Side:トーリ

 カチコチ……。

 そんなふうに時計の針が進んでいくのを眺めている。

 時刻はいまだに10時半。

 普通なら、仕事の書類を処理しているんだけど……今は状況が違って。

「みんな大丈夫かしら?」

「大丈夫だって。それよりも、のんびりしてないと。逆に心配されるよ~」

「……リエルの言う通り。ミリーはもっとゆっくりするべき。お腹の子にもそういう緊張は伝わるっていう」

 そう、私たちは今ユキさんの赤ちゃんがお腹にいる状態で、留守番を言いつけられている。

 いや、留守番というか、安静にしてくださいってことかな。

 ここがウィードなら外へ出歩いたりもできたんだけど……。

「しっかし、別の大陸に来ているんだけど、実感が湧かないよね~」

「一応、映像とかは見せてもらっているけど、危険なのよね……。だから心配なんだけど」

 リエルの言う通り、私たちはカグラとキャリーって子が召喚を使ったせいで、別の大陸に呼び出されてしまった。

 厳密にはユキさんとその仲間たちだったみたいだけど。

 私たちもその中に含まれていて、呼び出されたわけ。

 でも、さすがに身重の私たちを戦場に立たせるわけもなく、即座にダンジョンを作って大事に大事に奥にかくまわれているってところ。

 まあ、戦争だし、ユキさんたちを使いたい側としては人質にでも取りかねないっていうのは分かったからね。

「お母さまたち大丈夫ですか?」

「だいじょうぶ?」

「とと様たちに連絡する?」

 そして、一番の問題は身重の私よりも、この子たち、サクラ、シャンス、そして秋天。

 私たちの子供たちまでもが巻き込まれた。

 この子たちは絶対に外に出してはいけない。

 それだけはユキさんに言われるまでもなく分かる。

「大丈夫。ただ退屈していただけだから。サクラたちは何をしていたのかな?」

 私たちの不安を読み取ってサクラたちがこちらに声をかけてきたのだ。

 私たちがしっかりしなければ。

 そう思い直しつつ、サクラたちもこの窮屈な状況で何をしているのかと思って聞いてみると。

「しゅてんお姉さまに本を読んでもらっていました」

「うん。ご本」

「これ」

 秋天がそう言って、本を渡してくる。

 受け取って、皆でどんな本かと顔をのぞかせるのでテーブルの上に置いたその本のタイトルは……。

『機動戦士ガン○ム ホワイトベー○一年戦争史』

「「「何、読ませているのよ!?」」」

 4人とも同時に叫んでしまった。

 さすがに子供たちに戦争ものとか……。

「ガンダ○ってすごいのですね。ああいうロボットに乗ってみたいです」

「人がたくさん死んじゃうのは悲しい」

「人の世はどこの時代でもあまり変わらない?」

 なんか、子供たちは達観している気がする。

 いや、そうじゃない。

「も、もっと楽しい本を読もうね」

「誰からこの本をもらったのかな~?」

 そっとテーブルにあったガンダ○の本というか、歴史書みたいなのをどけて、誰がこんなのをと思いリエルが問いただすと……。

「それは、ナールジアさんが持ってきてくれっていってました」

「パパが読んでいたけど、見せてくれなかったって」

「だから、フィーリアかか様が場所を把握して、協力して持ってきた」

「「「あ~」」」

 ユキさんが悪いかと思いきや、元凶はナールジアさんか。

 ロボット系の情報は本当に欲しがっているもんね。

 ユキさんとしては、ロボットにはあこがれているけど、費用対効果とか色々問題があって見送っているんだよね。

 それに……。

「……ユキは子供たちを溺愛している。この手の本を読ませるわけがない」

「そうね。ユキさんは子供たちにバイオレンスなことはして欲しくないって言っているし」

 うん、カヤとミリーの言う通り、ユキさんは子供たちを大事にしていて、こういう人が死ぬようなものは読ませたがるタイプではない。

「あ~、僕も見たことがある。サクラが前に読みたいっていったけど、駄目って言われてたよね」

「そうなのリエルお母さま。お父さまったらロボットが好きっていう割には見せてくれないんだもの」

「……でも、サクラお姉ちゃん、見せたくない理由は……わかるよ?」

「うん。とと様はこういう命が簡単に消えていくことは良しとしていない」

 うーん、なんというか秋天はともかくラッツの娘であるシャンスは聡明すぎる気がする。

 まあ、なんか大人しい子でエリスの娘であるエリアと一緒に本を読んでいることが多いから、頭がいいのかなとは思っていたけど。

 そう思っていると、注意というか、ユキさんの気持ちを指摘されたサクラはというと……。

「そんなのわかっているわ。お父さまは誰よりも優しいもの。でも、ロボットがかっこいいっていうのもわかるの。あれは武器の延長、つまり相棒なの! 欲しいわ! あこがれるわ!」

「……ナールジアさんやフィーリアお母さんと同じこと言っている」

「式神の機械版みたいなものだから、あると便利なのはわかる」

 サクラもユキさんの気持ちは分かりつつも、ロボットというものの魅力に取りつかれているみたい。

 なるほど、確かにユキさんの血も流れているね。

 そんな感じで納得していると……。

「ねぇ、その話を聞くと、ユキさんはサクラたちはもちろん、ナールジアさんとフィーリアにも見せちゃだめって言ってたんだよね?」

「そうよ。リエルお母さま」

「うん。そういってた」

「なんで駄目なんだろうとは思った」

「「「うわ」」」

 その返答でユキさんが一番見せたくない相手がわかった。

 まあ、あの2人がロボット系の本を読めば暴走するってわかっているからね。

「えーと、この本を読んだ2人は何を言っていたかしら?」

「え? もちろん、ロボットを作るっていっていたわ」

「わたしたちものせてくれるって」

「うん、言っていた。きっと、とと様も喜んでくれるって」

 ミリーの質問にもしっかり答えてくれる3人。

 つまり、ナールジアさんとフィーリアはロボット開発を企んでいるということになる。

 とりあえず、子供たちの前でこれ以上問い詰める理由もないので、いったん話を終え、本を読んだりして時間を潰して、子供たちを寝かしつけたあと、ユキさんたちが戻ってきたのを確認してから話すことになった。

「……ということで、子供たちがこれを持っていたんです」

 妊婦を代表して、私がユキさんにサクラたちから預かった本を見せる。

「あ、これ、サクラたちからは遠ざけていたんだけど。部屋から持ってきたのかな? 別に隠しているわけじゃないし、本を読むなとも言ってないからな」

 どうやらユキさんは別にそこまで厳しく本を規制しているわけではないようです。

 まあ、内容はハードだとはいえ、子供が見ないわけでもないとは言っていたし。

 ユキさんも子供の頃にロボットものはよく見ていたって言っていました。

 と、問題はそこではなくて……。

「どうやら、この本を持ち出した理由は、ナールジアさんとフィーリアのお願いがあったからだそうです」

「はぁ? これガンダ○の設定集で、別にモビル○ーツの開発集じゃないぞ?」

「えーと、それは僕たちに言われても」

「それもそうか。まあ、あの二人が筋金入りのロボット好きだから資料があればあるほどいいんだろうな」

 そんなことを言ってユキさんは特に怒ることもない。

「それに、開発集も見たからって作れるわけじゃないんだけどな」

「……それならユキはなんで見せないと言ったの?」

「それは、2人は、いやコメットも含めて仕事そっちのけでロボット開発するだろうな~ってな」

「「「ああ」」」

 凄く納得した。

 技術大好きなあのメンバーなら仕事は最低限で開発を優先しそう。

 なにせ、物資はダンジョンコアからほぼ取り寄せ放題だし。

「まあ、開発できたならそれはそれで便利そうだが、今は勘弁して欲しいな。と、それより、体調はどうだ? 子供たちは今のところ大人しく家とダンジョンの中の遊び場で納得しているが、トーリたちはそうもいかないだろう?」

 ユキさんは本が取られていたことよりも、やっぱりいつものように私たちをいたわってくれます。

 まあ、想定外の召喚による誘拐で子供たちはもちろん、私たちやお腹の中の赤ちゃんに影響がないか心配なんでしょう。

「私は大丈夫です。ルルアも朝きて健診してくれましたし」

「うん。僕も同じく。まあ、でも元からもっと体は動かしたいとは思っているけど」

「ダメだってリエル。もうちょっと大人しくよう」

 リエルは相変わらずというか、こういう状況でも楽しんでいる感じで。

「……赤ちゃんのため。そして今の環境には問題はない。見慣れていない場所に来ているだけ。まあ、気分次第で内装や外も変えているから飽きない」

 カヤの言う通り、ダンジョンの機能で内装とか、お庭とかを変えられるから、そういうことで閉塞感とかを感じることはないかな。

 まあ、そこまでころころ変えたりはしないけど、外の遊具ぐらいはサクラたちの意見で変えることはある。

「それに、ルルアもそうですけど、他のみんなも毎日顔を出してくれますから」

「うんうん。皆きてくれるよ」

「そりゃ、皆心配してたからな。リーアとか飛びついてきただろう」

「あはは、リーアは泣いてました」

「……それだけ私たちが心配だったってこと」

 ミリーの言う通り、他のみんなも忙しいのにもかかわらず顔を出してくれる。

 ラッツなんかはシャンスがこっちにいるから、数時間おきに顔を出してくる。

 もちろん、サクラや秋天も様子を見てはおもちゃを渡したり、他の子供たちの引率もしたりする。

「子供たちだけでもウィードに戻してもいいんだけどな」

「それはあの子たちが拒否していますから」

 優しいサクラたちは自分たちだけが戻るのを拒否している。

 私たち妊婦に迷惑をかけないように、お手伝いも率先してやってくれるとてもいい子たち。

 他の子たちも来たがっているけど、みんなの引率でついてくる以外はウィードに戻っている。

 何せ、子供だからね。

 どうしても私たち大人のお世話が必要だから、旅館の方がいいんだよね。

 キルエとサーサリは旅館の維持もあるから、本当にそれがいい。

 まあ、そこは良い子だからちゃんと言うことを聞いてくれるけど。

「そうなんだよな~。ミリーたちには悪いが、子供たちのことをよろしく頼む。俺も毎日会うようにはしているが、どうしても目が届かないからな。わがまま言うなら、無理に戻すこともできる」

「あはは。ユキさん、毎日言っているじゃないですか。あの子たちは大丈夫だって」

「……あの子たちは出来た子。私たちも負担になっていない。だからユキは安心して仕事頑張って」

 そんな感じで、別大陸とは思えない環境でのんびりと日々を過ごすのでした。