Side:ユキ

「情報と言っても、どれも噂程度だぞ? そこまで危ない橋を渡ってはいない」

「今回の帝国のバイデ襲撃は掴んでたか?」

「ああ、掴んでいたが、直前じゃ、どうすることもできん。キャサリン嬢ちゃんに逃げろと言っても無理な話だしな。姫さんや学生の演習場所を変えるような力もない。そんな力があれば一旗揚げている」

「そりゃそうだ。まあ、俺が欲しいのは、ビッグたちから見て感じた情報なんだよ。こっちは呼ばれたてで、どの話が真実なのか分からん。だから……」

「俺たちが集めて知っている情報から判断したいってことか」

「そういうこと。バイデ、ハイデン、フィンダール帝国の主観抜きになるのは街の人ぐらいだが、街の人は周りの情報にそこまで詳しくないからな」

「確かにな。で、まずはバイデの内情だな。これは大体分かっていると思うが、キャサリンがうまく回している。俺みたいなバイデの裏ともつながりがあるからな」

「キャサリンが領主というのを嫌悪とかしているのはいないのか?」

「いないこともないが、それはキャサリンが今までバイデを立派に運営してきたことでかなり少数派だな。交易都市としての機能を拡大して、商人のさらなる呼び込みにも成功、それに伴う街の拡大工事で仕事のあつせんとかな」

「それを、今回の件で台無しにか」

 そらー、キャサリンがハイデン王宮連中を嫌いになるよな。

「幸い、ユキたちのおかげで被害は最小限だが、戦端がこのバイデで開かれたからな。当分、商人は寄り付かんだろうな。ああ、戦争専門の商人は来るかもしれんがな。安全な商売がしたい連中は徴収とかを恐れて来ないだろう」

「そういえばキャサリンの方は、失脚とかを狙ってという可能性もあるって言ってたが?」

「それもあるだろうな。もともとこの国は男が重要な部分を担うべきという習慣があるからな。だが、失脚を狙った人物は特定できないな。それだけ、街の外からのキャサリン嬢ちゃんへの風当たりは強いんだ。交易都市をさらに発展させて、それだけでもやっかみを受けてるのさ」

 ああ、地球で例えると出世レースで功績を上げてるから、出世したい連中からすれば面白くないわけだ。

 それが女であるならなおさら、今の日本でも男と女の給料格差があるように、男女の差別というのはどこにでもあるもんだね。

 というか、ようやくそういうところの是正が日本で行われ始めているだけで、地球という規模ではまだまだ男尊女卑が多い。

 労働力とかの問題があるんだろうけどな。

 そんなわけで、まだまだ中世ヨーロッパ程度の文明レベルで女性が尊重されるというのは厳しいだろう。

 それで考えると、ウィードがある大陸のセラリアや聖女のルルア、新大陸の方の魔剣、聖剣使いたちは結構例外だったんだと思う。

 ああ、冒険者、傭兵たちは例外、あいつらは文字通りの実力社会だから、男女は関係ない。

 無論最初は女性だから舐められるというのはあるが、それは初心者が舐められるというレベルだからあまり関係ない。実力のない奴は死ぬ世界だからな。

 俺からすれば実力があって使えるならいいじゃん。って思うんだけど、そこは色々なプライドとかあるんでしょうな。

 俺は基本楽したい派なんで、そういう思考にはならんが。

「じゃ、バイデが内部から割れるってことはなさそうなのか」

「それはないな。今、内部で割れたらどう考えても、ハイデン王都からわけが分からんのが送られて来るのは見えている。前もひどかったからな」

「前もあったのか?」

「ああ、正式な王都からの監査でなかったのが幸いだった。バイデの利益欲しさに、キャサリンに向かって服従せよって言った馬鹿がいたんだよ。確かなんとか男爵だったか?」

「はい? キャサリンは伯爵だったろう?」

「そう、身分が上のキャサリン嬢ちゃん相手にその暴言で、即刻王都に送り返して、そこでその男爵をつるし上げ、見せしめを王の前で行ったわけだ。陛下、伯爵より男爵の立場が上になったというのは初めて聞きましたってな」

 きっついツッコミだな。

 部下を律するために作った階級制度を、王自らの発言でひっくり返せば、たちまち、貴族たちの内紛が起こるだろう。

 ちつじよを守るためにも、キャサリンの発言を受け止めて、厳罰に処するしかなかったわけだ。

「それで、表向きには他の連中は文句を言うことができなくなったわけか」

「成果もないのに、バイデをよこせとかは言えないからな。女だからってのも、もう使えない。自分たちが女であるキャサリンのように働けないって宣言しているようなもんだからな。そこらへんもキャサリン嬢ちゃんがしっかり釘を刺しておいたみたいだぜ」

「……それだけ大立ち回りしてたら、誰が敵でもおかしくないか」

「そういうこった。キャサリン嬢ちゃんから聞いてるとは思うが、今のハイデン王宮連中は武闘派というか、考えなしの連中が多い。だから、環境がすでに整っているバイデという交易都市の利権が欲しいのさ」

「金銭、物資、人材の確保にはうってつけだが、考えなしだと補給は一回切りになりそうだけどな」

「お山の連中は、敵を倒してそっちで次を確保すればいいと思っているのさ。元手がないと何もできないからな。王都の連中は。基本的に領地のない貧乏貴族どもだ」

「そういう意味でも、キャサリンのバイデが欲しいわけか。本当によく今まで耐えていたな」

「帝国に下っても、どうせハイデンに対しての最前線ってのが決まっているからな」

 キャサリンは現状維持をするしかなかったわけだ。

 というか、ハイデンの内部は本当に面倒だな。

 話が通じないのがどんどん分かってきて憂鬱。

 敵地での補給なんて満足にできるわけねーじゃん。

 兵站の確立は大事だよ? 敵地での補給は金はもちろんかかるし、トラブルも山ほどある、敵の戦法で焦土作戦なんて取られれば足が止まる、自国から補給線を延ばした方がいいんだよ。

「これが大体のバイデの状況だな。ああ、付け加えるなら、ここ3日で知らないうちにウィードの領地になったぐらいだな。今までの話で分かると思うが、そのままキャサリンにバイデを任せてくれるユキたちには好意的ってわけだ。俺はもちろん、街の連中も話をしっかり聞かせれば納得するだろうよ。学生たちはどうか知らんがな」

「やっぱりバイデで一番面倒なのはお姫様と学生たちか」

「だな。だが、それはあまり考えなくていいだろう。すでに実権はユキたちが握っている。すでにハイデンに反旗をひるがえしている状態だからな。お姫様や学生たちはただの捕虜というわけだ。普通に牢屋にぶち込んでいるんだろう?」

「ああ、そこらへんはちゃんとしている」

 だって、大切なDP収入源ですから。

「なら、問題はないだろうさ。逃げでもしない限りな。話ついでだ、ハイデンの方はそんな感じで、武闘派連中がいざ世界統一だって息巻いている。今まで大義名分が微妙で、旧王家派を抑えられなかったが、今回のフィンダール帝国のバイデ侵攻で動き出すだろうな」

「そこらへんはキャサリンに聞いているが、なんでまたこんな戦争思考になってるんだ?」

「そこは詳しく知らないが、現王様は前の王様とずいぶん対立していたらしいからな」

「対立ねー」

「まあ、武勲を上げられない兵隊なんている意味が分からねーってのは同意だけどな。そこらへんじゃないか? さすがに何が本当の目的なのかは俺たちも掴めてない。今までの動きから、戦争やっても勝てると思っているぐらいしか分からん」

 そりゃ負けるのに戦いを仕掛ける奴もそうそういないけどな。

 とりあえず、なおさらハイデンめんどくさいというのが分かった。

「じゃ、最後にフィンダール帝国のことを頼む」

「他国のことだからな、これはハイデンの方よりも情報は少ないぞ。大国のうちの一つで、軍事力もかなりある。というか、軍事力ではトップじゃないか? と、ささやかれている」

「軍事力でトップってことはどこかで戦争でもしているのか?」

「今はないが、確かつい7年ほど前までは、隣国とやりあっていたぞ」

「隣国? ハイデンじゃなくてか?」

「ああ、なんか王女様が暗殺されたとかなんかで、報復行為だったかな? 証拠も挙がっていて、他の国から横槍の心配もなかったんだったとか」

「なんか自作自演っぽいな」

「それはなんとも言えないな。俺たちは流された情報を聞くだけだからな。でも、他国が手を出してないから、ちゃんと納得できる証拠があったんだろうよ。そうでもないと、次は我が身だからな。帝国を一丸で叩くに決まっている。ハイデンの方もその時は手出ししなかったからな。今の武闘派連中がだぜ?」

 それは変な話だな。

 格好のチャンスだったろうに。

 その証拠ってのが気になるな。

「それ以降は、帝国の方は平穏だな。流通は普通に流れていて、バイデから帝国領の方へ旅行ってのも普通にあった。関係は悪いと上の連中は言ってはいるが、一般人からすれば良好だろうな。ま、俺が知っているのはこんなところだな」

「そうか。情報感謝するよ。とりあえず、どっちも何かしら抱えてるな」

「そりゃそうだろうさ。で、ウィードとしてはこれからどう動くつもりだ? 後ろの嬢ちゃんたちで世界征服か? それなら一枚嚙ませてくれると、俺たちとしてはありがたいんだが」

 ああ、ビッグの話で思い出した。

「その話からすると、やっぱり生活は苦しいか?」

「まあな。はみだし者だからってのもあるが、今回のことでは街の住人全員だろうな。物資をかなり持っていかれた。一応、キャサリン嬢ちゃんが配給を行っているが、全員に回るわけないしな。俺たちはみだし者が顔を出せば混乱の元でもある」

「そういうことか。なら、必要な物資を教えてくれ。こっちで運ばせる」

「いや、気持ちはありがたいが、不満が出ないか? 物資にも限りがあるだろう?」

「限りはそりゃあるが、そこまで心配しなくていい。バイデからじゃなくてウィードからの援助だしな」

 そう言って、俺はとりあえずアイテムボックスから小麦の袋を出してドサッと置く。

「は? いきなりなんだ!? どこから出てきた!? これはなんだ!?

「落ち着け。俺の能力の一つだよ。アイテム袋とか聞いたことはないか?」

「あ、ああ。魔術師が使うたくさんものが入る袋だったな。これがそれか。いや、でもユキは今袋とか扱ってなかったよな」

「似たようなもんだ。で、この中身が小麦粉。パンの方がよかったか?」

 ビッグが困惑しているのを見て、そりゃー小麦粉って漢字で書かれていたらわかんねーよなと思って、パンをポンポン出す。

「お、驚いた。これが本物の魔術師か。こ、これはあとどれぐらいあるんだ?」

「たくさんあるから、必要数を言ってくれ。無駄にとって売りさばくわけじゃないだろう?」

 DPの回収ができる現状なら、無限に出せますなんて言えないしな。

 まあ、ゲート建設費用はいるが。

「ああ、そんなことはしねえ。なら……」

 ビッグに言われた数を倉庫に積み上げていく。

 それを横で見ていたビッグはふいに呟く。

「……これだけの力があればハイデンも勝てると思うわけだ」

 いやー、ダンジョンマスターの能力があって今の状況なら、ハイデンの連中は無能ですわ。

「あ、そう言えば、ユキ。お姫様には話を聞いたのか?」

「あれね。全然話にならねー」

「お姫様はそうだが、補佐のカミシロってのがいただろう。あれは噂を聞く限りではまともだ。召喚されたのはご先祖らしいが、ハイデンとのこれからを考えると話しておくといいかもしれないぜ」

 そう言われて、俺は思い出した。

 お姫様と話してうんざりして、カグラのことを放置してたというか、すっかり忘れてた。

「そんなのがいたな」

「そんなのって、おい」

「ビッグもお姫様と話してみるか? あれひどいぞ」

「そこまでか……」

 本当に話が通じないんだよ。

 あんなお姫様に育て上げた手腕だけは評価する、ハイデンの連中。

「はぁ、とりあえず。カグラだけと話をしないとな」