Side:ザーギス ウィード所属 魔力枯渇現象研究所所長 元魔王配下四天王

 御大層な身分があろうが、所詮私も雇われている身。

 いえ、国王であろうが、世界のトップであろうが、限りある人材や物資を上手く使って回していくしかないのだ。

 破綻すれば、周りから不満が溜まって場所を追われる。

 ただそれだけの事実。

 前の主であり魔王陛下であるリリアーナ様も正直懐疑的であった。

 技術的な力ではなく、私の魔術を評価しての四天王でしたからね。

 まあ、それも私が周りへの配慮や理解がなかったからと言えるでしょう。

 決してリリアーナ陛下のスタイルがいいのを眺めていてクビになったわけではありません。

 そんな四天王をちょっとしたトラブルで退職して、ユキと知り合い、今の立場を得たわけなのですが……。

 これがびっくり。

 魔族にとっては天敵と言っていい勇者を呼び出す人々の理由が、ユキやタイキ、そしてタイゾウさんを見てよく分かりましたよ。

 ここまで技術に差があるとは。

 召喚される方にとってはいい迷惑ですが、未知を探求し解明する研究者のはしくれとしては、地球の膨大な知識を抱える彼らの来訪は驚嘆であり、頭を下げ、教えを乞うになんら疑問のないものでした。

 で、そんな感じで私自身は、召喚自体は悪いことでも、世界を推し進めるためには必要ではないか? という理論の持ち主でした。

 誘拐などと言われて、戦争になる可能性があるというのも分かりますが、まあそこは未知なるものへの探究心だったからと言っておきましょう。

 今ではそんなことはみじんも思いませんが。

「ま、ここまで段階踏めば大丈夫でしょう。いまさらあれに割って入るとか、自殺行為でしかない」

 私はゲートに猛然と走る、ユキの奥さんたちを見て言う。

「そうっすよねー。選抜隊、姐さんたちがそっちに行ったから、戻ってこい。すぐに両方向の通過を確認するっす。やばそうなら、すぐに撤退命令を出すっすよ」

『了解!! 来ました!! 選抜隊は戻ります!!

 スティーブもなかなか苦労しますね。

 現在、ウィードは一種の難局を越えたと言っていいでしょう。

 裏のトップであるユキが召喚により誘拐され、ようやく再会できたのですから。

 それまでのウィードトップたちの空気は最悪。

 研究所メンバーも対策のために呼び集められて、全研究をストップして、転移魔術妨害のための開発へとシフトしました。

 無論、ユキたちを助け出すための方法を考えるというのもあったのですが、すぐにユキから連絡が来てそれはなしとなりました。

 というわけで、私のよき理解者であるユキを失うと、このようにこき使われるので、今の幸せな生活を維持するために、彼を守るという意見はユキの奥さんたちと同じですね。

 召喚は悪。

 私の研究がストップするから。

 そんなことを考えているうちに、選抜隊が戻ってきます。

「よし、第二、第三、第四ゲートの展開を急げ!! 場所が登録されて、こちらからゲートが展開できる。DPの消費量の確認も怠るなっすよ!! 第一ゲートからは物資運搬を開始するっす!!

「「「了解!!」」」

 スティーブは選抜隊が戻ってきたのをみて、すぐに次の作戦に移ります。

 さて、私も仕事をしますかね。

「選抜隊の3名。お疲れさまでした。今からメディカルチェックを行いますので、あちらの医療車両へ」

 私は選抜隊をすぐに検査するために移動をしながら、話を聞きます。

「で、向こうはどうでしたか? 戻ってきて違和感は?」

「いえ、自分はなんともありません」

「私もです」

「緊急用のステルスやボンベは使うことはありませんでした」

「……そうですか。今はまだ大丈夫なだけかもしれません。具合が悪くなったらすぐにコメットに言うように」

「はい? ザーギスさんが検査をするのでは?」

「残念ながら、私はウィード側でゲートの状態を確認しなくてはいけません。計測など色々ですね。正直、医療は専門ではありませんので、私よりコメットということになりました」

 彼女自身は私より魔法生命体に近いアンデッドですからね。

 リスクの低い私がゲート近くの作業ということになりました。

 正直、一番安全なのはタイゾウさんなのですが、あちらはヒフィー神聖国の宰相ですからねー。

 そう長時間こちらで働いてもらうわけにはいかないんです。

「……ルルアさんは」

「彼女は見ての通り、ユキや妊娠した奥さんの検診ですからねー。気持ちは分かりますが、頑張ってください」

 私から見てもコメットに検査されるのは勘弁願いたい。

 初めて会ったときなんか……。

『魔力が上がりすぎて魔族に!? 何それ!! 調べさせろ!! 脱げや!! あと切っていい!? 斬っていい!? 斬らせろやー!!

 と、マッドでしたから。

 いえ、私も魔物改造してんじゃんとかユキに言われましたが、あれはあくまでも薬物投与とかの穏便なモノであって、コメットみたいに、生物をばらしてくっつけてという奴ではないのですよ。

 と言ったのですが、五十歩百歩、どっちも変わらんと言われましたが。

 まあ、そういう発作はあるものの研究者としては優秀です。

 私は魔力そのものを、コメットは魔力を使った道具の開発、ナールジアさんは武器への転用と結構分野が分かれています。

 タイゾウさんは魔力を科学からの見地で解き明かしている感じですね。

「ううっ。おいらたちこれで最後かもしれない」

「いやいや、君たちは私を何だと思っているんだい?」

「「「ひっ、出た!?」」」

「……これはリクエストに答えるべきかな?」

「やめてください。彼らをバラしたりしたら仕事が増えますから。ヒフィー殿に言いつけますよ?」

「はいはい。冗談だって。ほら君たち、解体したりしないから、メディカルチェックをさっさと受けてくれ。私も他に色々やることがあるんだから。そもそも、こんな美人が相手なんだから喜ぶべきところだと思うんだけどねー」

「そんなのがいたらただの自殺志願者か、初めて会ったかわいそうな人ですね」

「「「うんうん」」」

「……どいつもこいつもヒフィーと同じようなことばかり言うなー。死体利用はヒフィーがやったんだけどなー。ま、いいか。とりあえず、さっさと済ませてくれ。マジで仕事が溜まってるから」

「「「了解」」」

「じゃ、ザーギス、そっちは任せたよ。しっかり調べてね。私が近づいた途端パタリは嫌だからね」

「自分も可能性がありますからね。最善を尽くしますよ」

 コメットの方もメディカルチェックが終われば、転移阻害の実験が待っている。

 ある種の道具なのでコメットの分野でありナールジアさんの武具の分野でもあるから、2人で色々やる予定らしい。

 余計な機能がついてないといいですがね。

 そんなことを祈りながら、ゲート前へと戻ってくると、すでにゲートが4つになってフル稼働している。

「スティーブ、各ゲートの状態は?」

「今のところ特に不具合はなしっす」

「そうですか。とりあえず今は物資を完全に移動するまで待機ですね」

「そうっすね。いらんことしてゲートが封鎖したらそれこそ問題っすから、まずは必要物資を運び込んでから残りの検証っすね」

 そんな話をしながら、設置している計器に目を通すが特に問題はなし。

 ウィードで使っている他のゲートと同じような状態だ。

 まさか、魔石に集まる魔力量を使って魔力の流れを数値化しようとはね。

 タイゾウさんの案に脱帽ですよ。

 これで、異常な魔力の流れがあれば即時退避ができますからね。

「で、ユキたちの体調はどうなんですか?」

「そっちも問題なしっす。緊急で、ウィードに戻る必要もなさそうだから、DPはかかるけど、病院とか必要な施設は作っているみたいっす」

「まあ、それがいいでしょう。妊婦にゲートがどう影響するか分かりませんからね」

「でも、各国からの観光客や移民に妊婦はいるっすよね? そっちはどうなんすか?」

「そっちの方は問題ないという報告は来ています。しかし、今回は距離がとんでもなく離れていますからね。同じだと考えるのは危険でしょう。観光客とかが自己責任でやってくれるならともかく、ユキが自分の奥さん自らで試せというわけがありませんし」

「そりゃそうっすね」

「で、病院設置の件ですが、DPの消費量は?」

「報告通り5000倍持っていかれてるみたいっすよ。でも、魔術とかは普通の倍率っすね。部下が試しているっす」

 そう言ってスティーブが検証結果を渡してくれる。

 まだ、確実な数字とは言いがたいですが、100回近くの検証結果ではおおむねウィードで魔術を使用した時とだいたい同じ消費量ですね。

「二重での物資運搬はどうですか?」

「アイテムボックス、車両運搬ともに順調っすね。問題はなしっす」

「ふむ。今のところは予定通りということですか」

 もともと、アイテムボックスの使用はできたとユキから報告がありましたし、ゲートが通れたのなら普通に使えて当然ですね。

 そして、大重量の運搬も問題ないと。

「ユキたちの拠点はまだしばらくはバイデですかね」

「そうっすね。出産が終わらないと、移動なんてしないっすからね」

「その間に、検証を済ませて安全が確保できればいいんですが……」

「だといいっすね」

「あと主な実験は魔法生物の移動と、ドッペル操作ですね」

「どっちも嫌っすねー。魔法生物は即死の可能性があって、ドッペルは下手すると、操作者の意識が行方不明になる可能性があると……」

「魔法生物の件は魔力遮断ステルスと酸素ボンベで緊急回避できますが、ドッペルの意識写しはほんとに命がけになりそうですね」

「魔法生物はスラきちさんたちの部隊だろうっすけど、ドッペルはどうするつもりっすかね?」

「……いなくなっても問題ない連中で試すしかないでしょうね」

「……その選出をどうするっすか」

「そこはユキと相談ですね。ユキたちがドッペルを使えないとなると、あっちの大陸では動きがかなり制限されますから、そのためにも実験をやらないわけにはいかないでしょう」

「まあ、わざわざ本人がバイデのある大陸からウィードにゲートで移動してから、ドッペルにってのは手間っすからねー」

「……まだまだ始まったばかりということですね。一つ一つやっていくしかないでしょう。で、ユキは?」

「まだまだ、姐さんたちにもみくちゃにされてるっすよ」

 そういって、スティーブが使っているコールの音量を上げると……。

『さーて、ルルアの検査も終わったし、もう一仕事……』

『ユキさん、何言ってるんですか!! 今日はもうお休みですよ!!

『そうです。ユキはもう5日も働き詰めです。すぐに休むべきです。護衛はもちろん私とリーアが付きますから安心してください』

『そうね。リーアやジェシカの言う通りね。もう今日は皆で休みましょう』

『うむ。そうじゃな。子供たちも待っておるし、サーサリも連れてこなければいかんからのう』

『そうですよ。子供たちもお兄さんたちと会えなくて寂しがっているんですから、今日明日ぐらい休んでも罰はあたりませんよ。ねえ、エリス』

『ええ。ラッツの言う通り、今必要なのは家族団らんです。5日もふれあいがない家族とかあり得ません。今すぐユキさんはベッドに入って私たち全員といちゃつくべきです』

 ……なんて話が聞こえてくる。

「……私たちも明日は休めそうですかね?」

「残念ながら、おいらたちは明日も勤務っす。まあ、おいらはジョンと入れ替わりで休みっすけど。ザーギスは頑張るっすよ」

「……はぁ。私たち研究メンバーも働き詰めなんですがね。まあ、いつものことですか」

 研究者は休みとかあってないようなものだし、思いついたら即行動という感じで。

「どのみち、裏方は頑張れってことっすよ」

「そうですね」

 後ろの支えあってこそという奴でしょう。

 さあ、頑張りますか。