ……ふむ、これは一回発散させた方が良いか。

「サーサリの意図は分かった。ならここは一度げんこつじゃな。リーアはジェシカの時もあったから二度目か」

「こっちはいつでもいいですよ~。デリーユ様とコンビを組むなんて光栄ですし~。それで、先輩はどうします~? 大人しくげんこつされますか~?」

 リーアはげんこつと言われて頭を押さえて少しひるんでおるな。

 まったく、この程度でおびえるぐらいならと思うが、それだけユキのことは腹を立てているということじゃろう。

 そして、キルエじゃが、こちらの意図が分からぬほど阿呆でもない。

 此方こちらに視線を向けたあと、軽く頷き……。

「そうですね。ここは一度拳を交えますか」

「え!? キルエ!?

「理屈は分かりますが、それでも収まらぬものがあるのです。一度発散させた方が良いでしょう」

「……分かった。デリーユ、それなりに本気で行くよ?」

 キルエの答えを聞いたリーアは覚悟を決めたようにこちらにそう言ってくる。

「うむ。中途半端は良くないじゃろ。それに、今までリーアに後れをとったことはないからのう。また来ると良い」

 リーアとは妹みたいな存在じゃしな。

 この手の訓練は妾とリーアのステータスの職業の関係上良くやるし、今までの延長じゃ。

 勇者と魔王はこうして仲良くも、戦うことはよくあるわけじゃな。

 まあ、こっちはいいとして……。

「さぁて、メイドでは一歩譲っていますが、戦闘で後れをとりませんよ~?」

「そうでしたね。サーサリは騎士からメイドになったのでした。では、こちらは胸を借りるつもりでがっつりやらせてもらいましょう」

「……あれ? 先輩なんかやる気になっていません?」

「もちろん、ヤル気です。普段、微妙に手抜きをすることがあるので、どうしたものかと思っていましたので、ちょうどよい機会と思っています」

 うむ。

 キルエの方は、サーサリへのお仕置きも含めておるようじゃな。

 あっちには手出し無用が良いじゃろう。

「えーと、デリーユ。キルエとサーサリは介入はなしにしよう?」

「まあ、助けを求められなければそうするかのう」

 藪をつついて蛇が出てきてはたまらんからのう。

 ということで、場所を変えて全力でやれるようにする。

 今回は地形を利用するとか、ユキのようなからめ手ではないので、普通にだだっ広い地面があるだけの場所じゃ。

 純粋に戦闘能力が生かせるじゃろう。

「さて、改めて聞くが、妾とサーサリ。そしてリーアとキルエの勝負でいいのかのう?」

「構いませんよ~。キルエ先輩は固すぎるんです。もうちょっと余裕がある方がいいんです」

 さっきは少し怯んでおったが、この移動の間で心が決まったか。

 やるからには勝つと。

「デリーユ、一応私も聞いておくよ。スキル的には勇者の方が有利なんだけど、本当にやるの?」

「サーサリ、今ならばまだやめられますよ」

 うむ、リーアもキルエも先ほどの怒り心頭の時よりは、少しは冷静になってはおる。

 じゃが、ここで引くぐらいなら……。

「ふん。出来の悪い妹には十分なハンデじゃろう」

「先輩だからって強いわけじゃないですからね。さあ、やりましょうか」

 最初からケンカなぞ売っておらんし、息抜きにならん。

 ということで、その言葉を交わしたあとはお互い自然と構えて……。

 ドンッ!

 リーアのガンブレードが火を噴き、戦闘開始の合図になった。

「ちぇ、やっぱり当たらないか」

「初見ならばともかく、ガンブレードは撃つときには銃のように構える必要があるからのう。持ち方で丸わかりじゃ」

 そんなことを言いつつ、妾はリーアに肉薄して、拳を振るうことなく、剣を振るう。

 リーアのガンブレードみたいに肉厚ではなく、普通のショートソードじゃが。

「ふぇ!?

 驚きつつも、リーアは何とか妾の剣戟を受けてかわす。

 じゃが、それだけでは終わらない。

 ガンブレードの内側に入り込んだからには、ショートソードだけでなく……。

 ドスッ!

「ぐっ」

 リーアのくぐもった声が聞こえてくる。

 剣戟に気を取られた好きに拳をレバーに叩き込んだのじゃ。

 そして追加で蹴って、リーアとわざと距離を取る。

「いったー!? デリーユ割とマジで殴ったよね、蹴ったよね!」

「当然じゃ。お仕置きもかねておるからな」

「それにショートソードって……」

「使えぬとは言っておらぬわ。むしろ拳よりは教えられてきたのう。リーアよりは期間は長い」

 そう返事をしてまた肉薄しようとするが、すぐにリーアは此方と距離をとろうと移動を開始する。

 何せ小回りが利く妾の剣と拳では、大剣に近いガンブレードは同じ間合いの打ち合いは不利じゃからな。

 同じ速度帯での相手はそうそうないからリーアはやりづらいじゃろう。

 そうなると……。

「まったくユキさんみたいなことを!」

「それをリーアもじゃな」

「あったり前だよ!」

 そう言って、リーアは魔術を展開して発射してくる。

 近接が不利ならばやるのは遠距離戦。

 正しい、正しいが……。

「よっ」

 この程度の速度では妾は早々直撃を貰わんし、何より。

「なっ!?

「ナイスデリーユ様! 油断しましたね。ナイフと拳とか、メイドって怖いですよ先輩!」

「あっ」

 これはチーム戦。

 手は出してはダメなような雰囲気はあったが、この手の戦いは相手のペースをどれだけ乱すかが大事じゃ。

 ユキならこういう手を使うじゃろう。

「仲間も気にして攻撃せんとな」

「ぬぐぐっ、ならっ」

 リーアは何かを思いついたようで、こちらに突っ込んでくる。

 うん? そのままでは大剣の速度で不利になるはずじゃが……。

「はっ」

「おっ」

 ガンブレードを捨てて、拳を繰り出してきた。

 ショートソードは片手で止められている。

 先ほどの逆じゃな。

 拳の方が速いので、間合いの内側に入り込まれれば剣は負ける。

 まあ、内に入り込まれないようにするべきであり、妾もそのセオリーにならうべきじゃろうが。

 即座にショートソードを手放し、そのまま殴る。

「妾相手に拳でくるなら、同じ条件で相手をしてやるわ!」

「こっちだって負けないよ!」

 とまあ、こんな感じで殴り合いになったわけじゃ。

 キルエとサーサリの方も、当初のリーアの誤射というか、妾の誘導から気が散っておったのか、それともわざとなのか、そのまま引きずり決着となったわけじゃ。

「なんか、最後少年漫画みたいになってないか?」

「まあ、剣で切り合うよりはマシじゃろう。というかそこに気が付いてリーアも冷静になれたんじゃろうて、のう?」

「あははは」

 とまあ、妾とリーアが戦った経緯をユキに話しておるわけじゃ。

 はぁ、無事に戻ってこれて本当になによりじゃな。